
映画『星と月は天の穴』の完成披露上映会が、11月18日、東京・テアトル新宿にて行われ、主演の綾野剛をはじめ、共演の咲耶、田中麗奈と、荒井晴彦監督が舞台挨拶に登壇した。
脚本家・荒井晴彦が長年の念願だった吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化した『星と月は天の穴』。荒井自らメガホンを取った本作は、過去の離婚経験から女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常を、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら綴る物語。主人公の矢添克二を荒井と『花腐し』(23)でもタッグを組んだ綾野剛、矢添と出会う大学生・紀子を咲耶、矢添のなじみの娼婦・千枝子を田中麗奈が演じ、さらに柄本佑、岬あかり、MINAMO、 宮下順子らが脇を固め、本作の世界観を彩る。


完成作品を観て、綾野は「目というよりは“耳”で観る映画で、読む”映画でもあります。そういう作品にはなかなか出会えない。 “珍味”なんです・・・」と感想を述べ、「試写を観たときに、撮影現場では得られなかった味わいを感じました。言葉を生業にしている矢添から出てくる言葉は美しいけれど、どこか滑稽で。彼は今の時代だと“化石男”とも言える人物です」と続けた。


原作との出会いは10代の頃で長年映像化を考えていた、と話す監督。MCから「原作のどこに惹かれたのか?」と尋ねられると、「言いづらいなぁ」と口をもごもご。すかさず綾野が「僕がまず聞きましょうか?」と監督から耳打ちで確認するも「う~ん、確かに荒井さんの思いを文体にするのは難解かもしれない」と困り顔。荒井は「セックスっていうのはラーメンに胡椒を入れるみたいなもの。だから必要なのでは?」と話すと、その言葉を汲み、綾野が「本領を発揮できない男が、あるものを見つけて本領を発揮できるようになる・・・。奮い立たされていくんです」と説明した。


この日が人生初めての舞台挨拶となった新星・咲耶は、オーディションで役を獲得。「受かったときは夢のような心地でした。事前に原作や準備稿をすべて読みこんで『この役は絶対に勝ち取る』と思っていましたが、こんなに早くに実現できるとは思いませんでした。(受かったときは)ふわふわしてしばらく現実感がありませんでした」と回顧する咲耶。監督が「君はどこにいたの?」というくらい才能を見込まれた逸材だ。


田中は、荒井の脚本作には参加済みだが監督作は初参加となる。「ずっと荒井組に入りたいと思っていました。緊張したのですが、剛くんが荒井組先輩なので付いていこうと思いました」と述懐した。

綾野は自身が演じた矢添役について「セリフに感情がすべて台本に書かれていたので、肉体的な表現でセリフを邪魔しないかを気にしていました」と振り返りつつ、「当時の映像を観たのですが、人の言葉に力がこもっているように感じて。きっとマイクの性能において、(音域の)ローを拾えずハイが強くなっているからかもしれないと思った。だからこそ、矢添の声はラジオボイスのような感じで抑揚をあまり付けない話し方にしようかなと考えました。そのほうが時代とマッチングしやすかったので」と、考慮したことを明かした。

そんな綾野を監督は、「俺よりも役について考えている役者」と言っていたそうで、監督は「俺は何も言わないので」とポロリ。「カットがかかった後、OKかどうかわからなかった」という田中。「自分の演技は大丈夫かな? できているかな?と」と不安だったことを吐露すると、綾野も「ワンシーンワンカットで撮っていくので、カメラを5分以上回しっぱなしにすることもあるんです。カットがかかって監督の顔を見ても『OK』がかからないので、『寝てるんですか?』って(笑)」と同調。監督は笑いながら「起きてるよ! たまに声が大きいときもあったよね?」と返し、会場の笑いを誘っていた。

また、監督から「千枝子がたばこをくわえてペディキュアを塗るシーンは、綾野くんの案なんですよ」と述べると、綾野は「ただ塗っているだけですが、美しくて感情の揺らぎがあった。白黒の作品なので、たばこの煙の揺らぎが感情をより伝えてくれるのではないかなと思って」と語る。


最後に監督が「面白かったらぜひ宣伝してください。そうでないと次回作が作れなくなる(笑)。もうすぐ80歳になります。山田洋次に負けたくない」とコメント。綾野は「登場人物が魅力的で、矢添以上に女性たちの魅力が詰まっています。その美しさの中でグズグズしている矢添の滑稽さが持ち味。『まあまあ・・・』と思いながら、ぜひ手のひらで転がしてやってください。この映画は珍味な作品を味わってください」とメッセージを送り、舞台挨拶を締めくくった。

『星と月は天の穴』
【STORY】 いつの時代も、男は愛をこじらせる――
小説家の矢添(綾野 剛)は、妻に逃げられて以来10年、独身のまま40代を迎えていた。離婚によって心に空いた穴を埋めるように 娼婦・千枝子(田中麗奈)と時折り軀を交え、妻に捨てられた傷を引きずりながらやり過ごす日々を送っていた。そして彼には恋愛に尻込みするもう一つの理由があった。それは、誰にも知られたくない自身の“秘密”にコンプレックスを抱えていることだ。そんな矢添は、自身が執筆する恋愛小説の主人公に自分自身を投影することで「精神的な愛の可能性」を探求していた。ところがある日、画廊で運命的に出会った大学生の瀬川紀子(咲耶)と彼女の粗相をきっかけに奇妙な情事へと至り、矢添の日常と心が揺れ始める。
綾野 剛
咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 / 柄本佑 / 宮下順子 田中麗奈
脚本・監督 荒井晴彦
原作 吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)
音楽:下田逸郎 主題歌:松井文「いちどだけ」他
製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:キリシマ一九四五
制作協力:メディアミックス・ジャパン
レイティング:R18+ ©2025「星と月は天の穴」製作委員会 上映尺:122分
コピーライト表記: ©️2025「星と月は天の穴」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/hoshitsuki_film/
12月19日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー

















