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篠原ゆき子が明かす壮絶な演技・・・「役と自身の境目が分からなくなるほどリンクした」 映画『女たち』インタビュー!

『女たち』篠原ゆき子さん-(26)

プロデューサー・奥山和由率いるチーム・オクヤマの25周年記念となる最新作映画『女たち』が、6月1日より公開する。本作は、自然豊かな小さな田舎町を舞台に、それぞれに事情を抱えた女たちの生き様を描いた物語。コロナ禍での撮影、またコロナ感染拡大のため公開延期も余儀なくされた作品だが、「それも宿命」と話す、主演の篠原ゆき子。

母の介護をしながら地域の学童保育所で働く美咲役を見事に演じきった彼女に話を聞くことができた。

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― 篠原さんは本作の企画の段階から参加されていたとお聞きしました。

奥山プロデューサーから私を主演にした作品を作りたいとお声かけをいただきました。その時は冗談か社交辞令かなと思っていたのですが、その後「監督はどなたにしようか」と具体的なお話になって。奥山さんと共通の知り合いでもあり、ちょうど私を主演にした本を書いているとおっしゃっていた内田監督にお願いすることで話がスタートしました。参加したという感覚よりも、おこがましいですが一緒に作品を作らせていただいたという感じがします。

― 脚本についても、篠原さんのご意見が反映されたそうですね。

監督はとてもフランクな方なんです。撮影を担当された斎藤文さんは監督の奥様で、私の友人でもあるので、3人でよくファミレスなどで会って、「女ってこうだよね」という雑談をしたり、自分の周りで起こった出来事などについて話をしていました。そのことを監督がメモをとって脚本に反映してくださいました。

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― 男性の監督が撮られたとは思えないほど、女性の心の奥、琴線に触れるような描き方をされています。

そうですね。内田監督はとても繊細な方で、美咲の繊細さや不器用さを感じさせるキャラクター造形も、ご自身を反映させた部分があるとおっしゃっていました。

― 美咲がリアルに生きている感じがして、篠原さんとリンクしてしまい、本作を観ていると演じている篠原さんが心配になってしまいます。

本当に大丈夫ではなかったです(笑)。撮影は群馬県の富岡市で行われたのですが、コロナ禍の中の撮影でもあったので、外食もせず。他の人と一緒に食事することもあまりなく、ずっとホテルと現場の行き来だけだったこともあって、オンオフの切り替えも上手く出来ず、撮影の中盤あたりから役なのか自分なのか、その境がなくなっていました。

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― 美咲の心情の変化、溜まっていた感情が爆発するシーンに共感してしまう女性が多いのではないかと。そんな美咲を演じるうえで心がけていたことはありますか?

脚本制作からずっと美咲と向き合ってきたので、いつの間にか美咲のエッセンスは自分の中に入ってました。「こういう演技をしよう」と考えず、作戦を練らずに、現場の環境に身をあずけ共演者に対して素直に反応しようと思いました。自分が主演で素晴らしい役者の皆さんに出演していただいているというプレッシャーも(美咲という)役に反映されていた気がします。そして、コロナ禍の中という閉塞感も影響していたと思います。高畑さん演じる母・美津子と対峙するシーンは撮影の終盤だったのですが、あの時は本当にプレッシャーに押しつぶされそうでした。高畑さんをお待ちしているとき、「もう少しで高畑さんがいらっしゃる」と思うと緊張で押しつぶされそうで…。どうしたらいいんだろうという感情は、美咲が美津子に対するものとリンクしていたような気がします。

― そんな高畑さんと共演されていかがでしたか?

高畑さんはとてもフレンドリーで優しい方です。普段はとても温かい人柄の方ですが、芝居に対するパワーが凄いんです。本読みの段階で鳥肌が立って、これは本当にちゃんとやらないと同じ次元で芝居ができないなと思いました。本当に凄かったです。最後のシーンで美津子がハチミツを食べて「ありがとう」というシーンは、エチュード的に「最後は決めずにその時の流れで撮ろう」と監督が仰ってくださいました。とても大事なシーンだったので私が凄く緊張してしまって、感情が固まってしまい動けなくなってしまったんです。撮影も止まってしまい、どうしよう、どうしよう・・・と焦ってしまいました。今まではそういう時でもプロとして共演者の方に頼ったりしてはいけないと思っていて、一人でやり過ごしてきたのですが、今回は高畑さんに「どうしたらいいでしょうか?」と助けを求めたら、凄くステキな笑顔で言葉をかけてくださったんです。そのおかげで私も一気に心がほぐれて感情が動くようになりました。美咲も一人でなんとかしようとするタイプの女性だったのですが、最後にはその感情を爆発させる。そこでマリアムや凛が救ってくれて、あらためて母と向き合うことができる。人に助けを求めるということが美咲も私も苦手だった。それができるようになって、撮影も無事に終わり作品が完成したということが、私にとってもドキュメンタリーのようでした。

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― 不幸のデパートのような人生を送っていた美咲ですが、美咲の周りの女性たちにもそれぞれの思いがあることが描かれています。特に親友だった香織演じる倉科カナさんの存在感が大きいですが、共演されていかがでしたか?

最初は、脚本のなかの香織と倉科さんが頭の中では結びつかなかったんです。私が抱いていた倉科さんのイメージは人が集まってくるようなとても明るい人というイメージでした。私の中で想像していた香織はもっと孤独で、友達がいない美咲が唯一頼ることができる人という感じだったのですが、倉科さんにお会いしたら、凄くはかない部分が見えたり、にこやかに明るくしている向こう側を感じたんです。それは、香織として顔合わせをしたからかもしれませんが、とても驚きました。雨のシーンでは、最初星空の下で撮る予定だったのですが、豪雨の中で撮ることになり、結果的にはとてもいいシーンになって奇跡を感じました。

― そんなお二人と、大自然のコントラストが美しくもあり、悲しくも見えて印象的です。

凄くキレイな場所なのですが・・・、ヒルが凄くたくさんいて(笑)。ヒルって恐ろしいことに木から落ちてくるし、地面から足に這い上がってくるんです。ヒルは痛みをあまり感じさせないで噛むので気が付くとスタッフの方がみんな血だらけになっていて。すごくキレイな風景を撮っているのに、何の映画を撮ってるの!?みたいな状態になっていたんですよ(笑)。

あと、この広い場所(テーブルが設置されている)はパラグライダーの着地場所なんです。そこをお借りして撮影したのですが、たまに(パラグライダーの方が)降りてくるんです(笑)。美咲の過去を告白する深刻なシーンで、倉科さんと二人で集中している目の前にシュタタタターッ!とパラグライダーの方が着地してくることもあったんです。

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― そんなことがあったのですね(笑)。美咲が彼氏のところに行って隠れるシーンで思わず鍋のフタで隠れようとするシーンはお茶目で笑ってしまいます。

あれは監督のアイデアです。最初の頃からこだわっていたようです。内田監督は『ふゆの獣』という作品にも表れていますが、恋愛での人々の滑稽さを描くことを得意とされていて、そこが私も大好きなんです。だからこそ、物語がリアルに浮き上がってくるのかもしれません。

― 撮影もコロナ禍で行われ、コロナ禍の中で上映されることについてどのように考えますか?

撮影当時は、きっと公開するころにはコロナ禍は過去のものになって「コロナ禍の時のもの」として観るのかと思っていたのですが、まだまだ収束しない現状です。逆にあの頃よりも生活に困窮されている方や、それぞれ個人の苦しみが押し寄せている感じがします。そんな皆さんの力になるとまではいかなくても、寄り添える作品になれれば嬉しいなと思います。

― 美咲も次に進む決心をしていきます。この映画を観た方にもそんなきっかけになるシーンがあるのではないでしょうか?

「辛い」ということさえ認められない人というか、「辛い」と言えない人がこの映画を観て、「そうだ、私は辛いんだ」と気づき、それが前に進むきっかけになったりしたら嬉しいです。
最初はコロナ禍での出来事という作品の予定ではなかったのですが、そうなった宿命があったのだと考えます。

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― この作品に参加されて、篠原さんご自身が得たものや感じたことはありますか?

自分の中にも人に助けを求めるという選択肢があるという発見がありました。また、そのときに助けてくれる人もいるんだということが経験になりました。
実は、私の叔母が若い時に逝ってしまいまして・・・。最初に内田監督とどういう作品にするかと話したとき、その叔母の人生を肯定して反映したいと思ったのです。これまでいつも悲しい思いで叔母のお墓参りをしていていたのですが、それは違うのではないかなと思って。先日、叔母が夢に出てきて、なぜか沖縄でめちゃくちゃ楽しそうに暮らしていたんです。亡くなってしまった・・・と思うと悲しいことだけど、彼女の人生のなかにはとても幸せな時間もあったはずだし、彼女らしく生き抜いたんだなと思いました。

― それでは最後に、これから本作をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

私自身も含め、なかなか自分が辛いと言えなかったり、泣いたり怒ったりできない状況にいる方がいらっしゃると思いますが、この映画の中の女たちは最後の最後に爆発的な感情を出して、全てを昇華させています。それをご覧になって何か少しでも「生きているな、この人たち」「私も生きている」と思っていただけたら嬉しいです。

【篠原ゆき子・プロフィール】
神奈川県出身。2005 年、映画『中学生日記』(山下敦弘監督)で女優デビュー。2011年、劇団ポッドールの舞台「おしまいのとき」で主役に抜擢され、その演技が高く評価された。2013 年、『共喰い』(青山真治監督)では、第28回高崎映画祭 最優秀新進女優賞を受賞。
主な出演作に、映画『深夜食堂/続-深夜食堂』(松岡錠司監督)、『ピンクとグレー』(行定勲監督)、『楽園』(瀬々敬久監督)、『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』(中野量太監督)『罪の声』(土井裕泰監督)、『ミセス.ノイズィ』(主演・天野千尋監督)など。
ドラマでは、TBS『リバース』、『コウノドリ』、フジテレビ『グッドドクター』テレビ
朝日『相棒season19』などがある。
また、リブート版ハリウッド映画『モータルコンバット』の公開(6月18日(金))が控えている。

撮影:ナカムラヨシノーブ

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映画『女たち』
【ストーリー】
主人公の美咲は、母の介護をしながら地域の学童保育所で働いている。東京の大学を卒業したものの、就職氷河期世代で希望する仕事に就くことができず、恋愛も結婚も、なにもかもがうまくいかず、40歳を目前にした独身女性である。娘を否定しつづける毒母、そんな母に反発しながらも自分を認めてもらいたいと心の奥底で願う娘。そこに「介護」という現実がのしかかってくる。お互いに逃げ出したくても逃げ出せない。あるとき、美咲が唯一心のよりどころとしている親友・香織が突然命を絶ち、いなくなってしまう。美咲にとって、養蜂家として自立する香織は憧れだった。美咲の心もポキリと折れ、崩壊へと向かっていく。

【出演】篠原ゆき子、倉科カナ、高畑淳子、サヘル・ローズ、筒井茄奈子、窪塚俊介
【製作】奥山和由
【プロデューサー】木谷真規
【エグゼクティブ・プロデューサー】中村直史、ジャッキー・ウー、橋本浩
【監督・脚本】内田伸輝
【脚本協力・構成】奥山和由
【脚本協力】斎藤文、木谷真規
【主題歌】荒木一郎 カバーバージョン:Little Black Dress(TOKYO RECORDS INC)
【企画】チームオクヤマ
【製作】吉本興業、チームオクヤマ、グローバルジャパン、キョウデングループ
【制作プロダクション】エクセリング
【協力】ニッポン放送、京都芸術大学、シックスセンスラボ
【制作協力】KATSU-do
【配給】シネメディア、チームオクヤマ
Ⓒ「女たち」製作委員会   2021/日本/カラー/97分
公式サイト: https://onnatachi.official-movie.com/
公式Twitter:@onnatachi2021

6月1日(火)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開!

◆予告編