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役所広司、本木雅弘、松坂桃李ら豪華俳優たちが揃って登壇 『日本のいちばん長い日』初日舞台挨拶

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半藤一利原作の傑作ノンフィクション大作を完全映画化した『日本のいちばん長い日』。
終戦70年の今、太平洋戦争集結の裏側で日本の未来を信じ、命を賭して戦った人々のドラマに迫った本作が2015年8月8日(土)初日を迎えた。この公開初日を記念して、役所広司、本木雅弘、松坂桃李、神野三鈴という豪華出演陣と原田眞人監督、さらには登場人物の遺族も登壇、また遺族からの手紙も紹介された。

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本編終了後、会場中の熱い拍手の中揃って登壇した出演者たち。
役所広司は苦悩する陸軍大臣、阿南惟幾を演じた苦労があったのではと聞かれると「苦労はいつもするんですね。でも、原田監督の現場はいつも休憩する時間がないほどのスピード感であっという間に撮影の2ヶ月が過ぎていく感じがしました。そして監督が家庭人として、父として、夫としての顔を描いてくださったので、僕にとって阿南惟幾さんという人物を演ずるにあたって家庭の部分が力になったと思う」と話し、映画公開にあたり阿南惟幾さんの御子息である阿南惟正さんからの手紙【1】が読まれると、「日本の未来を信じて戦争で戦った方々と戦争に終止符を打つことに尽力された方々が今のこの日本をみて満足してくれるかどうかはわかりませんが、明らかにそういう人たちに自分たちは生かされているというは、この映画に参加して実感しましたし、惟正さんがこの映画について語ってくれることに感謝しています。実在の人物を演ずるのは本当に怖いことで、家族の方もいらっしゃるし、本当に不安でいっぱいですが今回はなんとか合格点を貰ったみたいでホッとしています」と話した。

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本木雅弘は昭和天皇という役柄を演じることに「プレッシャーは浴びるほどに感じ、どこからがプレッシャーかわからないほどでしたが、戦後70年ということで、街の中でも雑誌でも番組の特集でも、そういうものが組まれていて、自分でも発見するところが沢山あったのでとても勉強になりました。演じ終わってもなお、昭和天皇そのものに皇室のある国の一員として、そういう見えない力に守られているなという安心感は、緊張した撮影の中でも、終えても、そういった何かが自分の背中を押してくれたんじゃないかと思います」と話した。また、本木は「うちの家庭ではほとんどニュースとか、それこそ戦争とか平和とかそういう大切なテーマが食卓で語られることはないのですが、普段私の仕事に興味を示さない17歳の息子が珍しくこれは観てみたいということで、会場に来て今の回の上映を観ていました。今日、帰ってからどんな感想が飛び出すのか、とても楽しみにしています。そういう機会を与えてくださった原田監督にも改めて感謝します」と自身の家族のことも話した。

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終戦に反対する若き将校、畑中健二を演じた松坂桃李は「畑中という人物がぶれないように、現場で出てくる感情を純粋に吐き出すようにしようと思いました。他の若手の陸軍将校たちと接していく中で出てくる気持ち、畑中に対してでてくる気持ちは疑うことなく真っ直ぐに出していこうと。監督のOK ! という言葉を頼りに現場では仕事をさせていただきました」と役作りについて話し、諸先輩々のいる現場での撮影について聞かれると「緊張しない場面がなかった。なかでも一番緊張するのは監督とお会いする時なので、今が一番緊張しているかも。(舞台挨拶、登壇列が監督の隣に松坂に)なぜ僕が隣なのか!今、まさに緊張しています」という言葉に監督、出演者たち、会場からもあたたかい笑いが起こった。

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阿南惟幾の妻を演じた神野三鈴は「こんなに素晴らしい役者さんたちの中で、とても大切な阿南惟幾の妻という役を与えてくださった監督のその決断に最初は驚き、このことを監督に後悔しないで頂きたいと思いました。役所さん演じる阿南さんがとても温かく家族思いでイメージそのものの方で、現場でも同じようにみんなに温かく、役者として、大好きで尊敬しています。軍人の妻で、誰にも理解されなかったであろう苦しい彼の唯一の理解者で、同志でありたいと願い、芯だけはぶれないように立っていたが、やはり愛する人を失うということや、どうしても納得いかない戦争に対する理不尽さに対して、自分が引き込まれる感覚があり、どうしたらいいか悩んでいると監督から、そのアンビバレンスさをずっと持っていてくれと言ってもらい、そういう教育をうけた軍人の妻でさえ納得がいかないということにおかしさがあると強く感じました。それを心に持ちながら演じました」と複雑な胸の内を話した。

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そして、なんとこの日は鈴木貫太郎首相のお孫さんである鈴木道子さんがお祝いに駆けつけてくれた。終戦のときに13歳だったという鈴木道子さんのお名前は劇中にもでてくるが、劇中では山崎努演ずる祖父の姿を「今までも祖父の役を演じてくれた名優たちがいましたが、どちらかというと枯れた演技の上手な俳優たちだったため、身内としてはそれでは実際に戦争をおさめることはできないのではないかと思っていましたが、今回山崎さんは見事に終戦をまとめる首相の役を演じてくださって、本当に嬉しく思っています。祖父の家と近かった私は、よく遊びにいきましたが可愛がってくれました。体格も良いが、人柄も泰然として大きくあたたかい人でした。家族ははっきりと祖父から“バドリオになるぞ”[2]という言葉を聞いていますし、当時、日本では売国奴と呼ばれていたけれど、その役を自らかってでるということは、申し上げにくいことですが、最初から戦争をおさめるつもりで首相を受けたと思います。祖父は“永遠の平和”と二度言って亡くなりましたが、今すごく戦争が近づいているので、悲惨な戦争をおさめてきた最後の人物としての最後の言葉として噛み締めて、みなさんも平和の大切さを気づいていかなければいけないんじゃないかと思います」と平和への思いを深く伝えた。

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『わが母の記』で第35回モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリ受賞した原田眞人監督はすべて家族を描いているが、今作でも家族を描いており「僕の作品はすべて家族、擬似家族を扱っているんですが、本作でも戦前の社会で昭和天皇を頂点とする大きな家族があったという考え方を自分で体験すること。その根っこは鈴木貫太郎を父とし、長男に阿南さん、次男に昭和天皇とした擬似家族の構想で、この3人がでてくるシーンはことに最初の頃の回想シーンで、阿南さんが昭和天皇の制服のうしろをピッと引き伸ばすシーンがあるが、あれは実話であのシーンを映像化したかったのです。それから鈴木貫太郎さんが論語の翕如 ( きゅうじょ )という動きでご聖断を仰ぐという、この2つのくだりで3人が一緒になるところ。その家族の構図が僕にとって、撮っているときにも心が震えるようなシーンでしたし、これがこの作品の核だと思っています」と話した。

最後に役所広司は「今日は本当にありがとうございました。戦後70年、この国は戦争もなく、平和に暮らしてきました。鈴木貫太郎の言葉通り、永遠の平和はこれからも100年、200年続くように祈りたいと思います。是非、またこの映画を観に来てください」と締めくくった。

日本のいちばん長い日ポスター

『日本のいちばん長い日』絶賛公開中
http://nihon-ichi.jp/

[1]:阿南惟正さんからの手紙
戦争集結に関しての鈴木総理の苦心、ご聖断が下ってから全陸軍の責任を負って自決するまでの阿南陸軍大臣の行動が極めて明確に描かれています。加えて、家での父の子煩悩な面も紹介されており、公私両面に渡り役所広司さんがきっちりと演じてくださったと思っています。改めて御礼申し上げる次第です。
終戦間近のある日、慌ただしい中帰宅した父に「ソ連まで敵に回って勝てるのですか?」と聞いたことを思い出します。当時、私は中学一年、陸軍幼年学校の受験準備中でした。「日本が負けることはない。君たちはしっかり勉強していればよいのだ」父はいつもの温顔で答えてくれました。それが父と交わした最後の対話です。
父の死は妹と弟たち4人揃って母から聞きました。悲しみと同時に戦争はどうなるのかと不安になったことを憶えています。
この70年、日本は焦土の中から復興成長し、経済的繁栄と平和を享受するに至りました。これも祖国を守るべく尊い命を捧げた多くの方々の犠牲の上に築かれたという思いを改めて深くする次第であります。
平成27年8月 阿南惟正

[2]:バドリオになるぞ
バドリオとはピエトロ・バドリオのことで、イタリア王国の首相(在任:1943年7月25日 – 1944年6月10日)、軍人。1925年から1940年にかけて陸軍参謀総長を務めたが、ムッソリーニと対立して辞任した。ムッソリーニ失脚後の1943年に首相となり、連合国と休戦、対独宣戦。ローマ解放後、首相を辞任した。
連合軍に降伏した首相なので、それに掛けてバドリオになるぞと話している。