7月25日に開幕した、柿澤勇人、吉沢 亮の主演(Wキャスト・五十音順)のミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」について、ゲネプロ観劇レポートをお届けする。

ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』は、2016 年にニューヨーク・ブロードウェイで上演されるやいなやチケットが連日完売。第71回トニー賞でミュージカル作品賞・ミュージカル脚本賞・オリジナル楽曲賞など6部門に輝き、第 60 回グラミー賞や第 45 回エミー賞なども受賞。2021年に映画化され、社会現象ともなった大ヒット作だ。韓国では2024年にアジア初演され、「日本でも是非とも上演を!」と熱望されていた作品だ。
その日本初上演は、EX THEATER ARIAKE OPENING LINEUP の第3弾として、東京ドリームパーク内の新劇場・EX THEATER ARIAKEにて、豪華出演者がWキャストで揃う公演となった。日本版の翻訳・演出は小山ゆうなが担当した。
【物語は…】
母と二人暮らしの高校生エヴァン・ハンセンは、社交不安障害を抱え、孤独な日々を送っていた。セラピーの一環として、自分宛に手紙を書く課題を与えられたエヴァンは、「ディア・エヴァン・ハンセン」という書き出しで、抱え込んでいる不安や、片思いしているゾーイへの思いを書き綴った。その手紙を偶然、ゾーイの兄・コナーが見つけてしまう。コナーは激怒し、その手紙を持ち去ってしまう。
その後、コナーは自ら命を絶ってしまう。コナーの両親は、エヴァンの手紙を発見し、エヴァンをコナーの親友だと思い込んでしまっていた。悲しみにくれるコナーの両親を前にして、とっさにエヴァンは「自分がどんなにコナーと仲がよかったか」「だが学校では互いに知らない振りをしていた」と嘘をついてしまう。コナーが孤独だったと思っていたコナーの両親は喜び、ゾーイもエヴァンの嘘に慰められていく。
喜ぶコナーの家族の姿を見て、エヴァンはさらに嘘を重ねていってしまう。
やがてその嘘は、大きな波となりエヴァンを飲み込んでいく…。

ゲネプロは、初日に先立ち行われたプレスコールと同じキャストの組み合わせで行われた。(順序は初日順)
☆エヴァン・ハンセン役:吉沢 亮、ハイディ・ハンセン役:安蘭けい、ゾーイ・マーフィー役:木下晴香、コナー・マーフィー役:廣瀬友祐、ジャレッド役:上口耕平、アラナ役:宮澤佐江、シンシア・マーフィー役:瀬奈じゅん、ラリー・マーフィー役:新納慎也ほか。
☆エヴァン・ハンセン役:柿澤勇人、ハイディ・ハンセン役:堀内敬子、ゾーイ・マーフィー役:松岡茉優、コナー・マーフィー役:立石俊樹、ジャレッド役:須賀健太、アラナ役:高野菜々、シンシア・マーフィー役:マルシア、ラリー・マーフィー役:石井一孝ほか。
オープニングは、エヴァンが自分宛に手紙を書くひとり語りの場面から。(https://youtu.be/ZQzc48Dy7HQ 冒頭10秒)
真っ暗なステージ上には、パソコンに向かうエヴァンだけが浮かびあがる。エヴァンの不安で頼りなげな姿に、観客の目も耳も自然に集中し、いつの間にか息を呑んで彼を見守り寄り添う気持ちの時間が始まっていた。
とはいえ、柿澤エヴァンと吉沢エヴァンは、まったく違う。エヴァン役に限らず、すべてのWキャストがまったく違って、その違いがこれほど楽しめるミュージカルは多くないだろう。演出が、キャストそれぞれの個性と役へのアプローチを大切にしながら作り上げたのだろう。その意味でも、今だけしか観ることができない作品だ。
そして音楽がいい。聴かせるソロも、華やかに盛り上げる大ナンバーも、その場はもちろん、観劇後にもじっくりと沁みてくる。映画『ラ・ラ・ランド』、『グレイテスト・ショーマン』を手掛けたベンジ・パセク(Benj Pasek)とジャスティン・ポール(Justin Paul)のパセク&ポール(Pasek and Paul)の楽曲を堪能してほしい。

最初に観たのが、吉沢亮のエヴァンだった。吉沢エヴァンの手の震え、目の動き、そして息遣い。他人との関わりが苦手な、今にも壊れそうな10代の少年がそこにいた。彼の必死な思いの語りが、やがてそのまま歌になっていく。「そうか、エヴァンとはこういう人か」と、心に滑り込んできた。母を演じる安蘭けいとのやりとりで見せるふとした表情や言葉の勢いも、思春期のリアルを感じさせてくれた。

そんな吉沢エヴァンを観た翌日、柿澤エヴァンと出会った。

柿澤勇人は演じてきた役柄の中でも、例えばミュージカル『スリル・ミー』彼(リチャード)役、ミュージカル『フランケンシュタイン』ヴィクター・フランケンシュタイン役、ミュージカル『ジキル&ハイド』ヘンリー・ジキル役などは、スマートで飛びぬけて優秀な人物。それは彼自身のイメージや体格(スタイル)とも合致していたように思う。そんな柿澤が見せる内気で繊細なエヴァン。自分の影となんとか折り合いをつけようと、いや、ごまかしつつ必死に明るく生きようとしているエヴァン。でも、それはギリギリで、心にあふれた思いは歌となる。背を丸めたままつぶやく声が響き渡わたっていく。

ふたりのエヴァンが、いろいろな出来事に遭遇して、変化・成長していく様も、まったく違って共に良い。ふたりに共通するのは、歌詞もセリフも明瞭で、聞き取り易いこと。心情を大切にする本作だからこそ、丁寧に作ってきたことがうかがえる。できることなら、是非ともふたりのエヴァンを観て欲しい。
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左から)ハイディ・ハンセン役:安蘭けい、エヴァン・ハンセン役:吉沢亮
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左から)エヴァン・ハンセン役:柿澤勇人、ハイディ・ハンセン役:堀内敬子
安蘭けいと堀内敬子が演じるエヴァンの母親・ハイディは、パラリーガルを目指すアグレッシブでカッコいい女性だ。だがハイディは仕事や自分の人生への挑戦のために、愛する息子のために十分な時間をとることができない後ろめたさを抱えながら生きている。エヴァンとの会話から、限られた時間の中で、ハイディがエヴァンと少しでも心を通じたいという思いが伝わってくる。子を持つ女性には刺さる場面が多いのではないか。
安蘭けいの母としての揺らぎや誇り高さが垣間見れる瞬間、堀内敬子の優しさがにじむ表情、そして心に響く歌に心つかまれる。ハイディが歌う「大きな家 小さな私/So Big/So Small」は、誰の人生にも支えになる一曲だ。(https://youtu.be/ZQzc48Dy7HQ 2分35頃から始まる)
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左から)ゾーイ・マーフィー役:木下晴香、エヴァン・ハンセン役:吉沢亮
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左から)エヴァン・ハンセン役:柿澤勇人、ゾーイ・マーフィー役:松岡茉優
エヴァンが恋心をいだく相手・ゾーイ・マーフィーは強そうに見えて、実は純粋で脆さを抱える女子高生。木下晴香と松岡茉優が演じる。
ミュージカル界でデビューから活躍し続け、近年では映像作品でも躍進する木下晴香と、映像で活躍し続け、舞台経験は少なくないがミュージカルのイメージがまったくない松岡茉優。こちらも意外なWキャストだと思っていたが、ふたりともに透き通った歌声を持っていた。木下ゾーイは人一倍鼻っ柱が強そうで、内面の弱さとの落差が大きい。やはり伸びやかな歌声はピカイチだ。松岡はたったひとことのセリフからもピュアな内面を感じさせてくれる。ソロはもちろん、美しいハーモニーを聴かせる場面も必見だ。

左から)コナー・マーフィー役:廣瀬友祐、エヴァン・ハンセン役:吉沢亮
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左から)ジャレッド役:須賀健太、エヴァン・ハンセン役:柿澤勇人、コナー・マーフィー役:立石俊樹
ゾーイの兄・コナーを演じるのは、ミュージカルの手練れ、立石俊樹と廣瀬友祐。
親につっけんどんで乱暴者のコナーと、エヴァンの頭の中のコナーは、まったくの別人。しかも、エヴァンの頭の中のコナーは、どんどん変わっていき、時に笑ってしまうほどユーモアあふれる姿になり、時にエヴァンを包み込む大きさを見せる。その変化は2役か3役か、いや、それ以上だ。ふたりの技量に感服だ。
観劇後には、エヴァン、コナー、そしてジャレッド、3人の個性的な男子の生き様も、作品の柱のひとつでもあると思い至った。
ジャレッド役:上口耕平、エヴァン・ハンセン役:吉沢亮、アラナ役:宮澤佐江、シンシア・マーフィー役:瀬奈じゅん、ラリー・マーフィー役:新納慎也t.jpg)
左から)ジャレッド役:上口耕平、エヴァン・ハンセン役:吉沢亮、アラナ役:宮澤佐江、シンシア・マーフィー役:瀬奈じゅん、ラリー・マーフィー役:新納慎也
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左から)ジャレッド役:須賀健太、アラナ役:高野菜々、エヴァン・ハンセン役:柿澤勇人
そのジャレッドを演じるのは上口耕平と須賀健太。
上口耕平の出演作は数多く観てきたが、ジェレット役が上口だと気がつくまでかなりの時間がかかってしまった。それほどに自らの色を消し去って生み出した、一度見たら忘れられない、クセ強めなジェレッドだ。エヴァンとのやりとりも「そんなジャレッドならそう言いそう!」と思わせてくれる。歌もダンスのキレも抜群な、カメレオン俳優の誕生だ。
一方、31歳にして芸歴27年の須賀、意外にも本作がミュージカルデビュー。だが不安は微塵も感じさせない。自身の個性の上に生み出したジャレッドは、可愛らしさと小憎たらしさが相いまった、調子のいい青年。こちらも「いる、いる!」と思わせてくれる、実在感あふれるジャレッドだ。
物語の空気を一変させるのが、高野菜々と宮澤佐江が演じる、エヴァンの同級生・アラナだ。
アラナの「おい、おい、それってどうよ!」と思うような言動も、彼女の直情径行の明るさと頭の回転の速さに吹き飛ばされてしまう。その笑顔と、軽やかさは、本作の清涼剤。美しいハーモニーをたくさん聴かせてくれるのもうれしい。
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左から)シンシア・マーフィー役:瀬奈じゅん、ラリー・マーフィー役:石井一孝、エヴァン・ハンセン役:吉沢亮、ゾーイ・マーフィー役:木下晴香
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左から)エヴァン・ハンセン役:柿澤勇人、シンシア・マーフィー役:マルシア、ラリー・マーフィー役:石井一孝
この作品の大切なテーマ、家族を象徴するのが、コナーとゾーイの両親、シンシアとラリーを瀬奈じゅんとマルシア、石井一孝と新納慎也が演じる。
難しい年ごろの息子に心を砕く母親・シンシアの姿、息子に向き合うことをしていなかった父親の態度に心痛める観客が多いだろう。そして、息子を失い涙にくれるふたりを前にすると、観客はエヴァンの嘘にハラハラしながらも涙が止まらない。
また日本版にだけ登場するのが、各登場人物の“影”。ダンサーが登場人物に寄り添うように踊る。初見では、物語の全体とキャラクターを追うので精一杯で、“影”が意味するところまで考えながら観ることができなかったのだが、そこに注力して観る回もあったら楽しいだろうと思えた。
そして、もうひとつ。ジャレッドとゾーイの、場面転換のたびに変わる衣裳が楽しい。SNSを描くデジタルな映像演出とともに、“今”を感じさせてくれる大事なエッセンスとしても見逃したくないポイントになっている。
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公演時間は1幕85分、休憩25分、2幕70分。誕生間もない新劇場EX THEATER ARIAKEは、前方席にかぎらず、どの席でも観やすい。休憩時のトイレの列は長いが、予想を上回る速度で進む。
8月下旬からは名古屋・大阪でも上演されるので、チケットを手に入れることができたら、ぜひとも劇場へ足を運んでほしい。必ずや忘れられない劇場体験になるはずだ。
ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』
東京公演: 2026年7月25日(土)~8月23日(日) EX THEATER ARIAKE
愛知公演:2026年8月29日(土)~9月6日(日) 御園座
大阪公演:2026年9月10日(木)~9月21日(月)梅田芸術劇場メインホール
<スタッフ>
脚本:スティーヴン・レヴェンソン
作詞・作曲:ベンジ・パセック/ジャスティン・ポール
翻訳・演出:小山ゆうな
訳詞:高橋知伽江
音楽監督・歌唱指導:清水恵介
振付・ステージング:松田尚子
<キャスト>
エヴァン・ハンセン:柿澤勇人/吉沢 亮*
ハイディ・ハンセン:安蘭けい/堀内敬子*
ゾーイ・マーフィー:木下晴香/松岡茉優*
コナー・マーフィー:立石俊樹/廣瀬友祐*
ジャレッド:上口耕平/須賀健太*
アラナ:高野菜々/宮澤佐江*
シンシア・マーフィー:瀬奈じゅん/マルシア*
ラリー・マーフィー:石井一孝/新納慎也*
尾関晃輔、澤村 亮、瀬崎宙乃、十川大希、福島玖宇也、藤田実里、渡邉 南
*=Wキャスト 五十音順
企画制作:ホリプロ
公式HP=https://horipro-stage.jp/stage/dearevanhansen2026
動画では「今日はいい日になる、理由はこうだ」という書き出しでエヴァン(柿澤勇人)が自分への手紙を書き始める物語の幕開けのシーンから、エヴァン(柿澤勇人)が思いを歌い上げる場面、エヴァン(吉沢亮)の「誰かが見つけてくれる」という想いのこもったスピーチシーン。そして、エヴァンを取り囲む人物たちの人物像が垣間見える場面へと続く。














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