大ヒットミュージカル『ミス・サイゴン』が、11月29日(日)まで東急シアターオーブにて上演中だ。その後、2027年1月まで大阪・福岡・静岡・北海道を巡演する。
10月下旬、駒田一、ルミーナ、小林唯、金本泰潤、加藤梨里香、吉田広大、則松亜海が出演する公演を観劇した。
(写真提供/東宝演劇部)
ミュージカル『ミス・サイゴン』は、『レ・ミゼラブル』を世に送り出したキャメロン・マッキントッシュ(オリジナル・プロダクション製作)、アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク(作)のチームが、第二弾として手がけた作品。日本では1992年に初演され、前回2022年の公演までに通算1569回の上演を重ねてきた大人気作だ。
4年ぶりとなる今回の公演では、次世代を担うキャストを発掘すべく、大規模なオーディションを開催。演出には、2016年から日本公演を手がけてきたジャン・ピエール・ヴァン・ダー・スプイに加え、クリストファー・キーが新たに参加している。
2014年からエンジニア役を演じてきた駒田への期待に加え、オーディションを勝ち抜いたフレッシュなキャストがどのような姿を見せてくれるのか。期待を胸に、劇場へと向かった。

始まりはサイゴン陥落を目前にした、エンジニア(駒田一)が営むにぎやかなナイトクラブの場面から。これまで何度か、『ミス・サイゴン』を観たことがあったのだが、幕開け早々、「見たことのない『ミス・サイゴン』だ」「初めて観る『ミス・サイゴン』だ」という思いに駆られた。もちろん、音楽もセリフも変わっていないはず。なぜそう感じたのか、その理由はすぐには分からなかったが、その不思議な高揚感は最後まで続いた。

ジジ(則松亜海)

キム(ルミーナ)

クリス(小林唯)
この店で出会うのが、キム(ルミーナ)とクリス(小林唯)だ。初めて店に出たキムと、そんなキムを最初は拒んでいたクリス。なぜこの二人が、あっという間に恋に落ち、将来を誓うほどに燃え上がってしまったのか。
この場面でも「初めて観る『ミス・サイゴン』だ」という思いに駆られた。以前はどこか夢物語のように感じていた二人の恋だったが、今回は、二人の気持ちが変化していく過程が一つひとつ伝わってきた。「もしかしたら本当にあった恋かもしれない」と思えたのだ。
ルミーナも小林も、まったく力むことなく、まるで話すように、自然な歌声を紡ぐ。それでいて、高音から低音まで自在に操り、豊かな声量を劇場いっぱいに響かせる。そして二人の声が重なり合ったときの響きが美しい。
本作は、セリフの多くを歌で紡いでいくミュージカルだからこそ、出演者一人ひとりが、観客を物語の世界に引き込む歌声を届けることが重要になる。今回の公演では、ルミーナと小林を筆頭に、どのキャストもその期待に応え、一瞬たりとも観客を現実に引き戻すことがなかった。その思いは、物語が進むにつれてさらに強くなった。
サイゴン陥落後にエンジニアが必死に生き延びようとする場面は、駒田ならではの見せ場だ。駒田が演じるエンジニアが悪事を働いても憎みきれないのは、必死なのにどこか笑えてしまう泥臭いバイタリティゆえだ。駒田エンジニアの生命力は、この作品の中で大きな救いとなっている。
そして2幕でのエンジニアが思い描く“アメリカン・ドリーム”の華やかさ、美しさ!
観客までもが、エンジニアの夢に一緒に酔いしれてしまうほどに圧倒的だ。だが、その一方で、今回は「果たして彼にその夢は叶えられるのか?」という思いが心をよぎった。そう考えてしまうほど、エンジニアという人物の存在と、彼を取り巻く時代や世情がリアルに感じられた。
ここにきて、もうひとつ気がついたことがある。
以前の『ミス・サイゴン』では、冒頭からエンジニアのギラギラとした生命力と存在感に圧倒され、その野望と苦闘に引きつけられていた。キムとクリスの物語でさえ、時代というベールの向こうにある悲恋物語のように感じていたのかもしれない。それは夢のような時間をくれる楽しい観劇体験だった。
ところが、今回は少し趣が違ったように感じた。

エレン(加藤梨里香)

ジョン(金本泰潤)
クリスの妻・エレン(加藤梨里香)も、クリスの友人ジョン(金本泰潤)も、言葉の一つひとつや声の響きから、それぞれが抱える苦悩が伝わってくる。彼らもまた、血の通った一人の人間として存在感を放つ。
クリスの姿の向こうに、戦争を終えて帰還した後も苦しみ続けた多くの兵士たちの姿が見える。キムが迎える最期にさえ、そこまで思い詰めるに至った彼女の気持ちを幾らかは理解できるような気がした。そこにドラマチックに美化されていないベトナム戦争と、そこで生きた人たちの力強さと苦しみを感じた。
キムだけでなく、エレンの歌にも心震え、これほど涙した『ミス・サイゴン』は初めてだった。公演前の取材会でキャスト陣がしばしば言及していた「クリスの演出」とは、これだったのかと思い至った。まさに“見たことのない”“初めての”『ミス・サイゴン』だった。


トゥイ(吉田広大)
共感とはまた違う意味で、実在していた人物のようなリアルさを強く感じさせてくれたのが、トゥイ役の吉田広大だ。3度にわたって立場や姿を変えて登場する難しい役どころだが、吉田の力強い歌声に加え、キムに不気味に迫る姿と演出が、トゥイという人物に強烈な存在感を与えていた。

こうした物語の深い味わいに加え、イントロを聞いただけで「きた~!」と心躍る名曲の数々も、本作の大きな魅力だ。♪「アメリカン・ドリーム」の夢と希望にあふれた華やかさ、♪「モーニング・オブ・ドラゴン」で見せる兵士たちの一糸乱れぬ、重厚で正確なダンスは、度胆を抜かれる迫力だ。グランドミュージカルとしてのゴージャスな見どころも堪能できる。
本公演は、まだまだ続く。これまでに『ミス・サイゴン』を観たことがある方も、観たことがない方も、ぜひとも2026年版の『ミス・サイゴン』に「初めて」を感じに来ていただきたい。この感動は、今だからこそ。お見逃しなく!
ミュージカル『ミス・サイゴン』
オリジナルプロデューサー:キャメロン・マッキントッシュ
作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
出演:
エンジニア:駒田 一/東山義久/桐山照史(交互出演)
キム:屋比久知奈/清水美依紗/ルミーナ(交互出演)
クリス:甲斐翔真/小林 唯(交互出演)
ジョン:チェ・ウヒョク/金本泰潤(交互出演)
エレン:エリアンナ/加藤梨里香(交互出演)
トゥイ:岡 シモン/吉田広大(交互出演)
ジジ:則松亜海/藤森蓮華(交互出演)
伊藤広祥 伊藤稚菜 岩﨑巧馬 植木達也 江口颯人 大久保徹哉 小形さくら 柿内アリマ 笠行眞綺 河本佳佑 木村つかさ 工藤 彩 小林遼介 小林良輔 近藤真行 今野晶乃 齋藤信吾 坂本 皓 佐渡海斗 鈴木大菜 鈴木満梨奈 仙名立宗 高瀬育海 髙田実那 田中奏 田中啓介 茶谷健太 土屋神威 常川藍里 土倉有貴 中嶋尚哉 早川一矢 深堀景介 古川隼大 三浦優水香 光由 森田茉希 安井 聡 横田剛基 蘆川晶祥 (五十音順)
東京公演:2026年10月23日(金)~11月29日(日)東急シアターオーブ
[プレビュー公演]10月16日(金)~10月22日(木)東急シアターオーブ(終了)
大阪公演:2026年12月5日(土)~17日(木)梅田芸術劇場 メインホール
福岡公演:2026年12月24日(木)~27日(日)福岡市民ホール 大ホール
静岡公演:2027年1月8日(金)~11日(月・祝)アクトシティ浜松 大ホール
北海道公演:2027年1月17日(日)~24日(日)札幌文化芸術劇場 hitaru
公式サイト:https://www.tohostage.com/miss_saigon/













-50x50.jpg)

-50x50.jpg)


