映画『アフター・ザ・クエイク』の舞台挨拶付きプレミア上映会が、9月9日、東京・テアトル新宿にて行われ、主演の岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市と、井上剛監督が登壇した。
本作は、2000年に刊行された村上春の傑作短編連作「神の子どもたちはみな踊る」を原作に、同著に収録されている4編をベースに一部時代設定を変更し、1995年から2025年の30年にわたる、喪失と回復の物語。誰もが抱く孤独をマジックリアリズムを交え、別々の時代・場所に生きる4人の物語が時空を超えて未来へ繋がってゆく…。今年4 月に放送された NHK ドラマ「地震のあとで」と物語を共有しながらも、 4 ⼈を結ぶ新たなシーンが加わり、映画版として編集。
主演の岡田、鳴海、渡辺、佐藤の他にも、橋本愛、唐⽥えりか、吹越満、⿊崎煌代、堤真⼀、⿊川想⽮、井川遥、渋川清彦、津⽥寛治、錦⼾亮など幅広い世代の実⼒派俳優陣が集結。本作のキーとなるかえるくんの声をのんが演じ、唯⼀無⼆の村上春樹ワールドへ観客を誘っていく。監督はドラマ「その街のこども」、連続テレビ小説「あまちゃん」を手がけた井上剛。脚本は『ドライブ・マイ・カー』の⼤江崇允が担当した。
1995 年、突然妻に別れを告げられた後、同僚の依頼を受け謎の“箱”を釧路へ運ぶ男・⼩村を演じた岡⽥は、冒頭の挨拶で「個人的なことなんですが、佐藤浩市さんとは、僕の初めての映画の舞台挨拶以来なんです。浩市さんとこうやって並ばせていただくことがとても光栄に思っております」と20年ぶりに共に立つ舞台挨拶に感慨。
村上春樹作品の特有なセリフや文体の小説を映像化するにあたり、監督は「もう考えたらキリがないぐらい難しい作品でした。世界中に読者がいらっしゃって、文体や独特の読後感があると思うので、それを裏切らないで映像にするにはどうしたら良いか、佐藤浩市さんに、皆さんに相談して、スタッフみんなで取り組みました。いろんなイマジネーションを使って」と回顧。「普段は“辿り着く正解”があることが多いのですが、それとは真逆の作品でした。もの凄く難しかったです」と苦労を語った。
また、原作が阪神淡路大震災の頃に着想したという監督。「同じ時期に地下鉄サリン事件というのもあって。それを村上春樹さんが作家ならではの着想というか、掴まえ方で作品にされた。震災そのものを扱ったわけではなくて、そこから距離を置いた人たちのお話が綴られている原作です。そこにすごく興味をもちまして、こういう映画の描き方があるんだということをすごく参考にさせていただきました」と明かす。
岡⽥は、小村というキャラクターについて、「自分の意志がない男と言いますか、台本を読んでいると本当にどこまでこの男性は流れていくのか、辿り着いた先にはこの男の人には何が映るのかを感じた」と話す。
『ドライブ・マイ・カー』に続いて2度目の村上春樹作品の出演になる岡田は、その小説的なセリフを体現している。監督が「(小説的なセリフを)意識して喋っていただこうかなと思った。読むのはもちろんですが、それを生身の人がやるのは本当に難しいので、その感情をちゃんと届けられるかということを2人で話しました」と述べると、岡田も「本当にセリフがとても大事。村上春樹さんの言葉がものすごく力を持っているので、どうしても自分で発したいと思わせてくれる台本でした。僕は楽しかったし、でもどこか違和感を感じながらやるのがまた正解なんだろうなと思って過ごしていました」と述懐した。
2011年、浜辺で焚き⽕をする男との交流を通して⾃⾝を⾒つめていく家出少⼥・順⼦を演じた鳴海が、劇中で出会うミヤケ役は鳴海と同じく兵庫県出身の堤真一。今作で初共演となるが、「私が小学生の時から堤さんの作品を見て、堤さんのことリスペクトしていました。インタビューなどでも『大好きな俳優は堤さん』答えたりして、いつか共演したいと思っていたので、今回しっかりお芝居させていただけて嬉しかったです」とにっこり。
2020年、熱⼼な信仰を持つ⺟親の元で「神の⼦ども」として育ったが、⽗親らしき男との出会いをきっかけにその存在に疑問を抱く⻘年・善也を演じた渡辺は、「宗教二世ということで、自分を信じているものと、自分の信じたい人が信じてるものが違った時に自分は何を信じたいのか…その葛藤を描けたらなと、監督と話しながら臨みました。後半で踊るシーンがあるんですが、踊るという行為に対する概念的なことなどをたくさん現場の前からさせてもらえたので、それが自分のか糧になったなと思っています」と振り返った。
2025年、地味な元銀⾏員・⽚桐を演じた佐藤は、身長が2m以上の“カエルくん”という人間ではない生き物と芝居することについて聞かれると、「僕、あんまり人の芝居見てないんで…(笑)、何が変わるか分かりませんね」とサラリと答え、会場を沸かすも、「実際カエルくんの中にいる人もカメラの横でセリフを言ってくださった方も本当一生懸命やってくれたので、ちゃんと見ないといけないと思ってやらせていただきました」と真摯に向き合った様子。佐藤の章は原作の後日談となっている。
この30年、様々なことが起こり時代は大きく変わっていったが、この映画は未来への希望の物語でもある。そこでキャストと監督に「30年後の自分がこうなっていたら」という夢を語ることに。
監督は「健康だったら」と答え、渡辺は「お世話になった人、好きな人に会いたいと思った時にいつでも会える状態でいたい。会いたいと思った時に会ってまた話せたら、素敵な65歳になれるかなと」と微笑む。鳴海は「私は57歳になっているんですけど、二拠点生活をするのがずっと夢なのてま 第2の人生を日本と北欧のどこかの国の二拠点生活をしながら歩めてたらいいなって思っています」と目を輝かす。
岡田は「ここはボケた方がいいですか?どっちにしようかな?」言って笑いを誘いながらも、「真面目に言うと、本当に日本を代表する浩市さんのような俳優に(なって)、この仕事を続けていかれたらいいなと思います」と真摯に答えた。
最初は「(30年後は)95(才)だそ!」と苦笑いしていた佐藤も「そう聞かせてもらえるのはありがたいですね。彼が16歳の時に20年後こうなってほしい気持ちがあっても、実際にそれが叶うかどうかは本人が努力次第。それを考えている彼は今30年後も考えられるんじゃないかなと思います。やっぱり努力です。そして努力すると勇気いただけると思います」と、岡田を称えつつエールを送った。
最後に佐藤が「原作短編集の中で、なぜこの3作品が、そしてなぜ僕の話が後日談になっているのか、この映画を観たら分かると思います。そこはかとなくこの話がリンクする匂い、それを感じていただけたら本当に嬉しいです」と伝え、監督が「1995年から始まり、これまでの30年、いろんな日本の節目を描いてきました。1つに地震や地下鉄サリンがありますが、もう1つはここにいる4人のキャラクターの心の地下に一人一人潜っていくようなお話なので、その部分を体験してもらえたらなと思います。普段のお芝居とちょっとテイストが違うので、そこを観ていただけたら」とメッセージを送り、舞台挨拶を終了した。
<STORY>
1995 年、妻が姿を消し、失意の中訪れた釧路で UFO の不思議な話を聞く小村。2011 年、焚き火が趣味の男と交流を重ねる家出少女・順子。2020 年、“神の子ども”として育てられ、不在の父の存在に疑問を抱く善也。2025年、漫画喫茶で暮らしながら東京でゴミ拾いを続ける警備員・片桐。世界が大きく変わった 30 年、人々の悲しみや不幸を食べ続けたみみずくんが再び地中で蠢きだした時、人類を救うため“かえるくん”が現代に帰ってくる―。
『アフター・ザ・クエイク』
岡⽥将⽣ 鳴海唯 渡辺⼤知/佐藤浩市
橋本愛 唐⽥えりか 吹越満 ⿊崎煌代 ⿊川想⽮ 津⽥寛治
井川遥 渋川清彦 のん 錦⼾亮/堤真⼀
監督:井上 剛
脚本:⼤江崇允 ⾳楽:⼤友良英
プロデューサー:⼭本晃久 訓覇圭
アソシエイトプロデューサー:京⽥光広 中川聡⼦
原作:村上春樹『神の⼦どもたちはみな踊る』(新潮⽂庫刊)より
製作:株式会社キアロスクロ、NHK、株式会社 NHK エンタープライズ
制作会社:株式会社キアロスクロ
配給・宣伝:ビターズ・エンド
©2025 Chiaroscuro / NHK / NHK エンタープライズ
公式 X:@ATQ_movie #アフター・ザ・クエイク
https://www.bitters.co.jp/ATQ/
10月3日より、テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開