製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
シリーズ累計発行部数3,800万部突破の超人気コミックのミュージカル版として2023年に初演され、大好評を博したミュージカル 『SPY×FAMILY』。新キャストも加わった公演が、9月20日(土)よりウェスタ川越 大ホールにてプレレビュー公演から始まり、10月7日(火)からは東京公演が日生劇場にて10月28日(火)まで上演されている。11~12月には大阪・福岡・山形・静岡・愛知にて上演される。
今回はロイド・フォージャー役、ヨル・フォージャー役、ユーリ・ブライア役が、2023年の初演からの続投キャストと初挑戦キャストとのダブルキャスト。アーニャ役は全員が初挑戦のクワトロキャストで上演される。
ロイド・フォージャー役を木内健人、ヨル・フォージャー役を和希そら、ユーリ・ブライア役を吉高志音、アーニャ・フォージャー役を西山瑞桜が演じるプレビュー公演を観劇した。
描かれるのは…
西国〈ウェスタリス〉の凄腕スパイ〈黄昏〉が、任務のため精神科医ロイド・フォージャーに扮し「仮初めの家族」を作るのだが、《娘》となったのは超能力をもつアーニャ。そして《妻》に迎えたのは〈いばら姫〉というコードネームを持つ殺し屋、ヨル。正体を隠しながら家族となっていく3人と、彼らを取り巻く個性豊かな人物たちが織り成す、微笑ましくも痛快な物語。
【観劇レポート】
幕が開いた直後、「初演と違う!」と衝撃を受けた。たしかに製作発表会見で、脚本・作詞・演出のG2が「新作気分で取り組みたい」と語っていたが・・・。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
オープニングでは木内ロイドとシルヴィア役の朝夏まなとを中心に、達者なアンサンブルキャストが加わった歌とダンスがたっぷり展開。初演でも評判となった大規模なセットを背景に、冒頭から『SPY×FAMILY』の世界観が眼前いっぱいに広がる。「これぞミュージカル!」という豪華さにワクワクが沸き上がる。コミックともアニメとも違う『SPY×FAMILY』ならではの世界に一気に没入した。
とはいえ、原作に流れる大切なテーマ、「子どもが泣かない世界を築く」という〈黄昏〉の信念も忘れてはいない。
今回は、その思いが今の私たちにもより身近に、より切実に感じられる演出へと進化。公演が始まっていくらもたたずして涙がにじんでしまった。
ミュージカル化にあたって、どの場面が選ばれるのか、舞台では再現できそうにない場面がどう描かれるのかは、是非とも公演を楽しみにしてほしい。
冒頭のシーンだけでなく、初演とは演出が変わったシーンも多く、初演を観ていても、観ていなくても「そうなるのか!」という場面が続々だ。
また、登場人物の心の声の表現方法は、心の声なのか、話したのかの違いが、不思議とはっきりとわかる絶妙な演出となっていて、キャラクターたちがますます親しみやすくなり、心の声の後には観客の笑い声が何度も大きく響いて、観客がひとつになって『SPY×FAMILY』の世界に入り込んで楽しんでいるのを感じた。
今回の注目ポイントのひとつは、新たなキャストたちだろう。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
今回初めてロイド役を演じる木内健人は、ミュージカル『レ・ミゼラブル』(2021、2024~2025)でアンジョルラス役を、ミュージカル『CROSS ROAD〜悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ〜』(2024年)ではタイトルロールを演じるなど、その実力は高く評価されてきた。
ミュージカル『SPY×FAMILY』初演では情報屋・フランキー役を演じたので、本作になじみはあったはず。だが、今回は急遽の登板で、ましてや、まだプレビュー公演の木内にとって、この日は2回目のステージだった。
だが、そんな心配は微塵もいらなかった。
全編ほぼ出ずっぱりで、早着替えも歌もセリフも多すぎるほど多いのだが、大がかりで複雑な動きをするセットを縦横無尽に駆け巡り、ダンスもアクションもある。にもかかわらず、伸びやかでしっかりとした芯のある歌声はブレることがない。そしてセリフはもちろん、歌詞もストレスなくしっかりと聞き取れる。バシッと放った決めセリフの後には、何度も拍手や笑いが巻き起こっていた。
なにより、クールに見えて、次第にアーニャとヨルを気にかけてヤキモキしていく様子が絶品。 原作キャラクターに寄せるだけではなく、等身大の生きている “ロイドさん”のかっこよさと人間味を体現してくれる。
観終わったときに、心の内が〈夜帷(とばり)〉になってしまった観客が多いことだろう。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
ヨル役の和希そらは、宝塚歌劇団では男役スターとして活躍。2024年の退団後には、ミュージカル『SIX』など大型ミュージカルに出演し、その実力は折り紙つきだ。
驚いたのは、ヨルとして登場した第一声を聞いた瞬間。思わず「ヨルさんだ!」と心で叫んでしまったほど“ヨルさん”だった。さらにセリフでも動作でも飄々とした個性を生む“間”が絶品で、「ヨルさんだ!」を上塗りしてくれる。一方、殺し屋〈いばら姫〉の姿になると、存在感と華があふれる。〈いばら姫〉のアクションについては、常人にはできそうもないアクションを吹き替えの依里が軽やかに美しく演じているシーンだけでなく、どう見ても「そらさんご自身だ!」と思える華麗なアクションシーンもある。おふたりの入れ替わりも自然で、吹き替えに気が付かない観客も多いだろう。美しい歌声と、母性をあふれさせるヨルと〈いばら姫〉、ふたつのギャップに魅了されてしまう。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
ヨルさんを慕う弟、ユーリ・ブライア役の吉高志音は、人気2.5作品MANKAI STAGE『A3!』で脚光を浴び、ミュージカル『GIRLFRIEND』で注目を集めた実力派の“次世代若手ミュージカル俳優”だ。
登場場面から強烈な印象を残し、そのシスコンぶりに目を奪われていると、歌のうまさに驚かされる。姉に明かせない秘密を抱えて苦悩する姿には生身のリアルを感じさせる。これからも目が離せない注目俳優となりそうだ。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
新キャストとして注目したいもう一人は、情報屋フランキー役の鈴木勝吾。数々の舞台作品で主演をつとめる演技派・鈴木のフランキーは、人が演じているのだということを忘れてしまうほどにフランキーだ。登場場面を楽しみにしてほしい。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
そして、忘れてはならない新キャストは、アーニャ役の西山瑞桜。生身のアーニャのかわいさと伸びやかな歌声がキュンキュンと心に届く。驚かされたのは、アーニャがセリフを言う瞬間や、歌い踊る場面以外の、他の登場人物に視線が集まるシーンでも、その芝居に反応してどんどん変わるアーニャの表情。心の声を聞かずとも、アーニャの心の動きが手にとるようにわかってしまって思わず笑いを噛み殺す…そんな場面が度々だった。生で感じるエネルギーは予想を超える!他3人のアーニャ役も観たくなること、間違いない。
初演からの続投のシングルキャストについても触れよう。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
「そうきたか!」と観客の気持ちを前のめりにさせるのは、〈黄昏〉に恋する後輩スパイ、〈夜帷〉というコードネームを持つフィオナ・フロスト役の山口乃々華。フィオナの登場シーンは、凝縮されて高濃度!歌と芝居が交互に組み合わさって「自分こそが《妻》役を務めるべき」という思いが、表情はもちろん、身体全体からあふれ出る。思いが強い分だけ、コメディパワーも圧倒的だ。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
名門イーデン校の教諭ヘンリー・ヘンダーソン役の鈴木壮麻、〈鋼鉄の淑女〉の異名を持つ〈黄昏〉の上官シルヴィア・シャーウッド役の朝夏まなとの登場や歌い始める場面では、「待ってました!」とばかりに客席から拍手が起こる。拍手が起こるような場面ではないはずだが、それだけ観客が作品に入り込んでしまっているのだ。
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
ミュージカルとなって舞台となって眼前で人が動き歌うからこそ、物語世界と観客とがつながっている。この時にだけ生まれるミュージカルの魔法を感じた。
そして、最後にお伝えしたいのは、作品の世界観をやさしく包んでくれているアンサンブルキャストたちのハーモニーの厚みと美しさ。グランドミュージカルといえども、これほど贅沢なコーラスは稀有だろう。ぜひ味わってほしい。
こうして振り返ってみると、一瞬も見逃せない見どころが数珠つなぎ。しかも観終わった後の爽快感も堪らない。何度も観たくなるのも仕方がないことだ。(笑)
本公演は、東京公演・全国ツアーと年末まで。そしてミュージカル「SPY×FAMILY 2」2026年9-10月の上演も発表された。わくわくは続いていく!お見逃しなく!
【舞台映像Ver.】
ミュージカル 『SPY×FAMILY』
製作:東宝 ©遠藤達哉/集英社
プレビュー公演: 2025年9月20日(土)~28日(日) ウェスタ川越 大ホール (ウェスタ川越10周年記念事業)
東京公演: 2025年10月7日(火)~10月28日(火) 日生劇場
【全国ツアー公演】
大阪公演 11月5日(水)~11月10日(月) 梅田芸術劇場 メインホール
福岡公演 11月17日(月)~11月30日(日) 博多座
山形公演 12月12日(金)~12月14日(日) やまぎん県民ホール
静岡公演 12月20日(土)~12月21日(日) 静岡市清水文化会館マリナート
愛知公演 12月26日(金)~12月30日(火) 御園座
CREATIVES
原作:遠藤達哉(集英社「少年ジャンプ+」連載)
脚本・作詞・演出:G2
作曲・編曲・音楽監督:かみむら周平
CAST(出演者)
★ロイド・フォージャー(凄腕スパイ:コードネーム〈黄昏(たそがれ)〉
森崎ウィン/木内健人 *Wキャスト
★ヨル・フォージャー(殺し屋:コードネーム〈いばら姫〉)
唯月ふうか/和希そら *Wキャスト
★アーニャ・フォージャー(<黄昏)の養女:テレパシー能力の持ち主)
泉谷星奈/月野未羚/西山瑞桜/村方乃々佳 *交互出演
★ユーリ・ブライア(姉のヨルを溺愛する、東国の秘密警察)
瀧澤翼/吉高志音 *Wキャスト
★フィオナ・フロスト(〈黄昏〉の後輩スパイ、コードネーム〈夜帷(とばり)〉)
山口乃々華
★フランキー・フランクリン(〈黄昏〉に協力する情報屋)
鈴木勝吾
★ヘンリー・ヘンダーソン(アーニャが入学を目指す名門イーデン校の教諭)
鈴木壮麻
★シルヴィア・シャーウッド(〈鋼鉄の淑女〉の異名を持つ〈黄昏〉の上官)
朝夏まなと
加賀谷真聡(ドミニクほか) 依里(アクション吹き替え)
荒川湧太、岩﨑巧馬、大津裕哉、大場陽介、小熊 綸、小倉優佳、鎌田誠樹
木村朱李、栗山絵美、桑原 柊、島田 彩、髙島洋樹、丹宗立峰、堤 梨菜
早川一矢、深堀景介、本間健太、湊 陽奈、宮野怜雄奈、森田茉希
ミュージカル「SPY×FAMILY」公式サイト https://www.tohostage.com/spy-family/
ミュージカル「SPY×FAMILY」公式X https://x.com/spyfamily_stage @spyfamily_stage