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CS衛星劇場にて、<シネマ歌舞伎>『女殺油地獄』をテレビ初放送!松本幸四郎 インタビュー

劇場では決して見られない演出と映像で
サスペンスとしても優れたこの作品を楽しんでください

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『女殺油地獄』は2018年に大阪松竹座で十代目松本幸四郎襲名披露公演として上演され、その後、シネマ歌舞伎にもなりました。この作品の映像化を決めたのは幸四郎さんのリクエストだったそうですが、最初にその理由からお聞かせいただけますか?

「僕はこれまで何度かシネマ歌舞伎の作品を作ってきました。そのすべてに対して僕の思いは一貫していて、“歌舞伎より面白いものにしたい”ということなんです。どちらが上ということではなく、歌舞伎でもなく、映画でもない、新たなジャンルを生み出したいという思いです。そうした中、この『女殺油地獄』はいろんな要素の詰まった演目です。物語性が強く、サスペンスもアクションもある。それだけにシネマ歌舞伎に最適で、また、挑戦のしがいもあると感じたというのが大きいですね」

主人公の与兵衛は放蕩息子で、借金に苦しみ、最後は金の工面を断られた末に同業の女房・お吉を殺してしまうという非情な役です。実際に演じてみていかがでしたか?

「実は僕が与兵衛を演じるのはこれで三度目で、過去に、ル テアトル銀座(2011年)と、香川県の金丸座(2014年)でも上演しました。面白いのは、その2つで解釈が真逆だったことでした。ル テアトルのときはまったく反省も後悔もしない男だと思っていて、一方で、金丸座の公演では最後に懺悔をするんです。作者の近松門左衛門は非常に学があり、信心深い方ですので、もしかすると後者のほうが解釈としては正しいのかもしれません。ただ、いずれにせよ共通しているのは、与兵衛は良くも悪くもそのときそのときを真剣に生きていて、遊ぶときも、人を騙すときも、混じりっけなしに感情の赴くままに行動する男であるということなんですね。いわば、人として破綻している。でも、見方によってはどこか憧れもあるんです。本能のままに生きていけるなんて一番幸せなことですから。つまり、見る人によって大きく印象が変わるのがこの与兵衛という男の面白いところで。それが、今回の放送では皆さんの目にどう映るのか、僕自身もすごく楽しみですね」

先ほどのお話では、“シネマ歌舞伎としての新たなジャンルを生み出したい”とのことでした。実際に完成した映像をご覧になってみていかがでしたか?

「舞台より面白いと感じました。舞台の場合はお客様が自由に視点を選べますが、映像だとそれができない。そのぶん、監督の演出意図のもと、『ここを見てください』とナビされていくので、物語が非常にわかりやすくなっています。そこは舞台を映像化したときの長所ですね。また、この『女殺油地獄』は三部構成でできています。さまざまな登場人物が出てくる賑やかな第一幕、与兵衛の家族にスポットを当てた二幕、そしてお吉を殺害する三幕。そうやって、どんどんとフォーカスが狭まっていく展開がこの作品の面白さのひとつなのですが、それを映像ならではの演出や編集で見せることで、本来三幕の舞台が一本の一幕ものになったような印象を受けました。ほかにも、客席側からは決して見ることのできないアングルの映像や、義太夫をなくして静寂の中で繰り広げられる殺害シーンなど、ここでしか見られない音や映像もたくさんありますので、まさしく新しい作品として楽しんでいただけると思います」

最後に、放送をご覧になる方にメッセージをお願いいたします。

「この作品は一昨年の7月に上演されたものですが、シネマ歌舞伎という形で“舞台が残った”と僕は感じています。ですので、ぜひ録画をしていただき、5年後、10年後にもう一度ご覧いただくと、舞台の上で生きているその瞬間の僕に再び出会えるのではないかと思います。そうしたシネマ歌舞伎としての未来の可能性を感じながら、優れたサスペンス作品としての『女殺油地獄』を楽しんでいただければ幸いです」

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▼プロフィール
Koushiro Matsumoto
1973年1月8日生まれ。東京都出身。1979年、『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎として初舞台を踏む。1981年に七代目市川染五郎を襲名、2018年に十代目松本幸四郎を襲名。歌舞伎のみならず、現代劇や映像作品にも多数出演。日本舞踊松本流家元としても活躍。

取材・文:倉田モトキ
撮影:蓮尾美智子
ヘアメイク:AKANE
スタイリスト:川田真梨子
衣装協力:ボリオリ(三崎商事TEL03-5775-1211)
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CS衛星劇場にて、<シネマ歌舞伎>『女殺油地獄』をテレビ初放送!
放送日:2月29日(土)夜7:00~8:45

<シネマ歌舞伎>『女殺油地獄』
原作:近松門左衛門
監修:片岡仁左衛門(舞台公演)
監督:井上昌典(松竹撮影所)
出演:松本幸四郎、市川猿之助、市川中車、市川高麗蔵、中村歌昇、中村壱太郎、大谷廣太郎、片岡松之助、嵐橘三郎、澤村宗之助、坂東竹三郎、中村鴈治郎、中村又五郎、中村歌六
(上演:2018年/平成30年7月・大阪松竹座/公開:2019年/令和元年11月)