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第89回アカデミー賞 作品賞・脚色賞・助演男優賞受賞!『ムーンライト』日本最速試写会 トークイベント実施レポート

 彗星の如く現れた、映画史に刻まれる美しい愛の物語
3世代の3つの瞳が一つに重なり、物語る!!
今まで観たことのない新しいアプローチで描かれた
『ムーンライト』は、今観るべき“最強の映画”

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【アカデミー賞授賞式・前夜祭 日本最速試写会 トークイベント実施レポート】

  • 日時:2月26日(日)
  • 場所:ユーロライブ(渋谷区円山町1−5 KINOHAUS 2F)
  • イベント登壇者:松崎健夫さん(映画評論家)/中井圭さん(映画解説者)

アカデミー賞授賞式前夜ということで、“アカデミー賞最有力作品”といわれる本作をイチ早く観ようと駆けつけた映画ファンで会場は満席となり、本編を観終わり興奮冷めぬまま、映画評論家の松崎健夫さんと映画解説者の中井圭さんのトークイベントが始まりました。

まず、本作について、松崎さんは「昨今世界の映画祭で評価されたものを見ていると、多様性を訴えている映画が多い。アメリカはLGBTを扱った作品が多いが、それに加え、本作は黒人問題、貧困問題も扱っており、まさにアメリカで報道されている社会問題がテーマとして全て入っている最強の映画。今の時代にぴったりで、今映画にしたことに意味がある」、中井さんは「本作が象徴していることのひとつに“ステレオタイプのモノの見方はしない”ことがある。“黒人はこうであるだろう”というイメージが本作のタイトルにも象徴されるように、月明りに照らされて肌がブルーに見える、つまり“黒人は黒色であるという見方”も見方によっては変わるという、我々が持っている偏見に対する提示をしている。黒人の貧困問題やLGBTの話というのはエモーショナルで動的になりがちだが、本作は非常に静かな物語。少年期、成人期、青年期の3つの時代に分かれてる構成だが、その間に何があったのかということを本作は描いている。それを、主人公の瞳が語るというひとつの軸で貫いているところが非常に魅力的に映った」と本作へ惹かれたポイントについて話ました。

本作を手掛けたバリー・ジェンキンス監督の撮影手法について、松崎さんは「本作と監督の過去作品の共通点として、画が独特ということが挙げられる。アップの画が多く、被写界深度(ピントの合う位置)がすごく狭いので、人物にはピントが合っているが、背景はぼけている。それによって、黒人の肌の輪郭が柔らかく映し出されているし、登場人物たちが悩んでいて周りが見えていないということを視覚的に表現している」と分析。

中井さんは、「映っていないシーンで物語る。セリフ自体が少ないからこそ、何を撮ってどう繋ぐかで観客はセリフにされていない言葉を受け取ることができる。画や色をちょっとずつ変えることによって、感情の動きを表現しており、“瞳が語る悲しみ”を上手く映し出している」と本作の魅力を話しました。また、低予算で撮られており、ハリウッドではインディーズに位置する作品で、フィルムではなくデジタルで撮られているという話題になり、「3つの時代を描くことを監督はすごく意識している」と話したうえで、「1世代ごとに色の変化を意識して作っている。それぞれの時代ごとに、フィルムの撮影はできないけど、そのフィルムが持っている特性に寄った画にしたいという意向から、幼少期はフジフィルムのフィルム、成人期はアグファのフィルム、青年期はコダックのフィルムで撮ったものに近くなるようデジタルで撮影をしている。またその中で、本作の肝であるブルーがどう画面に反映するのかを考えて作っている」と世界を絶賛させた映像美の裏側を解説しました。

アカデミー賞助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリについて、「本作で一番スゴいと感じたのはマハーシャラ・アリの演技で、登場したときから彼の人生が感じられた。彼がいなくなってからも、存在を感じさせるのはスゴイこと。マハ―シャラ・アリのシーンによって、本作は自分のためだけでなく、他人のために生きる道もあるということを提示している」と評価し、ナオミ・ハリスについては、「3つの年代を描く構成において、主人公が成長していく姿を描きながら、主人公の心の中に秘めた悲しみは変わらないという軸で描かれているが、その一方で、対抗にあるのが主人公の“お母さん”という存在。お母さんの変化が、少年の成長とともに合わせ鏡になっており、その見せ方が非常に上手い。3つの世代で唯一全編に登場するのがお母さんで、それぞれの時代において、ナオミ・ハリスは全く異なる風貌をしている。ナオミ・ハリスの撮影期間は3日だったが、1世代を1日ごとに演じた。それをちゃんとやってのけたナオミ・ハリスはやっぱりスゴイ」と本作に命を吹き込んだ役者陣について大絶賛。

本作の注目すべきポイントについて「やはり“瞳”。瞳を見ていると何を訴えているのかすぐ分かる。また、映画が生まれてから100年以上経ち、表現の仕方は語り尽くされてきたと言われているのにも関わらず、このような作品が作られ、新しいアプローチで新しい表現が生まれてくる。本作は、その瞬間ではなく、終わってから少し経ってからじわっとくる作品。アメリカ映画の底力はスゴイ!」と本作がいかに観客を魅了するのかを語りました。

最後に松崎さんより、「3つの時代を一枚の画で表している。違う俳優なのに統一感があるのは同じ目をしているから。」と本作のビジュアルに関しての言及があり、中井さんより「黒人映画は日本でなかなかヒットしないという構図がある中、『ムーンライト』のような作品が当たることによって、今後他の作品も日本で公開される可能性を秘めている。そのために本作は非常に重要であるし、それを支えるのは観客である皆さんである」と、メッセージを送り、イベントを締めました。

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【イントロダクション】
自分の居場所を探し求める主人公の姿を、色彩豊かで革新的な映像美と情緒的な音楽と共に3つの時代で綴ったこの愛の物語に、世界中が瞬く間に虜になった。
なぜ『ムーンライト』が世界中を魅了しているのか―。それは、人種、年齢、セクシュアリティを越えた普遍的な感情が描かれているから。
どうにもならない日常、胸を締め付ける痛み、初恋のような切なさ、いつまでも心に残る後悔・・・思いもよらない再会により、秘めた想いを抱え生きてきたシャロンの暗闇に光がさしたとき、私たちの心は大きく揺さぶられ、深い感動と余韻に包まれ、深い感動と余韻に包まれる。エグゼクティブプロデューサーにブラッド・ピットを迎え、キャストには主人公の母親に『007』シリーズのナオミ・ハリス、少年の父親代わりになる男に人気ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」で人気を博したマハーシャラ・アリ。そしてそれぞれの時代で主人公シャロンを演じた3人の俳優は、同じ内面を感じさせる“目”を持ち、一人の人間の感情の揺れ動きを見事なまでに表現している。

【STORY】
名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で、学校ではいじめっ子たちから標的にされる日々。そんなシャロンにとって、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった。高校生になっても何も変わらない日常の中、ある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れることに・・・

監督・脚本:バリー・ジェンキンス エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
キャスト:トレバヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホーランド、ジャネール・モネイ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、
© 2016 A24 Distribution, LLC
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ/朝日新聞社
配給:ファントム・フィルム【2016/アメリカ/111分/シネマスコープ/5.1ch/R15+】原題:MOONLIGHT

4月28日(金)より、TOHOシネマズシャンテ他にて全国ロードショー