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『この熱き私の激情』松雪泰子インタビュー 「きっと見たことのない演劇体験ですよ」

『この熱き私の激情』 松雪泰子インタビュー
「きっと見たことのない演劇体験ですよ」

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この秋、 “文学界のマリリン・モンロー”と称される作家、ネリー・アルカンに小説、映画、舞台から迫ろうという「Discover Nelly Arcan(「ディスカバーネリー・アルカン-ネリーを探して-」 通称:DNA)」プロジェクトが始まっている。

ネリー・アルカンは作家デビュー間もなく権威ある文学賞にノミネートされ、一躍有名作家の仲間入りを果たす。だがその小説は高級娼婦だった自分を反映したオートフィクションだったため、彼女自身にも大きな注目を集めることになってしまう。そして、デビュー後わずか8年、36歳で自殺した美貌の女流作家だ。

このDNAプロジェクトとして、9月にネリ―のデビュー作の小説「ピュタン」が改訂訳で発売され、ネリーの半生を描いた映画「ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で」が10月21日からYEBISU GARDEN CINEMA他で順次ロードショー。
そして、11月にはネリ―が残した4編の小説をコラージュした舞台『この熱き私の激情~それは誰も触れることができないほど激しく燃える あるいは、失われた七つの歌』が、東京・銀河劇場と広島・北九州・京都・愛知にて上演される。

この舞台の出演者は女優6人とダンサーが1人。舞台上には写真のような部屋がつくられ、ダンサーはそれらの部屋を行き来するが、6人の俳優はそれぞれの部屋に留まったままで公演が続くという。

部屋写真

いったい、どんな舞台になるのか?
Astageはこの舞台に主演する松雪泰子に、話を聞いた。

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― この作品のどういうところに一番魅力を感じておられますか?
お話を受けた時に戯曲を読ませていただき、とても詩的な言葉が並んでいる戯曲だと思いました。映像で拝見したモントリオール公演も、舞台美術がすごく素晴らしかった。ネリー・アルカンのことは知らなかったのですが、その言葉の美しさと強烈さに「なぜこんな言葉を書いたのだろう?」というところから興味をひかれました。それから小説を読み、最近になって映画を見ました。
演出のマリー・ブラッサールさんとのコラボレーションというのも大きな魅力の一つです。日本人の俳優が演じて、どういったものが生まれるのか…興味があり、やってみたいなと思いました。

― ここ数日はワークショップが行われたそうですが、参加されてみて作品に対して最初のイメージと変わったことや感じたことはありますか?
『ピュタン』という小説と戯曲を読んだだけでは理解できなかった領域がたくさんあり、彼女が書いた他の小説も読むことでかなり理解ができてきていました。でもやっぱりそこで描かれている言葉と表現方法は想像をはるかに超えるほど強烈で、読み進めるのがやっとというほど苦しかった。「最後に死を選択していく中で何を思ったのだろうか」などと考えれば考えるほど自分でも苦しくなってしまった。これを表現という領域に落とし込んでいくにはどういう道をたどればいいのか、すごく苦悩しました。「とんでもないプロジェクトが始まってしまった」と思いながら稽古場に行ったんです。
そこでマリーさんに会って「なぜそれを作品に落とし込もうとしたか」という説明や「ネリーがどんなに知性を持った女性であったかをたくさんの人に知ってほしかった」という思いを聞きました。
そして、女として生きるということ、女性たるものこうあるべきとか、結婚して子供を産み家庭を持ち、そう生きるのが女性のベストな幸せの在り方だとか、そういう限定的な考えに到達していないものは、ダメな人間、ダメな女性だとされてしまう…というような女性に対しての偏見―差別は今はそんなにないとはいえ、偏見はまだありますね―を含めて女性というものを表現する作品なのだということも話して下さいました。
ネリーの苦悩を言葉で紡いで表現しているので、それを各パート(部屋)に分けて表現していくんだと聞いて、この作品の構造自体も面白いと思いました。
今はまだ、どういう風にマリーさんとともに稽古で作っていくのかという、本当に入り口の段階ですが、始まる前は怖かったのに、今はもう怖くありません。
マリーさんが「それぞれの俳優がアーティストとして存在して、このカンパニーはこのカンパニーで新たなものを生み出していきたい」とおっしゃっていて、役者がそれぞれ持っている感覚を見たいと思ってくださっているようなので、私もたくさん材料を持っていきたいし、試してみたい。そして、そこでマリーさんとみんなとセッションすることで、どんなものが生まれるのか…と楽しみになってきた段階です。

―小説、モントリオールでの舞台、映画をご覧になってご自分の中にネリー像ができましたか?
わからないです。誰もわからないと思います。でも、それでいいと思うんですよ。そんな気がします。わかったら彼女はこんな道をたどっていないでしょうし、そんな簡単に言葉で解釈できるようなことではないだろうと思います。けれど、それを作品に落とし込むという意味では映画もとても素敵でした。舞台もあの強烈なネリーの世界をマリーさんの感性でこういう風に芸術として落とし込むのはすごいことだと純粋に思います。
マリーさんのクリエーションに対する考え方など、すごく勉強になりますし、同時にとてもリスペクトできます。だからこそ私たち参加する人間からも何かアイディアを、表現を出していきたいと思いますし、いいものにしたいと思っています。
ただ、とても強烈な部屋(影の部屋)を担当するので、すごく大変で…苦しい。今までになかったくらい、一番強烈な作品になりそうです。

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―担当される影の部屋は「自殺」の部屋だそうですが、部屋は自分で選べたのでしょうか?
いいえ、オファーを頂いたのがこの部屋でした。

― ワークショップの時から稽古は別々ですか?
みんなで一緒にやるところは一緒に稽古しますけれど、それぞれの部屋のところは個人的に一人ずつ。他のキャストは誰も見ていません。

― 会見の際にネリーの言葉が突き刺さることが多いとおっしゃっていましたが、どんな言葉でしょうか?
一言では難しいですね。例えば、ネリーの思考感覚の世界は独特だと思います。自分も、いろいろな考えが氾濫して、とりとめもなくいろんな考えが浮かんできて、それが止まらないときはありますけど、ネリ―は脳内で起きるその様を鮮明に言葉として落とし込んでいる。その表現方法が凄いなと感じたのが1つ。
そして、親に対して、血縁に対しての憎悪とかにしても、言葉にしてしまうと残酷になってしまうようなことでもはっきりと書いています。そんな中に「わかる、わかる」とヒットしてくるところがあったりする。何が自分にヒットしてくるかは、人それぞれ違うと思いますが、自分は望まれて生まれたのではないだろうと強く思っているような点や、コールガールをやっていた時の時間軸の言葉は、とても強烈です。

― 「今回ほど女性ばかりの稽古場は初めて」とおっしゃっていましたね。どんな雰囲気ですか?エピソードはありませんか?
マリーさんが明るくて豊かな方なので、それについていく集中力は大切ですね。最初に全員で顔合わせした時に「みんながこのカンパニーで助け合っていける形になるといいな。モントリオールの公演でも最終的にはそうなっていた」とマリーさんがおっしゃっていました。
今回は早い段階から「これはすごいプロジェクトだぞ」と誰もが思っていますし「力を合わせていかないともう間に合わない。共有していこうね!」「遠慮しないで声出して行こう!」みたいな空気感があって、とてもポジティブな現場だと私は感じています。(笑)

―発表会見を拝見してマリーさんは一人一人をアーティストとして尊重されているように感じました。
そうすごく!それぞれの俳優が持っているものをちゃんと感じようとして下さっています。パーソナルにセッションするって、そういうことですよね。

―お部屋は気にいってらっしゃいますか?
どの部屋も美術がすごいと思います。ちゃんと存在すべき女が、いるべき空間に落とし込んである。舞台上に効果的に存在していて、計算されつくされた感じは素晴らしいと思います。ソースになっている映画の映像も見せてもらいましたが、通りに面しているビルに同じような四角い部屋が並んでいて、人がそれぞれその部屋の中で生活し、生きているんです。いまこうしている私たちも、そのすぐ上ではまた違う世界が繰り広げられている。
でも、隣り合った部屋でも時間軸が違うし、起きている事柄の関係性も何もかもが違う。同時に起きていることが全然違うというのは、切り取って見ていると不思議で、それを客観的に見るのは、すごく面白いと思いますね。

― 本作は夏に出演された「劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season鳥」とは全く違うタイプの作品ですね。作品選びの基準は何ですか?
もう本当にご縁です。どちらも人生で何度も出演できないような作品です。『髑髏城の七人』は20代の時に見て「新感線に出たい!」と思った作品なので嬉しかったです。とても大変だったんですが、ありがたかったですし、良いカンパニーだったので最高に楽しい時間でした。でも、まだまだやってないことの方が多いので、出演作品を選ぶとか…そんな感じではありません。頂いた作品を「あの中でやりたい」「トライしたいな」と思ってやらせて頂いています。

―「大変そうだからイヤ」とか、そういうのはありませんか?
ないですね。その時点では純粋にやりたい作品であるとか、頂いたタイミングのご縁とか…そういうのが大事だと思っているので、ふたを開けて気づくことはあります。「あっ、そうだったのか」みたいな。(笑)
でもできない事はやって来ないって言いますから「できるんだ」と思いながらやっています。それは勝手にポジティブに。(笑) 向き合いつつ楽しみつつ、表現者としてもまた新しい領域に行けるように頑張りたいと思っています。

―本作で一番苦労しそうなことは何だと思いますか?
みんなで合わせる歌のタイミングとかが、意外と大変かもしれませんね。

―部屋と部屋の間には壁が、前面にはガラスがあるんですよね?
そうなんです。だから合わせるためには、互いの息遣いを聞いたり、あとはタイミングを身体で覚えてしまうしかない。でも、とても美しいハーモニーがセッションで生まれつつあるので、かっこいいものが見つけられる予感がしています。

―最後に、今、松雪さんが考えている「この作品のここがすごいぞ」というところはどこですか?
まだまだどんな舞台になるのか、未知な部分が多いのですが、頭で考えた理屈とか抜きに、ネリーの言葉の威力が凄いので、もうただ、その言葉を感じてほしい。何もしなくても絶対に突き刺さってきます。彼女の感じている世界を、彼女の生きるエネルギー、彼女の言葉のエネルギーを私たちの肉体を通した表現から感じてもらえるんじゃないかと思います。
もちろん美術も素晴らしい。音楽も美しい。マリーさんの演出も楽しめると思います。きっと見たことのない演劇体験ですよ。

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<公演概要>
PARCO Production
「この熱き私の激情〜それは誰も触れることができないほど激しく燃える。あるいは、失われた七つの歌」

■スタッフ
原作:ネリー・アルカン
翻案・演出:マリー・ブラッサール    翻訳:岩切正一郎

■キャスト
松雪泰子 小島聖 初音映莉子 宮本裕子 芦那すみれ 奥野美和 霧矢大夢

■東京公演
公演日程 : 2017年11月4日(土)〜11月19日(日)
会場   : 天王洲 銀河劇場
お問合せ : パルコステージ 03-3477-5858 http://www.parco-play.com

■地方公演予定
広島公演 2017年11月23日(木) JMSアステールプラザ 大ホール
北九州公演 2017年11月25日(土)〜26日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
京都公演 2017年12月5日(火)〜6日(水) ロームシアター京都 サウスホール
愛知公演 2017年12月9日(土)〜10日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール