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「演劇人が演劇の世界をリアルに描く」 映画『紅葉橋』インタビュー  石川二郎監督、柳下大、山田菜々

ミュージカル『手紙』や 舞台『トリスケリオンの靴音』など、良質の演劇を創り届けてきたエヌオーフォーNo.4が、演劇に人生を賭けた若者と、彼らを囲む人々の等身大の姿を細やかな目線で描く映画『紅葉橋』を企画・製作・配給する。
8月18日(土)19日(日)の墨田区曳舟文化センターでの初公開となるプレミア上映会を控え、完成版を初めて観終えたばかりの石川二郎監督、柳下大と山田菜々に話を聞いた。

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石川二郎監督     柳下大     山田菜々

物語は、墨田区の高校の演劇部の先輩後輩で作った劇団のメンバーの5年間を縦軸に、現在稽古中の舞台を横軸として、演劇と現実の間で葛藤する若者たちの思いを丁寧に描いて進んでいく。
都内(墨田区)オールロケで撮影され、劇団メンバーや舞台稽古中の俳優役を柳下大山田菜々安里勇哉赤澤燈玉城裕規をはじめ、舞台で活躍する俳優たちが演じている。

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柳下大が演じたのはかつての劇団メンバーで、現在は人気俳優として活躍している朝井峻佑。朝井はすでに解散してしまったその劇団が上演するはずだった舞台「墨東の乱」を、自らプロデュース・演出・主演で上演しようとしていた。
山田菜々が演じるのは、その劇団を立ち上げた山名孝治の妹・山名紗知。紗知も劇団メンバーで、「墨東の乱」は山名孝治の脚本で、彼が演出を手掛けるはずだった。

5年前、なぜ「墨東の乱」は頓挫し、劇団は解散してしまったのか? そしてなぜ朝井は今になって「墨東の乱」を上演しようとするのか。
物語がすすむにつれて、次々に明らかになる事実。そこに秘められた思いとは何だったのか?

スカイツリーなど墨田区ならではの景色だけでなく、多くの舞台の稽古場として使われているすみだパークスタジオも登場。真正面から演劇の世界を描いて、そこに潜む魅力・魔力を感じさせつつ、登場人物たちの懸命さ・健気さが心に響き、深い余韻の残す作品となっている。

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―今日初めて完成版を見たそうですが、観終えた直後の率直な感想をお願い致します
柳下:ドキュメンタリー映画みたいだと思いました。台本を読んだ時から思ってはいましたが…。たくさんのキャラクターが登場するので、観客がそれぞれの視点から見ることができる映画だと思いました。
山田:とてもリアルだと思いました。芸能界でお仕事をさせて頂いているので、よりリアルに感じたというのが、私の印象です。

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―「ドキュメンタリー」「リアル」という感想がでましたが、俳優役を演じるということで、演じながら自分自身と重なる部分を感じながら演じておられたのでしょうか?
柳下:普段、役を演じる時は役を自分に寄せたり、自分を役に寄せたりして作っていくのですが、今回は役者役なので「自分だったら…」というのがより出そうになり、そういう意味ではすごく難しく、最初は戸惑いました。なので「自分とは別人物だ」と考えて、「自分だったら」という感覚を抑えました。

―観客も演じている俳優と役柄を重ねて見てしまいそうになります。
柳下:僕が演じた朝井峻佑は生い立ちも僕とは違いましたし、以前から交友のあったプロデューサーの難波利幸さんの本作への思いを感じていましたので「その思いを背負ってやろう」という感じが強くありました。

―難波さんの思いとは具体的には?
柳下:やりたいことが多いんです。みんなが上手くできたかどうかはわかりませんが「あるある」が多いんです。

―演劇の世界での「あるある」ですか?
柳下:そうです。そういう「あるある」を伝えたいんだろうなと、今日も完成版を見て感じました。

―それは演劇にかかわる苦労などですか?
柳下:人間関係や悩み…ですね。

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―そういうリアルがつまっているんですね。山田さんはいかがですか?
山田:芸能界って華やかなイメージがありますが、華やかじゃないですよ…ね。「役者がやりたいのか、それとも売れたいのか?どっちなんだ」という台詞が、なぜかわかりませんが、心にグッときました。説明するのは難しいのですが…。
柳下:朝井の所属事務所の社長が言う「役者はやりたい役ができるわけじゃないんだよ」という台詞もリアルです。あれは本作プロデューサーの難波さんの言葉です。(笑)

―演劇や舞台について、たくさんの台詞がありますが、共感した台詞はありましたか?
柳下:そこが一番難しい部分でした。僕としては2.5次元作品も小劇場も大劇場もミュージカルも基本的に変りません。観る方の趣味だと思っています。それぞれ特化しているところはあると思いますが、演じる僕たちは仕事として与えられた以上、与えられた100%、自分ができる100%以上を出さなきゃいけない。出すのが仕事です。否定的なことは思っていないので、口にするのが苦しい台詞がありました。でも台詞ですから言わなくてはなりませんが、それをリアルにやり過ぎて自分自身の言葉に聞こえてしまうのも嫌でした。
難しい部分でしたが、役が言っているんだと落とし込んで言いました。
山田:本作で「ここは私にとって帝劇だから」という台詞があります。私は大阪出身なので「いつか大阪城ホールでやりたいな」「ドームでやりたいな」という気持ちを持ちつつ、見に来てくれる人がいて、応援して下さる方がいてのお仕事だと常々感じていたので、箱が小さくても大きくてもやることは変わらないなと思っています。

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―監督としても、そういうリアルや葛藤を感じておられましたか?
石川:表に出て行く俳優と、ずっと影にいる僕等スタッフとは違うとは思いますが、この作品のテーマの1つとして「食える、食えない」「食えたらプロ、食えないならアマチュアだ」という考え方があると思います。一方で、私の考え方は、「食えようが、食えまいが覚悟の問題だ」「食えようが食えまいが、それをやるしかない。金のためでもなく、夢のためでもない、覚悟。それを持った人間がプロフェッショナルだ」と思っています。そのあたりの葛藤を登場人物たちに抱えさせて、後はそれぞれのキャラクターが勝手にぶつかっていきます。今日完成版を見て、とても感情移入してしまいました。

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―監督から見て柳下さん、山田さん、お二人の良さは?
石川:柳下さんに関しては、よく考えているなと思いました。微妙な芝居をするので、よく見ていないと見逃してしまいます。広い画面ではそのせっかくの芝居が拾えないので、柳下さんに関してはついついアップが多くなってしまいました。撮影は怒涛のように進んでいるので、その中では迷う時もあるのですが、そこは柳下さんを信じて任せて委ね、こちらは繊細な感じを拾うことに心を配りました。編集でもそうですね。
たいていは話をしている人の絵を使うのですが、柳下さんは他の人の話を聞いている場面でも繊細ないい芝居をしているので「二画面にしようかな」と思いました。(笑)
山田さんは本読みの時には声が小さくて「大丈夫?」と声をかけたら
山田:「全然大丈夫じゃないです」と答えました。

―緊張されていたんですか?
山田:そうです。
石川:違うんです。隠しているんです。(笑) 撮影が始まってみたら、柳下さんと同じようにとても繊細な演技をしていました。そういう意味では、ふたりは似ているかもしれません。

―演劇でも映像でも活躍されているおふたりですがその違いや、今日はご覧になって映像での楽しさを感じられましたか?
柳下:舞台では自分のやっている芝居は見られないので、演出家を信じてやりきるしかない。結果的にDVDになったりして映像で見ることもできますが、自分が生で観劇した作品を映像で見た時に、生とは全然違うと感じているので、出演舞台の映像を見返して反省はしませんし、あまり見ないようにしています。
映像作品はそれほど多く経験していないので、現場でモニターを見ることはしません。監督がOKを出してくださればOK。自分は自分の役だけをやる。あまり自分の感覚は入れたくありません。後で映画やドラマとなって見た時には「これが舞台なら、違った表現の仕方になるんだろうな」と考えたり、「映像ならここまで声をはらなくてよかったな」とか、「表現する仕事なのに、表現しきれていない」と反省したりします。同じ演技と言う仕事ですが、(舞台と映像では)求められていることが違う、毎回いろいろな発見があるので、やる度に勉強できると思っています。
山田:私も反省だらけです。撮っている時はこうだと思って撮っていますが、後で見てみるとそうじゃなかったなと思うことがいっぱいあります。

―でも映像も舞台もお好きですか?
山田:アイドル時代に表現することが好きになって、上手く伝えられているワケではないのですが、一生懸命にやったことをたまにでも褒めて頂けるとやっぱり嬉しくて。その分「もっとこうしたい」「次はこうしよう」と思います。難しいし上手く出来なかった反省もありますが、楽しいし、やりがいのあるお仕事だと思います。

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―本作での印象的な場面、好きなシーンは?
柳下:墨田区でロケをしましたが、人通りも車も多く、ヘリコプターが何度も飛んで、待ち時間も長かった。そんな中、印象的だったのは(玉城裕規演じる)お兄ちゃん(山名孝治)とのシーンです。スタッフもキャストも「ヘリに負けないぞ!」と集中を切らさず、気持ちが一つになっていたような気がします。
山田:劇中では、昔の回想シーンでは明るい表情ですが、現在のシーンは全然笑わないし、暗い表情が多いので、ラストで笑っているのを見て、よかったなと思いました。

―どんな方に観てもらいたいでしょうか?
柳下:まず墨田区の方全員です。墨田区の良さもたくさん出ていると思います。そして、先ほど監督も話されたように、今回は演劇の世界が描かれましたが、つまり「自分がやりたいこと」と、「それで自分が食っていけるのか、趣味になってしまうのか、それでも続けていくのか、諦めてしまうのか…」という話です。それはどの世代でも、どの職業でも、人とのつきあいでも共通するものがあると思うので、この映画を見て、何かを感じ取って頂けたらと思います。
山田:迷っている方にももちろん観て頂きたいですし、今日完成した映画を見て思ったのは「今、やっているけれど、これでいいのか」と自分自身に問いかけるような作品だと思いました。なので、何かを始めようと思っている人も、すでに始めている方にも、全員に見て頂きたいです。
石川:すべての人に見て頂きたい。(笑) 演劇に特化した物語ではありますが、役者経験者でなければ見てもおもしろくないという作品になってはいけないと思って、プロデューサーの演劇への思いを入れながらも、普遍性を入れることに苦心しました。なので、誰にでも分かってもらえると思います。
中心にあるのは「覚悟」ですね。現代の若者達にとって、今は情報過多で、「売れること」や「食えること」について先人たちの情報が入ってくる。どこかの誰かの成功を知ることで、若者が自分のやりたいことや覚悟がぶれたり、本質を見失ったりすることが多いんじゃないかと思っています。
そこを現代の若者達に、「自分の人生なんだ。惑わされずに自分のやりたいことをやればいいじゃないか」と伝えることができればいいなと思っています。

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本作の撮影は昨年の11月に行われたが、題名となった紅葉橋は撮影中に工事が始まり、今は新しい橋に架け替えられてしまったと聞く。撮影がもう一日延びていたら、あの紅葉橋は撮れなかったそうだ。
そんな変わり続ける街の姿と、変わらぬ人生の問いを封じ込めた映画『紅葉橋』。
初上映は8月18(土)19日(日)に墨田区曳舟文化センターでのプレミア上映会。
その後、映画祭での上映や全国でのプレミア上映を計画している。

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映画『紅葉橋』 プレミア上映会
脚本:堤 泰之(プラチナ・ペーパーズ)
監督:石川二郎
共催:墨田区
企画・製作・配給:株式会社エヌオーフォー

【キャスト】
柳下 大/山田菜々・安里勇哉/赤澤 燈・永岡卓也・加藤良輔・瀬尾卓也・染谷洸太・竹尾一真・木戸大聖・鈴川博紀・風山真一/富田麻帆・五十嵐可絵・ふじわらみほ・佐藤蕗子・
宮原理子・難波なう・木村菜摘・三谷夏果・猪子めぐみ/玉城裕規・川本 成・奥山美代子/升 毅

【公演スケジュール】
8/18(土)11:00/14:30/18:00
8/19(日)11:00/14:30/18:00

【劇場】
曳舟文化センター
〒131-0046 東京都墨田区京島1丁目38-11

【料金】
1,500円(税込/全席自由)
※未就学児入場不可
※チケットは18日(土)か19日(日)のどちらかを指定してご購入いただきます。
※指定した日の3回の上映のうちのどの回にお越しいただいても構いません。
※定員に達し次第、入場を締め切らせていただきます。

【公式ホームページ】
http://no-4.biz/momijibashi/