ブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』日生劇場で公演中の加藤和樹にインタビュー“このカンパニーのすごいところ”とは…
9.11 同時多発テロが発生の裏で起きた実話を基に生まれたブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』が、日生劇場にて日本初上演中だ。
トニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞、ニューヨーク・タイムズ紙の批評家賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞したこの感動作に、安蘭けい、石川 禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森 公美子、柚希礼音、吉原光夫(五十音順)という日本ミュージカル界のトップスターが出演。この12名が100人近くの役を演じて濃密なドラマを描き上げる。
日生劇場での上演は3月29日(金)まで。その後大阪、愛知、福岡、熊本、群馬にて上演する。
この他に類を見ない特別なミュージカル『カム フロム アウェイ』に出演中の加藤和樹を日生劇場に訪ね、本番を迎えてからの思いを聞いた。
【物語】
舞台は、カナダ・ニューファンドランド島のガンダーという小さな町。
9.11が起こり、アメリカ領空が急遽閉鎖された。4000機以上の飛行機が最寄りの空港への着陸を余儀なくされ、ガンダー空港に38機が着陸した。人口1万人のガンダーの町は、一夜にして人口が2倍になった。
それから領空閉鎖が解除され飛行機が飛び立つまでの5日間を、飛行機から降り立った“カム・フロム・アウェイ(遠くから来た)”の人たちと、彼らを迎い入れた島民たちは、どう過ごしたのか。
出演者は、時に乗客・乗員、時に島民と一人で何役も演じて物語を綴る。
加藤和樹が主に演じるのは、メインとなる“カム・フロム・アウェイズ”の筋金入りのニューヨーカーのボブ役と、森公美子とのアフリカ系の夫婦役。さらに、島民のアネット(濱田めぐみ)の妄想の中に登場する機長。そして、もう一役の4役を演じている。
-公演が始まって約一週間ですが、いかがですか?
予想していた以上に、お客様からもらうエネルギーがすごい。特に初日は、オープニングナンバーの♪“Welcome to the Rock”が終わった瞬間、拍手と歓声のあまりの大きさに (橋本)さとしさんが次のセリフにいつ入ろうかと戸惑っているのが見えたほど。すごく盛り上がってもらって「ようやくこれでこの作品が完成した!」という思いが溢れました。
-ゲネプロを拝見したので、オープニングの大迫力で、お客様がぐっと引き込まれてしまう感じがよくわかります。
♪“Welcome to the Rock”は「ようこそ、ニューファンドランドへ」という、観客を迎え入れる歌でもあるので、この作品のすごく大事な入り口。どの作品でもそうですけど、我々が稽古場で作るものは、お客様にお見せするまでどんなものだか、わからないものですが、この時にようやく「お客様も一緒に飛行機に乗ってもらった!」と思いました。
-演技の面では?
この作品は語りやお客様に投げかけるようなセリフが多いので、役者からすると、芝居の部分は実は結構少ないんです。1人で何役もやっていますし、普段はアンサンブルさんがやってらっしゃるような全員の動きで作るシーンもたくさんあります。動きが入って歌うと、どうしてもぶれちゃったりすることがある。今回は出演者みんながスターだからこそ、バチっとはまった時はめちゃくちゃかっこいいですけど、ちょっとした強弱のズレでも気になってしまう。だから歌稽古もかなりやりました。「アンサンブルの人たちのいつものコーラスワークって、とんでもなくすごいことだったんだ」と、アンサンブルさんたちの力を身に染みて感じていますし、「(舞台の)板の上立ってしまえば、みんな同じ立場で、メインキャストだけでは作品を作れないんだ」というアンサンブルさんの大切さを毎公演感じています。でも、このメンバーで歌稽古してるだけでもすごい贅沢でしたけど。
-この贅沢はこの公演だけですからね。
僕自身もこのメンバーの中に入れているのが、ほんとに嬉しくて。このカンパニーでは年齢では僕が下から2番目で、僕と浦井さんと万里生さんが若手で、3人が同じ楽屋にいるんですよ。この3人が若手ですから。(笑)
-他のどの作品とも違う楽しさ、大変さがありそうですね。
演じ分けは、ほんとに切り替わりが早くて、いつボブなったのか、いつ島民なのか、一瞬だけしかその役にならないところもあるので難しいんです。製作発表で、もりくみ(森公美子)さんが稽古中に「今、私、誰?」って、自分が誰役だが分からなくなるとおっしゃっていましたが、稽古の初めは、みんなにそんな状況がありました。お客さんもご覧になっていたら「今、誰を演じてるの?」と思う瞬間があるかもしれませんが、衣装や小道具や照明から、島の人たちか、遠くから来た人なのか、わかってもらえると思いますし、その心の動きも表現できていると思います。
-お客様もちょっと頭を働かせながら、想像力を使ってご覧頂きたいですね。
そうですね。どうしても音楽が先行して進んでいく物語ですし、決まった尺でのお芝居になってしまうのですが、僕も全体を通してみて、物語が100分で完結することの見やすさに気がつきました。
そして、9.11を題材にしてはいるけど、見終わった後に、どこか気持ちよさも感じられる作品なので、やっていて楽しいです。
実は、毎公演、誰かしら、何かしらのアクシデントがあって、何も無かった回は、今のところない一度も無い。(笑) 毎回ドキドキです。みんなで冗談半分に言ってるんです。「これ、いつ初日が出るんだろうね」って。「みんなが何ひとつミスせずにやれる日は来るのだろうか」という意味です。(笑)
ー加藤さんご自身もミスされることが?
僕もありますよ。 きっかけで一斉に動き出すことも多いし、舞台セットがほぼ椅子とテーブルだけなので、それを動かすことや小道具などで、ちょっとミスしてしまうことがあるんですよ。でもそのミスも、みんなでカバーし合う。自分よがりな芝居や動きをしてると他に迷惑をかけてしまうので、そこはこの作品が伝えるメッセージと同じだなって思っています。
ーお客様にとっても、そこは生の楽しさですね。今回、たくさんの先輩方と共演されて、加藤さんが受け取られたものは?
「失敗を引きずらないこと」ですかね。ちゃんとやるのは、もちろん大事なことなんですけど、完璧を求めても、やはり楽しめてないとただの作業になってしまう。動きの先にある感情やコミュニケーションの方がもっと大事なんだと、すごく感じています。
今回の現場では本当に先輩方が楽しそうで、失敗も笑って「みんなで頑張ろうぜ!」という一体感があふれています。こんなすごい人たちが一生懸命にひとつになろうとしてる。やっぱりすごい人たちって「自分ができたからよし」じゃない。みんなで足並みを揃えるという基本的な大事なことを忘れないんだなと。それがこのカンパニーのすごいところです。
ー情報量が多い作品だと思いますが、これから初めて観る方へアドバイスを。一度観たら、二回、三回と観たくなる作品だと思うので、二度目、三度目にご覧になる方へもアドバイスをお願いします。
初めてご覧になる方は、観劇の前にパンフレットを一度読んでおいてもらえたらと思います。9.11 …
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