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映画『雪女』 杉野希妃監督&青木崇高 対談インタビュー! 青木の眼差しに杉野監督「こう来たか!!」と絶賛!

2016年東京国際映画祭のコンペディション部門で高い評価を受けた映画『雪女』が、3月4日より公開された。女優であり監督を務める杉野希妃が、小泉八雲の作品集「怪談」の一編「雪女」を新しい視点で脚色し映画化。はかなくも美しい愛の物語を、謎の美女・ユキと雪女に杉野、雪女の秘密を隠しながらユキを愛し続ける猟師・巳之吉を人気実力派俳優の青木崇高が演じる。
この度、主演と監督を務める杉野希と、共演の青木崇高が撮影当時を振り返りながら、映画に対する思いを語ってくれた。

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■青木さんは動の中に静を持つ人。雪女との交わりに興味があった(杉野)
■杉野監督はこれからの世代を担う“挑戦の人”(青木)

― 日本公開の前に、2016年に東京国際映画祭・コンペディション部門で上映され、高い評価を受けた本作ですが、映画祭に参加されたときの感想をお聞かせください。

杉野希妃(以下、杉野):初めて人目に触れるわけですから、ドキドキでした。昨年の3月に撮影を終えて、半年くらい悩みながら編集に時間を費やしていました。(編集をしながら)落ち込むこともあったので、(コンペディション部門に)選ばれたと聞いたときは、嬉しさと怖さが同時に入り混じった感じでした。
青木(以下、青木):東京国際映画祭に出るのは、3回目だったっけ?
杉野:作品では5回目かな? でも、監督として「コンペディション部門」というのは憧れがありましたし、いち観客としての自分も凄い作品が揃っているのが「コンペディション部門」という認識があったので、その部門に選んでいただいたということは、監督としてステップアップできたのかな、という自負もありました。
青木:やっぱり嬉しかったです。監督とは以前から釜山国際映画祭や東京国際映画祭でご一緒して食事にも行ったりしていて、今回一緒に参加できて光栄でした。杉野監督はアジアにおいてとても大きな存在の人なので、他のコンペディション部門に選ばれた監督たちと肩を並べても全然遜色ないと思いますし、日本の独自の文学である「雪女」に着目して撮るということは、国際映画祭に重要な意味があったのではないかと思います。

― 本作は古典的な題材にもかかわらず、繊細かつモダンな映像が印象的ですが、海外に向けて発信する意識はあったのでしょうか?

杉野:いわゆる“国際映画祭向けの映画”にしたいという気持ちはありませんでした。もちろん、日本の方も、海外の方にも楽しめる作品にはしたいという思いはありますが、この「雪女」をどうやって自分なりに翻訳して映画化するのか、原作を読んだ時の自分の感触、感覚を生かしつつ、自分なりの新しい視点をどう入れていくかということのほうが一番重要だと考えていました。そういう部分で、“新しい作品”と思っていただけたのかもしれません。

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― 今回、青木さんを最初からキャスティングすると決めていたとお聞きしましたが。

杉野:まず、青木さんを役者としても一人の人間としても、とても尊敬する方だったので、いつかお仕事でご一緒したいと思っていたんです。青木さんて・・・
青木:土(つち)的な感じなんでしょ?(笑)
杉野:そうなんですけど(笑)。パッと見ると、とてもワイルドで動的要素が強そうなイメージがあると思うんですが、お話するとすっごく細かいところまで目を配られる繊細な方。動の中に静を持つ人なんです。
青木:フランケンシュタインみたいだな(笑)。
杉野: (笑)。そういう人が巳之吉を演じることで、雪女と交わったらどうなるんだろう・・・という興味が湧きました。私は原作ではただ木訥とした雰囲気の男というイメージがあったのですが、翻弄されながらも翻弄しているという絶妙なニュアンスを出していただけると思ったんです。
青木:ありがたい話です。ただ自分としては、最初からこうなりたくて、こういう風貌になったわけじゃないんですけどね(笑)。20代前半とかは割と可愛らしい顔をしていたはずなんです。それが、ヒゲが大きく育ち、毛だるまっぽくなってきちゃったんです。体も大きくする作品が重なったりして・・・(笑)。30代に向かって、少しそういう色を出そうとしていたこともありますが。
杉野:そうそう、たまたま3~4年くらい前の青木さんの写真を見る機会があって。顔が全然違っていました!
青木:違うでしょ?顔がツルッとしてたでしょ?
杉野:なんか可愛いかったですよね。
青木:たしか、その時は撮影のために髪型もストレートだったかも。野放しにするとこんな感じですけど(笑)。自分では、山(やま)的というか、土(つち)的なイメージがあるとは思っていなかったんですが、周りの人から言われるイメージって大切だなと感じることはあります。実は『雪女』に出演したあとにもマタギの作品が3作続いたんです(笑)。役の内容はもちろん違いますけど。
巳之吉は、心根の優しい人間ですから、がさつに演じてはいけない。もしかしたら、誰よりも先にユキのことを雪女だと思っていたかもしれないけれど、それを打ち明けられない、打ち明けてはいけないんじゃないかという葛藤がある。本作は脚本も面白かったし、キャラクターの造形の深さも感じました。監督が撮影を進めていくなかで色々な発見もありました。今回ご一緒する4年くらい前に、アジアで女優として、さらにプロデューサーとして活動する杉野さんの存在を知り、是非こういう人と一緒に仕事をしてみたいなと思っていました。その当時はまだ20才代で、これからの世代を担っていく人だと。僕自身も刺激のある現場を経験していきたかった。また今回、日本の古典的な文学に挑むということもすごく面白いと思いましたし、杉野監督は本当に“挑戦の人”です。

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― 今作で主人公・ユキを演じる杉野監督ですが、青木さんは監督が相手ということで演りにくいことはなかったですか?

青木:最初は戸惑いもありましたが、淡々と演じていました。
監督は、女優の他にプロデューサー業もされたりしますので、よく“二足のわらじ”という言い方をされますが、きっとその言葉はもう廃れていくのではないかと思います。やりたい人が色々やれるという状況があるわけで、役者は役者だけというのは固定概念じゃないかな? (監督が)女性だということも注目される点ではあると思いますが、性別も関係なく、監督としても女優としてもしっかり確立して、素晴らしい作品を作っている人ですので、とても心強いです。
撮影も楽しかったです。もちろん、「カット!」をかけるのは監督ですしね。「(監督だから)そうだよな」って感じ。やりにくさはなかったです。相手の女優・杉野さんが監督モードの時は、僕はOFFにしてフラット状態にしていました。スタッフのみんなが寒い中ダウンを着ているなか、真ん中で雪女の衣装のままモニターを見ている姿は、見ていて面白かったですけどね(笑)。
杉野:青白い雪女の格好で、モニター見て「なんか角度が違う・・・」とか言っていましたね、私(笑)。

― 青木さんの目の表情がとても印象的でしたが、ご自身が意識されていたのですか?それとも監督の指示によるものだったのですか?

杉野:たぶんご自身も気にされていたと思いますし、私もとても大事だと思っていた部分ですが、基本的に青木さんから役作りの上で、「巳之吉ってこういう性格してるよね」とか、「普段はこういうことを思っているよね」というアイディアをいただいた上で一緒に役作りをしていった感じです。目のことに関しても、「ここでは瞬きしないほうがいい」という話をしたり。
青木:確かに“瞬き”というのは意味合いが出てしまいますし、脚本を読み、リハーサルをした時点で、どれだけ(ユキに)心を奪われているかを考えていました。びっくりした瞬きや、食い入るように見るときなどあって。観客のみなさんは、巳之吉に気持ちを重ねて観ると思うので、やっぱり目が語るものは大きいかもしれません。
状況に集中して感情が出てくるわけですが、僕自身、冒頭のシーンから相当ワナワナ・・・って感じでしたね。思考停止状態っていうか。
杉野:確かに、そうですね。あと、(佐野史郎演じる)茂作が森の中に出てくるシーンで、青木さんが銃を構える眼差しの先に「そこにユキがいたのかどうか、もしくは猪がいたのか、それとも自分自身がいたのか」と考えさせる。わ~、すごくいい目をされているな、まさに私が求めていた、この目!と思いました。

― では、一番お気に入りのシーンは?

杉野:私はやっぱりラストシーンかな。ユキと巳之吉が二人で会話して、あるセリフを言うのですが、それは恐怖の告白でもあり、愛の告白でもある。そして禁忌の告白でもあるんです。いろんなことが入り混じった告白なんですが、そのときの青木さんの眼差しは、演じているこちらにも、とても訴えかけられるものがあるんです。私から特に「こういう表情をしてください」とお願いしたわけではないのに、「こう来たか」っていう感じでしたね。
青木:ほんとに?(と、驚きつつ)、あの時は・・・、言いたいことを遠回しに言いながら、自分から話すことによって、確信めいたものを感じていって。怖いけど、言わなければ・・・、でも言ってしまったら・・・今まで積み上げてきたことや、この生活がすべて失われてしまうのかもしれないという恐怖・・・本当に色々な思いが入り混じっているんです。凄く集中したシーンでした。
杉野:青木さんも、娘役の山口まゆちゃんも、わかりやすい表情をしていない。本当に複雑で、「人間て生きていたら普通はこんな表情するよね」といったもの。「こうなんだ」という押しつけがましい表情ではないんです。物語は寓話でファンタジーなんだけれど、その表情が物語にリアリズムを与えてくれているんだと思います。あらためて感謝しております。
青木:いえいえ。

青木:僕はそのシーンのほかに、映像の中に差し込んでくる風景がステキで好きです。特に川面に移った光。
杉野:あの時の私は鬼監督でした(笑)。寒い中、3時間くらい皆さんを立たせて「もっとチカチカこうやって!」って。
青木:その甲斐もあって、素晴らしいものになっています。あれはライトですから文明的なものなんだけれど、奇しくも自然と相反する文明なのに、凄く美しい。それが自然の中に侵食されていく感じで嫌味に差し込んだのかな?と思いつつ、一枚の画としてとても美しくて共存の接点なのかなと考えました。
杉野:雪女の対比として(光を)文明だったり、明かりとして撮ったつもりだったんですが、意図せずしていろんなものが入り混じったんですね。見方によっては、光と雪女が交信しているようにも捉えられるようになったのは、嬉しい誤算でした。

― ところで、「雪女」というと、怖いというイメージが先に立ってしますが、ご自身にとって「怖いもの」とは何ですか?

青木: (しばし考えて・・・)う~ん、プリン体ですかね。
杉野: (少し間があって・・・)ん?(大爆笑!)
青木:いや、年齢とともにね、尿酸値が怖いです(笑)。健康が一番ですよ。
杉野:私は自分自身かな? いまだに自分自身がわからない。だからこそ、映画を作っているし役者として演じたいと思うのかも。いつも「私はいったい何なんだろう、人間て何なんだろう」と、自分自身を模索しているんです。自分の未来を含めて、自分がどう行動に出るかわからなくて怖い。「どうして、今私はこう感じたんだろう」と思うと本当に怖くなるときがある。
青木:それは(自分自身に)可能性を感じているんじゃない?

― そういうところから、監督の映画作りへのエネルギーが湧き出てくるんでしょうか?
杉野:そうかもしれませんね。だから、そういう恐怖心から「怪談」という話も生まれてきたのかもしれませんね。

◆杉野希妃(Kiki Sugino)プロフィール
1984年生まれ、広島県出身。慶應義塾大学在学中にソウルに留学。2005年、韓国映画『まぶしい一日』で映画デビュー。続けて『絶対の愛』(06/キム・ギドク監督)に出演。出演兼プロデュース作は、『歓侍』(10/深作晃司監督)、『マジック&ロス』(10/リム・カーワイ監督)、『大阪のうさぎたち』(11/イム・テヒョン監督)、『3泊4日、5時の鍵』(14/三澤拓哉監督)他多数。11年に東京国際映画祭、13年に台北映画祭で特集が組まれ、14年のロッテルダム国際映画祭では日本初の審査員に選ばれる。14年には監督第1作『マンガ肉と僕』が東京国際映画祭、エディンバラ国際映画祭、上海国際映画祭で上映。第2作『欲動』は釜山映画祭「Asia Star Awards」の最優秀新人監督賞を受賞。出演作『海の底からモナムール』、『ユキとの写真(仮)』が公開待機中。

◆青木崇高(Munetaka Aoki)プロフィール
1980年生まれ、大阪府出身。2003年『バトル・ロワイアルⅡ ~鎮魂歌(レクイエム)~』で本格的映画デビュー。NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)「平清盛」(12)、主演ドラマ「ちかえもん」(16/NHK)、連続ドラマW「石の繭」(15/WOWOW)他に出演し、映画『るろうに剣心』シリーズ(12、14)『黄金を抱いて飛べ』(12)。『日本で一番悪いやつら』(16)等がある。映画『雨にゆれる女』(16)では主演を務めた。2017年には舞台「髑髏城の七人」の公演も待機中。

雪女メイン

映画『雪女』
<STORY>
―恐怖と神秘と、そして雪の結晶のように繊細ではかなく美しい愛の物語―
ある時代、ある山の奥深く、吹雪の夜。猟師の巳之吉は、山小屋で雪女が仲間の茂作の命を奪う現場を目撃してしまう。雪女は「このことを口外したら、お前の命を奪う」と言い残して消え去る。翌年、茂作の一周忌法要の帰り道に、巳之吉は、美しい女ユキと出会う。やがて2人は結婚し、娘のウメが生まれる。それから14年後。美しく聡明な少女に成長したウメは、茂作の遠縁の病弱な幹生の良き話し相手だったが、ある日、茂作が死んだ山小屋で幹生が亡くなってしまう。しかも、幹生の遺体には、茂作と同じような凍傷の跡があった。ユキの血を引くせいだと、巳之吉を激しく問い詰める幹生の祖父。巳之吉の脳裏に14年前の出来事が蘇り、以前から自分の中にあったユキに対する疑心と葛藤する。巳之吉があの夜の山小屋で見たものは何だったのか?そしてユキは誰なのか……?

出演:杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎
水野久美、宮崎美子、山本剛史、松岡広大、梅野渚 ほか
監督:杉野希妃
エグゼクディブプロデューサー:坂本敏明、田中弘樹、梶浦隆章、小野光輔、門田大地、市村友一
プロデューサー:小野光輔、門田大地
コプロデューサー:福島珠理、山口幸彦
配給:和エンタテインメント
©Snow Woman Film Partners
公式HP:http://snowwomanfilm.com/

ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマ・ジャック&ベティほか、
全国順次公開中