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小栗旬 インタビュー 彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』 「鋼太郎さんは“エネルギーがほとばしっている俳優”。それに憧れて、それを手に入れたいと思いながら生きてきました」

舞台は2017年に劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season花、ミュージカル『ヤングフランケンシュタイン』の出演以来3年ぶりとなる小栗旬が、2020年6月、彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』に出演する。 (新型コロナウイルス感染症の感染拡大の収束が見通せない現状を鑑み、6月8日(月)に開幕を予定していた彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』の全公演の中止が決定した。5/7)
小栗旬にとっては、本シリーズ4作品目にして初めての歴史劇への挑戦。演じるのは、先王の私生児・フィリップ・ザ・バスタード。

ビジュアル撮影が行われた日に小栗旬に話を聞いた。

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―久しぶりに彩の国シェイクスピア・シリーズへの出演。しかも吉田鋼太郎さんの演出と聞いた時の思いをお聞かせ下さい。
かなり前に鋼太郎さんからお話をもらって「呼んでくれるんだ、有難いな」と。最近は派手な演劇をやっていたので、そこからシェイクスピアに戻れるのは嬉しいことであり、今自分が一番受けてみたい演出家が吉田鋼太郎でした。
最後に彩の国さいたま芸術劇場に立ったのは、たぶん『ムサシ』(09年)だと思うので、もう少しで干支が一周するくらいの昔。しばらくこのムードから離れてしまって、あの当時の筋肉を呼び戻すことができるのか、返り咲けるのか、不安です。でも自分の中では渇望している環境ではあるので、目いっぱい楽しみたいなと思っています。

―一番受けてみたい演出家が吉田鋼太郎というのは?
演劇はどこか筋肉みたいなところがあって、その筋肉が最近、徐々に衰えてきているような気がしていているので、もう一度、吉田再生工場で再生したいという感じです。
演出については、鋼太郎さんはシェイクスピア作品について考えてきた、かなり数少ない一人だと思います。劇団AUNの小劇場公演の稽古場は何度か見せてもらっていたけれど、800席クラスの劇場になるとどうなるのかなと思っていましたが、『アテネのタイモン』の稽古場を見学した時も役者へのアドバイスが的確で、役者の気持ちに寄り添いながら組み立てていく演出をされていました。とても優れた演出家だと、全幅の信頼を寄せています。楽しみです。

小栗 旬 /主演 私生児フィリップ・ザ・バスタード役

 小栗 旬  私生児フィリップ・ザ・バスタード役

―『ジョン王』という作品については?
今回の脚本はまだ出来ていませんが、いろいろな翻訳を読むとおもしろくない。(苦笑い)。蜷川幸雄さんが残した作品は面白いとは言いにくいものばかりなので、鋼太郎さんは大変な仕事をしていると思います。今回のテーマは、その面白くないものを、鋼太郎さんと自分たちでいかに面白いものにするか。それは楽しいことです!
『ジョン王』の過去の上演作について聞いたところでは、演出家によってメインにたてる人物が違うとのこと。今回、鋼太郎さんは私生児のフィリップをメインにするというチョイスをして、自分が演じます。シニカルな感じのキャラクターなので、そういうところを楽しみながら作っていけたらいいなと思っています。

―シェイクスピア作品ならではの難しさは?
鋼太郎さん演出の『アテネのタイモン』『ヘンリー五世』の2作品を観させてもらいましたが、難しい長台詞が聞きやすくなっているように感じました。昔はシェイクスピアの台詞をとても難しいと思っていましたが、今はそんなに難しいとは思いません。ただあれだけの膨大な量の台詞を、途切れさせずに観客に届けるというのは技術が要るので、そこはもう一度見つめ直したいと思います。

「ジョン王」小栗旬②20190918・838

―『ジョン王』は日本の観客には馴染みの薄い歴史部分だと思いますが、観客にどう伝えていくのでしょうか?
それは鋼太郎さんが考えるところだと思いますが、無理に伝わらなくてもいいのではないでしょうか。すべてを伝える必要もないと思いますし、観客もこういう作品を理解したいのであれば多少の勉強はしておいも良いと思います。でもただかっこいい俳優を観に来たい、ということなら勉強してこなくてもいいと思うので、それは観客のチョイスだと思います。
『アテネのタイモン』も「とても難しい作品をやるなぁ」と思っていましたが、鋼太郎さんはエンターテイメントに昇華させていたので、今回も勝手に「鋼太郎さんについていけば大丈夫だ」と思っていますし、一番期待しているところです。
鋼太郎さんが難しい作品に挑んで、それに「一緒にやろう」と声をかけてもらって、どう観客に届けるのかというチャレンジができるのは、とても楽しいことです。

―ご自身のキャリアを俯瞰して、このタイミングの出演で自身の変化への期待や課題は?
あまり自分の中で変化を求めてやってきたタイプではないので、期待についてはわからないのですが、単純に言うと10年以上、いわゆる古典作品から離れていて、演劇の筋肉みたいなものが衰えているのではないかと思っていました。鋼太郎さんや藤原竜也たちがやる作品を観に行くと、皆が演劇的ないろいろ筋肉を鍛えているのに、自分だけあの時から立ち止まっているのではないか、置いてきぼりにされて、もしかしたら退化していっているのではないかという不安がありました。やっとそこに戻れるので、急ピッチで筋トレをしなきゃいけない。でも皆との溝や距離を改めて測れるいい機会だなと思っています。

―その筋肉が必要だという考えが形成されたのは?
それは間違いなく蜷川さんと鋼太郎さんのおかげだと思います。やはり鋼太郎さんは日本の中で優れた俳優の一人だと思いますし、その芝居を見ていると、抽象的な言い方になりますが“エネルギーがほとばしっている俳優”だと思っています。それに憧れて、それを手に入れたいと思いながら生きてきました。そこにたどり着くことはすごく大変なことで、それができる人のそばで、その人に教えを乞えることは嬉しいことです。

「ジョン王」小栗旬①20190918・750

―過去のシェイクスピア・シリーズで大変だったと思い出されるのは?
毎回大変でした。(笑)ずっと蜷川さんに怒られていましたから。とにかく足りない人間が主演に立っているという状態でずっとやっていたので、それを足りているふうに見せる作業をずっとやりながら生きてきた。今となってみると、作品への読み解きの足りなさを痛感します。理解していないのにやっていたことが山ほどあった。20代前半だったので、人生経験でも理解できないことがいっぱいありました。
今、この年になっても理解できないことがありますが、それでもあの頃よりは噛み砕けることがあり、そのあたりの緩急は、あの頃よりできるようになっているのではないかと思います。
さっき鋼太郎さんを“エネルギーがほとばしっている”といいましたが、ちょっと違うかもしれない。言葉のパワーが強いので、その言葉を持続させて聴かせなきゃいけない。僕らの世代でそれができるのは藤原竜也しかいないと僕は思っています。そして「自分が次にできるようになっているかな」と考えています。

―蜷川さんに当時言われたことで、今なら分かることは?
「楽なところにいきすぎるなよ、小栗」って蜷川さんに言われていた時期があります。今はそれがよくわかります。
それが楽な仕事だと思ってやっていた訳じゃないけど、ある答えが明確に提示されていて、皆でその答えにたどり着くためだけに走ることばかりをやっていました。「なぜこうなっていくのか?」という経過をたどらず、他の選択肢を自分の中で生み出すことをせずに動き出すと、精神的に考えることが安易になっていく。それを経験してきたので“ひとつではない答え”をみんなで探すことはしんどいけれど、やらなきゃいけないことだと改めて思いました。

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彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』
 (新型コロナウイルス感染症の感染拡大の収束が見通せない現状を鑑み、6月8日(月)に開幕を予定していた彩の国シェイクスピア・シリーズ第36弾『ジョン王』の全公演の中止が決定した。5/7)
キャスト
小栗旬 横田栄司
中村京蔵 玉置玲央 白石隼也 植本純米
間宮啓行 廣田高志  塚本幸男  飯田邦博  二反田雅澄 菊田大輔 水口てつ 鈴木彰紀*  竪山隼太*  堀 源起*  阿部丈二 山本直寛 續木淳平*  大西達之介 坂口舜 佐田 照/心瑛(Wキャスト)
吉田鋼太郎
*=さいたまネクスト・シアター

スタッフ
作 :W.シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出:吉田鋼太郎 (彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)

<埼玉公演>
期間:2020年6月8日(月)~6月28日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
制作:(公財)埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ
企画:彩の国さいたま芸術劇場シェイクスピア企画委員会
お問い合わせ:彩の国さいたま芸術劇場
TEL:0570-064-939(休館日を除く10:00-19:00)

公演詳細
https://www.saf.or.jp
https://horipro-stage.jp/stage/kingjohn2019/
作品公式Twitter https://twitter.com/Shakespeare_sss

<名古屋公演>
期間:2020年7月3日(金)~7月6日(月)
会場:御園座
主催:御園座
お問い合わせ:御園座
TEL:052-222-8222(10:00~18:00)

<大阪公演>
期間:2020年7月10日(金)~7月20日(月)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場
お問い合わせ:梅田芸術劇場
TEL:06-6377-3888(10:00~18:00)