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ミュージカル『スリル・ ミー』松下洸平×柿澤勇人 インタビュー  松下「内に燃える沸々としたものは増えると思います」 柿澤「新しいことをやろうとは思ってもいない」けれど「絶対に違うものになる」

2011年の初演から2014年まで再演を重ねてきた人気のミュージカル『スリル・ ミー』が、4年ぶりに12月14日(金)から上演となる。
“私”と“彼”、2人の俳優と一台のピアノだけで繰り広げる心理劇は、圧倒的な緊迫感とエネルギーで劇場を満たし、観客はその世界でふたりに見入る100分間。他に類をみない作品として、絶大なる支持を得てきた。

今回の出演者は、伝説の初演から4回出演し、そのうち3回でペアを組んだ松下洸平×柿澤勇人と、本作初出演となる成河×福士誠治

Astageは、成河×福士誠治ペアに続いて、松下洸平×柿澤勇人ペアにもインタビューを行った。
ミュージカル『スリル・ ミー』初演から出演し、ファンにとっては不動のゴールデンペアの松下洸平×柿澤勇人の二人に、本作への今の思いを聞き、ふたりの絆を探ってみた。

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松下洸平  柿澤勇人

―今日、顔合わせがあったそうですね。
松下:稽古場にセットが完全に組み上っていて、スタッフのみなさんも含めて「あ~『スリル・ミー』のチームだな」と懐かしい気がしました。そこに成河さんと福士さんがいらして、なんだか不思議な気がして、でも気持ちが引き締まりました。顔合わせの合間に、僕等ふたりで舞台に上がってみたよね。「ここに新聞が隠れていたんだ」とか、いろいろ思い出しました。勇人は思わず柱を蹴ってたね。(笑)
柿澤:いやいや、そういうシーンがあったからね。
松下:そこを確認するんだなって。(笑)
柿澤:あの場面はかなり難しい。一番気をつかうシーンだよ。(笑)
松下:嘘でしょ~?!(笑) さっき、顔合わせの時に栗山さんから「(すでに稽古が始まっている)成河と福士のペアが本当に面白くて、カッキ―と洸平のペアは人間的な成長がどれほどあるかを見る」とプレッシャーをかけられました。そこって、僕たちは(演出の)栗山さんに対して芝居で返していくことしかできないから「さぼってなかったな、お前たち」って思ってもらえるものを作っていけたらいいんですが。
柿澤:俺はさぼってばっかりだから…。人間的に何も成長してない…。むしろ堕落していってる…。
松下:“彼”だからそれでもいいんだよね(笑)。ふたりで長くやってきて、「ここぞ」という時の勇人の決めてくる感じはよく知っているので、何の心配もしていません。

―成河さんは、2チームのみの公演だから出演を決めたとおっしゃっていました。
松下:一番多い時で韓国ペアも合わせると4組の時もありましたね。4組あれば4組の『スリル・ミー』が出来上がる。その時も僕は勇人とのペアでしたが、当時は自分たちのことだけに集中しよう、まどわされないようにとまわりをシャットダウンしていました。今回は成河さんと福士さんペアから、いいところは盗んでいけたらいいなと思っています。成河さんの“私”を見てチョイスしていくことがあるかもしれないし、視野が広がりますね。
柿澤:僕は2組でも4組でもあまり意識していないです。この作品はペアによって全然色も違うし見え方も違う。他のチームの稽古をあまり見ることはなかったです。どのペアにも絶対良いところがあり個性があるのが『スリル・ミー』であり、『スリル・ミー』の良いところだと思います。僕と洸平との『スリル・ミー』は、その空気感はある程度出来上がっていると思うので、あとはどれだけ楽しむかです。
僕は成河さん&福士さんペアを本番で観るか観ないか…と思っていたけれど、今は他のチームを見ても自分たちがぶれることもないでしょうし、成河さん&福士さんペアには良いところはたくさんあるでしょうから、面白いなと思ったとことは存分にもらっていこうかなぁ?(笑)

―4年ぶりの上演で、皆さんがとてもたのしみに期待されていますよ。
松下:これだけ年月が経ったので、僕たちも経験を積んで芝居の考え方も変わり、表現方法も初演のときと比べ多くなっているとは思います。でも僕たちのペアのみなさんがおっしゃってくださる“面白さ”を表現するには、どこかで初演の時から変わらずにいることも大切なのかなと思っています。人間的な成長も含めて内に燃える沸々としたものは増えると思いますが、それを外に出しすぎるのも良くないような気がするので、逆によりシンプルにできればいいなと思います。「俺達、あれから4年でこれだけ成長したぜ」ってことをやってしまうと、失敗してしまう気がします。
柿澤:う~ん!
松下:外人みたいな反応だ!(笑)
柿澤:最近の公演は銀河劇場で、この作品にとってはちょっと大きな劇場で、必然的にセットも大き目でしたが、今回はコンパクトになっています。お客様にとっても「初演に戻す」みたいな感覚になると思います。それは『スリル・ミー』という作品にとって、とても良いことだと思います。もちろん初演から観てくださっている方もいらして、これだけ再演できるということは、この作品がお客様に支持され育てて頂いたからだと思っていますが、洸平が言ったように新しいことをやろうとは思ってもいないです。
一方で、何年かぶりに台本を読んでみると「俺、こういうふうに言ってたな」とか「あ、今だったらちょっと違うな」「それは無いな」とか、新鮮に感じたので、洸平と組んだ前回とは絶対に違うものになるとは思います。それを楽しむだけです。あとは、本作を楽しみに待っていて下さった方もですが、本作を知らない方々にも是非、観て頂きたいと思っています。ただ前売りのチケットは完売になっているのでね…。

―当日券が出るとのことなので…
柿澤:それは有難い!!

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―おふたりは普段からよくお会いになるそうですが、再演がきまって本作についてお話されたことはありますか?
柿澤:『スリル・ミー』の話はしないよね?
松下:ほとんどしたことないです!(笑)
柿澤:普段からそうだよね。芝居の話は5分もしないで、ホントにくだらない話ばかりしています。
松下:ホントにそう!だけど先日、思い出しの歌稽古が2日間あって、2日目は最初から最後まで本読みも兼ねてサクッと通してみようということなって。稽古なのでフルパワーでやるものではなかったのですが、何年かぶりに聞いた勇人の“彼”の台詞の言い回しがよりナチュラルになっていて「ナイス!」と思いました。
シアターウエストはある程度小さい空間なので、よりナチュラルな演技をしたいなと思っていたところだったので、勇人のそのアプローチの仕方はすごく頼もしくて、何か所も「そうそう、本番もそんな感じでできたらいいな」と思いました。

―柿澤さんは歌稽古の2日間、いかがでしたか?
柿澤:僕はほぼ忘れていました。
松下:そんなこと、ないでしょ?
柿澤:いや、まぁ、だんだん思い出してくるんでしょうけれど。そういう意味ではリセットされているのかなと思います。最後にやったときには、僕は(尾上)松也と、洸平は(小西)遼生くんとで、それまでにやってきたのとは違っていたからリセットされて、今は台本も新鮮に読めるので面白くなると思います。

―以前のインタビュー記事で、公演中に柿澤さんが何か失敗した時には、“彼”のキャラクターとして“私”にフォローしてもらうというのを読んだことがありました。
松下:もちろん逆もあります。僕がミスした時には彼がフォローしてくれます。これまでも何度かありましたよ。例えば、新聞紙を舞台袖に投げ込まなきゃいけないのに、上手くいかなくてステージに載ったままになって困った時、勇人がさっと足で(蹴とばして)。
柿澤:そんなこと、あったっけ?
松下:ありましたよ。
柿澤:まったく覚えてない!
松下:「うわ~、かっこつけてる~」って思った。(笑)
柿澤:役として、こうして(しゃがんで)拾ったりしたらおかしいでしょ?!(笑)
松下:ハハハ。だからね、僕らは何が起きても大丈夫!
柿澤:そうだね。
松下:もうそれに尽きる。ただその僕たちの、年を重ねた関係を栗山さんがどう思うか…ですよね。逆に「どこでそれ、習ってきたの?」なんて言われないか…。心配だけど楽しみです。

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―何度も演じておふたりの間には絶対の信頼がある。それでも、まだ心配になることがある?
松下:僕は栗山さんとお仕事する機会も多いのですが、年々、栗山さんが目指しておられるものが高くなっている印象があります。栗山さんの頭の中で成長した『スリル・ミー』を、僕たちはどれだけ受けとめて返していけるか…も一つの課題。
柿澤:昔、栗山さんから「2人の空間を覗き見しているみたいに」「2人の芝居だけに集中すればいい」と言われましたが、今回も2人のことだけを考えて、あとはピアノの朴(勝哲)ちゃんと(音楽監督の)落合(崇史)さんと息を合わせていくこと。ちょっとしたことでタイミングがずれたりするので、舞台の上の3人で集中して楽しむだけだと思います。
松下:この作品は音楽的にもとてもシビアです。この小節の間にセリフを言って、次の小節の頭で歌に入る…などと細かく決まっているので、そこを確認しながら稽古をします。今、僕は栗山さんの演出で『母と暮せば』に出演していますが、その稽古の時にも「2人のことだけを考えて」と同じことを言われました。「2人の演技に集中していれば、お客さんは入ってきてくれるから」と。『スリル・ミー』も結局は僕と勇人との会話しかない。ひとり芝居なら、多少台詞を間違えても、自分のペースで戻していけるし、3人なら他の2人の会話の時に傍観者になって息を整えることもできる。でも2人というのは、演劇的には難しい。2人の会話にちょっとでも間が空いたりすると、お客さんはその間の意味を探してしまう。なるべく余計な情報を入れないためにも、僕と勇人と朴さんはものすごく集中しないとお客様が入り込める状況やドキドキしながら観る状況はつくれない。だから『スリル・ミー』は本当に大変だと思います。何年やってもそれは変わらないです。

―おふたりの絆は感じていましたが、また深まりますね。
柿澤:これ以上深まらなくていいんじゃない(笑)。もう恋人みたいになっちゃうよ。
松下:でも、その関係性が初演からず~っと続いているんですよ。それがいいのかなと思います。

―ほとんど恋人ですね。(笑)
松下:いやいや、絶対に嫌ですよ!
柿澤:“チュウ”までの恋人です。キスしますから。
松下:作品の中でね!!(笑)
柿澤:それ以上は大変なことになっちゃう!(笑)

―なるほど!(笑)
松下:演技という面でも、それ以外の面でも精神的な支えにはなっていますね。
こないだ『シティ・オブ・エンジェルズ』を観に行きましたが、勇人は非常に軽快でした。ミュージカルの舞台で、その程よく力の抜けた感じとフットワークの軽さで感じられる彼は貴重な存在なんだろうなと思います。勇人の公演を観に行くと「うわぁ~、またすごいことやってる」と思いますし、「僕も頑張らなきゃいけないな」と思います。
柿澤:僕は最近だと洸平の『母と暮せば』がすごいと思いました。いろんな人に「洸平がヤバイから観に行って」と言っています。何がすごいか…とにかくすごく面白かったですし「僕があの役をやれるか?」と考えたら絶対にできない。だから尊敬できる。もちろん台詞の量も多いけれど、そういうことじゃなくて、洸平が身にまとっている舞台での“居方(いかた)”みたいなものが僕にはない、僕にはできないことです。
芝居の話はあまりしませんが、たまたま同じ作品を観ていた時に「あの人、良かったよね」とかの感想がすごく似ていて「あ、わかる、わかる!」みたいな話になる。
松下:芝居を観ての感想も似ているし、やりたい芝居のスタイルもすごく似ている。でも勇人がさっき言ったのと同じで、彼には僕には絶対できないものがあって…。柿澤勇人ってすごく不思議な人ですよ。こう見えて自信家ではないですし、実は誰よりも日々悩み思考しながら作品をとらえていると思います。葛藤もしている。同世代の俳優がたくさんいる中、俳優にはある種屈折した部分というのも必要だと思うけれど、それをちゃんともっているのがたぶん勇人だと思うし、そこがすごく面白い。
柿澤:ありがとうございます。
松下:だから僕等の関係性を紐解いていくとすると、ふたりはきっと種類の違う俳優。でも目指している部分が一緒で。 “私”と“彼”は性格も真逆。それがひっくり返る面白さがあるし、“私”と“彼”の差が大きいほどひっくり返った衝撃も大きいし、お客様の驚きも大きい。だからこそ、勇人とやる『スリル・ミー』は面白いですね。
柿澤:早く立ち稽古をやりたいな。もう、明日からやるんですが。
松下:そうだ、明日からやるんだ。すごく楽しみです!

ミュージカル『スリル・ ミー』
原作・音楽・脚本 :STEPHEN DOLGINOFF
翻訳・訳詞:松田直行
演出 栗山民也

キャスト
成河
福士誠治

松下洸平
柿澤勇人

ピアノ伴奏 朴 勝哲

東京公演
2018年12月14日~2019年1月14日  東京芸術劇場シアターウエスト
チケット料金:全席指定(税込) 8,500円

大阪公演
2019年1月19日〜20日 大阪・サンケイホールブリーゼ
チケット料金:全席指定(税込) 8,500円
ブリーゼシート5,000円 全席指定(税込)

名古屋公演
2019年1月25日 名古屋市芸術創造センター
チケット料金:全席指定 9,500円(税込)
U-25チケット5,000円(税込)

公式HP http://hpot.jp/stage/thrillme2018