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中川晃教主演ミュージカル『空白の響き』稽古場レポート

7月5日(日)より上演される中川晃教主演のミュージカル『空白の響き』について、稽古場レポートが届いた。
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本作は、日本・アメリカ・カンボジアの、時代も国も異なる三つの物語が交錯し、やがてひとつの音楽へと結ばれていく全編オリジナル楽曲によるミュージカル。

六月某日、ミュージカル『空白の響き』Blanked Sound の稽古場からのレポートを紹介する。
取材・文:高橋つばさ 撮影:ツノダユウタ

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谷崎潤一郎『春琴抄』に描かれる佐助と春琴、十九世紀アメリカの孤高の詩人エミリー・ディキンソン、そしてクメール・ルージュの恐怖のなかで恋人へ手紙を綴り続けたカンボジアの女性フート・ボパナ——。時代も国も異なる三つの物語が交錯し、やがてひとつの音楽へと結ばれていく。
発表されず、改竄され、あるいは握りつぶされた創作。それでも創ることをやめなかった人々。世界中に確かに存在する「誰にも聞かれなかった音楽、誰にも聞かれなかった言葉」に光を当て、創作という行為そのものの尊厳を問いかける、壮大な作品である。KAAT大スタジオとシアターウエスト、二つの空間での上演という構想だけでも驚かされるが、公開されている公演情報の端々からも、本作が一筋縄ではいかない実験性をはらんだ国際的なプロジェクトであることが伝わってくる。三つの物語が、国も言語も時代も飛び越えて一本の線上に並べられたとき、それぞれの「響き」はどうなるのか——その問いを、稽古場で目の当たりにすることになった。

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まず公開されたのは、『春琴抄』のエピソードのなかから、春琴をめぐって佐助と利太郎が対峙する場面 “Ritaro’s Lesson”。中川晃教演じる佐助と、原作やこれまで上演されてきた利太郎像とは異なるアプローチで挑む島太星の利太郎が、火花を散らす。Musical『DEVIL』などで知られる Woody Pakの冴え渡るロックチューンに乗せて、春琴を巡る対立が鮮烈に描き出されていく。中川と島の——よい意味での——厚い信頼関係が、まったく異なる環境に立つ二人の対峙としてこの先どこまで高まっていくのか、実に楽しみなナンバーだ。中川晃教自身が手がけた歌詞には、二人の境遇と思いが幾重にも積み重なり、対立のリアリティと、互いに切磋琢磨し合う熱までもが滲む。文句なしのビッグナンバーである。

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続いて披露されたのは “Hidden Feelings”。本編は一幕ものとして上演されるが、仮に二幕構成であったなら一幕ラストに匹敵するであろう、本作屈指の名場面となるにちがいないシーンだ。すべての物語がこの一点で交錯し、同じメロディラインのなかで、作品前半と後半の「話法」が静かに移り変わっていく。巧みで、幻想的な構成だ。ここでもまた、中川晃教の詞の奥深さと、その歌声が際立つ。

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橘未佐子演じるボパナと、剣幸演じるエミリーの無言のすれ違い。そこから立ち上がるエミリー独自の世界観の、その広がりと尊さ。春琴の儚さや孤独さと、真風涼帆が演じるある役の包容力と美しさ。そして佐助に重大な影響を及ぼす役を演じる丘山晴己の、雄弁な身体表現。それらがすべて溶け合って、舞台はえもいわれぬ幻想へと立ち上がっていった。

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本作には、エミリー・ディキンソンが実際に書き残した詩も登場する。彼女の創造力の豊かさが結晶した “Song Battle” は、愛らしいマーチのような楽曲に乗せて、エミリーの意志の強さと、果てしなく広がる思考・想像力を描き出す。松井工らが実力派が演じるエミリーに教えを伝える人々に対し、剣幸のエミリーはとにかく愛くるしく、詩の世界を心から愛するその素直さが、まっすぐに客席へ伝わってくる。
時代を超え、国境を越え、これまで聞かれることのなかった声に、ひたすら耳を澄ます——。『空白の響き』という作品がいま確かに立ち上がりつつある、その瞬間に立ち会える幸福を噛みしめながら、稽古場を後にした。

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STORY
何もない空間に、人々が一人ずつ現れる。
それぞれが日常のなかで仕事に追われ、生活に追われている。
ある瞬間、全員がふと手を止める。街のノイズの奥に、かすかな旋律が聞こえる——
誰のものでもない、けれど確かにそこにある音楽の残響。
図書館の書庫で古い書物を開いた男は、「春琴抄」の世界に入り込む。
盲目の天才琴師・春琴に仕える丁稚の佐助。
折檻を受けながらもひたすら師に尽くす佐助と、やがて彼だけに心を許す春琴。
二人の間には、痛みと愛が分かちがたく結びついた奇妙な音楽が流れていた。
19世紀のアメリカでは、少女エミリー・ディキンソンが、誰にも似ていないリズムで詩を紡いでいた。
批評家ヒギンソンはその才能を認めながらも、彼女の詩を「正しい」韻律に書き換えて世に出す。
親友スーザンもそれを支持する。
理解されない痛みの中、エミリーは窓を閉め、暗い部屋で一人、自分だけの言葉を探し続ける。
クメール・ルージュ支配下のカンボジア。
強制労働に従事する少女ボパナは、夜ごと恋人への手紙を書いた。
検閲を逃れるため、手紙にはインドの叙事詩『ラーマーヤナ』の王女シータの物語を忍ばせた。
収容所での凄絶な拷問のなかでもボパナは書くことをやめず、「心だけはあなたのもの」と綴り続けた。
やがて春琴の顔に熱湯が浴びせられ、佐助は自ら両目を突く。
暗闇のなかで二人は初めて同じ世界に立ち、春琴は誰にも聞かせるあてのない音楽を夜ごと爪弾き始める。
ボパナの手紙は後世の人々によって発見され、シータの物語はついに完結する。
エミリーは広大な想像力の中で自由を手にし、空より広い頭の中で、言葉と音符を高く舞わせる。
三つの旋律が重なり合い、ひとつのハーモニーとなる。
誰にも聞かれなかった音楽が——いま、時を超えて、私たちの鼓膜を震わせる

ミュージカル『空白の響き』Blanked Sound
2026年7月5日(日)~7月12日(日) KAAT 神奈川芸術劇場大スタジオ
2026年7月16日(木)~7月26日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
シアターウエストプレビュー公演は7月15日(水)19時開演のGP公演
追加公演 7月19日(日)19時開演

原作:谷崎潤一郎「春琴抄」ほか
Book & lyrics:Musical Blanked Sound Project
Lyrics:Woody Pak/中川晃教
Muisic:Woody Pak
Assistant to Composer & Orchestrator:Johnny (Tzu-Yang) Ho
演出:タカイアキフミ
出演:中川晃教
島 太星・松井 工・橘 未佐子
井澤美遥・鞆 琉那(Wキャスト)
丘山晴己
真風涼帆
剣 幸