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4/2 (土)開幕!舞台『もはやしずか』 橋本淳インタビュー「裏テーマとしていろいろと書いてあるんだろうな」「キャスティングは、僕と加藤くんが好きな方、信頼できる方を提案しました」

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劇団た組を主宰し、数々の舞台の作・演出を手掛ける他、この3月にはドラマで優れた新進脚本家を選出する「市川森一脚本賞」を受賞。6月には脚本・監督する映画「わたし達はおとな」が公開と、ボーダーレスに活躍する若手クリエイターの加藤拓也と、連続テレビ小説「エール」(NHK)、や「これは経費で落ちません!」(NHK)など多くの映像作品、舞台では「No.9-不滅の旋律-」、「サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-」、「THE DOCTOR」などで、その存在感を確かなものにしている俳優・橋本淳がタッグを組んで贈る舞台『もはやしずか』が、4 月 2 日(土)に初日を迎える。

黒木華、平原テツ、安達祐実という豪華共演者も注目を集める本作について、本作で初めて舞台の企画から参加した橋本淳に、企画の始まりから作者・共演者への思い、本作の深読みどころや自身の役づくりまで、たっぷり語ってもらいました。

『もはやしずか』あらすじ:
康二(橋本淳)と妻の麻衣(黒木華)は長い期間の不妊に悩んでいる。やがて治療を経て子供を授かるが、出生前診断によって、生まれてくる子供が障がいを持っている可能性を示される。
康二は過去のとある経験から出産に反対するが、その事を知らない麻衣はその反対を押し切り出産を決意し…。

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―今作では企画から参加されたと伺いましたが、具体的にはどんなきっかけで、どのように参加されたのですか?

以前、加藤くんの劇団た組の公演に出演させてもらって「次に何か面白いことやりましょうか?」と話が出たときに、加藤くんが「橋本さんに書きたい本が1本あるんですよ」と話しをしてくれて。その時にはもう、プロットもあって「じゃぁ、それは劇団公演ではなくて、他のところでやりましょうか」ということで話が進み、加藤くんと僕のスケジュールから日程が決まりました。
僕は「プロデューサーです」ということではなく、出演者やスタッフについての相談をしたり、ビジュアルについてちょこっと意見を言わせてもらったりと、スタッフが一生懸命やっている横からいろいろ口を出すという、一番楽でズルい役どころです。(笑)
加藤くんの作品の中身については役者としてやりたいので、稽古が始まる直前からはスタッフとしては何もしておらず、役者としてだけやらせてもらっています。

―出演者については、加藤さんと橋本さんから案を出されたそうですね。素敵なキャストが揃いましたね。

本当にそうです。キャスティングについては、僕と加藤くんが好きな方、信頼できる方を提案しました。出演シーンが少ないキャストもいますが、その少しの役こそ大事なので、責任感をもって彩豊かな表現ができるキャスティングになっています。そこは信頼していますし、楽しんでやって頂けると確信しています。

―おひとりずつ教えて頂いてよいですか?

黒木華さんについては、僕と舞台で2本、映像で1本共演して10年近い付き合いになると思います。僕が演じる康二と意見が合わない妻の麻衣役が一番難しいと思い、仲が良くて信頼できる方で、舞台に上がる矜持や責任感がある方、舞台経験者の共通認識をしっかりもった、でも映画っぽい方がいいな…と思ったら黒木華さんしかいませんでした。
黒木さんに出演をお願いしたら「やりたい」と快諾してもらえて、本当に嬉しかったです。

平原テツさんについては加藤さんの劇団た組の劇団員と言ってもいいくらいで、僕と加藤くんの意見が一致しました。
安達祐実さんは僕もドラマで共演して、加藤くんの舞台にも出演していらして、読めない感じや年齢不詳なところも魅力で、技巧派の方がほしいということでお願いしました。

藤谷理子さん、天野はなさん、上田遥さんも申し分ない実力の方たち。断わられるかと思っていたのに、すぐ「やりたい」と返事をくれて、すごく嬉しかったです。今回はこの3人の持つ魅力が存分に発揮できる役だと思うので期待しています。

松井周さんは加藤くんと仲がよくて、声の出演をしていただけるのは本当に贅沢です。
僕としては、スタートから気持ちは高まっていますし、期待しかないので「企画から入るのもいいな」と思いました。

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―企画から関わることにはまりそうですか?
いや、当分はやりたくないです。(笑) 今までも企画を立ち上げようとしたことはあったのですが実現したことがなくて、役者として稽古初日から参加することが多かったので、初めての苦労も知って、稽古が始まる前にこんなに大変なことがたくさんあるのだという貴重な経験をさせていただいて、スタッフさんのありがたさが身に染みて頭が上がりません。
たまにやらないと初心を忘れてしまう可能性もありますし、好きなクリエイターさんと組んでやるのは楽しいことだけど、無理にやることではないと思うので、「どうしても、これをやりたい」と火種がついたら、舞台にかかわらず信頼できる作家さんや監督さんと組んでやらせていただきたいなと思っています。
とはいえ、まずは役者をがんばらなきゃいけない!ご褒美的な感じで、そういうこともできたら幸せかなと思います。

―今回の『もはやしずか』は、加藤さんが橋本さんのために書いた作品だったのでしょうか?

加藤くんと仲は良いですが個人的には、あまり話さないようにしているので、当て書きなのか、台本が先だったのか、よくわからないです。それは聞きたくないし、深堀りはしたくないんで。(笑) でも僕に期待して話をくれたと思うので、とても喜ばしいこと、役者としてとても幸せだと思っています。

―映像でも舞台でも続々と新たな作品を発表されている加藤さんについて、良いところを教えて頂けますか。
良きところはいっぱいです!まだ28歳なんですが、今、本当に引っ張りだこですね。初めて会ったのは、彼がまだ22歳ぐらいの頃。どこかの劇場の楽屋で挨拶をしたのが最初でしたが、彼は高校生の頃からラジオの放送作家をされていて、18歳でイタリアに留学して帰ってきた。だから作家であり演出家であり、映画監督でもあり、撮影もできるし、プロデューサーでもある。一言ではこういう人ですとは言えないのですが、彼を見ていると「年齢って関係ないんだな」と思います。
それに、彼は書きたいものをちゃんと書ける才能があって、それを続ける才能もある。一番健全だと思うのは、俳優にオファーする段階で脚本が出来上がっていること。
キャスティングの段階で台本があって「この役ですが、やりませんか?」と言えるのは、やはりとても有難いです。黒木華さんも台本を読んで「出たい」と言ってくれましたから。

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―加藤さんはますます活躍されるに違いない方なのですね。注目していきたいです。
さて、本作のあらすじを見て「これは大変なお話だぞ」と思いましたが、台本を拝見したら、もっともっと…。

加藤くんの作品は繊細ですし、プレッシャーやストレスを感じながら演じる作品が多いのですが、今回の作品は現実に同じ問題を抱えている方が多いと思いますし、でもなかなか言葉にするのが難しい問題だと思います。
僕はそのテーマが表だとしたら、裏のテーマが「選択を求められている人間の性」や「究極の二択」とか、いろいろあると思っています。
劇中の僕の台詞でとっても多く出てくる言葉に「たまたま」というのがあります。禁煙を約束していたのにタバコを見つけられた時も「たまたまもらって」とか「いや、それはたまたまじゃない」とか言うんです。
加藤くんとそれについて話をしたわけではないのですが、今日の取材を迎えるにあたって自分なりに考えてみて「それが、この作品に加藤くんが込めたかった思いなのかな」と思ったりもしています。
僕も35年間生きてきましたが「自分の人生もすべてが自分の意思ではなくて、迫られた選択の上で成り立っているのかな」ってことを考えると、とても普遍的であるし、見た人誰もが共感できるし、でも目をそらしたいところかなと思うんです。
やっぱり、どうしても不妊治療や育児は、今多くの人が抱えている問題で、そういうところに目を向けがちだけど「加藤くんなら裏テーマとしていろいろと書いてあるんだろうな」と思って今日来ました。

―裏テーマですか?! 橋本さんは「お稽古の前に一人で準備をする時間が好き」という記事が目についたのですが・・・
そうですね。準備は好きで、古典だと時代背景や宗教観など、自分で勉強するのですが、今回はそれとは違っていますね。加藤くんの舞台だと台詞が日常会話なので、サラッと流れてしまいがちなので、そうさせないために自分の中でのイメージをしっかりとつくる。
「昔ね…」と語りはじめるときには、自分の脳内にあるはずのイメージ…弟の話なら、彼がどういう顔で、においがして、手触りで…というのをしゃべりながら五感の中でちゃんと感じられるようにイメージングしています。それが瞬間に出てこないと、加藤くんの舞台ではどんどん取り残されてしまう。
「自由にやっていいし、その時感じたことをやろう」という演出家さんが多いのですが、それは当たり前で、その前段階が絶対に必要。脚本を読み解いて理由がわかって動機付けして、それを一旦手放して自由にやる。その場で何も考えずに覚えた台詞だけ言って自由にやればいいんだ…というのとは違う。そうした準備をすることが、加藤くんの台本は特に必要だと思っています。
一言しゃべったら、五通りぐらいの感情が出てくるものにしないとつまらないかなと思うので、そこは苦しいですけれど一人で自分の声を録音したものを聞きながら、寒いですが深夜4時間ぐらい散歩しながら作っていています。人がいなくて、静かなので。
稽古が始まると、相手がいるので助けられて、もっと感情を作りやすくなることが多いので楽しいですし、作ってきたものが間違ってなかったと思うのも、「あ、そうじゃなかった」という気づきもとても楽しいので、稽古が始まった方が楽だし嬉しいです。

―冬の夜空に4時間ですか?!興味深いお話をありがとうございます。最後にまだ観劇を迷っている方へメッセージをお願いいたします。
こういう状況ですから、無理はしないで頂きたいです。ただ、高いチケットを買って、時間を割いてきてくださる方には、期待以上の作品は届けられる、そのくらいの脚本です。見たら忘れられないものになりますし、誰かにしゃべりたくなる作品になると思っています。是非に…とは言えないですが、感染症予防はしっかりして頂いて、僕らも万全の体制でお迎えするので、客席に身を沈めて頂ければ絶対に面白いものをお届けいたします。できれば劇場においでください。

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「もはやしずか」
【日程】2022 年 4 月 2 日(土)~17 日(日)
【会場】 シアタートラム
【作・演出】加藤拓也
【出演】
橋本淳 黒木華 / 藤谷理子 天野はな 上田遥 / 平原テツ 安達祐実
声の出演:松井周
【チケット料金】全席指定 \7,000(税込)