Open Close

映画『この道』佐々部清監督インタビュー! ヒントは『アマデウス』!?「大森南朋くんはやんちゃな色気、AKIRAくんは本当に真っ直ぐな男!」のキャラクターを生かして制作!

DSC_2855

童謡の誕生から100年、稀代の天才詩人・ 北原白秋の波乱に満ちた半生と、秀才音楽家・ 山田耕筰との友情を描いた映画『この道』が、1月11日(金)より全国公開している。
それまで、ドイツ民謡に日本語の歌詞を乗せた童謡しかなかった時代に、日本人のよる日本人のための新しい「歌」を誕生させた二人。大森が北原白秋、AKIRAが山田耕筰を演じ、佐々部清監督の手で、笑いと感動の物語に仕上げた。

この度、Astageでは佐々部監督のインタビューを遂行。映画誕生のヒントは? 今作を含め、映画に対する熱い思いをじっくりと語っていただいた。

― 童謡誕生100年となる年に、北原白秋と山田耕筰を描こうと思ったきっかけは何だっだのでしょうか?

2015年に公開した映画『群青色の、とおり道』を撮ったときの舞台が群馬県太田市の尾島小学校で、その校歌の作詞を担当したのが北原白秋だったんです。そのときのプロデューサーから「北原白秋作品」の企画をいただいたのですが、最初は偉人伝という話で。でも、北原白秋の生い立ちを描くのはもう他のテレビ番組などで見ているし、本で読めば済む。偉人伝だったら僕はやりたくなかった。もっと人間臭い話だったらやりたいと言ってこの企画がスタートしました。
そこで色々勉強していくと、北原白秋は奥さんが3人いて姦通罪で捕まったり、昼間からお酒を飲んで女性を口説いているような人なのに、どうして彼は「ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんらん」とか「ねんねこ ねんねこ ねんねこよ」というような詩が書けるんだろうと、興味が湧いてきたんです。

そして、助監督時代の二十数年くらい前に、アメリカのミロシュ・フォアマン監督と仕事をすることがあって。結局その映画は完成しなかったのですが、半年間ミロシュ監督と一緒にいて、彼から『アマデウス』の話を聞きました。僕は『アマデウス』という映画が大好きなんです。あの有名なモーツァルトを下品なんだけど人間臭く描いていて、サリエリとの対比がとても面白い。北原白秋を「アマデウス」でやりたい・・・と、『この道』を制作していく上でのヒントになりました。

― なるほど。モーツァルトとサリエリが、北原白秋と山田耕筰になるとは。

サリエリとは違い、北原白秋と山田耕筰は二人とも才能がありましたけどね。あとは、作品の時代が明治、大正、昭和の初期だったのですが、今の時代とリンクをさせたかった。この20年くらいの間には多くの大きな震災があってたくさんの方が失われました。大正時代の関東大震災に音楽を合わすことができれば今の時代とリンクすることができるのではないかと考えたのです。また、白秋の晩年には日本が戦争に向かっていることと、今の政権にも多少なりともリンクできるかと。ただの娯楽としてのエンターテイメントではない、人間ドラマの中に今の時代を映し出すことができるのではと思ったのです。

DSC_2846

― 最初は自分たちの好きな詩、好きな曲を作っていた二人にも、世の中が自分のやりたくないこともやらなければならない流れになっていきます。与謝野晶子さんの放つセリフにはドキッとさせられます。

「今、この国はどこに向かっているのかしら」というセリフは、まさにそこを意識して書いたセリフですね。

― それでは、キャスティングについてお聞きします。山田耕筰は実は北原白秋に負けず劣らず破天荒だったとか? 大森南朋さんとAKIRAさんをキャスティングされた理由を教えてください。

山田耕筰も奥さんが3人いたし、三菱財閥の岩崎弥太郎さんから支援を受けていたのに、オーケストラの女の子に手を出して支援切られたりね・・・(白秋と)似たようなもんです(笑)。もともと、白秋を中心に物語を作っていたので、白秋を破天荒にしたら耕筰はその対比にしないといけなかった。大森くん自身は決して浮気ばかりする悪い男ではないけれど、やんちゃな匂いがしながらも母性本能をくすぐるような色気がある。AKIRAくんは本当に真っ直ぐな男なんです。だからこそ、30代であれだけ肉体を鍛えてパフォーマンスできると思うし、今回もバイオリンもピアノも指揮も経験したことがないのに、1か月間空いている時間は全てこの練習に費やすくらい努力していました。本人たちのキャラクターも生かした人物にしたほうが役がイキイキすると思ったんです。

DSC01690_t

― 震災の時にAKIRAさんが引くバイオリンは心打たれます。

あの曲「ちょうちょ♪」は脚本家の坂口理子さんが見つけてきてくれたんですが、映像に出てくる“ちょうちょ”はみんなに見えているものでも、幻でもいいと思った。震災に倒れた人たちが立ち直るきっかけにしたかったのですが、もう少し時間があれば子供たちが集まってくるようなシーンも撮りたかった。

― とても悲惨な時なのに、バイオリンの音色と人々の表情に救いを感じられるシーンではないでしょうか?

僕はあの時の大森くんとAKIRAくんの演技がとても好きです。とても人間らしいシーンです。

― いい大人が大喧嘩も・・・(笑)。

僕も今年還暦ですが、いい映画を撮ろうと思ったら、「違うよ、テメェ!」とやるんです。そういう熱が彼らも一緒なんです。

DSC01239_t

― 白秋の詩はリズムがあると言われますが、この映画の画にはとても温度を感じます。その中でも監督が特にこだわったお気に入りのシーンはどこですか?

う~ん(しばし考えて)・・・。やっぱり二人(白秋と耕筰)の縁側のシーンかな。長いシーンなのでどうしてもロケでは難しく、セットを組みました。二人の演技も素晴らしかったのですが、それを支えてくれたのは京都の技術スタッフ。縁側のセット、ライティング、照明の匠というんでしょうか、役者もスタッフも、映画のプロたちがきちっと仕事しているんです。スマホなどで作る自主映画とは違う密度で、本当のプロが作った映画的なシーンを感じます。大森くんとAKIRAくん、そして貫地谷さんの表情はもちろん、美術、照明、衣装、メイクらのスタッフたちにも敬意を評したいくらい好きなシーンです。

あと、何回も出てくる蕎麦屋のシーンも。あのセットは太秦映画村の時代劇の一角だったのですが、障子から窓、壁まで全部変えて1日でセットが出来てしまったんです。すべての材料が倉庫にあるというのが撮影所の底力。撮影は2月だったのですが、関東大震災は9月1日なので夏のシーンにしなくてはいけない。そこも美術、衣装、エキストラの皆さんの力が結集してちゃんと夏のシーンになっているんです。大森くんもAKIRAくんも本番前に口に氷を含んで白い息が出ないようにしたりしてね(笑)。
久しぶりにプロの人たちと映画の仕事ができて楽しくて嬉しかったですね。こんな気分でしたね(と言って、ポスターの白秋の顔を指差す)。

DSC_2851

― また、白秋の妻を演じられたお二人も対照的で見どころかと。

最初の妻となった松下俊子(通称:ソフィー)は、隣に住む人妻。俊子を演じる松本若菜さんは初めて一緒に仕事しましたが、なんとも色っぽくて。僕は彼女に「最初のシーンの二人は大正の人ではなくて、もっと先を行っている昭和の人の感じで演じてくれ」と言ったのですが、その言葉に彼女はずっと悩んでいたらしいんです。でも、ちゃんとあの時代の匂いもするし、先を行っている感じもする。短い時間によく理解して演じてくれました。貫地谷さんも、二人の対比である良妻賢母で厳しい姿勢をきちんと表現してくれました。

― 妻たちをはじめ、与謝野晶子など、この時代もやはり女性の存在は大きかった?

そうですね。特に、白秋はほとんど女性に支えられていましたね。この人の才能や、子供のようなところに支える人たちは惹かれていたのだと思います。

― もし、この時代に白秋と耕筰が生きていたらどんな人になっていたと思いますか?

筒美京平と、阿久悠かもしれないですね。大ヒット飛ばして(笑)。

― 昔は誰でも親しんでいた童謡ですが、今の時代では学校の授業でしか耳にしなくなっているかもしれません。

子役のオーディションの時、子役の20代くらいのお母さんに「『ぴっちぴっち ちゃぷちゃぷ らんらんらん♪』という歌をお子さんに教えておいてください」と伝えたら、「私、その歌知りません」と言うんです。「子供のときに習ってない」と。ちょっとショックでしたね。「ねんねこ ねんねこ ねんねこよ♪」と「ぴっちぴっち ちゃぷちゃぷ・・・♪」くらいは日本の大人だったら誰もが知っていると思っていた。そんなお母さんたちにもキレイな日本語を知って欲しいなと感じました。

― この映画をご覧になる方は、皆さんご自分の故郷を思い浮かべられるのではないでしょうか?

ラストに白秋と耕筰が丘の上で「この道はどんな道だい?」と話しているところにメッセージが詰まっていると思います。最後のATSUSHIさんの『この道』を聴きながら映画を振り返り、自分の歩んできた道、これからどう生きるかを考えてもらえたら十分です。

― ATSUSHIさんが歌う主題歌「この道」を聴かれていかがでしたか?

もう、びっくりしました。ATSUSHIさんがAKIRAくんへのエールで主題歌を歌ってくれたら嬉しいな・・・と言ったら快諾してくれまして。初めて聞いたときは震えがくるくらい感動しました。

― 歌の力って、やはり凄いです。

由紀さおりさんと安田祥子さんの「からたちの花」も凄く感動しました。

― 全てプロが揃った映画で、あとに残るような作品ですね。

本当にスタッフ、俳優陣の力です。慎吾ちゃん(柳沢慎吾)の事務所さんも「柳沢慎吾に俳優としての芝居をさせてくれてありがとうございます」と喜んでくださいました。彼の抑えた芝居もいいですよ。

― それでは、監督が映画を撮るときにいつも意識していることは何ですか?

僕は1時間45分~2時間のフィクションを作り出すわけですが、フィクション=“大うそ”で人に感動や喜びを与えるには、小さな“リアル”すなわち“真実”をたくさん積み重ねないと2時間の“大きなウソ”が作れないと思っています。なので、AKIRAくんのバイオリンやピアノも吹き替えではダメだと。関東大震災のシーンで、貫地谷さんが赤ちゃんを抱えて家が揺れる場面があるんですが、最初CGで撮ろうとしていたんです。僕が「電球が揺れだした」「一番手前のタンスが倒れた」と叫んでその言葉に反応して芝居してあとでCGを重ねて・・・と。でもやっぱり「ウソっぽいな、そんなのでは芝居できないだろうな」と思い直前に、細かいところ全て手作業に変えてカメラを揺らして撮ったんです。CGでも貫地谷さんはそれなりの演技はできたかもしれないけど、本当に揺れ出したら、それまでワーワー泣いていた赤ちゃんがピタっと泣き止んでしまった。それがリアルなんです。
僕が映画を撮る時にいつも心がけていることは「ウソっぽいことはなるべく排除する」ということ。それは演じる人にも伝えています。

DSC_2857

【佐々部 清(ささべきよし)プロフィール】
1958年、山口県下関市出身。明治大学文学部卒業。2002年、『陽はまた昇る』で監督デビュー。本作で日本アカデミー賞優秀作品賞を、『チルソクの夏』(04年)で日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞を受賞。04年の『半落ち』では日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた。他の主な映画作品に、『四日間の奇蹟』(05年)、『出口のない海』(06年)、『夕凪の街 桜の国』(07年)、『三本木農業高校、馬術部』(08年)、『日輪の遺産』(11年)、『ツレがうつになりまして。』(11年)、『東京難民』(14年)、『八重子のハミング』(17年)など。他に、「心の砕ける音」(05年、WOWOW)、「告知せず」(08年、テレビ朝日)、「波の塔」(12年、テレビ朝日)などのテレビドラマや舞台「黒部の太陽」(08年)の演出などを手掛けている。

★konomichi_hp_z'-001

映画『この道』
<ストーリー>
九州柳川から文学を志し上京した北原白秋。隣家の美人妻・俊子に気もそぞろ。逢瀬を俊子の夫に見つかり姦通罪で入獄。白秋の才能を眠らすまいと与謝野夫妻が奔走し釈放されるが、恩も顧みずのうのうと俊子と結婚。その刹那、俊子は家出、白秋は入水自殺を図るが蟹に足を噛まれ断念。そんなおバカな白秋と洋行帰りの音楽家・山田耕作に鈴木三重吉は童謡創作の白羽の矢を立てる。才能がぶつかり反目する二人だが、関東大震災の惨状を前に打ちひしがれた子供たちを元気づけるため、手を取り合い数々の童謡を世に出す。しかし、戦争の暗雲が垂れ込める中、子供たちを戦場に送り出す軍歌を創るよう命ぜられた二人は苦悩の淵に・・・。

出演:大森南朋、 AKIRA・
貫地谷しほり、 松本若菜、 小島藤⼦
由紀さおり 安田祥子・津田寛治、 升毅、 稲葉友、 伊嵜充則、 佐々木一平
羽田美智子、 柳沢慎吾、 松重豊
監督:佐々部清
脚本:坂口理子
主題歌:「この道」 EXILE ATSUSHI (rhythm zone) 編曲:武部 聡志
音楽:和田 薫
配給:HIGH BROW CINEMA ©2019映画「この道」製作委員会
公式サイト:http://konomichi-movie.jp

1月11日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中