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ミュージカル『スリル・ミー』2度目に挑む 松岡広大 インタビュー 「この作品の開演前の劇場には、厳かな空気がある。すごい重圧です。それに耐えながら、戦いながらやっていた」2021年。2023年は「現代社会の縮図を(私)と(彼)を通して見てもらいたい」

世界中で大ヒットしているミュージカル『スリル・ミー』。日本での8度目の公演が2023年も9月7日(木)より始まる。

本作は、“私”と“彼”、2人の俳優と一台のピアノだけで繰り広げる、実際の少年誘拐事件を基にした心理劇。緊張感が100分という上演時間を貫き、舞台から押し寄せるエネルギーが、客席を覆い圧倒する。
この他に類をみない作品に、(私役)として2021年に続いて挑む松岡広大が、本作への意気込みと、演劇への熱い思いを語ってくれた。

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―2度目の出演が決まった時の思いは?
前回2021年は東京公演も何公演かが中止になり、先行きも分からない状態で、この作品に携わっている方たちの「まだ終わりじゃない」という気持ちが強かったからこそ、またお声をかけいただけたのがすごく嬉しいです。個人的には、もう1度チャンスをもらえたことに、ただ感謝するのみです。

―完走できなかった残念な思いも強かったと思いますが、実際にこの作品の舞台に立たれて感じたことは?
僕は2人芝居が大好きです。『スリル・ミー』は 2人芝居の楽しさと難しさがあり、ミュージカルである以前に翻訳劇なので、その点について学びながら稽古していたと思います。開演前の客席は、厳かな空気…凍てつくような荘厳な感覚があります。それはお客様それぞれが思いや覚悟を持って待ち構えているからだと思います。あの空間は、俳優にとっては厳しい目線と同じ、すごい重圧です。それに耐えながら、戦いながらやっていました。

―公演を終えた達成感もすごかったでしょうね?
そうですね。初日が終わった後に、演出の栗山民也さんが楽屋にいらして「『スリル・ミー』の本質を見たような気がした」というお言葉を下さったので、僕も山崎くんも「いろいろと怖れながらも進んでいくしかない」と思ってやっていました。いろいろなことが有り過ぎて、「感慨深い」としか言えないです。

―その栗山さんとご一緒されるのを楽しみにしていらしたのですね?
はい。僕が演劇を勉強しようと思ったきっかけが、高校3年生の時に観た栗山民也さん演出の舞台『アドルフに告ぐ』(2015年)でした。その時の主演が成河さん、そして松下洸平さんが出演されていました。 「こんな劇空間を作れるんだ」という感動と、その時初めて成河さんを知って「成河さんの内からわき出る、あのエネルギーは何だろう?」との思いから演劇の歴史やミュージカル、ギリシャ悲劇などの勉強を始めました。成河さんとは2020年に舞台『ねじまき鳥クロニクル』でご一緒できて、2021年の『スリル・ミー』でもお会いできた。すごい縁です。口に出した言葉が叶って「やっぱり言霊ってあるんだな」とも思い、研鑽というほどではありませんが、そのために自分でもやってきたつもりなので、報われたという気持ちでした。とはいえ、栗山さんは慧眼をお持ちの方なので、ずっと以前から「稽古場でも全力でやるんだ」と思っていましたけれど。

―前回『スリル・ミー』に出演された時、栗山さんからの言葉で心に残っているのは?
本読みの時に「現代は声が失われてる」「肉声がない」とおっしゃっていて、それは対話の少なさなのか、議論の無さなのか、色々考えました。声が失われるということは、建設的な会話の放棄ですが、稽古場も、劇場、演劇もそういう場所ではないので、その復活を思いながらやっていました。

―では、前回の『スリル・ミー』への初挑戦では、栗山さんを交えて話し合いをたくさんされたのですか?

実は2年前はそんなにできなかったです。 初めてだったので、ステージングや歌詞のこと、あるいはそもそも芝居についてとか、やることがあまりにも多かったので、議論ということにはあまり着手できなかった。なので、今回は“対話”“議論”を目指してやっていきたいと思っています。

―ではまた深い、違ったものが?
再演というよりもレクリエーションだと思っているので、深化は確実にありますし、2年前もらっていた“生の暴走、若さの暴走”という柱だけでは、今回は脆弱だと思っています。この2年で僕も考えがすごく変わっていますし、台本の読み方も全く違うので、人間の根源に関わる新たな柱が必要だと思っています。
『スリル・ミー』のような作品が上演される理由は、現代がある種の危機に瀕してるからだと思います。
リアリズム演劇というのは、現実と照らし合わせて「これについて、どう思いますか?」というメタファーでもあり、虚構だからこそできるところもあるんですよね。だから、それを突き詰めたいと思います。

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―松岡さんはデビューされて昨年で10年。今年11年目を迎えられて見えている景色や、コロナ禍を経ての思いの変化を教えてください。
俳優には、野心のようなものも必要で、自分がどこに興味があるかをはっきりさせて仕事を選ぶことが必要だと思います。僕は「本当にこれしかない」「本当にやりたい」と思う仕事しかやらない。ちゃんとイエス、ノーをと言い始めました。それはずっと正直でいるということで、声にもするし、現場での人との接し方もそうですね。
内に秘めているのも良いのですけれど、言葉にすることで、その人なりの心の強さが見えたりもするので、やはり言うことは必要なのかなと思っています。
コロナ禍になって、多くの公演が中止になり、演劇が本当に好きな人だけが来るものになった。新規に演劇を観る人が参入しにくくなり、今はYシートなども設けられていますが、チケットの料金問題もありますし、演劇が高級な趣味になってしまうのではないかと。
演劇はもっと社会と密接で気軽に楽しめるものだと思うのです。僕はずっと演劇をやりたい。
自分の演劇への向き合い方は、人間に衣食住の3本の柱があるとしたら、そこに演劇が追加されました。好きとか嫌いではなく、必要になりました。
いろんな人に会いにいくこともしていて、それはとてもプラスになります。自分一人の頭で何ができるかと思ったら無理だと思うので、共有していった方がいいのではないか、仲間を作ろうと思っています。


―最後に、『スリル・ミー』の観劇を迷っている方へメッセージをお願いします。

まだ観たことがない方にも是非、観て欲しいです。
ディズニー映画を筆頭に、昨今はミュージカル風やミュージカル調というドラマもあるので、ミュージカルはかなり生活に浸透してきていると思います。でも、『スリル・ミー』には華やかできらびやかなイメージは無く、実際に起こった事件を題材にした2人芝居だからではありますが、舞台装置やセットもかなり質素です。
すごく痛ましい事件を扱った作品なので、ご覧になって傷つくこともあるかもしれないですけれど、お客様の想像力を借りるので、自由に考えることを楽しんでもらいたいです。最終的には楽しんでもらって、特に若い方には「この社会で、私たちは助け合えるのか」ということを考えてもらいたいですね。僕たちは啓蒙家でも哲学者でもないけれど、そういうことをちょっと考えてもらえたらと思います。現代社会の縮図を、(私)と(彼)を通して見てもらいたいです。

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ミュージカル『スリル・ミー』
<キャスト>
尾上松也(私役)×廣瀬友祐(彼役)
木村達成(私役)×前田公輝(彼役)
松岡広大(私役)×山崎大輝(彼役)

ピアニスト:朴勝哲/落合崇史/篠塚祐伴

<スタッフ>
原作・音楽・脚本:Stephen Dolginoff
翻訳・訳詞:松田直行
演出:栗山民也

<東京公演>
日程:2023年9月7日(木)~10月3日(火)
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト
※当初の発表より公演期間が変更になりました

<料金>
9,500円(全席指定・税込)
キャストスケジュール>>https://bit.ly/3omOaFA
【ツアー公演】
大阪公演:2023年10月7日(土)~10月9日(月・祝)サンケイホールブリーゼ
福岡公演:2023年10月11日(水)・12日(木)キャナルシティ劇場
名古屋公演:2023年10月14日(土)・15日(日)ウインクあいち
群馬公演:2023年10月21日(土)・22日(日)高崎芸術劇場 スタジオシアター

ヘアメイク:天野誠吾
スタイリスト:小林聡一郎