日本発のオリジナルミュージカル『四月は君の嘘』が、8月23日(土)から東京・愛知・大阪・富山・神奈川で上演される。
TVアニメ化、実写映画化も大ヒットした人気コミックを原作に、作曲を『ジキル&ハイド』『ボニー&クライド』で知られるミュージカル界の巨匠、フランク・ワイルドホーンが手掛け、2022年に世界初演。2024年にはロンドン、ソウルにて現地プロダクションで上演され好評価を得た。今回の上演にあたり、オールキャストオーディションを実施し、フレッシュな実力派俳優が揃っての再演となる。
そのキャスト陣の中から、主人公の元天才少年ピアニスト・有馬公生役をWキャストで演じる 東島京(ひがしじま みさと)がインタビューに応じてくれた。
東島京は、2005年生まれの二十歳。日本語と英語のバイリンガルで、2021年に日英合作ミュージカル『GALAXY TRAIN』にてカムパネルラ役で初舞台を踏み、2023年3月に同作がイギリス・ウエストエンドにて『GALAXY TRAIN-A New Musical』として上演された際にはロンドン現地キャストとともに全編英語台本の芝居と歌に挑戦した。以来ミュージカル、ストレートプレイ、映像作品と幅広く出演。最近の活躍は目覚ましく、ミュージカル『春のめざめ』(2023年12月)、ミュージカル『SONG WRITERS』(2024年11~12月)、ミュージカル『ワイルド・グレイ』(2025年1~2月)、ミュージカル『チョコレート・アンダーグラウンド』(2025年6月)に出演。ミュージカル界が注目するライジングスターだ。
母の死をきっかけに、ピアノの音が聴こえなくなってしまった有馬公生役への思いと意気込みを語ってくれた。
―本作に出演が決定した時は、いかがでしたか?
今もですが、プレッシャーと不安が大きかったです。「絶対にやりたい」という強い気持ちでオーディションを受けてから決まるまでは、毎日のようにマネージャーさんに確認しては「まだ連絡は来てないよ」と言われて「落ちちゃったのかな」と思ってシュンと落ち込んだりしていました。ようやく「主演の有馬公生役で決まりました」と言われた瞬間に「これまでの苦労は無駄じゃなかったんだ!」と一気に霧が晴れたような気持ちになったのと同時に「本当に僕がやるんだ。でも僕にできるのか」というプレッシャーが押し寄せて来て、不安でたまらなくなった記憶が強く残っています。
―オーディションで選ばれたのですね。
実は最初、有馬公生役ではなく渡亮太役で受けていたんです。オーディションで渡役の楽曲を歌って、歌い終わってから演出の上田一豪さんと学生時代の生活など、いろいろお話をした後に「楽譜読める?」と聞かれて「はい、ピアノをやっていたので読めます」と答えたら楽譜を渡されて、それが有馬公生役の楽曲でした。その場で歌った後に一豪さんから「正直、今歌ってみてどっちの方が気持ちよかった?」と尋ねられました。原作漫画もアニメも大好きで、ずっと公生に共感できることが多いと思っていたのもあって「公生の曲を歌った時の方が気持ちよかったです」と正直に答えたら、その瞬間に一豪さんが「やっぱりそうだよね、そうだと思った」というふうにおっしゃってくれました。公生と重なる何かを感じていただけたのかなと嬉しくなりました。
―ご自分では“公生と重なる何か”は、どんなところだと思っておられますか?
公生は「心が完璧な闇になったわけではない、ちゃんとそこに光はあるけど、闇が覆いかぶさっているから、もう一つ深いところに手を突っ込んで、その光を取り出してくれる人を探している、そんな人間だな」と思っています。
初めて原作漫画を読んだり、アニメを観た時から、公生がピアノを始めたのも「お母さんが喜んでくれるんじゃないかな」というのがきっかけになっているような気がしていました。僕は小学生から中学生まで時にサッカーをやっていたのですが、最初に習い始めたのも、父がサッカー好きだからというのがあって。歌やダンスも、母に笑顔になってほしくて始めました。そうして音楽の道に進む中で、本当にたくさんのことを教えてくださった恩人がいたんです。「あれもいいよ、これもしたらいいよ」と伝えてくださる方だったのですが、突然亡くなられてしまって…。その時は世界がモノトーンのように見えて、傷つくなら一人でいた方がいい、誰かと仲良くなると離れていった時に辛くなるから仲良くなれない、人の目を見れない…そんなふうに思って、歌えなくなって、ピアノも弾けなくて、音楽から逃げたくなった時期が僕にもあったんです。公生がピアノを始めたのも、きっとお母さんに元気になってほしい、笑顔になってほしいという気持ちが強かったんだと思うし、公生と母親の心を繋げるものだったピアノが大切な人たちを遠ざけていくものに変わってしまったと公生は捉えたのかな、きっと僕と同じような感覚だったんだろうなと。
でも、「音楽のどこかに、その人はちゃんと生きているんだ」と思えた瞬間があったんです。歌も芝居もピアノの中にも、これから挑戦していくことの中にも、ずっとその先生はいてくれると思ったんです。公生もかをりと出会って、お母さんはピアノにも公生自身の中にも最初からずっといることに気づけた。そこが僕との共通点かなと思います。
だから公生はかをりが遠くに行ってしまっても、自分の中にちゃんと残っていると気づけた。それがこの作品の美しさだと思いますし、伝えられたらいいなと思っています。
―上田さんはオーディションの段階で、そんな東島さんの中の公生を見つけてくださったんですね。さて、今年5月の日比谷フェスティバルでは、本作の音楽監督・指揮の塩田明弘さんがMCをされていて、みなさんで楽曲も披露されてましたね。
塩田さんには作品の稽古に入る前に何度かトレーニングをしていただいて「日常的にこういうトレーニングをするといいよ」「こういう発声をするといいよ」と、たくさん教えていただいたんです。それと同時に様々な作品に出演させていただいて、その度に声の通り道も声色もすごく変わってきて、日比谷フェスティバルの歌稽古で塩田さんに歌を聴いていただいた時に「すごく声の通り道が良くなったね」と褒めていただけたんです。とっても嬉しかったです。
―声変わりなどを乗り越えて、これからは、ますますまっしぐらですね。
そうだと嬉しいです。
―ワイルドホーンさんの楽曲についてはいかがですか。
とにかく“素敵!”という言葉につきます。ワイルドホーンさんはとても音楽に愛されている方で、ワイルドホーンさんもとても音楽を愛して、理解し合っているなと感じるんです。楽曲を聴いていると、笑っていたり、怒っていたり、キラキラしていたり、すごくたくさんの表情が見えてきて、生命力を強く感じます。役やそのシーンで必要なことも、きっととても深いところで理解されていて、それがそのまま楽曲の中で生きているからこそ役を演じる上で力強い味方になってくれるだろうなと感じています。音程の高低差や技術的な面でも難しい曲ばかりなので、たくさんの挑戦はありますが、“ワクワク”という気持ちが強い気がしています。
―挑戦をするときには、結構“ワクワク”する派ですか。
そうですね。ネガティブで、すぐに「僕なんかダメだ」と思ってしまう方で、それなのに「完璧でいなきゃ」「何をするにあたっても、見せる時には非の打ち所のない状態で見せたい」と思う自分がいたんです。でも最近は少しずつ迷いながらも進もうとしている人間の美しさや魅力にちょっとだけ気づけた気がしていて、それからは“当たって、砕けろ”とまではいかないですが、失敗をそこまで恐れなくなりました。それからは「“ワクワク”を感じやすくなったな」と思います。
―ますますワクワクが背中を押してくれそうですね。本作初演時に出演された小関裕太さんと水田航生さんは事務所の先輩でもあり、アドバイスをくださったそうですが、心に残ってるアドバイスはありますか?
おふたりからいろんなアドバイスをいただきました。特に座長という立ち位置に不安があったのですが「座長らしくしなきゃと考えなくていいよ」「無理に座長としての背中を見せようとか、素晴らしいものを見せようとかと思わずに、誠実に役と向き合って、正直に自分自身であればいいよ」とおしゃってくださって。
この作品に「君は君だよ」というセリフがあるんですが、「自分じゃないものになろうとしなくていい」と受け取っていたんです。それが最初から感じていた不安やプレッシャーに対する一つの救い…答えだったなと、そんな気がしています。
―快進撃が始まった東島さん。将来の希望や目標を教えていただけますか?
う~ん(上を見上げて、笑顔に)やりたいことは山のようにあるのですが…。「いい作品を作りたい」「いい役者になりたい」「いい人間になりたい」という気持ちがずっとあって、その思いでここまで来たので、一つひとつの出会いを大切にしながら、自分の役と正直に向き合って、役者同士で共鳴し合うことがいい作品作りに繋がるんじゃないかと思うので、その繰り返しを大切にやっていきたいです。そして、夢のまた夢ですが、いつかは自分の曲を出したいとも思いますし、自分の作った曲がミュージカルの中で流れたりしたらどんなに幸せなことだろうと思います。チャンスがあればもっと映像作品でお芝居したいとも思いますし、グランドミュージカルにも出演させていただきたいです。
―最後にミュージカル『四月は君の嘘』について、メッセージをお願いいたします。
悲しいエピソードもありますが、それでも今を生きていることの美しさや、若者たちが迷いながらも必死に今を生きて青春を謳歌している姿をご覧いただきたいです。大人の方には、懐かしいなとか、ちょっと何かを始めたいなとか思っていただけたら嬉しいです。そばにいてくれる人に「いつもありがとう」と言える勇気が持てるように、そっと背中を押してあげられるような作品にしたいなと思っています。
ミュージカル『四月は君の嘘』
原作:新川直司(講談社「月刊少年マガジン」)
脚本:坂口理子
作詞・作曲:フランク・ワイルドホーン
作詞:トレイシー・ミラー/カーリー・ロビン・グリーン
編曲:ジェイソン・ハウランド
訳詞・演出:上田一豪
<キャスト>
有馬公生:岡宮来夢/東島 京(Wキャスト)
宮園かをり:加藤梨里香/宮本佳林(Wキャスト)
澤部 椿:希水しお/山本咲希(Wキャスト)
渡 亮太:吉原雅斗/島 太星(Wキャスト)
かをりの父:原 慎一郎 かをりの母:鈴木結加里
審査員:武内 耕・三木麻衣子
相座武士:内海大輔 井川絵見:飯塚萌木
池田航汰 大森未来衣 相樂和希 桜井咲希 佐藤志有 新條月渚 須田拓未
千歳ふみ 千葉海音 鳥居留圭 中野太一 東倫太朗 深澤悠斗
町田睦季 松村桜李 吉岡花絵 渡辺七海
Swing 月山鈴音
東京:2025年8月23日(土)~9月5日(金)昭和女子大学人見記念講堂
<全国ツアー>
愛知 2025年9月12日(金)~9月14日(日) Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール
大阪 9月19日(金)~9月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
富山 10月4日(土)~10月5日(日) オーバード・ホール 大ホール
神奈川 10月12日(日)~10月13日(月・祝) 厚木市文化会館 大ホール
公式サイト:https://www.tohostage.com/kimiuso/