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濱田めぐみ インタビュー ミュージカル『オリバー!』オリバーくんとオリバーくんの周りの大人たちの冒険物語

本作は、英国の文豪、チャールズ・ディケンズの「オリバー・ツイスト」を原作に生まれ、トニー賞、オリヴィエ賞を受賞。映画版はアカデミー賞最優秀作品賞を獲得した折り紙付きの名作ミュージカルだ。

今回の公演では、市村正親、武田真治(Wキャスト)、濱田めぐみ、ソニン(Wキャスト)をはじめとする豪華キャストの他、厳しいオーディション選ばれた才能あふれる54名の子どもたちが出演することでも注目を集めている。

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Astageは、子供たちを見守るナンシー役で出演するミュージカル界の歌姫、濱田めぐみさんにインタビュー。
お稽古を通して発見した本作の魅力について、たっぷり教えてもらった。

――今(取材は9月半ば)お稽古はどんな段階ですか?
昨日、ちょうどお稽古場での通し稽古が最終日でした。これからはそこでチェックや手直しをしたところを確認して、数日後には劇場入りします。

――普通よりも早いペースですね?
通常は稽古場でオーケストラとも合わせるのですが、キャメロン・マッキントッシュの作品は、劇場入りしてから合わせます。衣装を着けてフルメイクで最初からオーケストラと合わせて通し稽古をやるので、早めに劇場入りします。

――ぜいたくなお稽古ですね。
おかげで舞台にも衣装やメイクにも慣れることができます。

――濱田さんが演じるナンシー役は、孤児の子供たちのスリ集団出身で、オリバーたちスリの子供たちを気にかけている女性だそうですね。お稽古前とお稽古を始めてから、ナンシーについて考えが変わったところはありますか?
台本ではナンシーの登場シーンが飛び飛びなのです。『オリバー!』という作品については、映画で見た程度で深くは知らなかったので、その飛び飛びの間が繋がりづらくて、稽古前はナンシー自身の物語を自分で想像して作っていました。
その後、キャメロンのチームから演出陣がやって来て演出がついたときに「このセリフの言葉の意味は、思っていたのと真逆の気持ちだった」ということがあり、演出によってどんどん肉付けされて太くなり、飛び飛びだった物語が繋がっていきました。
そこで分かったのが、この物語の当時のイギリスの状況や、彼女が生まれ育った環境、彼女が何をして、何を思って生きてきたのかというベースについて、私は知識や感覚が抜けていたということです。

――19世紀初めのロンドンの庶民の生活は、とても厳しかったのでしょうね。
私が思っていたよりも、ナンシーはもっとずっと苦労していたし、繊細でした。その繊細さを隠すために、逆に強い言葉を使ったりする。「その言葉を言いながら心では泣いていたのだ」という細かい演出をもらった時に、ナンシー像が深まりました。そんなに単純な女性じゃなかったなと思いました。

――そこを分かって頂くことで、お客様に共感して頂けると思うと、公演で伝えるのは難しそうですね。
なかなか難しいですね。100やって20~30汲み取って頂ければ…で、あとは役や俳優からにじみ出るものを感じて頂ければ…。
ナンシーは言葉を使うことが多いのですが、相手役のビルは居方や雰囲気で醸し出すもので勝負する役なので、さらに大変です。
その時代で彼らがどう生きてきたかを、俳優がしっかりキャッチしていないと、物語全体の雰囲気やニュアンスがぶれて、わからなくなってしまう。そこが大事だと感じました。

――ナンシーの歌についても、教えて頂けますか?
歌い方やテンポは世界共通である程度決まっていて、今回も歌唱指導の方が来日されています。キーは人にもよりますが、オーディションでその曲が歌える人しか選ばれていません。
ナンシーの場合は、歌が芝居と連動しているので、稽古は毎回、演出と歌唱指導と一緒で、歌詞についての検証をしっかりやりました。例えば「英語の歌詞では、ナンシーがこの単語に反応して立ち上がるのだけれど、日本語ではなんと言っているのか」「この言葉で立ってほしいけれど、そのタイミングで違和感はないのか」というように、ひとつひとつ丁寧にやりました。
毎回が総合的な稽古で本番同様なので、体力も使うし、テクニック的にも難しかったです。キャメロンの作品は、とても難しいです。

――何気ない動きひとつにも、深い意味があるのですね。見逃さないようにしたいですね。
さて、Wキャストのソニンさんとはプライベートでも親しいとのことですが、初めて一緒にお稽古して、いかがでしたか?
一番感じたことは、ソニンちゃんと私では役作りの方法が真逆だということ。ソニンちゃんは考える。考えて論理的に理解できないと次に進まない。言葉の意味や語順にもこだわって、自分に響かないと次に進まない。
例えば「“私は〇〇が”より“〇〇が私は”の方が良いと思いませんか?」という感じ。驚きましたね。
そうやってソニンちゃんの体の中に刻み込まれて土台が積み重なって、自分の中に揺るぎない足場ができる。足場ができていれば、何が来ても怖くない。緻密に足場を組んでいくという、彼女なりのやり方に感心しました。

――濱田さんは?
私はざっくりした感覚の人なので、与えられたことをとりあえずやってみる。とにかくよどみなく、どんどんやってみます。ソニンちゃんはその段階で「なんでやれるの⁈」とびっくりしていましたけど、私はやってみてやってみて、体に残った良いものを吸い取って、後は自然排出…という感じです。
そして演出家からの演出が入った時に、その隙間を埋めていく。演出家はそれぞれに合った演出をくれるので、それで固まっていきます。
ソニンちゃんはピラミッドのように土台がしっかりして積み重なっていく感じですが、私は核を中心に球体が大きくなるような感じがします。
ふたりで「目指す目標は同じなのに、作り方がこんなに正反対なんて」とよく話しています。

――役づくり以外での発見は?
普段からソニンちゃんはとてもクレバーで、話をしていても鋭くて、何を考え、何をやりたいと思っているのかをはっきり話すので、すごく感心します。逆に「めぐさんは?」と聞かれると「私は…別にないな」となってしまう。お稽古でも、その感じそのままです。
ただ、お稽古ではやりながら「ここはこう見えたよ」「じゃ、こうした方がいいね」と二人でやり取りしながらナンシーを作っています。

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――通し稽古をした現段階で「最初に思っていたのと違っていた」ということはありましたか?
決定的に違ったのは、「オリバーくんの冒険物語」かと思っていましたが、「オリバーくんの周りの大人たちの冒険」だったのです。
オリバーくんによって大人たちが影響を受けていろんなことに気づき・考え、いろんな方向へ進んでいくのです。
オリバーくん自身は純粋で誠実で真っ直ぐで、そのきれいな魂は変わらない。ただ、よどみのあるところに光が入っていったときに、光の周りで闇たちが「これはおかしくないか?!」と気付いたりして変わっていく物語なのです。

――初めて聞くと「子供向けのミュージカルかな」と思ってしまうかもしれないですが、けっしてそうではないのですね。
たぶん大人の出演者たちも、最初は“子供向け”なのかな?という気持ちも持ちつつでお稽古場に来たかもしれませんが、要求されることがあまりにも人間くさくて…ドラマチックで。それがその当時のリアルで、それをオブラードに包むことなく、子供たちの目の前でやります。子供向けどころか、大人向けですか?!という感じです。

――それは作品全体のイメージが変わりました。
原作者のディケンズさんが、彼の自身の環境への反発から生まれた作品だそうで「底辺に生まれたけれど、誰も人間としてなんら変わりはない」という精神を描いています。昨日、通し稽古をやりながら、自分の出ていないシーンなども見て「こんな作品だったんだ」とびっくりしましたし、しびれました。

―今回は大人のメインキャストがWキャストです。どの組み合わせかで悩む方も多いと思います。アドバイスを頂けますか?
全キャストが居る稽古場で、Wキャストが二人ずつ並んで座っていると、不思議なことに、ふたりが何かしら似ています。双子がたくさん、座っているみたいな感じで、さすがオーディションで選ばれたキャストだなと思います。
だから役としては、どのキャストで観ても『オリバー!』という作品の流れは変わらないのですが、俳優の個性や持ち味が役の中で光る部分があります。だから、そうですねぇ…、以前見たことがあるキャストがいれば、その方が今回はどのように演じるのかと注目して見比べるのも面白いかもしれないと思います。前の作品ではこうだったけど、『オリバー!』ではどうなのか…と。

――その見方はまた、楽しみが増えますね。先日の歌唱披露イベントで、楽曲がとてもすてきで、子供たちの歌声の美しさにも大感動しました。ダンスもありますか?
あります。子供たちのダンスはすごいですよ。

――子供たちが踊れるのですね?
『ビリー・エリオット』に出演している子たちばかりなので、ダブルターンなどもグルグル回ってプロ級です。「なんてすごいんだ、君たちは!」という感じです。
子供たちもガンガン踊りますが、大人たちも踊ります。今、すでにすごい迫力なので、これから衣装を着けて、ヘヤメイク、セット、照明と加わったら、どうなるのかと!

――迫力がすごそうです!そんなお子さんたちとご一緒されていかがですか?
一日中学びっぱなしです。私が勘違いしていたのは、私たち大人は知っていることについては、今が頂点でしょう。この先に未来はありますけれど。
だから子供たちは私たちが通って来た途中にいるのかと思ってしまいますが、そうではなくて、彼らの段階で完成形なのです。子供だからとこういう答えだろうと思っていると、こちらが想像もしない発想やひらめきがポンと出てくる。刺激を受けっぱなしです。

――この公演はもちろん、その先の未来も楽しみですね。
みんな、ほんとうに才能の塊です。この子たちが、これからどんどん活躍するようになるでしょうね。楽しみです。

――インタビューも終盤となりました。濱田さんご自身のこれからの夢と希望をお聞かせください。
今後も変わらずに舞台を中心にやっていきたいという思いがあります。
コロナ禍で制作側も観客も、なんとか公演を再開したいといろいろ試行錯誤を繰り返して必死だったと思います。このまま終息して落ち着くのを願い、やはりいつも通りの舞台に戻していきたいですね。今は無事に初日を開けることを願っています。
コロナ禍を経て、一番感じたのは、舞台を熱望してくださっている方がたくさんいる、待っていて下さる方もいる。それと同じくらいの思いで、舞台をやりたい我々もいる。常にあるものに対しては当然だと思って何も言わないものですが、無くなってしまって「無いとこんなに寂しいんだ」と双方が思っていて、相思相愛だと判明して、繋がりが強くなったと思います。
もっと演劇やミュージカルが発展していけたらいいなと思っています。

――最後に、観に来て下さる方、まだ迷っている方へメッセージをお願い致します。
『オリバー!』という作品を通して受け取れるギフトは、とても大きいと思います。「物語の中の大人たちが変わるのと同じくらい、観に来て下さった方々の心も変わるぞ」という実感があります。『オリバー!』によって、お客様が良い影響を受けるといいなと思います。
そして、やっぱり、楽しんで頂きたいと思います。
劇場では我々は徹底的に感染対策をしていますので、そこは信じて頂いて大丈夫です。お時間と気持ちの余裕がおありになる方は、劇場においでいただければ、本当に素敵なものをご覧頂けると思います。
子どもたちも大人キャストも一同、お待ちしております!

ミュージカル『オリバー!』
★会場:東急シアターオーブ
★日程:
プレビュー公演:2021年9月30日(木)~10月6日(水)
本公演:2021年10月7日(木)~11月7日(日)
★料金(全席指定・税込)
S席14,000円/A席10,000円/B席4,500円
プレビュー:S席12,500円/9,000円/B席4,000円

[大阪公演]
★会場:梅田芸術劇場メインホール
★日程:2021年12月4日(土)~12月14日(火)
★料金(全席指定・税込)
S席14,000円/A席10,000円/B席4,500円

<キャスト>
フェイギン:市村正親/武田真治(Wキャスト)
ナンシー:濱田めぐみ/ソニン(Wキャスト)
ビル・サイクス:spi/原慎一郎(Wキャスト)

オリバー・ツイスト:エバンズ隼仁/越永健太郎/小林佑玖/高畑遼大(クワトロキャスト)
アートフル・ドジャー:大矢 臣/川口 調/酒井禅功/佐野航太郎(クワトロキャスト)

ミスター・バンブル:コング桑田/小浦一優(芋洗坂係長)(Wキャスト)
ミセス・コー二―:浦嶋りんこ/鈴木ほのか(Wキャスト)
ミスター・サワベリー/ミスター・グリムウィグ:鈴木壮麻/KENTARO(Wキャスト)
ミセス・サワベリー/ミセス・ベドウィン:北村岳子/伊東えり(Wキャスト)
ミスター・ブラウンロウ:小野寺昭/目黒祐樹(Wキャスト)

ベット:植村理乃
ノア・クレイポール:斎藤准一郎
シャーロット:北川理恵
サリー婆さん:河合篤子
ローズセラー:青山郁代
ミルクメイド:元榮菜摘
ストロベリーセラー:飯田恵理香
ナイフグラインダ―:森山大輔

荒井小夜子、家塚敦子、石川剛、大久保徹哉、小原和彦、金子桃子、菊地まさはる、小林遼介、今野晶乃、白山博基、鈴木満梨奈、高瀬育海、髙田実那、照井裕隆、宮野怜雄奈、吉田玲菜、蘆川晶祥(五十音順)

フェイギンのギャング団(Wキャスト):
【子役キャストグループ:ハックニー】
チャーリー・ベイツ:中村海琉
ディッパー:河井慈杏
ハンドウォーカー:山口俊乃介
スネイク:市村優汰
キング:入内島悠平
キャプテン:髙橋唯人
スティッチム:瀧澤拓未
スパイダー:田中琉己
キッパー:田中誠人
ニッパー:髙橋維束
【子役キャストグループ:ペッカム】
チャーリー・ベイツ:日暮誠志朗
ディッパー:福田学人
ハンドウォーカー:山下光琉
スネイク:河内奏人
キング:花井 凛
キャプテン:本田伊織
スティッチム:杉本大樹
スパイダー:高田夏都
キッパー:平澤朔太朗
ニッパー:渡邉隼人

救貧院の子どもたち(Wキャスト/五十音順):
【子役キャストグループ:メイフェア】
小川竜明 西口青翔 井上綾子 木村律花 久住星空 佐藤 凌 土岐田 育 仲西 奏 廣瀬健也 松浦歩夢 森田みなも 涌澤昊生 涌澤摩央
【子役キャストグループ:ベルグレヴィア】
磯田虎太郎 市川裕貴 石倉 雫 木村 心 黒川明美 河本雪華 鐘 美由希 高澤悠斗 土屋飛鳥 寺﨑柚空 平賀 晴 弘山真菜 矢田陽輝

ほか

<スタッフ>
★原作:チャールズ・ディケンズ
★脚本・作詞・作曲:ライオネル・バート

★オフィシャルサイト:https://www.oliver-jp.com/
★公式Twitter: @OliverMusicalJP https://twitter.com/OliverMusicalJP
★公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCH2fF5Bmcu54JLnunmkD_Yw