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映画『浜の朝日の嘘つきどもと』タナダユキ監督インタビュー! 「映画館に行くということは“体験”。その場所がなくならないでほしい」

閉館寸前の映画館。小さな”嘘”が、思いもしない”未来”を紡ぐ

『浜の朝日の嘘つきどもと』

『百万円と苦虫女』『ロマンスドール』など多くの話題作を世に送りだして来たタナダユキ監督が、主演に高畑充希を迎えオリジナル脚本で挑んだ映画『浜の朝日の嘘つきどもと』が9月10日より絶賛公開中だ!

本作は、福島県・南相馬に実在する映画館「朝日座」を舞台に、東京の映画配給会社に勤めていた福島県出身26歳の茂木莉子(本名:浜野あさひ)が恩師と約束した「朝日座」再建のため、小さな“嘘”をついてでも映画館を守ろうと奮闘する物語。

この度、Astageではタナダユキ監督にインタビューを遂行! 監督の映画への思いをこの作品を通してじっくり語ってもらった。

タナダユキ監督

― 本作はタナダ監督が脚本を執筆されていますが、そもそもの着目点はどこにあったのでしょうか?

5年ほど前に、福島中央テレビさんの45周年でドラマ(「タチアオイの咲く頃に〜会津の結婚〜」)の監督をやらせていただき、そのご縁で今回のお話が来たんです。5年前も「震災は非常に苦しいことではあったけれど、震災を前面に出したいわけではない」ということだったのでお受けした経緯がありました。今回(の映画)も “僕たち頑張ってます”というようなことを声高に言いたいわけではない、福島が舞台であれば震災は描かなくてもいいということでした。そこでどういうストーリーにしようかと考えていたところ、古い映画館があるということを知りまして、映画館っていろんな人がやってくるので、そこで何かお話が作れるんじゃないかなと思って、そこからスタートしたんです。

いろいろと調べていたら朝日座という映画館があることがわかったんです。しかも朝日座は南相馬にあって。震災から10年ほどが経ち南相馬が舞台となると、さすがにここで震災に全く触れないというのも違うだろうなと思って、それを前面に出すということではなく、震災を受けてもずっとそこで生き続けなければいけない人たちもたくさんいらっしゃるので、南相馬でやる意味がちゃんとあるものにしたいなと思い、最終的にこのようなお話になりました。

浜の朝日の噓つきどもと1

― 確かに本作は震災のことには直接触れてはいませんが、その土地に起きている色々な問題がピックアップされています。そして、小さな映画館の問題、親子のあり方、若い人の未来の話もあります。本作で監督が一番伝えたいと思われたことはどんなところだったのでしょうか?

この映画の脚本を書いているときがちょうどコロナ感染防止の自粛期間中で、本当に辛かったんです。この映画が本当に撮れるのかどうかわからない状態で、脚本も進めなければいけない。コロナのことを物語の中にどの程度入れていけばいいんだろうということもあって。映画は完成してから公開するまで1年近くを要するので、公開する頃に世の中がどうなっているかわからない状態に、当時映画を作っていた人たちは全員悩んだと思います。もちろんどんなお仕事の方もそうだったと思いますが、先の予測すらつかない状態で、何かを選択していかなければいけないというのはしんどいですよね。人が生きていく上では色んな問題が起りますが、今回のように誰の手にも負えない、誰も抵抗すらできないようなことが起こっても、それでも生きることを放棄することもできない。この物語では、その色々起こる問題はきれいには解決しません。きれいに解決しないまま、それでもどうにかして生きていきましょうね、ということが描けるといいなと思いました。

― そのなかで、主演の高畑充希さんの存在がとても大きいと思います。監督からご覧になった高畑さんの魅力は?

高畑さんは死角が見当たらない、とんでもない俳優です(笑)。どんな球を投げてもキャッチするし、相手に投げることもできる。また1人素晴らしい俳優さんと仕事ができて、なんだかとても誇らしくさえ思えました。プロフェッショナルであり、本当に毎カット新鮮なものを見せてくれるし、撮っていてこんなに楽しい人も、なかなかいません。

高畑さんは、(柳家)喬太郎師匠や大久保さんという芸人さんたちを前にして最も自由に動いていました。莉子という役もあったかもしれませんが、主演というものを背負いつつ、これだけカメラ前で自由に動ける才能とセンス。私たちスタッフは俳優さんが現場に入る前に色々なことを想像して準備を進めていくわけですが、高畑さんだけは動きが想像つかなくて(笑)。なので「莉子がどう動くかによってカット割りを決めていこう」という感じで進めていきました。

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― 茂木莉子という名前もとてもユニークですね。

“もぎり”って最近なくなってしまいましたが、昔の映画館ならではのあの独特のシステムが
好きだったんですよね。だから、モギリ席を見て、「茂木莉子」と嘘の名前を名乗る設定にしたくて、そしたら朝日座には建物の表側に独立したようなもぎり席みたいなものがあったんです。これ以上ない最高のシチュエーションでした。

― 高畑さんはこれから年齢を重ねていっても素敵な女優さんになっていかれるのでしょうね。

私もそう思います。私は彼女が20代ギリギリのときに作品を一緒に作ることができましたが、たぶん高畑さんは30代には30代の代表作がきっとあるだろうし、40代になっても揺らがないものがあるだろうし、それをいちファンとしても見続けたいなと思わせてくれる俳優さんだと思っています。もちろんまたその年代のどこかで何か一緒に作品を作れたら幸せだなと夢見ています。

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― そして、大久保佳代子さんとの化学反応が素晴らしかったです。大久保佳代子さんの魅力はいかがでしょうか?

大久保さんは芸人さんですが、OLさんの経験もあってか、非常にものの見方がフラットという印象を受けます。ちゃんと地に足がついているというか、もちろん芸人さんとしても本当に面白くて大好きなんですが、そういう人が高畑さんと組むと面白いかなと思って、今回(出演を)お願いしてみたら、見事にハマりました(笑)。

あと、淡々としていてベタベタしない感じが大久保さんに似合うと思ったんです。過保護に莉子のことを保護するわけではなく、決して先生ぶらないし、でもいざというときはやっぱり頼りになる大人。自分が子供の頃に憧れた大人像みたいなものを大久保さんに投影しました。大久保さんのおかげで茉莉子先生がとってもいい塩梅になったんじゃないかなと思います。

― タナダ監督のこれまでの作品も決してキラキラした映画ではないけれど、とても肌なじみの良い作品だと感じます。監督が映画を撮るときに心がけてることって何でしょうか?

映画って本当に嘘ばっかりなんです。そんな人物はいないし、こんなこと言った人もいない。昼なのに夜のシーンを撮ったり、その逆もあります。でも、そういう嘘がたくさん重なることによって人の本当の気持ちが見えてくるのが映画で、そういうところに私は惹かれているんだと思うんです。そして、みんな平穏に生きたいと思ってるけど、大なり小なり必ず問題は起こって、平穏に生きられる人ってなかなかいないじゃないですか。

降りかかってくるさまざまな問題は綺麗に片付かないままでも背負っていくしかなくて、背負える強さやたくましさみたいなものが、登場人物を通して伝わるといいなと。そして何より、問題は解決しなくても、物の見方が少し変わるだけで楽になることもあって、だから私の作ってきた映画の主人公たちは全然問題が解決していない人が多いんですけど(笑)、それでも背負い方が少し楽になると思えるような、そういう映画を作れたらいいなと思っています。

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― また、先生の部屋の雰囲気がリアルなところも気になります。監督のこだわりがあったのでしょうか?

美術の井上さんや装飾の遠藤さんには、雑然として欲しいっていうのは凄くお願いしました。雑然としているけれど決して不潔なわけではない。物を積み上げていたり、平坦なところがあるとすぐ何か物を置いてしまう人っていると思うんです(笑)。好きなものを集めていて、それをセンス良く配置ができているわけではないけれど、なぜかそういう人の家に行くととっても居心地がいいんですよね。

だから、部屋の飾りでも先生の人間性が出るといいなと思って。映っていないようなところにもちゃんと飾りをしてくれているんです。茉莉子先生って生徒にすごく好かれてる設定なので、生徒たちの寄せ書きみたいなものが壁に飾ってあったりもして。でもそこをわざわざ撮るわけじゃないんです。(そこを撮ったら)ちょっとわざとらしいし、撮るという前提の脚本も書いていないんですが、映る映らない関係なく、美術部が裏設定までちゃんと作ってくれて密かに感動していました。

― 監督のインスタグラムを拝見すると現場が凄く楽しそうな雰囲気が感じられたんですが、実際にいかがでしたか。

この作品に限らず、現場はいつも大変ですよ(笑)。俳優部の座長の高畑さんはじめ、喬太郎師匠も大久保さんも皆さんが本当に穏やかで良い空気を作ってくれていましたが、現場は1日にこれだけの分量撮らなきゃいけない!とか、真夏だったので凄く暑くて・・・。特に南相馬は暑いんです。

ちょうどこのコロナ感染予防の自粛明けというタイミングで撮っていたので、現場は常に厳重にマスクして、消毒して毎日検温するということを徹底して手探りでやってたので、結構精神的にもきつかったところはあります。でも俳優部さんが本当にピリピリしない人たちばっかりだったので、それでスタッフも救われていました。

― 撮影する環境が一番大変だったんですね。

そうですね。本当に初めてのことで、何が正解かがわからないまま進めなければいけなかったので、みんなきっと戸惑いながら一所懸命やっていたと思います。

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― それでは、朝日座に関する映画館についてお聞きします。監督が一番最初に出会った映画が『影武者』とのことでしたが、当時は5歳。監督が映画の内容を理解できるようになってから感銘を受け、影響を受けた作品はありますか?

影響を受けたと言えば観た作品全てですが、でも影響を受けるほどの才能が(自分には)まだないんじゃないかなと思ったりもします。ただ、一番好きなのは昔の日本映画ですね。今のお芝居とちょっと違ったりもしますが、とてもエネルギーがある。増村保造監督作品が好きで、本当にハズレがない監督って実は珍しいと思っていて、『盲獣』(1969)は映画館で観て結構な衝撃を受けました。
相米慎二監督の作品も好きで、本当にどれをあげたらいいかわからないぐらいです。『台風クラブ』(1985)も大好きですし、『魚影の群れ』(1983)も好きです。成瀬巳喜男監督の『浮雲』(1955)も何度か映画館で観ています。岡本喜八監督の『江分利満氏の優雅な生活』もとても好きです。洋画だと『トト・ザ・ヒーロー』(1991)は地味で暗い話ですが凄く好きでした。

― 昔の日本映画に惹かれる、その魅力とは?

なぜこんなに惹かれるのか、自分でもわからないんです(笑)。まだ分析が間に合ってないです。匂い立つような美しさや画面から溢れるエネルギーは、時代というものもあるのでしょうし、成瀬監督や増村監督の頃はまだ、撮影所システムというものがあった頃の話なので、現実的な話をすると、今よりも労働する側がきちんと守られる環境にあり、だからこそしっかり作品を作れたという面もきっとあっただろうと思います。不安が少なくて済むということは、変に萎縮せずに済みますから。とはいえ、昔を羨んでも仕方がないし、今の環境で何を作っていくのかは、今の人たちで試行錯誤しないといけませんし、作品を守る術をもっと色々考えないといけないとも思います。

そして、昔の日本映画とは言っても、古臭いわけでは全然なくて、むしろ新しい発見がたくさんあったりもするので、若い人にも本当に見てほしいです。

浜の朝日の噓つきどもと2

― そうですね。そういう映画はシネコンではあまり上映してくれないので、やはり朝日座のような単館の映画館存在が大きいと思います。映画館で観ることは、映画を浴びるような感覚があってとても素敵だと思うのですが。

浴びるような感覚って良いですね。映画館に行くということは“体験”だと思います。家で映画を見ることも、今の時節柄悪いことではないと思いますし、配信ライブは(劇場に)行ける環境にない人にとってはすごくいいことだなと思いますが、映画館に行くという体験は自分の人生の中で記憶に残っているんですよね。そのときの匂いだったり、そのときに何を食べたとか、なんか隣のおじさんがうるさかったなとか、そういういい面も悪い面も含めての体験。そういうことって映画の内容より覚えていたりもしますし(笑)、それって、お腹は満たされないけど、財産でもあるんですよね。ここ数年ですっかり見かけなくなりましたが、前売り券の半券を集めるのも楽しいことでしたし。そういう体験の場として映画館は本当になくならないで欲しいなと思います。シネコンも単館系の映画館も配信もテレビも、それぞれ、共存できると良いなと思っています。

― 色々なメッセージが詰まった作品になっていると思います。それでは、この作品をこれからご覧になる皆さんに監督からメッセージをいただけますでしょうか?

この作品は映画館を舞台にした話ですが、大勢の人と、赤の他人と一緒に同じものを観ることってなかなかないと思います。それぞれが全く違う人生を歩んできたはずなのに、同じところで笑ったり、違うところで泣いていたりするということは映画館だからできることだと思うんです。今の時期では声高に“来てください”とちょっと言いにくい状況ではあるのですが、映画館側もできる限りの安全対策をしっかりとってくれているので、来れそうな方は映画館で観ていただけると嬉しいですし、来れない方も、いつか何かの形で観ていただけると嬉しいです。映画は、文学や絵画、演劇に比べると遥かに歴史の浅い、でも人間が作り出した文化でありエンタメで、その文化を守れるのは、やはり作り出した人間にしか出来ないことだと思っています。

【タナダユキ】
福岡県出身。
2001年『モル』で監督デビュー。2004年劇映画『月とチェリー』が英国映画協会の「21 世紀の称賛に値する日本映画 10 本」に選出。2008年には脚本・監督を務めた『百万円と苦虫女』で日本映画監督協会新人賞及びウディネファーイースト映画祭で観客賞を受賞、その後も『俺たちに明日はないッス』(08)、『ふがいない僕は空を見た』(12)、『四十九日のレシピ』(13・中国金鶏百花映画祭国際映画部門監督賞)、『ロマンス』(15・ASIAN POP-UP
CINEMA 観客賞)、『お父さんと伊藤さん』(16)、『ロマンスドール』(20) など、数々の話題作がある。
また、TVドラマ「蒼井優×4 つの嘘 カムフラージュ」(08/WOWOW)、配信ドラマ「東京女子図鑑」(16/Amazon プライム·ビデオ·ATP 賞テレビグランプリ特別賞)、「タチアオイの咲く頃に~会津の結婚~」(17/福島中央テレビ制作·日本民間放送連盟ドラマ部門優秀賞)、「昭和元禄落語心中」(18/NHK 総合)、「レンタルなんもしない人」(20/TX)など様々なジャンルの作品を手掛けている。本作に先駆けて福島中央テレビにて制作・OAされたドラマ版「浜の朝日の嘘つきどもと」は、優れた放送に贈られる第58回ギャラクシー賞(放送批評懇談会主催) 2020年度テレビ部門で選奨を、2021年日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門で最優秀賞を受賞。

本ポスター_浜の朝日の噓つきどもと

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』
≪STORY≫
100年近くの歴史を持つ福島・南相馬の映画館「朝日座」。ある日、茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)が支配人の森田保造(柳家喬太郎)の前に現れる。莉子は、<経営が傾いた「朝日座」を立て直す>という高校時代の恩師・田中茉莉子(大久保佳代子)との約束のため東京からやってきた。すでに閉館が決まり打つ手がないと諦めていた森田だが、見ず知らずの莉子の熱意に少しずつ心を動かされていく。果たして「朝日座」の運命やいかに……。

出演:高畑充希
柳家喬太郎 大久保佳代子
甲本雅裕 佐野弘樹 神尾 佑 竹原ピストル
光石 研/吉行和子
脚本・監督:タナダユキ
主題歌:Hakubi「栞」(unBORDE)
制作プロダクション:ホリプロ
配給:ポニーキャニオン
©2021 映画『浜の朝日の噓つきどもと』製作委員会
公式サイト:https://hamano-asahi.jp/
公式SNS:@hamano_asahi

絶賛公開中!