Open Close

舞台『三人姉妹』インタビュー 保坂知寿&霧矢大夢&平体まひろ 保坂「すっと心に入ってくるようなスパイスがいっぱい」霧矢「金字塔が来た!」平体「謎は謎として、少しずつイリーナと仲良くなっていければ」 

舞台『三人姉妹』インタビュー 保坂知寿&霧矢大夢&平体まひろ
保坂「すっと心に入ってくるようなスパイスがいっぱい」
霧矢「金字塔が来た!」
平体「謎は謎として、少しずつイリーナと仲良くなっていければ」

s09_0370

平体まひろ  保坂知寿  霧矢大夢

チェーホフの四大戯曲のひとつ、『三人姉妹』が、2023 年9月23日(土)~9月30 日(土)に、 演劇ユニット「unrato」により自由劇場にて上演される。
モスクワでの華やかな生活に戻ることを夢見ながら、田舎の閉塞感に満ちた日常の中で生きていく三姉妹と、その周りの人々の生き様描く。三姉妹を演じるのは、保坂知寿、霧矢大夢と、文学座の平体まひろ。
保坂と霧矢、霧矢と平体は共演があるも、保坂と平体はこの日が初対面。とはいえ、この取材時には、すでに三人がワンチームだと感じられるほど、なごやかな雰囲気になっていた。

『三人姉妹』の面白さ、 “姉妹”についての思い、そして演劇ユニット「unrato」の魅力とこの作品を通しての問いかけについてもお話しいただきました。

s09_0408

―この作品が決まった、あるいはオファーが来た時のお気持ちや決め手を教えてください。
保坂:チェーホフの作品は、昔、読んだことがあり、2021年に出演したunrato#7『楽屋〜流れ去るものはやがてなつかしき〜』(以下『楽屋』)の劇中に、『三人姉妹』のセリフも出てくるので、その時にも勉強はさせていただいていました。
『楽屋』で演じたのは幽霊で、毎日稽古はするけれども本番は来ないという設定だったので、つい先ほども演出の大河内直子さんと「今回は晴れて本番ができるから浮かばれたね」と話していました。今回の出演をとても嬉しく思っています。

霧矢:私はチェーホフ作品に初挑戦になります。「unrato」には、再演も入れると、すぐには何回と言えないくらい出演させていただいているので、今年もまた出演できることがとても嬉しいです。チェーホフ『三人姉妹』は「金字塔が来た!」というイメージ。新たな挑戦を芸術演劇の秋にさせていただけると、とても期待しています。

平体:「やった!しかも『三人姉妹』!」と、とても嬉しかったです。というのは、チェーホフの作品の中でも『三人姉妹』はとても好きな作品。イリーナという役は、20代のうちにやりたいと思ってた古典作品の役のひとつだったので、「はい!お願いします!」という気持ちでした。そして、キャスト表が来たら、お姉さまおふたりのお名前があって「すごい方と一緒だ!」とちょっと緊張しましたが、すごく光栄で、とっても楽しみにしてます。

s09_0418

―「unrato」の作品づくりにとても魅力を感じておられるようですね。どんなところが魅力ですか?
保坂:大河内直子さん、プロデューサーの田窪桜子さんの、本当に良いものを、丁寧に時間をかけてつくりたいという気概が大好きです。例えば、派手にして集客しやすくするとか、やり方はいろいろあると思うのですが、あえてそうではなく、本当に自分たちがやりたいと思う作品を、時間をかけて作ろうとしている。ここで出会える人たちも「unrato」さんの魅力です。スタッフワークも丁寧で、プロフェッショナルなカンパニーなので、稽古していて「豊かだな」といつも感じています。

霧矢:私も知寿さんと同じことを感じています。少数精鋭のスタッフの方々と、ひとつ、ひとつ、1から組み立てていける環境もありますし、個人的には、小劇場、ストレートプレイを初体験させて頂いたのも「unrato」さんの舞台。女優としての私を育てて下さった礎となってるような存在です。いろんなことに挑戦させていただいていて、それがミュージカルや他の舞台にも活かされています。大きなミュージカル作品などの出演が続いていると、自分の芝居をじっくり見つめ直す時間、脚本をしっかり読み解く時間が少なくなりがちですが、ここではセリフだけで届けるという芝居の基本の基本を教わっています。まだ自分は発展途上だと思っているので、その学びの場となっています。

―だから幾度も出演されている?
霧矢:そうですね。帰ってきたい場所です。

s09_0427

―平体さんは「unrato」の作品には初出演ですが、惹かれていた理由は?
平体:プロデューサーの田窪さんと、『東京原子核クラブ』でご一緒して、田窪さんの演劇に対する思いが好きで尊敬しています。その田窪さんがやっておられる「unrato」の作品にずっと出たいと思っていました。
公演を観に行くと、舞台セットや照明もそうですが、耳にもとっても美しいんです。そして役者の皆さんが本当に生きたお芝居をなさっていて、そのマリアージュがとてもいいなという印象でした。先ほどの取材で、霧矢さんから「大河内さんが、役者に投げてくれることが多く、役者がいろいろ探っていくことを許してくださる」と聞いて、だから劇場で役者たちがのびのびとしている姿を私は見られたんだなと、すごく納得がいきました。そんなクリエーションの一員になれるのが、すごく楽しみですし、いろいろ吸収していきたいと思います。

霧矢:「unrato」さんの舞台には、大河内さんの美学、美意識があって、脚本に書かれてることから外れたくないという信念もお持ちです。もちろん、今の私たちが演じたらこうなるというところには行くんですけれども、固定概念を持ち過ぎず、でもすごい冒険をするわけでもなく、脚本に書かれたこと、ト書きを大切に丁寧に作っていきます。例えば、セットや劇場の条件のために、脚本通りにできなかったことがあって、一度は「これはできないからやめておこうか」となったとしても、稽古を重ねていくと「ごめん、やっぱりこれをしないと、ここに繋がらない」と、“台本に書かれてることは、すごく理に適っている”という発見をされる。だから「作品の品格がぶれない舞台だ」と、いつも思ってます。

s09_0442

―三姉妹というお役については、どうお考えになっていますか?
保坂:この三人姉妹が主役ではなく、他の誰かが主軸となる物語でもなく、登場人物全員が「こういう人いる、いるよね」と思える作品だと思いますが、ひとりの人間はいろいろな面を持っているので、「私は今こう思って、こういう人なのでこうします」というような分かりやすい人間はいないし「一番上のお姉ちゃんって、こういうキャラクターだよね」というようには考えたくないと思っています。「こういう人物像を狙って芝居していく」というよりも、台本にキャラクターが明確に書かれているので、出来事や、出来事に対して発する言葉を丁寧に辿っていく。なぜそんな発言をするのか、観客にわからなくてもいい。日常で誰かが奇声を発しても、なぜかはわからないけど、リアリティはあるわけですから。 最終的にご覧になった方が「この人は、こういう人間なのか」と感じてもらえたら、「ただものではない人間たちが生きてるな」という感じになったらいいなと思っています。

―原作は100年以上も前の作品ですが、脚本を読まれて今を感じられたのですね?
保坂:そうですね。今回、翻訳も新しくして、今の言葉に変わっています。それは敢えてそうしていると思うので、その狙いはそこなんだろうなと思います。

s09_0460

―観客にもわかりやすくなりますね。霧矢さんは役についていかがでしょうか?
霧矢:世の中の長女はこう、真ん中はこう、末っ子はこうというようなイメージはありますが、チェーホフの三人姉妹には長男がいて、長男の嫁もいる。さらに、なぜか同居している医者や、訪れてくるお客さんたち、召使いもいる。
登場人物たちが入れ代わり立ち代わり現われて言いたいことを言って去っていく場面が繰り広げられるので、ご覧になる方は、最初は登場人物の整理だけで戸惑うかもしれません。
演じる方としては、誰が主役というのでもないので、そういう人々の中で、三人姉妹の使命みたいなものを、探し求めていきたいなと思ってます。

平体:三女のイリーナは、真っすぐでピュアな子というイメージがあると思いますし、私もそう思っていましたけれど、改めて読んでみると一幕はそうかもしれませんが、だんだんと現実を知って、自分の理想と現実との差に対して、ドロドロした感情も生まれてきます。それでもイリーナは転職したり、教員試験を受けたり、結婚しようとしたりと、お姉ちゃん2人よりも生きていくことに対して具体的に行動します。
霧矢:やっぱり末っ子ね。姉たちを見て育つのよね。
平体:そうですよね。「ああはならないぞ」なのか、違う道を選んでいくようなところもあると思います。自分とイリーナは全然違う人間ですし、状況も違うので、謎は謎として、少しずつイリーナと仲良くなっていければという気持ちです。

s09_0494

―現実社会でも「末っ子って‥」というように感じられたことってありますか。
平体:ありますね。私はひとりっこなので、兄弟がいる人より他人がいることに気づいたのが遅いのではないかと思っています。24歳ごろになってやっと自我が芽生えた気がしています。(笑)“他と自が違う”ということにやっと気づいて、今までの自分の視野の狭さに気が付きました。視野が狭い、イコール、他人のことも受け入れられない、他人のこと受けられないと自分も変わっていかないと、やっとここ数年でわかってきました。
霧矢:ひとりっこは想像力がゆたかになって、空想の友達とか作るらしいよ。
平体:作るんですよ、ほんとに。一人で完結しちゃう。
霧矢:だからクリエイティブな仕事に向いてるそうですよ。
平体:社会性がないんですよ。
霧矢:そこは、ひとりっこでも劇団に属して、集団の社会生活も経験して…
平体:属したから気が付けたと思います。(笑)
霧矢:私は姉がいます。多分、姉の方が優秀なのですけれど、優秀であるが故に不器用であちこちぶつかってしまう。私はそれを見て、すり抜けていってる。(笑)
保坂:私も下で、そうかもしれない。
霧矢:習い事なども、お姉ちゃんがやってるからと私も始めるんですけれど、色々やらせてもらってからすぐやめられる。でも姉は自分から始めたからやめられないです。そんな感じでしたね。(笑)
保坂:確かにそんな感じで、次女の方が要領いいかも。台本を読んでいて、姉を思い浮かべて「うん、一番上ってこういうことか」と思うところもあったりします。下の2人の奔放さから見ると、長女のオーリガは学校の先生だしね。
霧矢:長女は一番実直に生きていらっしゃるね。

―最後に観劇を迷っている方へ、この公演へお誘いしてください。
保坂:昔、私がまひろちゃんぐらいの年頃に、チェーホフの「桜の園」「かもめ」を読んだことがありますが、その時は(「かもめ」の)ニーナの目線で読んでいて「あの子の気持ちはわかるけど、そっちはわからない」という感じでしたが、今回、改めて読んでみるとまったく違う作品に思えました。それがチェーホフの魅力なのだろうと思いました。
そして、コロナ禍があって、今まで当たり前だったことがそうじゃなくなって、改めていろいろ考えさせられたりしましたけど、「普通に生きていくって、こういうことなんだ」「普通って、こういうことなんだ」ということが、この台本には詰まっています。決していい人ばっかりじゃなくて変な人がいて、私たち三人姉妹も決していい人なだけではないからこそ、観てくださる方に何か感じていただけたりするかなと思っています。
スペクタクルやどんでん返しがあるわけではないけれど、すっと心に入ってくるようなスパイスがいっぱいあります。リアルな人間が感じられる気がしています。

霧矢:先ほどもお話ししましたけれど、きっとリアルな中に美学があって、演劇として美しいものになるだろうという確信があります。『三人姉妹』というタイトルですけど、魅力的な登場人物がいっぱい出てきます。人間って、国が違おうが時代が違おうが、普遍的なものは、絶対変わらない。けれど、チェーホフの作品はそれを押し付けることはなくて、勝手に感じてくれたらいいよ…なのです。遠いロシアの昔のお話ではなくて「近くにも三人姉妹がいるかも」という気持ちで、ぜひ劇場に足をお運びいただけたらなと思います。

平体:今は生き方が多種多様で、昔に比べればきっと自分で切り開いて、いろんな生き方ができるけれど、コロナで阻まれることがあったり、ある国では今もずっと戦争が続いていて、 多種多様だけれど、ちょっと阻んでくるものもあったりする。どこを向いて生きたらいいんだろうというような閉塞感がありながら、それでも連綿と時間は続いていくので、日々生きてはいますけど…という感じの方も多いのではないかなと思っています。私も「芝居やってる時以外はいつもそうだな」と思うんです。そういう時にこの作品見ていただけたらと思います。
そこで生きてる三人姉妹と、その3倍ぐらいの登場人物たちは年齢も役職も考え方も違う。だけど、みんなが頑張って生きている、一生懸命生きている。そして、その人たちが生き方について出す答えは、みんな違う。
お客さんがそれを見た時に、「あんな風に生きてみようかな」あるいは「ああはならないぞ」とか、きっといろんな受け取り方があると思いますし、あっていいと思います。そして見た後に「ちょっと明日も頑張ろう」と勇気をもらえるような部分もあるんじゃないかなと思います。確かに大きな出来事が起こるわけではないのですけど、ふっと劇場に来て、はっと受け取って帰っていただけたら。そんな感じが今、しています。

unrato#10
『三人姉妹』
2023 年9月23日(土)~9 月 30 日(土) 自由劇場(東京・浜松町)
【出演】 (戯曲掲載順)
アンドレイ:大石継太
ナターシャ:笠松はる
オーリガ:保坂知寿
マーシャ:霧矢大夢
イリーナ:平体まひろ(文学座)
クルイギン:須賀貴匡 キャスト変更→伊達暁(9/13追記)
ヴェルシーニン:鍛治直人(文学座)
トゥーゼンバッハ:近藤頌利
ソリョーヌイ:内田健司
チェブトゥイキン:ラサール石井
フェド―チク:浦野真介
ローデ:須賀田敬右(青年座)
フェラポント:青山達三
アンフィーサ:羽子田洋子
召使:金聖香/廣田奈美

【スタッフ】
作:アントン・チェーホフ
翻訳・上演台本:広田敦郎
演出:大河内直子
音楽:権頭真由
美術:BLANk.R&D(石原敬)
照明:山本創太(A.S.G)
音響:早川毅(ステージオフィス)
衣裳:前田文子
ヘアメイク:国府田圭
ステージング:前田清実
擬闘:栗原直樹
技術協力:Roots(齊藤英明)
舞台監督:矢島健
制作:麻場優美
プロデュース:田窪桜子(アイオーン) /村上具子(ミックスゾーン)
企画・製作:unrato
主催:アイオーン
共催:ミックスゾーン

【入場料】(全席指定・税込)
S 席:8,800 円 A 席:7,700 円 U25:5,500 円 学生 4,400 円
公式HP:https://ae-on.co.jp/unrato/threesisters/