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『民衆の敵』では、たおやかな女性でいたい。 安蘭けい インタビュー

Bunkamura30周年記念、シアターコクーン公演の第一弾として11月29日から『民衆の敵』が上演される。
イプセン作で1882年に発表されたこの戯曲は、これまでに1978年のスティーブ・マックイーン製作・主演で映画化されるなど、世界各国で上演されてきた名作だ。
演出には、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)出身で、2016年に同劇場で上演された『るつぼ』を手掛けたジョナサン・マンビィを迎え、正義を志したがために次第に「民衆の敵」となってしまう主人公のトマスを『るつぼ』にも出演した堤真一が演じる。

今回、この作品からAstageに登場頂くのは、その主人公トマスを支える妻・カトリーネを演じる安蘭けい。宝塚歌劇団星組トップスターから日本ミュージカル界のスターとして数多くの大作ミュージカルに主演。その演技は凛とした美しさと共に観客の心に刻まれ、近年はストレートプレイでも活躍めざましい。

そんな安蘭けいに、ミュージカルとストレートプレイの取り組みの違いやカトリーネ役への意気込みを聞いた。

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―近年、安蘭さんはストレートプレイに出演されることも多いですが、オファーを受けた時からミュージカルとは違う何かがあるのでしょうか?
そうですね。語弊があるかもしれませんが、私にとってミュージカルは普通。ストレートプレイが来ると「来たか!」という緊張感がはしります。

―アプローチも違っていますか?
ミュージカルは歌が出来上っている場合が多いので、歌稽古から始めることが多く、歌から作品に入ります。ストレートプレイは役にも依りますが、台詞がとても多いですよね。それを覚えることがまず大変です。歌の力を借りずに役をつくることも、ミュージカルとは全く違う難しさがあります。

―では、ミュージカルは歌の力を借りて役をつくるのですか?
そうですね、歌の曲調がどういう心情なのかを語ってくれていますから。でもストレートプレイのように台詞だけなら、どんな表情でその台詞を言っているのかは想像するしかない。そういう意味で台本を見て「どう役をつくっていこう」と考える時の役の捉え方が全然違ってきます。

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―『民衆の敵』という作品ではいかがでしたか?
イプセンの作品だから「難しいのでは?」と想像しますよね。私も2014年に同じイプセンの『幽霊』という作品に出演しましたが、それは本当に難しかったので、「また同じくらい難しいのかな?」と思いながら台本を読みました。でも今回も題材は重いのですが、台本を一気に読んでしまう面白さがありました。言葉も難しいという印象はなく、台本を読んだ時にキャストを役に当てはめて想像して読んでみると「笑ってしまいそう」と思えるところもあって。今の私たちにとっても「そうだよね。自分たちにもありえるよね」と思えることが起きるので、すごく入りやすいと思います。

―私たちにも身近に引き寄せて考えられる?
そうですね。そしていろんなキャラクターの人物がいて「私ならこの考え方だな」というのがあると思うので、自分を当てはめたり考えたりしながら観ることができる作品じゃないかと思います。

―安蘭さんが演じられるのは、堤さん演じる主人公トマスの奥様役ですね。
夫が不正をあばきます。それは正義を貫くことですが、「果たして本当に正しいことなのか」と一番冷静に理性的に考えている唯一の登場人物だと思います。彼女も自分なりの信念を持った強い女性だと感じていますが、“家族を守ろう”という思いと“夫の言う正義”のどちらを選択するのか。彼女なりに悩みます。一番まっとうなことを言うのは彼女で、観客にも共感してもらえると思いますが、家族を守ろうとする母性や女性の生き方、舞台でどういるか…が見せどころかなと。状況を踏まえて空気を読み、それぞれの思いも分かりながら、夫や家族を導いていきます。母として、女性としてたおやかな女性、表面は柔らかな女性でいたいと思っています。

―ミュージカルの華やかな役のイメージの多い安蘭さんとはちょっと違うイメージですね?
今回はどちらかというと“受け”が多い役柄です。舞台上でも他の人の台詞を聞いている時間の方が長い。自分から発するよりも他の人の台詞や行動を受けて発することが多いので、今まで私がやってきた“誰よりも先頭に立って”という役とは違いますね。初めての挑戦ではあるかもしれませんし、難しいとも思っています。

―受けることによって安蘭さんのお芝居も変わっていくのでしょうか?
相手ありきですから、変わりますね。私は宝塚歌劇団の出身で、退団していろんな俳優さんたちと共演するようになってから「在団中に思っていた演技とは随分と違う」と感じることも多かったんです。「自分がやってきたことは間違ってない」と思いたいけれども「やってきたことを出しても通用しないんじゃないか」とも思いながらやってきました。他の俳優さんたちの演技を見て「こうやるのなら、自分はこうしよう」と考え悩みながらやって来たので、毎回、新鮮に取り組んでいます。

―そういう意味では、生身を感じさせる女性、等身大を求められる役は勇気が要りそうですが…。
そういうのは、怖くなくなりました。今は、舞台上で取り繕った自分ではなく、普通にいることが恥ずかしくなくなりました。以前は舞台に立つときにはいろいろまとっていましたが、もうまとわなくてもよくなったので、まとわないことに対して恐怖心が無くなりました。
宝塚歌劇団では「美しく」「品よく」、あるいは「良い姿を見せる」という面も大切ですが、昨年『Little Voice』に出演した際に「いかに品を無くすか」ということに挑んで、とても難しかったんです。でも今後もあのような役もやりたいですし、あの役をやったから舞台の上でどんな役でも演じられる自分がいます。

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―稽古場での安蘭さんはどんな感じなのですか?
わりと柔軟だと思います。言われることに「そうですか!」とすぐそちらに向いていきます。演出家からの意見などを聞き入れて作っていきますが、求められることができればよいのですが、でもすぐに出来ないこともありますね。

―まだ稽古はこれからだと思いますが、海外の演出家の方は「厳しく言わない」と耳にします。演出のジョナサン・マンビィさんはいかがでしょうか?
はい。ジョナサン・マンビィさんもちゃんと話を聞いてくださるし、お話しするのがお好きでいろいろ表現して話してくださいます。

―海外の演出家に限らず、普段も安蘭さんから演出家にどんどん話をされる方ですか?
そうですね。ただ言われることに慣れていて、言われないと不安です。“ダメ出し”って言葉がありますよね。ダメをだされないと不安です。でも海外の演出家はダメじゃないときには何も言わないことが多い。「よかった」で終わると次を求めたくなる。「ダメなところを教えて下さい」と言いたくなってしまう。「何も言われないのは、諦められたのかな」と不安になったりもしますが、 苦労した作品の方がより良くできあがったりもするし、記憶にも残ったり、愛着も増します。

―そしてお芝居も変わっていく?
はい、でも一番変化を感じるのは、本番の舞台に上がってからです。観客がいると俳優のテンションが稽古場とは全然違う。その中で生まれるものがあったりして、それがとても面白いですね。

―では、本作でも一度観てすべてと思わないで、何度も観ると…
全然違うものが見えてくる…かもしれません。劇場でお待ちしています。

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Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2018
DISCOVER WORLD THEATRE vol.4 『民衆の敵』
作 ヘンリック・イプセン
翻訳 広田敦郎
演出 ジョナサン・マンビィ
美術・衣装 ポール・ウィルス
出演 堤真一、安蘭けい、谷原章介、大西礼芳、赤楚衛二、外山誠二、大鷹明良、木場勝己、段田安則
企画・製作 Bunkamura
公式サイト:http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/18_people.html

【東京公演】
2018年11月29日(木)~12月23日(日・祝)
Bunkamuraシアターコクーン
チケット料金 S席:10,500円 A席:8,500円 コクーンシート:5,500円(全席指定・税込)
お問合せ Bunkamura 03-3477-3244(10:00~19:00) http://www.bunkamura.co.jp/

【大阪公演】
2018年12月27日(木)~30日(日)
森ノ宮ピロティホール
チケット料金 11,000円(全席指定・税込)
問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10時~18時)