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ストーリー・コンサート『クララ-愛の物語-』渡部玄一、佐賀龍彦&渡辺大輔  インタビュー  「クラシック音楽が自分の宝物になっていく」「みんなが楽しめる時間です」

天才作曲家ロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームスと、彼らを愛し支えたクララ・シューマンの物語を、日本トップクラスの演奏と朗読で綴るストーリー・コンサート『クララ-愛の物語-』が、7月14日(水)15日(木)に彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールにて開かれる。
クラシックコンサートと、演奏される楽曲の作曲家にまつわる朗読劇とを組み合わせた新しい形式の公演で、より深く音楽を楽しんでもらえる公演として、2019年12月の初演で大好評を得た。
多くのリクエストに応え、今回は読み手に、水夏希×佐賀龍彦(LE VELVETS)と伊波杏樹×渡辺大輔の2組のペアを迎えて、1日2公演、2日だけの公演を行う。

作・演出の渡部玄一は、チェロのソリスト、 室内楽・オーケストラ奏者として国内外で幅広く活躍。また東京アンサンブルギルドを主宰し、コンサート活動以外にも、日本各地200校以上の学校を訪問。病院、介護施設、養護学校などへの訪問演奏も積極的に行い、クラシック音楽の楽しみを広めている。

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渡部玄一

今回、Astageは、その渡部玄一さんと、この公演でシューマンとブラームスの2役を演じる佐賀龍彦さんと渡辺大輔さんに、この公演の魅力や楽しみ方を聞いた。

―渡部さんは、主宰する東京アンサンブルギルドを通じて多様な活動をされてきたそうですが、2019年12月に「ストーリー・コンサート」を上演されたきっかけはなんだったのでしょうか?
渡部:「クラシックの本格的な演奏の素晴らしさを、もっと皆様に知っていただきたい、楽しんで頂きたい」という思いから始めました。
シューマンやブラームスと聞くと、今や記号のようにも感じてしまいがちですが、彼らの実際のエピソードを知って、彼らも私たちと同じひとりの人間であったと分かった上で、その音楽に触れていただくと、感じ方が全然違ってきます。長年、コンサートの際に自分でも楽曲や作曲家にまつわるエピソードを話してきて、それを肌で感じてきました。
ただ、自分が話すのと、俳優に語ってもらうとでは全然違う。俳優が生み出すドラマの力はとても強いと実感したので、このコンサートでは、素晴らしい俳優の方々の朗読に沿って、日本トップの演奏家がシューマンやブラームスの音楽を奏でます。
普通の演劇では音楽はドラマに奉仕する形ですが、この公演ではストーリーも音楽の盛り立て役であり、音楽もストーリーの盛り立て役になっています。

―こうした公演を他にも行っているのですか?
渡部:“クラシック音楽に親しむ講座”など、いろいろな作品をたくさん上演しています。例えば、宮沢賢治とチェロを取り上げたコンサート『宮沢賢治が愛した楽器』があります。宮沢賢治には「セロ弾きのゴーシュ」という作品がありますよね。宮沢賢治は音楽ファンでチェロが大好きで、自分でも作曲をしていました。実は戦前の日本にはたくさんの素晴らしいレコードがあって、音楽的にかなり進んでいたので、彼もとても良い音楽を聴いていました。そこで『宮沢賢治が愛した楽器』では、彼が作曲した楽曲も演奏し、ストーリー構成したコンサートを行っています。

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渡辺大輔 佐賀龍彦

―作曲家の人生を知って、その音楽を聴くと、音楽に秘められた物語を感じられる…ということでしょうか。
佐賀龍彦さんと渡辺大輔さんは、本公演に初めて出演されますね。

渡辺:オファーを頂いた時には「間違いじゃないか?なぜ自分に?」と思いましたが、実在の人物を演じるのが大好きなので、興味深かったです。海外の方でも日本の方でも、すべてがノンフィクションなので、「どういう人だったのだろう?」から始まって知ることが楽しい。今回も知るにつれて徐々に「俺がこの偉大なふたりを演じるんだ」と実感が湧いてきました。

佐賀:何気にオファーを受けてから今までの時間の流れを、完璧に説明出来ていますね!
僕は朗読劇というか朗読自体が初めてなので、オファーを頂いて「できるだろうか?」と不安がよぎりました。ただ「音楽+朗読劇というスタイルは、今までに無いものをお客様にお届けできるのではないか」という期待も感じました。

―佐賀さんは音大のご出身で、クラシック音楽にもお詳しいと思います。朗読からのアプローチというのは、どうお考えになりますか?
佐賀:クラシック音楽は、一般的には学校で習ってしまうもので敷居が高い。入り口から「高尚なものを聞かせてもらう」という感じですよね。
自分が音楽大学にいた頃、僕は声楽科だったので「この歌はどう歌うべきか?」という観点から正確な音程と発音を調べて、解釈はこうだから…と捉えて歌っていました。
あ、真面目なことを言おうと思っていましたが、話しながら「いや、自分は結構楽しんでいたぞ」と思い出しました。(笑)
その頃から「クラシック音楽をなんとか分かり易く」と思っていたので、できるだけ「この曲はどういうことを表していて、背景にはこういうことがあった」と説明をしてから演奏に入っていました。
今回の公演では「その曲を作った頃に作曲家とその妻にどんなことがあって、どういうことを考えていたのか」を、ふわっとお伝えしてから曲を聴いて頂くので、お客様は知識としてではなく、イメージを膨らませて気持ちで曲を聴くことができる。音楽を感じるように出来上がった上で聴いて頂けるので「これは説明を聞いたのとは全く違うぞ」と「おもしろいぞ!」と思っています。
この公演は、クラシック音楽を「高尚なものを聞かせてもらう」から「その人なりに感じて想像して楽しむ」にできると思います。音楽は本来そういうものだと思うので。

―渡辺さんは朗読劇へのご経験も豊富ですね。
渡辺:音楽が全くない朗読劇は、今は少ないと思います。お客様からも「音楽に引き込まれました」というお手紙や感想をたくさんいただきます。今回はストーリー・コンサートということで、メッセージ性のある物語と音楽と朗読が合わさりますが、「クラシックを聴きに来てください」「朗読を聞きに来てください」というと、構えてしまう方もいらっしゃると思うので「映画を見に来るような気持ちで」という言った方がいいのかなと思っています。お客様が緊張すると、僕らも緊張するんですよ。(笑)
「みんなが楽しめる時間です」と強く発信したいと思っています。リラックスして頂ければ、より深くストーリーに入って頂けると思います。僕もそこで遊べたらいいなと思います。

―そのあたり、渡部さんはいかがですか?
渡部:何の知識も無く来て頂けたらと思います。ドイツ語の歌もありますが、歌詞の日本語訳も出ますし、歌詞の内容も物語とリンクするので、難しく考えることは何もありません。ミュージカルを観に行くような気持ちで来て楽しんで頂けると思います。

―演奏される方たちと読み手は、どのように交わりますか?
渡部:まず朗読の稽古をして、音楽も聴いて頂いて、それから音楽と合わせての稽古をします。公演でも、読み手はずっと舞台上で演奏を一緒に聴きます。演奏中に俳優が舞台からはけることはないので、おふたりには何度も同じ曲を聴いていたくことになります。

―朗読については、一人二役で、しかもふたり芝居です。これは大変ですね?
佐賀:しかもふたりの若い頃からかなりの年配、晩年まで演じます。観るのは、きっと楽しいと思います。やるのは、もう大変です…。(笑)でも、考えることがたくさんあって、やることもたくさんあるから、きっと楽しいと思います。最終的にはさっき渡辺さんがおっしゃっていたように、みんながそこで楽しめたら、遊べたらいいなと思います。

渡部:英語で言えば、演じるも遊ぶもplay。同じですね。
佐賀、渡辺:そうですね!

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―一人二役、ふたり芝居について、渡辺さんはいかがですか?
渡辺:「どうして一人の俳優が2役を演じるのか」ということと、「なぜ僕たちがキャスティングされたのか」は関係があるだろうと思いました。シューマンとブラームスをふたりの俳優で演じても良いわけですから。あえて1人にする理由があるのかなと。

佐賀:面白い考えですね。

渡辺:シューマンとブラームスに何か共通するところがあるから、一人が演じるのかな…と考えました。その共通点はふたりがひとりの女性を愛するので、愛だと思いますが、ふたりが違い過ぎると、音楽との融合ができにくいのかな…と。ひとりでふたりを演じることで、お客様の想像を豊かにふくらませることができるのかなと。
それに今回はソプラノと演奏してくださる方もいる。プロジェクターでの解説もあるので、話に集中して世界観を拡げて頂くために、読み手がふたりになったのかなと、僕個人は考えています。

渡部:そうですね、最初から読み手3人は考えませんでした。台本がダイアログなので、3人はスタイリッシュじゃない。このおふたりなら二役の演じ分けはできると全面的に信頼しています。そして、一幕終わりにお客様に喜んで頂く演出としても一人二役をと考えました。

―俳優としては大変ですが、やりがいがありそうですね。
渡辺:何事も勉強だと思います。「当たって砕けろ」精神でやります。

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―台本をご覧になって、役作りという点で、きっかけになるもの…たとえばご自身との共通点などありそうですか?
佐賀:毎回迷い・悩むのですが、おっしゃる通り、結局自分が想像する人物像になるのだと思っています。ブラームスとシューマンの伝記や資料を読み進めていて、自分の中で「こういう人だったのかな」というのが、だいぶくっきりしてきました。

―今「くっきりしてきました」というところで表情がぐ~んと明るくなられました。
佐賀:(笑って)たぶん役者は皆、そうじゃないでしょうか。演じる役がどんな人なのかを想像して楽しんで作っていく。「それは違いますよ」と言われて「そうですか?!」「では、こうでしょうか?」と皆で作っていく。今回は渡部さんが想像されるところからは外れないように、でも「こうじゃないでしょうか」と、やり取りをして、短い期間でも集中力を持ってつくりたいと思います。
ただ今回は音楽が「この曲を作った人です」と入ってくるので、これまでとは違って「この曲を作った人はどんな人なのだろう?」というところからもアプローチできるので、それも面白いです。

―実在の人物を演じるのがお好きだとおっしゃっていた渡辺さんは、役作りについて見つけたものはあるでしょうか?
渡辺:まだ多くないです。ただ、今回の作品で、僕たちはブラームスとクララ、シューマンの世界へ入り口を作って提供するのが役目だと思っているので、ブラームスやシューマンの音楽を好きになってもらえたら、興味を持ってもらえたら嬉しいです。
2役の演じ分けもありますが、先ほど佐賀さんがおっしゃっていた「毎回迷い・悩む」というのは合っていると思います。悩みながらやっている時、急に「わかった!」「これでいこう」と思う瞬間がある。そこで、それまで弱めだった役が強くなったりする。それがいろいろ合わさって素晴らしいものができたりすると思います。
その時の相手役とその時間を楽しんで、役にちゃんと入り込んでやっていれば、きっと伝わると思っています。最後に答えを出すのはお客様なので、僕は悩み過ぎずに、一歩ずつ理解してやっていこうと思っています。
今回は読み手が2組あり、全然違うものになるのではないかと思うので、是非とも両方観て頂きたいです。

―では、最後に観に来て下さる方、まだ迷っている方へメッセージをお願いします。
渡辺:まだ感染症拡大が心配される中、たくさんの方が闘っておられますし、まだコンサートに参加するのが怖いという方も多いと思います。ただ、エンターテイメント業界は感染予防対策が非常に徹底しています。なので、映画を見るように、気分転換に来て頂ければ、これからの人生に活かせる作品・物語・音楽、新たな楽しい世界への橋渡しができるのではないかと信じています。
万全な対策でお迎えしますので、いらしてください。 そして是非、2組のペアの両方とも見てください。

佐賀:今に残っているクラシック音楽は、それだけどこかにパワーがあって、名曲たる理由があります。それは知識ではなく、心が感じるものがあるからです。
このコンサートは、これまでと違う観点でクラシック音楽を知る入り口となって、クラシック音楽をもっと身近に感じて頂けるようになると思います。遠くにあると思っていた名曲が、自分のものになる、自分の宝物になっていくと思いますので、是非、観にいらして頂きたいです。

渡部:ほんとうに気楽に、楽しみにいらしてください!

ストーリー・コンサート『クララ-愛の物語-』
【作・演出】
渡部玄一(読売日本交響楽団)

【出演】
◇出演
水夏希/佐賀龍彦(LE VELVETS)
伊波杏樹/渡辺大輔

◇演奏
岡田愛(ソプラノ)
枝並千花(ヴァイオリン)
渡部玄一(チェロ)
島田彩乃(ピアノ)

【会場】
彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
7月14日(水) 14:00開演(A チーム)/18:00開演(A チーム)
7月15日(木) 14:00開演(B チーム)/18:00開演(B チーム)
*A チーム(クララ役:伊波杏樹/シューマン・ブラームス役:渡辺大輔)
*B チーム(クララ役:水夏希/シューマン・ブラームス役:佐賀龍彦)

【HP】 http://www.tokyo-eg.com/ (東京アンサンブルギルド HP)
【チケット料金】 S 席7,500円(税込)/ A 席5,500円(税込)

<曲目>
シューマン♪「あなたに初めてお会いして以来」
♪「クライスレリアーナ」
♪ピアノ三重奏曲第2番 第2楽章 ほか
ブラームス♪ハンガリー舞曲 第5番
♪ヴァイオリンソナタ第2番イ長調 第1楽章
♪ピアノ三重奏曲第1番ロ長調 第1楽章 ほか