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山崎まさよし&篠原哲雄監督、互いが持つ信頼感と安心感から奏でる本作の魅力とは? 映画『ハピネス』対談インタビュー!

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嶽本野ばらによる同名小説をもとに映画化した『ハピネス』が全国にて絶賛上映中だ。
本作は、心臓の病気のため、医者から余命1週間と告げられた高校2年生の由茉(蒔田彩珠)と、その事実に戸惑いながらも、彼女との幸せな日々を一緒につくりあげることに協力する恋人・雪夫(窪塚愛流)の輝かしい日々を描いた純度100%のラブストーリー。

監督は、映画『花戦さ』『犬部』など、人間ドラマの名手と称される篠原哲雄。由茉の母親・莉与を吉田羊、雪夫の姉・月子を橋本愛が演じ、莉与とともに、娘のやりたいことにそっと背中を押す由茉の父・英生に、「One more time, One more chance」「セロリ」など数々のヒット曲を持つシンガーソングライターであり、『月とキャベツ』『影踏み』をはじめ、数多くの作品で俳優としても活躍する山崎まさよしが扮した。

『月とキャベツ』より数々の作品でタッグを組んでいる篠原監督と山崎まさよし。今回の撮影を振り返りながら本作への思い、そして盟友ともいえるお二人の互いに対する思いを語ってもらった。

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― まずは、この作品の映画化に至る経緯を教えていただけますか?

篠原哲雄監督(以下、篠原):長年お付き合いのある映画制作会社から、「今度こういうのやりたいんだけど、どうかな?」と話がきまして、まず脚本を読ませていただきました。何日後かに亡くなってしまうことを運命として受け容れざるを得なくなってしまった女の子と、それを受け止める彼氏、そしてその家族の話ですが、娘の死を家族としてどう受容するか、彼氏から見た彼女というその視点が非常に重要な作品だなと思いました。原作をその後に読みましたが、原作ではほぼ彼(雪夫)の一人称で書かれてるんです。雪夫の名前すら出てこない。あとから国木田雪夫という名前がついたんです。

『ハピネス』というタイトルにあるように、死んでしまっても彼女自身が生きていたことは幸せなことで、自分自身もそれによって幸せだということが大事な作品だと感じて、引き受けることにしました。

― 篠原監督と山崎さんの久しぶりのタッグになりますが、『月とキャベツ』ではミュージシャン、『影踏み』では窃盗犯、そして今作では優しいお父さんを演じられます。長年の時を経て、今回また山崎さんをキャスティングされた理由は?

篠原:50歳前後の俳優さんで父親役を探していたんですが、実は最初にほかの俳優さんの名前が挙がっていたんです。しかし、この家の父親・英生という役にはドンピシャという感じではなくて。彼にはいつも主役として出演してもらっていましたが、プロデューサーの方が「山崎まさよしさんはどう?」って言ってきたんです。なるほど!と僕の中で腑に落ちて、なんで今まで気が付かなかったんだろうと思いましたね。それで、オファーしたら都合をつけてくれたんです。

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― それを受けて山崎さんはいかがでしたか?

山崎まさよし(以下、山崎):僕は楽しみにしてたし、実際現場に入ったときの雰囲気も良かった。でも、僕・・・、(主演2人の写真を指差して)若い方たちと接する機会があまりなくて(笑)。年齢的に凄く幼い子やったら、うちも娘がいますから分かるのですが、これぐらいの子って何を考えてるか僕にはわからなくて・・・(笑)。でも、とりあえず自分もお父さんをやってるから、いけるかな~と思って。きっとすぐうちの息子もこれぐらいの年齢になると思うんですけど、こんなにイケメンになるかどうかわからないですけどね(笑)。そういう(実際も父親という)立場なので、台本の中に入っていくことができました。

そして、篠(篠原監督)さんがずっと近くにいるから、何かあったら「山ちゃん違うよ」と言ってくれるかなと思って出演させてもらいました。

― 苦手と思っていたけれど、実際に撮影に入ってみていかがでしたか?

山崎:もうね、僕より2人の方が大人なんです。役者然としている。僕はあまり(役者の)経験がないので、どうしていいかわからないんですけど、近くに(吉田)羊さんがいてくれたから、もう羊さんが引っ張ってくれたようなもんです。

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― 吉田さんとはいかがでしたか?

山崎:僕は夫婦役が初めてやったんですけど、本当に長けている方で面白いし、この人が嫁さん役でよかったなって凄く思います。

― 監督からご覧になって、この父親役の山崎さんはどう映りましたか?

篠原:撮影の初日が、病院で先生からの説明を受ける場面でした。台本にはあまり詳しくは書いてないのですが、医者さんがこういう病状だということを説明をすると、母親は「もうそれ以上生きられないんですか? どうにかならないんですか?」と必死に食い下がるわけです。台本にないところでも吉田さんは母親として医者に切り込んでいくんです。そうすると父親は一緒に運命を知りながら、苦渋の表情を浮かべる・・・。そこで泣き出した奥さんの背中をさすってあげるんです。そういう芝居をしてくれた時点で凄くよくできた夫婦だなという感覚を得たので、これいけるぞ!と思いました。

吉田さんはスイッチが入ると、芝居を盛り上げるというか、引っ張っていくタイプの人。今まで彼は主役が多かったので、今回はむしろ引っ張ってもらえるほうがやりやすいかもしれないと考えました。その中で自分をどう出せるかですが、いきなり背中をさするというリアクションをしたので素晴らしいなと、ちょっと安心しましたね。

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― 母親の背中をさするというのは山崎さんのアドリブだったのですか?

山崎:アドリブというより、自然にそうしていました。

篠原:相手に対して「大丈夫、大丈夫」という気持ちでね。そういうことをとっさに自然にやるってなかなかできるもんじゃない。もちろんやる人もいるだろうけれども、一応相手にお伺いを立てたりするけど、そうじゃない。つまり吉田羊さんが、こうやってもいいんだっていうことを示してくれているから、やりやすかったんだと思います。

山崎:(吉田さんに対して)凄く助かりました。

― 演じるうえで 監督からのアドバイスなどあったのでしょうか?

山崎:篠さんは普通アドバイスはしません。本当にしないんです(笑)。なので、役者はとりあえず台本通りにやるんです。篠さんのポリシーは役者自身の芝居であり感覚なんです。役者に頼っているわけでもないし、かといってほったらかしでもないんですが、昔からそういうスタンスですね。

篠原:そうだね、最初から『こうして・・・』とは言わないです。(役者が)困ったときは言うしかないけどね。どうしてもこういう動きをしなければいけないというときは、もちろん言いますが、自分も分かってないときもあるんですよ(笑)。

ある程度の年齢で特に子供がいる人であるならば、その心情はわかると思います。今回はそれをどう受け止めるかという役なので、これはある種の雰囲気がないとできないなと考えていました。二人の夫婦間がとてもいい感じに作られていて、山崎さんが怒るシーンは、僕もハッとしましたね。

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― 山崎さんは感情のままに演じられたのですか?

山崎:それもありますが、ちょっと糖分が足らなかったんですね(笑)。

― それでも、1人娘の辛い運命を受け入れなくてはいけないという難しさもあったと思いますが、演じていてどう感じられましたか?

山崎:そんな状況は、今の僕だったら堪られないですね。(演じるにあたって)諦めはないんですけど、羊さんも普段通りにいようとしていたし、夫婦として気丈に振る舞っていますが、心の中ではずっと泣いているんです。僕はもとから演じていても泣けない男だったんです。なんか冷めていて。でも、50(歳)過ぎたらもうどんなシチュエーションでも泣ける。犬を見ていても泣ける。もうなんかね、駄目なんです、最近涙もろくて(笑)。ただ、この映画は『ハピネス』というタイトルなので、アホみたいに泣いていてもしゃあないなと思って。でも、親としたらどう考えてもこれは切ないですよね。

― この作品からは家族の在り方や、生きること死ぬことの意味を考えることができる作品になっていると感じますが、完成作品をご覧になって感じられたことは?

山崎:もうね、僕自分の芝居は恥ずかしいんですよ・・・(笑)。ただ、この作品でこの若い二人がさらに大きく羽ばたいていってくれたらいいなと思いますし、その力添えができたんだったら本当にいいなと思いました。

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― 劇中にも“奇跡”という言葉が出てきますが、『月とキャベツ』から始まって、ミュージシャンである山崎さんと篠原監督がこうやって作品を撮り続けられていることも1つの“奇跡”かと。山崎さんの魅力も含めてこの出会いを監督はどのように考えますか?

山崎:本当に付き合いは長いですね。
篠原:最初に会ったときはミュージシャン役でしたが、(『月とキャベツ』では)本当のミュージシャンでやりたいと思っていて、オーディション的に何人か会うことになったんです。その前に彼のライブも見に行っていたのですが、その後会ったときに「僕は芝居はなかなかできないんですけど」と言いながら、ギターをポロンと弾いて歌ってくれたんです。そのときに、照れくさそうにしながらも、嗜みがある感じがしてとても印象が良かった。知性的でもあったしね。そのときに一緒にいたスタッフたちもみんな“山崎まさよし”と言う人に惹かれて、「この役は山崎さんだね」と決まったんです。

『月とキャベツ』では、彼は俳優ではないけれど、自分で言葉を発せられる人であるから、その特性が出ていた。時々アドリブ的に芝居を要求することもあって、このシチュエーションにおいてどんな言葉が出るだろうなと待っていると、その答えが本当に詩人だなと感じるんです。普通の俳優とは違うスタンスですが、そこが面白かった。

『けん玉』では非常に等身大の男をナイーブに演じてくれて『影踏み』では、なかなか難しい役柄でしたがしっかり演じてくれました。北村匠海くんとのタッグが非常に良かったですね。山崎さんは相手との共振することができる人。今回は吉田さんであり、若い二人であったと思いますが、そこにちゃんと存在することによって、相手に刺激を与え、刺激をもらい、それを返すことができる。彼は俳優ではないと言うけれど、その資質はあきらかに持っているんです。今回クランクイン前に、「僕さ、この男(父親)は大工とかやっていると思うんだよね」と言ってきて(笑)。僕も「たぶんアウトドア志向だと思う。職業は書いてないんだけど、俺もそう思ってる」なんて会話もあったんだよね。

山崎:物語の中には(職業とか)出てこないんですよ。お父さんとだけ。

篠原:職人ということも書いてないけれどそこを読み取って、そういうお父さんだからそういられるんじゃないかなと。サラリーマンではないなと。大工というよりも家の空間をデザインするような仕事なのかなぁというイメージでした。

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― 山崎さんから見た篠原監督の魅力は?

山崎:篠さんはやっぱり映画の人、映画職人ですね。今はテレビやネット配信など色々ありますが、そういうところに行って欲しくないなと思っています。なんなら、今からフィルムで撮っていただきたい。お金かかるけど(笑)。熱望するのは『月とキャベツ』のデジタルリマスターですね。あれはフィルムで撮っているから、フィルムって痛んでいくんです。あれは配給会社さんにお金を出してもらって・・・。

篠原:その計画はあるんだけど、なかなか実現してないんですよ・・・。

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― それでは、そちらも楽しみにしつつ、映画『ハピネス』をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

山崎:少し悲しい話ではありますが、『ハピネス』というタイトル通り、短い期間でもこの2人が確かに愛し合っていたということの幸せが描かれています。数奇な運命ですが、僕は観た後に心がスカッとしました。ぜひ皆さんにも観ていただきたい作品です。

篠原:“死”をどう受け止めるかという話であると同時に、どうこだわって生きるかという話でもあります。由茉は自分の好きなことをもう一度自分の中で確認して行動する。その人個人にしかわからない楽しみかもしれないけれど、自分の好きなことにこだわっていくことの大切さがある。あと、橋本愛さん演じる雪夫の姉・月子の役もとても重要な存在です。自分の経験から弟を応援していくわけですが、“自分のこだわりを大事にしていく”ことも裏テーマになっていて、観る方に「いいんだよ、それで」と今の自分を肯定してあげているんです。

ちょっと変わったことをすると叩かれたり、なかなか生きづらい世の中ですが、「本当に好きだったらやったほうがいいよ」、「我慢しないでやろうよ」というエールも送っているので、そういうことが伝えられたらいいなと思っています。

撮影:松林満美

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映画『ハピネス』
【ストーリー】
高校生の雪夫と恋人・由茉の日常は、由茉の突然の告白によって一変。心臓に病気を抱える由茉は、すでに自分の運命を受け止め、残りの人生を精いっぱい生きると決めていた。憧れていたファッションに挑戦し、大好きなカレーを食べに行く。そして何よりも残り少ない日々を雪夫と過ごし、最期の瞬間までお互いのぬくもりを感じていたい。雪夫は、動揺しながらも彼女に寄り添う決意をする。
17歳という若さで逃れられない運命と向き合い、残りの人生を笑顔で幸せに過ごすことを選んだ2人の、悲しくて、最高に幸せな7日間の物語。

出演:窪塚愛流 蒔田彩珠
橋本 愛 山崎まさよし 吉田 羊
原作:嶽本野ばら「ハピネス」(小学館文庫刊)
監督:篠原哲雄
脚本:川﨑いづみ
主題歌:三月のパンタシア「僕らの幸福論」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作プロダクション:光和インターナショナル
配給:バンダイナムコフィルムワークス
©嶽本野ばら/小学館/「ハピネス」製作委員会

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