Open Close

【第38回東京国際映画祭】『ダブル・ハピネス』今の台湾と香港を結婚式をとおして描く

2025年も10月27日より【第38回東京国際映画祭】が始まった。
今年のアジアの映画は、圧倒的に中国映画が多く、合作も含めると8本。台湾映画は海外と繋がる台湾を描いた作品を集めた【台湾ルネッサンス2025】の4本。香港映画は中国との『風林火山』1作。韓国映画が3本、シンガポール映画2本、タイ・マレーシア・ベトナム・カンボジア、トルコから各1本。
アジアからの大物スターの登壇はあまりなかったが、監督が多く来日し、素晴らしい映画が多かった。
その中から特に興味深く、エンターテイメント性にも富んだ作品を前後編でご紹介したい。日本公開をお願いしたい作品だ。

まずご紹介したいのは、今回鑑賞した作品の中で、個人的に一番楽しんだ作品、【台湾ルネッサンス2025】より『ダブル・ハピネス』(原題:雙囍)。

IMG_3176sss2

『ダブル・ハピネス』=雙囍 とは、「喜」を横に二つ並べた「囍」のこと。ラーメンどんぶりで見かける、あのマークがまさにダブル・ハピネスで、本来は「二重のおめでた」の意味。だが、中華圏では雙囍(シュワンシ―)と聞くと、結婚式を連想する人が多く、結婚式の代名詞と言っていいだろう。

描かれるのは、まさに結婚式当日の物語。
新郎は台湾出身のティム・カオ(劉冠廷)と、新婦(余香凝)は香港出身のデイジー・ウー。
ティムの離婚した両親が式で同席することを拒み、それぞれが自分のために結婚式を挙げるように主張。しかも風水師が選んだ縁起の良い日が、同日だったため、ティムたちは両親に知られることなく、同じホテルで同時にふたつの結婚式を執り行わなければならない。さて、このミッションは成功するのか? この結婚式の一日をドキュメンタリーのように描いて、観客をハラハラドキドキさせてくれる。

「雙囍」(結婚式)×2の物語なのだが、この映画の「雙囍」には、さらにいくつもの「ダブル・ハピネス」の意味が込められている。これ以上はネタバレになり過ぎるので控えるが、伏線を回収していく手腕もお見事。

IMG_3180sss2

台湾金馬奨最優秀主演男優賞俳優のリウ・グァンティン(劉冠廷)と香港金像奨最優秀主演女優賞俳優のジェニファー・ユー(余香凝)が、台湾人と香港人の新郎新婦を演じる点に目をひかれるが、その他の俳優たちも、台湾と香港のベテラン俳優、人気俳優ばかり。演技を超えて、台湾と香港の違いや今の世情を感じさせてくれる。
さらに日本からも吉岡里帆が出演。豪華で手の込んだエンターテイメント作品だ。しかも、東京国際映画祭での10月28日の上映がワールドプレミア上映という、贅沢さだった。

Q&Aには監督・脚本を担ったシュー・チェンチエ(許承傑)と出演した、リウ・グァンティン(劉冠廷)、ジェニファー・ユー(余香凝)、吉岡里帆(俳優)、プロデューサーのクリフォード・ミウ(苗華川)が登壇。ワールドプレミア上映に相応しい華やかなQ&Aとなった。

許承傑監督は「世界初上映を観に来てくださり、ありがとうございます。前回、(2021年の)東京国際映画祭に参加した際には(「弱くて強い女たち」(原題:孤味))コロナ禍のため来られなかったので5年経って来ることができて感激しています」と挨拶。
苗華川も「私も前回監督と同じで来ることができなかったので、今回、こんな大きな映画館で大きなスクリーンで上演されたのを、皆さんと、素晴らしい俳優たちと一緒に見ることができてうれしい」と挨拶した。

この「弱くて強い女たち」は、ビビアン・スー(徐若瑄)がプロデューサーをつとめ、出演もした、許承傑の初監督の長編劇映画。興行成績も評価も高く、金馬奨では6部門にノミネートされ、主演の陳淑芳が主演女優賞を獲得。許監督の名を広めた一作だ。現在、NETFLIXで見ることができる。

IMG_2988sss2

新郎を演じた劉冠廷は「私はリュウ・グァンティンです。よろしくお願いします。(と日本語で。大きな拍手を受けてのうれしい笑いをこらえながら、以下、北京語で)今晩、私も初めてこの作品を大画面で見ました。皆さんと一緒に見ることができてうれしく、この映画が完成したことに感激しています」と挨拶した。

劉冠廷は、大学で演技を専攻するも、小中学校の体育教師になり、その後、俳優となった人。
2019年の東京国際でも上映された「ひとつの太陽」(原題:陽光普照)と2021年の「诡扯」で金馬奨・助演男優賞を、2020年の「1秒先の彼女」(原題:消失的情人節)で金馬奨・主演男優賞を受賞している実力派。
出世作となった「1秒先の彼女」は、日本・韓国でもリメイクされた名作。Amazon Prime VideoやHulu、U-NEXTなどで見ることができる。

IMG_3011sss2

余香凝は「本作が初めての台湾での演技、台湾映画への出演です。今晩、皆さんと一緒に私も初めて見られてうれしいです。この作品を気に入ってもらえたらと願っています」と挨拶した。

余香凝は、本作の新婦同様に香港出身。モデルとしてデビューし、歌手・俳優としても活躍している。「白日の下」(原題:白日之下)の主演として2023年東京国際映画祭でQ&Aにも登壇しており、この作品で2023年金馬奨・2024年金像奨の主演女優賞を獲っている。

IMG_3060sss2

そして本作序盤に出演し、おいしい役どころを演じたのが吉岡。「私自身、海外作品に参加するのが初めてで思い出深い作品になりました。私自身は冒頭しか出ていませんが、完成した作品を見て、細やかなところへの愛情深いメッセージや笑いのセンスなど、とても丁寧に撮られた映画だと思い、こんなに素晴らしい作品に参加できて本当にうれしいと思いました」と挨拶。

―最後までご覧になっていかがでしたか?
吉岡:感動したのが、(自身の役と関りのある)イカ墨パスタが二人を結びつけるものだと、完成した映画を見て知りました。イカ墨を食べて、口の中が真っ黒になっているのをお互いに見せあうのは、ダメなところをおおいに見せ合うという象徴的なものとして出て来ていて、映画の効果も感じましたし、そこに出演できたのはうれしかったです。

―脚本の段階からイカ墨で?
許監督:脚本の段階からイカ墨を書き込んでいました。新郎の父は伝統的で抑圧的だが、息子は反逆児で、イカ墨には親から与えられたものではなく、彼自身が選んだ未来という意味があります。

―撮影で大変だったのは?
余:花嫁のメイクや衣裳を整えることですね。毎日2時間くらいかかりました。白い
ウエディングドレスはとても美しいのですが、着るのも大変で重くてトイレに行くのも不便で水を飲むのを控えていました。でも出来上がった場面を見て、とてもきれいだったのでそのだけ苦労した甲斐があったと思いました。

劉:この役を演じていた時に子供が生まれたので、撮影のない時には家で新人の父親役に切り替えて子供の世話をして、2つの役をやりながらこの映画を完成しました。でも子供が生まれたことで自分の子供時代を考えることになり良かったと思います。そして芝居と人生には多くの巧妙な呼応があるものだと感じました。

IMG_2976sss2

―台湾人と香港人との結婚や言語について
許監督:香港と特別に関係がある人でなければ、大部分の台湾人は広東語がわかりません。それでわざと国際結婚に似たような結婚に設定しました。儀式についての違いも、結婚式の時に香港は赤い傘を使い、台湾はベージュか黒を使います。そういう違いも少し描いています。
私自身は広東語を聴いてわかりますが、話すのは上手くありません。余香凝さんとも普段は北京語を話しますが、興奮してくると余香凝さんが話す広東語を、私はだいたいわかるという感じでやっていました。映画でも相手に愛嬌を見せる場面などで広東語と北京語をうまく使って、ふたりのいろいろな表情を描いています。

―台湾での上映時期について
来年(2026年)の旧正月の上映です。日本でも公開できたらと願っています。

売れっ子、実力派の劉冠廷は、今回上映された「エイプリル」にも出演。Q&Aにも登壇した。

IMG_3479sss2

こちらでは、本作とは別人のような役を演じ、同じ劉冠廷かと驚かされた。だが、次第ににじみ出る「良い人」感はぬぐえない。今回の来日では、彼のそんな人柄も感じられた。映画を体感できる、貴重な機会をくれた【東京国際映画祭】に感謝!

『ダブル・ハピネス』(原題:雙囍)
監督/脚本:シュー・チェンチエ
プロデューサー:クリフォード・ミウ
出演:劉冠廷 余香凝 楊貴媚 田啟文 庹宗華 9m88 蔡凡熙
130分カラー北京語、台湾語、日本語英語、2025年台湾