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ミュージカル『チョコレート・アンダーグラウンド』平野綾インタビュー「役者冥利に尽きる」モファット役は「自分と重ねてしまうところがある」

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ミュージカル『チョコレート・アンダーグラウンド』が、6月5日の東京公演を皮切りに大阪、富山で上演される。
同名小説を脚本・作詞高橋亜子×音楽オレノグラフィティ×演出石丸さち子の3人のトップクリエイターと、少年忍者の北川拓実を迎え、共演には、東島京と木村来士をはじめ、平野綾、岡田浩暉、土居裕子、浦嶋りんこ、まりゑ、小松季輝、佐藤匠、中川賢、陰山泰という出演者が世界初のオリジナルミュージカルとして届ける。個性豊かなキャストが名を連ねる中、平野綾がインタビューに応じてくれた。

本作は、国民が選挙に無関心だったために、いつの間にか極端な政党が政権をとってしまい、健康増進の名の下にチョコレートが禁止されてしまった社会で、その間違いに気付いた者たちが、自由を取り戻すための戦いを始める…という物語。
この作品の中でチョコレートが象徴するのは、生活の中の「自由」や「楽しみ」や「緩み」、そして「寛容」。それらが奪われたとき、どうなるのかを問いかける。

平野綾が演じるのは、チョコレートの宣伝をするチョコレートガールとして、長年広く人々に親しまれてきたエリザベス・モファット役。チョコレートが禁止されたことで、人生が暗転してしまう。

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俳優・声優・歌手として活動してきた平野綾。芸歴は28年、ソロデビュー20周年を迎えた。近年は、1月に公開された劇場アニメ「ベルサイユのばら」ではマリーアントワネットの声を担当(Netflixで世界配信中)。5月10日に新曲「evolutions」を発表。ソロツアー真っ最中にもかかわらず取材に応じてくれた。

―新曲発売、ツアーと、超多忙な時期とお稽古が重なる中でありながら、この作品に出演しようと思われたのは、特別な理由があるのでしょうか?
一番は、石丸さち子さんと昨年の頭に朗読劇「はじめての」<後編>でご一緒させていただいた時に、「是非、綾ちゃんに出ていただきたい」と声をかけていただいたことです。「直々に言っていただけるとは、なんて嬉しいこと!」と思っていたら、脚本・作詞は高橋亜子さんで、音楽はオレノグラフィティさんだと聞いて「こんなに楽しそうな布陣はない!」と思いました。しかも、オリジナル作品のオリジナルキャストで、とても光栄なことだと思い「是非やらせてください!」と、すぐにお返事させていただきました。

―その際、原作は「チョコレート・アンダーグラウンド」だとお聞きになられたのですか?
はい。私はとっても読書が好きなんです。朗読劇「はじめての」<後編>は、小説の朗読劇だったので、石丸さんと好きな本の話で盛り上がって「お互い、昔は文学少女だったね」なんてお話しました。そこで「『チョコレート・アンドグランド』知ってる?」と聞かれて、私は学生の頃に読んだ遠い記憶があったので「知ってる!」と。その時は「私がやる役、あったかな?」「そっか、原作では男性の役だ」と。それから原作を再び読みました。

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―元々男性の役だったモファット役が、どこで女性に変わったのでしょうか?
どういう経緯でモファットが女性になったのか、わかりませんが、石丸さんから「綾ちゃんがやってくれるのなら、こうしたい」というお話しを聞いたので、たぶん私が出演したいとお返事してから、加えられた要素が多いのではないかと思ってます。原作のキャラクターとは違うモファットになっているので、当て書きに近いというと大袈裟かもしれないですが、作り変えてくださったんだと思います。
モファットのソロ曲「♪愚かで美しいこの世界」も、歌稽古の初日に、(高橋)亜子さんも来てくださって「モファット役が平野さんだと知って、すごく力入れて歌詞を書いたんですよ」と言ってくださって。そんなお言葉をいただけるなんて、役者冥利に尽きます。本当に嬉しかったです。

日比谷フェスティバル2025で、平野さんが「♪愚かで美しいこの世界 」を歌われた時、私はモファットがどんな人なのか、どういうシチュエーションでの歌なのか、知らずに聴いていましたが、聴いているうちに俳優の歌だとわかって、勝手に平野さんとモファットがオーバーラップしてしまい、撮影しながらボロボロ泣いてしまいました。
そんなふうに言っていただけるなんて!本当に歌詞の内容も音楽も素晴らしくて、最初に「これがソロ曲です」と渡された時に、私、迂闊にも泣いてしまいました。こんなにすごい、素敵な曲をオリジナルで作っていただけるなんて…。ほんとに胸がいっぱいになりました。
オレノグラフィティさんは長年の友達なので、「この曲をもらった時にちょっと泣いちゃった」と話したら、オレノグラフィティさんも、私の最初の歌稽古の映像をご覧になったとき「実はちょっと自分も涙出ちゃったんだよね」とおっしゃっていて。それを聞いて、みんなが通じ合ってるな、すごく素敵な現場だなと思ってしまいました。
この曲を歌わせていただけること、役者としての幸せを、日比谷の時も感じて、すごく嬉しく思っています。

平野綾 ♪愚かで美しいこの世界

―また公演で聴けるのが楽しみでしょうがないです。
ありがとうございます。いろいろな人の人生を役者として演じてるからこそ、いろんな人の人生を背負って歌えるということでしょうか。同じ役者として、「この曲歌いたい!」と思う方がいっぱいいるだろうと思います。「この作品で、この曲を生み出してくれてありがとうございます!」という気持ちになってます。

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―台本を拝見させていただいたのですが、モファットというお役は、振り幅がとても大きい役ですね。
モファットはコメディ要素として出てくる時もあれば、シリアスなシーンで突然出てくる時もある。要所要所にスッと出てくるので、インパクトを残せたらいいなと思っていたのですけれど、切り替えを上手くやらないと、いろんな面を出しすぎて統一感が無くなってしまう。モファットの人間力を打ち出す表現をしなければと思っています。

―確かに、モファットは1人の人物なのにいろんな顔や姿がありすぎて、その軸になるものが難しそうですね。モファットの複雑な内面を、どう捉えられておられますか?
生まれついて厳しい環境だったわけでも、辛い中で状況を良くしようと思ってきた人でもなく、ちやほやされて、何もかもうまくいって、全て手に入れて輝いていた状態から、何もかも失って、どん底のホームレスに突き落とされてしまうモファットのような役は、これまであまりなかったかもしれません。
でもモファットが、自分が輝いてた時をいつまでも引きずってないところが、私は好きで、そう演じたいと思ってる部分です。
もちろん、モファットにもあの頃に戻りたいという思う気持ちもあるから、元のエージェントに電話をかけまくって、「仕事取ってきてよ!」とも言うのですけれど、自分が奪われてしまったものは不当に奪われてたとわかっているから、奪われたものこそが、自分にとっても、世界にとっても大切で、求めているものだと思っているから、それを奪った人たちを絶対に正しいと思えないから、ホームレスになってしまった今の自分も間違ってないという感覚がちゃんとある。
「世間がそうなっちゃったんだから、今は怒りを胸に秘め、世間に従うしかないけど、でもあの頃の自分は間違ってなかったと思うし、今は何もかも、あの頃のものは全部手放してしまったけど、この心がある限り私は生きていける」と思って達観しているんです。でも、それにすがってもいないし、「またいつか取り戻せる日が来るよ、そのために頑張ってるんだ」と、明るく切り替えられる力がある。たぶん彼女の人生にはいろんなことがあって、その中で身につけたんでしょうね。
受け止めきれないような、すごく辛いことや大きな出来事も「自分が頑張ればなんとかなる」「私さえしっかりしてれば、私がそれを失わなければいいことなんだ」と思える彼女の強さを常に出していたいと思っています。

―それがモファットさんの軸なんですね。
そうですね。モファットはスマッジャーとハントリーが幼い頃から何年もチョコレートガールをやっていて、ずっとCMにも出ていて、全国的にもモファット=チョコレートと結びつくくらいに人気を博していて、それなりに財産も手にしていたと思うんです。でも彼女は「私はシェイクスピア劇にも出てたのよ」という、本当は芝居をしたい人なんですよね。だから、チョコレートガールというマスコットガール的な扱いは、不本意だったと思うんです。でもそのおかげですごい人気が出て、いろんなお仕事をやれるようになったけれど、それらはやっぱりチョコレートガールの上に乗っかってるお仕事だから、財産や名声を手にしても、役者としては満足できてないはず。そして、本当に自分がやりたい役者像とは、ずれているところでずっとお仕事を頑張ってきたのに、それも失ってしまった。彼女が本当に目指してるものが、実はまだ実現できてないと思っています。
だから、チョコレートが奪われて、みんなで取り戻そうという革命の後に、彼女は本当に手にしたいものを手に入れするために頑張るんじゃないかなと思うんです。モファットさんは静かに戦い続けていると思います。
そこは、自分が歩んできた流れとも似ているところがあります。肩書きは、私の中でとても大きなライバルでもあったので。この肩書きをどう崩すか、みなさんが抱いている印象をどう崩していくか、そういう戦いは私もしてきたことなので、そこはモファット役にも反映できると思ってます。

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―私事で恐縮ですが、「涼宮ハルヒの憂鬱」のモデルとなった高校の出身で、平野さんがミュージカル『嵐が丘』にご出演されたときに観に行きまして「やっぱりステキな方だ!」と。
えっ、ありがとうございます!私もモファットと同じで、元々舞台がやりたくて、この世界に入ったのですが、なかなか舞台の経験が踏めなくて、ようやく舞台に出演できるようになった時には、声優という肩書きがついていたので、声優として舞台をやってるように見えないためにはどうしたらいいのか、ずっと戦っていました。
それで、きちんと舞台の勉強をしなきゃと思って、お仕事も全てお休みして、1人でニューヨークへ留学して、その頃くらいからようやく舞台俳優として見ていただけるようになったので、モファットに自分を重ね過ぎてもいけないのですけれど、「♪愚かで美しいこの世界」を歌ってる時は、自分と重ねてしまうところがあります。
ある意味、夢が叶ったのですけれど「まだ叶えきれてない」「まだまだ私の夢、これだけじゃない」と思って、ずっと頑張り続けてきたので、そうやって言っていただけると、頑張ってきてよかったと思います。

―こちらこそ、ありがとうございます!インタビューの終盤ですが、ソロデビュー20周年で、新曲も出されて、ツアー中でもありますね。その思いをお聞かせいただけますか?
舞台とは違うジャンルではありますけれど、私の中では、全部一緒、一貫しています。でも、ソロとして20年、他のジャンルを経験してきたからこそ、1つのジャンルを続けること、極めることの難しさを感じています。こっちもあっちもと驚かれますけれど、私は元々「役者一筋で」と思っていて、歌手としてデビューするとは全く思っていなかったので「人生って何が起こるかわからない」と思います。
でも、私が作詞もやらせていただいて、自分の言葉で自分の音楽を届けられる環境を追い求めてこられたことも、その環境を作っていただけた周りにも感謝ですし、今回「待ってました!」と言ってくださったファンの方がこんなにもいたんだと、ツアーで各地をまわらせていただいて実感しています。
今回初めてツアーで行く場所もあり「20年目でもまだこんなに初めてがあるんだ」と、とっても新鮮に携わらせていただいています。

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―最後にこれからの抱負を1つ。この作品のおすすめを1つ伺わせてください。
国内ツアーが終わったらアジアツアーがあります。去年もやらせていただいたのですけど、今年はまた違った趣向にしたいと思っています。
一昨年、昨年、今年と駆け抜けたので、ちょっとお休み期間を設けようとは思っていますが、そのお休みも、ただ休むだけではなくて、世界を見たいと思うので、まだ行ったことがない国や場所に行きたいですし、全世界のフェスに参加する予定です。
今いる場所だけにとらわれずに、視野を広げて、俯瞰して自分を見直す良いきっかけになればと思っています。常に何かしらサプライズがお届けできるように頑張ります。

―ミュージカル『チョコレート・アンダーグランド』については?
作品のテーマは、どう主体性を持つか、自分がどう動くかという今にぴったりの現代劇です。
稽古場では若い(北川)拓実くんも(東島)京くんも(木村)来士くんも、全力で本当に素晴らしいお芝居をしているので、その姿に大人たちが心動かされて「寄り添いたいな」という気持ちが自然に生まれています。そして、素敵な大人たちが集まってるところも、この作品のすごくいいところです。
この作品ではチョコレートが禁止されてしまうのですが、自分にとって大切なもの、人にとって大切なものは何なのかを思い浮かべながら、自分の生活に当てはめてもらえたら、今の世の中について考えるきっかけになるのではと思います。

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タイトル:ミュージカル『チョコレート・アンダーグラウンド』
原作:アレックス・シアラー
翻訳:金原瑞人(求龍堂刊)
脚本・作詞:高橋亜子
音楽:オレノグラフィティ
演出:石丸さち子
Cast:
スマッジャー・・・北川拓実
ハントリー・・・東島京
フランキー・・・木村来士

モファット・・・平野綾
ジョン・ブレイズ・・・岡田浩暉
バビおばさん・・・土居裕子
様々な役を演じる・・・浦嶋りんこ まりゑ 小松季輝 佐藤匠 中川賢 陰山泰
<様々な役を演じる>
健全健康党の党首、党の男、警官隊、スマッジャーの父と母、ハントリーの父と母、依存症患者、少年団団員、チョコレート捜査官、警察本部長、語り部、学校の生徒など多数 約40役を演じ分ける
【東京公演】2025年6月5日(木)~6月15日(日)よみうり大手町ホール
【大阪公演】2025年6月21日(土)13:00 18:00 :森ノ宮ピロティホール
【富山公演】2025年6月28日(土)13:00 29日(日)13:00:富山県民会館ホール

ダイジェスト①東島京、平野綾、岡田浩暉、土居裕子、浦嶋りんこ、まりゑ、小松季輝、佐藤匠、中川賢、陰山泰、石丸さち子