山田洋次作品の脚本、助監督を多く務め『ひまわりと子犬の7日間』『あの日のオルガン』で知られる平松恵美子監督が、故郷の岡山県倉敷市を舞台に制作した映画『蔵のある街』。本作は、主人公の高校生が夢を諦めかけた友人を励まそうと倉敷美観地区で花火の打ち上げに奔走する姿を描く青春物語。
2020年から続いたコロナ禍の最中に、日本全国の約300の街で開催され、多くの人々に笑顔と希望をもたらした「サプライズ花火」をきっかけに、この物語が生まれた。倉敷を舞台にしているがタイトルは“倉”ではなく“蔵”になっている。蔵はどの街にもあるものなので、この物語は“倉敷”だけの話ではなく、どこの街にも通ずるものだという想いが込められているとのこと。
文化と歴史の街・倉敷の人々にインスパイアされた物語で、中島瑠菜とともに主演を務め、等身大の主人公を演じた山時聡真さんが撮影を振り返りながら、本作の魅力と俳優としての意気込みを話してくれた。
― オーディションを受けて主役を獲得されたとのことですが、オーディションの時の手応えはいかがでしたか?
オーディションでは蒼のセリフとエチュードのようなものをやりましたが、参加者も多く、少し不安でした。受かったと聞いたときは本当に驚きました。映画初主演になるので責任感も感じましたし、身が引き締まったというか、“やるぞ!”と自然に気合いが入りました。
― 主演が決まった時のご家族や周りの反響はいかがでしたか?
やはり家族がとても喜んでくれて、中でも母が一番喜んでいました。幼いころから母が現場についてきてくれていたので、一番成長を感じてくれていると思います。5歳からお芝居をやってきたので、主演という立場は貴重なものだと感じていました。
― 皆さんも公開をとても楽しみにされていると思います。
そうですね。友達にも「凄く楽しみにしているよ」と言われました。この仕事をしていると、「次は何に出るの?」と聞かれるのですが、みんなから「あ、『蔵のある街』?」「あ倉敷の作品でしょ?」と言われて。反響が大きくて嬉しかったです。
― 蒼という役をどう捉えて、どのように演じようと考えましたか?
撮影時、僕は大学1年生でしたが、蒼はごく普通の高校生でありたいと思ったので、1年前の高校生だったときの気持ちや表情をそのまま出せるように意識をして、あえて(役を)作らないようにしていました。物語は倉敷を舞台にしていますが、どの街にも希望や勇気はある、と思える作品なので、皆さんが共感できるような人物像でなければいけないと考えました。
― “役を通して観る方に勇気を与えたい”という気持ちを、具体的に教えていただけますか?
この作品は「つなぐ映画」ということもテーマにもなっていて、街に大きな花火を上げるために蒼たちが奮闘するのですが、今回の花火のように“希望”の象徴となるものは、どの街にもあると思います。コロナ禍では、これまで普通に出かけていた花火大会もなくなりましたが、そんな中で上げられた“花火”が人々の希望になったと思います。花火に限らず、どんなきっかけでも色々なところに希望や勇気が詰まっているんだということを伝えたいと思いました。
― その思いはこの作品に出会ってあらためて強く意識されたのですか?
この作品との出会いで強く思うようになりました。蒼がカッコいいところは、諦めてしまいそうになっても果敢に挑んでいくところ。若者一人でも、頑張れば誰かの心を動かすことができるということに凄く感動しました。今作に参加して初めて学んだこともたくさんありました。
― 山時さんご自身の高校生生活で、特に思い出に残っていることはありますか?
友だちの誕生日祝いをサプライズで行ったのですが、最初は僕1人で計画を立てたんです。でも、やはり1人ではなかなか上手くいかなくて、結局色んな友だちに相談して協力してもらって大成功したことがあります。最後に成功することも嬉しいのですが、そこまでの過程が大変だけど楽しいんです。これは、今作の花火の話と重なる部分がありますね。
― 演じられた蒼に共感する部分はありましたか?
蒼は無責任に、つい口先で約束しちゃうみたいなところがあるんです。僕も人が感じていることを察して、その場を取りつくろうとしてしまうところがあるので。自分が空気を変えようと安易に言葉を放って、あとで後悔してしまうことがあって、そういうところは共感できました。蒼は良かれと思って言うのですが、後から色々大変だということが分かってくるんです。
― 演技をする上で、監督からどんなディレクションがあったのでしょうか?
一つ一つのシーンを丁寧に教えていただきました。「この約束は蒼と紅子の大事な部分だから、こう言ってほしい」というように具体的に。蒼の感情、紅子の感情、このシーンが全体にどう影響するのかまで大切に伝えていただきながら撮影に臨みました。
― 倉敷のような風情のある街で行われた撮影ロケはいかがでしたか?
倉敷には他の作品で行ったことがあったので、とても綺麗で素晴らしい街ということは知っていましたが、その時は倉敷の方と関わる機会があまりなかったんです。今回撮影で色々なお店を使わせていただきましたが、店主さんも「頑張ってね」と言ってくれて。家族のように優しく迎え入れてくださって嬉しかったです。
― 倉敷の街の方々がエキストラとして出演されているそうですが、皆さんとご一緒していかがでしたか?
自分が本当に倉敷の高校生になったような感覚になりました。休憩中にお話したときも「方言上手いね」と褒めていただき、倉敷の方々と初めて接して皆さんの温かさと包容力を感じました。
― 撮影の空き時間にはどこか遊びに出かけましたか?
僕の親戚が倉敷に住んでいたので、撮影の休みのときに「児島ジーンズストリート」に車で連れて行ってもらいました。撮影中は、ずっと買ったデニムとシャツを着ていました。周りから「また着てるじゃん!」と言われるくらい。お気に入りです。
― いいお買い物ができて良かったですね。
すごく満喫しました。
― 共演者には同世代の方が多かったと思いますが、楽しかったことや影響を受けたことなどありましたか?
(中島)瑠菜ちゃんは、感情の持っていき方が凄く早いんです。本番直前まで普通に話をしていても、本番になったら怒りや悲しみをすぐに表現できるので驚きましたし、その姿がとても刺激になりました。祈一役の(櫻井)健人くんは少し年上ですが、同級生くらいのフランクな関係性でした。しょうもない話をしている時もあれば、芝居の悩みを相談できる人。役でも実年齢も近かったので、色々なことを打ち明けられました。撮影が休みの日にはみんなで一緒にご飯に行ったり、同世代ならではの共感できるエピソードで盛り上がっていました。
― どんなことで盛り上がっていたのですか?
SNSの動画の話をよくしていました。いま話題になっているものなど「これ、めちゃくちゃ面白いよね」と盛り上がっていました。瑠菜ちゃんは歳が1つ下ですが、本当によく知っていて、わからないことを色々教えてもらいました(笑)。高校を卒業すると流行に疎くなるんだなと感じました。月曜日から金曜日まで学校に通って、みんなと毎日あれこれ話す機会って高校くらいまでなので、大切な時間だなと思いました。
― 今も交流は続いてらっしゃるんですか?
みんなでご飯に行こうという話は出ているんですがなかなか予定が合わなくて。まだ行くことができていませんが、ぜひ参加したいと思っています。
― 撮影中、特に印象的だったシーンや場所などがあったら教えてください。
集会所のシーンが特に印象に残っています。僕が感情を露わにするシーンですが、丸1日かけて撮影して、登場人数も多く一番体力も使いましたし、プレッシャーを感じながら演じたので。元々はもっと怒りの感情が強いシーンだったんですが、彼の悲しみ、寂しさも表現されています。実はその前のシーンで蒼と祈一が話をするところで何回もテイクを重ねてしまって、僕が自信を無くしそうになってしまったんです。そこで、監督が次のシーンのテイストを少し変えてくださって。結果的にいいシーンになりましたし、自分の自信を取り戻せたシーンでもあるので、とても印象深いです。
― 実際に上がった花火を見たときはどのように感じられましたか?
本当に心の底から感動しました。自分たちが頑張ってきた行動が結果に繋がったので、僕達のリアルな反応が撮れているはずです。
― ところで、今年二十歳を迎えられましたが、なにか意識が変わることはありましたか?
“責任を持つこと”を意識するようになりました。自分が未成年の時に先輩に気を遣ってもらったことを思い出して、自分に後輩ができた時には自分も同じようにしてあげたいし、人との関わりを大切にしたいと思っています。この映画もそうですが“繋がり”はとても大切。この仕事でもオーディションで落ちてしまっても、参加したことで次の作品に繋がることはたくさんあります。10代の頃は自分から積極的に話かけることはあまりなかったのですが、今は色んな人と出会って、話をするということを心がけています。
― 素敵な先輩だなと思う方はいらっしゃいますか?
菅田将暉さんが当時19歳で映画『共喰い』で日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞されましたが、今の僕の年齢くらいの事ですし、事務所の先輩でもあるのでプレッシャーも感じますし、憧れでもあります。あと、菅田さんが後輩に服をくださる機会が1年に1回くらいあるんです。僕もいただいたことがあるのですが、みんなで一番欲しい洋服を「せーの!」で指差して・・・(笑)。自分もそういうことをしてあげられる先輩になりたいです。
― これまでも様々な役を演じられていますが、これからどんな俳優になっていきたいですか? 挑戦してみたい役などありますか?
先ほどお話した菅田将暉さんをはじめ、事務所には素敵な先輩がいらっしゃるので、先輩方のように、上を目指しては行きたいと思っています。それとは別に自分の道も作りたいです。ゴールは一緒かもしれませんが、そこまでどのような道を辿る(たどる)のかは、自分次第なので。自分で選択するなかで、正しい選択をするためにマネージャーさんにも意見を聞きながら、いい方向に自分を導いていけたらなと思っています。やらなくてはいけないこともありますが、自分のやりたいこともやって自分の道を作れるような俳優になっていきたいです。
今後は、殺陣やボクシングなど、アクションにも挑戦したいです。体動かすことが好きで運動が得意なので、そんな自分の強みを生かした作品に参加できたら嬉しいです。
― アクション、いいですね! 楽しみです。 倉敷の街もたくさん走っていますが、苦じゃなかったですか?
はい。かなり走りましたが、周りからも「よく疲れないね」と言われるほどでした。爽快に元気に走り回りました。
― それでは、最後にこの作品の見どころを含めて、これから映画を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
この作品には様々な立場の人が出てきます。高校生だけでなく、それぞれが自分事のように共感できると思います。大人も最初は子どもの言うことに少し否定的ですが、お互いが徐々に理解していきます。両方の気持ちも分かるし、お互いを理解する努力をして接していけばいいんだなと。人と人が繋がって何かができることは本当に素敵なこと。そうすれば成し遂げられないことはないんだぞ!というところがこの映画の見どころだと思っています。
― 倉敷にも行ってみたくなりますね。
本当に素敵な街です。僕もプライベートでもまた行きたいと思っています。
【山時聡真(Soma Santoki)】
2005年6月6日生まれ、東京都出身。5歳より芸能活動を開始し、2016年『ゆずの葉ゆれて』で俳優デビュー。 近年の出演作に映画『ラーゲリより愛を込めて』(22)、『あのコはだぁれ?』(24)、『アンダーニンジャ』(25)。『君たちはどう生きるか』(23)では主人公、眞人の声を務め話題を集めた。ほかにもドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に◾された」(23/NTV)、「民王R」(24/EX)など。現在、日本テレビ系ドラマ「ちはやふる-めぐり-」に出演中。
映画『蔵のある街』
出演:山時聡真 中島瑠菜
堀家一希 櫻井健人 田中壮太郎 陽月 華 長尾卓磨 前野朋哉 ミズモトカナコ 北山雅康
高橋大輔 MEGUMI 林家正蔵 橋爪功
監督・脚本:平松恵美子 音楽:村松崇継
主題歌:手嶌葵「風につつまれて」(ビクターエンタテインメント)
企画・製作:つなぐ映画「蔵のある街」実行委員会
制作プロダクション:松竹撮影所
企画協力:倉敷市
配給・宣伝:マジックアワー
特別協賛:高砂熱学 ©︎ 2025 つなぐ映画「蔵のある街」実行委員会
https://kuranoarumachi.com/
8/22(金)より新宿ピカデリーほか全国公開中!
スタイリスト:西村咲喜
ヘアメイク:髙橋幸一(Nestation)
ジャケット¥46,200/Wizzard(TEENY RANCH 03-6812-9341) パンツ¥108,000/peter wu(M 03-6721-0406) その他/スタイリスト私物
撮影:松林満美