
特撮番組の脚本執筆やUMA(未確認生物)研究家としても活躍している中沢健の作家デビュー作で、2016年にはテレビドラマ化し、さらに、2025年8月からこやま仁によるコミカライズの連載がスタートした異色の恋愛小説『初恋芸人』が、ついに映画化。12月19日(金)より公開した。
何かになりたかった人たちに捧げる「何者でもないものの物語」
恋愛経験ゼロの売れないピン芸人が初めて恋をし、成長していく姿を描く本作。主人公の佐藤賢治を繊細かつ力強く演じるのは、原嘉孝(timelesz)。初の映画主演を飾った彼が、撮影を振り返りながら、本作への思いと役者としての意気込みを語ってくれた。
― 本作の撮影は、timeleszのオーディション前に撮影されました。timeleszのメンバーの1人として初主演映画の公開を迎えることで、どのような想いでいらっしゃいますか?
映画の主演を務めるのは初めてですし、timeleszのメンバーになってすぐのタイミングで映画の主演やるんだと思ってくださった方も多いと思うので、それはグループに還元できる1つになるのではないかと思います。timeleszのメンバーになれたことで、おそらく本来より何倍ものお客さんにこの作品を届けられるようになったと思うので、それは素直に嬉しいです。
― 売れない芸人さんの役作りをするうえで、間だったり、トークだったりをご自身で分析されていたと思いますが、実際にどのようなことを意識して“売れてない”感じを表現されたのでしょうか?
自信がなくて、コミュニケーションを取るのがあまり上手くないところは、相手の目を見て話ができないようにとか、背中を丸めて歩くようにしました。自分に自信がない嘘をつくときには瞬きが多くなることも意識しました。漫才は、もう練習、練習でしたね。ハニトラの梅木さんが漫才の相手だったのですが、彼は芸人さんなので「たぶん、賢治はこういう間の取り方はしないと思うよ」と、アドバイスをいただいて、それを叩き込んで叩き込んで、少しずつ賢治の感覚を掴んでいきました。ツッコミも鋭くいくところを全然鋭くいかなかったりして。梅木さんの力を借りて臨みました。
― それで言うと、実家に帰った時の走り方もその1つかと。
そうですね。あまり手を振らないし、いつ転んでもおかしくない感じ(笑)。地面をベタベタ走る感じも意識しましたね。3パターンくらい走ってみて、姿勢も鏡を見ながら練習しました。
― 原さん(自身で)で走るとカッコよくなる?
なっちゃうんですよー(笑)。

― 劇中ではもどかしい恋もありますが、心がキュッとなるポイントはどういうところで感じましたか?
賢治にはもどかしさも感じつつ、ピュアな部分があります。気持ちを素直に伝えられないけれど、それでも必死にデートにこぎ着けようとして人に相談するところは、ピュアに恋しているなっていう感じがしましたね。タクシー会社でベンチに座りながら相談するんですけど、同僚にはちょっと気を許している瞬間が見える。(気を許している)仲間には強く出られるんだ・・・みたいな、人間らしさがいいですね。
― 撮影中に嬉しかったことや大変だったこと、また共演者の皆さんとの関係や雰囲気はいかがでしたか?
ロケで因島に行ったのですが、撮影を終えて割と時間があったので、一人で銭湯に行ったんです。海鮮物や日本酒もいただいて因島を堪能できました。因島は時間がゆっくりと流れている街という感じ。商店街のおばあちゃんの声や学校のチャイム、港の工事の作業音・・・。そこに賢治の実家があるという設定だったので、こんなところで育ったんだろうなということを実際に肌で感じられたのは良かったですね。
大変だったのは、カップラーメンをこぼすシーンです。いかにわざとらしくなくこぼすか
が難しかったです。本当に手が当たっちゃって、何テイクか撮り直しました。汁をこぼしたのにNGだったら絨毯がラーメンだらけになっちゃうので、めっちゃ緊張しました。

― ほかに特に記憶に残っている共演者の方やスタッフさんとのエピソードがあれば教えてください。
怪獣になるシーンがあるのですが、賢治が感情を表す時に怪獣になるんです。そのシーンは実際には自分は立ち会っていないのですが、賢治の心の声は僕が録るわけですが、その声の出し方が一番難しかったですね。監督から「違うパターンをちょうだい」「もう少し苦しい感じ」と言われて、1つのシーンで5パターンくらい録った気がします。
― 今回、原作者の中沢さんが怪獣ガラバンとして、またオーディションのシーンで共演されていますが、撮影時に特に印象に残っていることがあれば教えてください。
役者としては出演経験があまりないそうですが、怪獣について語るシーンでは、その熱量と説得力が他の誰よりもありました。内側から出てくる熱量がすごくて、さすがだなと思いました。

― 監督が原作に惚れ込んで映画化された作品ですが、夏目監督とのやりとりで印象に残っているところはありますか?
僕は声が低いほうなので、そのまま話すとどこか自信があるような、どっしりとした賢治に見えてしまうんです。最初に沢口愛華さんと監督の3人で本読みをしたときに、僕が思う(声が高くない)賢治をやってみたら、違うかなという話になって作り直しました
声の高さでこんなに見え方が変わるものなんだなと驚きました。そして、共演者の方の雰囲気やセットの力も大きいです。賢治はこんな汚い部屋で生活しているのかと。自分で作る役柄以外に、外的要因で役が作られていく部分もあるので、撮影が進むにつれて出来上がっていく感じでした。
― 劇中では涙を流しているような感情がすごく揺さぶられるシーンがありますが、あれは泣いていらっしゃったのですか?
はい、 泣いています。理沙とのシーンですが、監督にワガママを言って長回しの撮影をお願いしました。そのセリフだけでは泣けないので。1回リハーサルをやったら、その時から涙が出ちゃって。まずい!と思ってなんとか集中して本番に臨みました。泣くことが正解とは限りませんが、賢治は泣いてもいいと思ったので。

― 多くの作品に出演されている中で、演技のお仕事の時に原さんが大切にしている部分、もしくは別の俳優さんから言われた、俳優として大きな意味を持つような一言などはありましたか?
僕は役者をやる上で、その場に存在すること、生きるということを常に目標にしていますが、それはセリフが頭に入っていて、状況を理解している程度では無理なんです。セリフがちゃんと自分の中に落ち切っていて、関係性も完璧に整理できていないといけない。
舞台作品では1ヶ月くらい稽古ができるのですが、映像作品では初めて会う役者さんと対峙しないといけない状況もある。相手の出方もわからないまま役を作って現場に持っていかなければならないという作業がまだ慣れないところもあります。でも、その瞬間を逃がしたくないし、そこに生きて存在している俳優さんはたくさんいらっしゃるので、そういう役者を目指しています。
僕は舞台がきっかけで芝居を始めたのですが、最初の頃はカッコをつけてしまって。外側だけで演じるというか・・・。尾上松也さんに「もっと自由にやってみれば?」「もっと振り切っていいよ」と言われたことがあったんです。劇団新感線の舞台でご一緒したときだったんですが、その言葉がすごく印象に残っています。あと、杉咲花さんのようなその場に存在できている俳優さんが好きですね。お会いしたことはありませんが、目の前に立ってセリフを交わすと一発で(中途半端で行くと)バレるんだろうなと思います。大原櫻子さんも僕の映像をよく観てくれて、「もっと何もしなくていいんじゃない?」と言われたことがあります。俳優仲間たちから刺激を受けて、まだまだ成長したいと思っています。
― 所属されているグループや事務所、周りにも俳優として活躍されている方がたくさんいらっしゃると思いますが、そんな中で目指している人物像みたいなものがあれば教えてください。
松岡(昌宏)くんは以前共演もしていますし、たまにプライベートでもお世話になっていますが、あの等身大の感じがカッコいいなと思います。男気があって頭も切れて、プロフェッショナルな感じ。知らない分野はないんじゃないかというくらいです。みんなが“兄貴”と慕いたくなるような存在なので、本当に憧れます。過去には「年末の事務所のコンサートとか出たいんですよ」なんて相談したりしていました(笑)。そんな話をした唯一の先輩です。
― 原さんご自身は賢治のことをもどかしいと思っていらっしゃったそうですが、原さんご自身が最近“もどかしいな”と思ったことがあったら教えていただけますか?
timeleszのメンバーで、橋本将生、猪俣周杜の2人なんですが、彼らもお芝居に挑戦していたので、もっと自分に(芝居のことを)聞いてくれるといいのになと思いましたね。
― アドバイスをしたかった?
したい自分がいました。そこをガツガツ来てほしかったなと。サクサクくらいで終わっちゃったので(笑)。またチャンスがあれば。
― 「ゆうばり国際ファンタスティック思い出映画祭」のヌーヴェル・エトワール賞 ベル・アクトル賞の受賞、おめでとうございます。トロフィーを手にしてみて、改めていかがでしたか?
ずっしりしていました。グループ活動をしていて受賞したトロフィーが家にありますが、自分個人に向けての賞は 初めてなので特別です。自信につながりますね。あの時に役と向き合ったこと、みんなで創り上げた時間というものを評価してくださった方がいるということなので、このトロフィーはその思い出としてしっかりと家に飾りたいと思います。 ありがとうございます。
【原 嘉孝(Yositaka Hara)】
1995年9月25日生まれ。神奈川県出身。
2025年2月に timelesz のメンバーとしてデビュー。近年の主な出演作に、「Endless SHOCK」(2024)、舞台「ゼロ時間へ」(2024)、「カリズマ」(2024)、劇場版『トリリオンゲーム』(2025)、映画『#真相をお話しします』(2025)など。2025年12月5日公開の寺西拓人主演映画『天文館探偵物語』にも友情出演している。
映画『初恋芸人』
<ストーリー>
彼女の笑顔が僕をヒーローにしてくれた
本作は売れないピン芸人・佐藤賢治は、怪獣ネタで舞台に立ちながらも鳴かず飛ばず。彼女いない歴=年齢で、妄想の世界にだけ居場所を見つけていた。嫌な相手を怪獣に見立て、自分をヒーローとして戦わせることで心を保ってきたのだ。そんな彼の前に現れたのが、市川理沙。佐藤を「面白い」と言ってくれる彼女との時間は、初めての恋のときめきに満ちていた。しかし、不器用な佐藤は想いを伝えられないまま、市川から距離を置かれてしまう。やがて明かされる市川の秘密――。これは、何かになりたかった人たちに捧げる、「何物でもないもの」の物語。
原作:中沢健「初恋芸人」(小学館「ガガガ文庫」刊)
出演:原嘉孝 沢口愛華 温水洋一 川上麻衣子 佐藤アツヒロ 六角慎司 ほか
監督・脚本:夏目大一朗
主題歌:「優しすぎた怪獣」Land Cell.
企画・プロデュース:小浜圭太郎 プロデューサー:峯松里香
後援:尾道観光協会 因島観光協会 協力:小学館
製作:「初恋芸人」フィルムパートナーズ
配給:ギグリーボックス
公式サイト:https://hatsugei.com
公式X:https://x.com/hatsugei (アカウント:@hatsugei)
公式Instagram:https://instagram.com/hatsugei_movie (アカウント:@hatsugei_movie)
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@hatsugei (アカウント:@hatsugei)
公式YouTube:https://www.youtube.com/@hatsugei (アカウント:@hatsugei)
公式ハッシュタグ #初恋芸人
池袋HUMAXシネマズ、新宿バルト9ほか 全国公開中!

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