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満島ひかりインタビュー★百鬼オペラ『羅生門』 「インバル&アブシャロムの舞台は夢を見せてくれます」「私も、もう少し大きく挑戦できるかな」

2013年にミュージカル『100万回生きたねこ』(以下、『100万回~』)で日本の観客に驚きと喜びをたくさんプレゼントし、その年の演劇賞を総なめにした演劇ユニット、インバル・ピント&アブシャロム・ポラックが、2017年9月に今度は『羅生門』というミステリアスな題材を取り上げ上演する。
その 百鬼オペラ『羅生門』 と題された作品には、妖怪たちが登場。
さらに『100万回~』で白ねこを演じて鮮烈な印象を残した満島ひかりが出演する…と聞けば、ワクワクせずにはいられない!

百鬼オペラ『羅生門』は、『羅生門』『藪の中』『蜘蛛の糸』『鼻』という代表的な芥川作品を1つの物語にした作品になる…という基本情報を仕入れて、作品を妄想しながら取材に向った。

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― 満島さんがこの作品に出る決め手は?
決めたかな?…「出ませんか?」もなく、「ひかりちゃん出まーす!」みたいな感じだったような(笑)。

― インバルさんとアブシャロムさんは、それほど魅力あるおふたりなんでしょうか?
魅力満点ですよ!魅力あるどころの騒ぎじゃないくらい魅力満点です!

― 『100万回~』は、そんなにも楽しかったですか?
楽しいというか、今でも大好きな仕事です。仕事って言いたくないくらい、大好きな作品です。彼らの作る作品には、夢で見た、夢で想い描いた世界みたいなものがあります。色合いとか、美術もそうですし、ちょっと懐かしさのある感じ…、ダンスの振り付け等もそうです。脚本に言葉はとても少なかったのですが、言葉ひとつひとつが、語り過ぎず、ちゃんと強くて好きでしたし、役者さんもダンサーも音楽家も、一人一人を受け止めてもらえて、それぞれがいいところを出し合って作っていけたのも本当に好きでした。
彼らの世界にみんなが近づいたんじゃなくて、出演者もスタッフも一人一人の良いところをきらきら開いて、インバルとアブシャロムの世界になる。それがとっても好きでした。

― 今回もそれがありそうな感じなんですね?
今回もありそうな感じです(笑)! キャストを見て「あ、今回は役者は6人なんだ」と思いました。それぞれ個性的な俳優さんたちです。『100万回~』で一緒だった銀粉蝶さんと田口浩正さんがいるのもこころ強い。他のみなさんも、とても楽しみです!

― どんなお稽古場なのですか?
新しい発想をみんなから集めるという感じです。インバルはよく「アイラヴハプニング!」と言っていました。作品を作ることには、いつまでも“完成”が無くて、本番が始まってもいつまでも発見があって揺れ動いていて。だからこそ「あ、それ面白い!」「それやってみようよ!」といろんなことを試して遊ぶ稽古でした。

― ついさきほど、アブシャロムさんにお会いになって、作品についてお話されたそうですね?
やっぱり、アブシャロムは真面目だなって思いました(笑)。「妖怪って面白い」で終わりじゃなくて「なぜ日本にはこんなに妖怪がいるのか」って、真面目に考えていて、話が面白かった。「日本の環境とか日本の文化が、こんなにもたくさんの妖怪を生んだんじゃないか」とか「日本の人はあからさまにしない美学みたいなものをずっと持っていて、それがミステリアスだ」とアブシャロムは言っていました。
言われてみれば、確かに秘密ごとって多いと思います。私も最近「祖母の世代がいなくなる前に、彼らしか知らない秘密のことをどうにか受け継いで、なんとか作品の中に入れたい」と思っています。いろんな地方の小さなお祭りとか、秘密の儀式とか、そういうことを調べるのが好きなんです。小さい頃は好きで妖怪辞典も持っていたんですよ。日常から生まれてきたような妖怪が確かに多くて、「こんな妖怪、いるの?」と思うような妖怪がたくさん載っていました。彼らは、日本の妖怪…どう描くんでしょうね。

―妖怪は楽しそうですが、『羅生門』と聞くと重そうな感じがしますけど…。
そうですよね、前の『100万回~』より大人っぽくなるのかな? どうなるのか、まだわからないですけれど、芥川龍之介さんの作品は、読んでいると、彼が書いた言葉が映像になって見えたり、音が聞こえてくるような感じがするんです。『羅生門』を読んで画を描きましょうとなったら、私にとっては描きやすい作家さんかも。インバルとアブシャロムが芥川作品を選んだと聞いて「あー、なるほど」と思いました。でも日本の人は『羅生門』をミュージカルにしようなんて思わない。日本で作られた芥川さんの作品なら、まず黒沢明監督の映画のイメージですよね。きっとインバルとアブシャロムが創るものは、私たちの想像とは全然違う世界でしょうね。

―アブシャロムさんから今回の作品について新たな情報は得ましたか?
小さな情報をちらほら聞いたので、今、頭の中でワクワクが拡がっています。『100万回~』の時もそうだったんですけど、彼らの手にかかると、そのワクワクがそのまま現実になるんです!それがもう!インバルとアブシャロムには、私の変な想像を具現化されてしまう。ちょっと感動的です。

―感動といえば、本作について満島さんはコメントムービーで「『羅生門』でハッピーになると」おっしゃっていました。『羅生門』=悪に手を染める…というイメージがあるので、意外に感じましたが…。
ものを作るには愛が必要じゃないですか。一人一人に、個人個人に、カンパニーやお客様に、そして人類愛…そういう“愛”がインバルの完成には溢れているので、インバルが作り出し生み出して、私たちに「こういうのはどう?」と与えてくれた動き(ダンス)には、どこか母親に包まれているような、温かさが感じられるんです。たぶん、人間の愛の動きの中から彼女は拾っているんですよ。ハプニングもそこに「LOVEがあれば取り入れる」し、「LOVEがなければそのハプニングは無し!」。彼女の動きには、すごいLOVEがあるんです。
アブシャロムは、同じ“愛”でも種類が違って、哀愁の人のように感じます。インバルの温かさでフアーっとなりそうなところを、アブシャロムの哀愁が地上に引き留める…そんなバランスだから、360°に行き渡った愛の作品になるんです。
そういう二人の、固定概念なんかバキバキバキって壊してくれるようなものの見方は、日本の人が思う芥川作品とは全然違うかもしれないけれど、観てみると「あ、そうなのか、芥川龍之介ってね!!」と思えるものになる気がします。

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― 最近は満島さんの歌やダンスがお茶の間にもどんどん届いています。そういう面での満島さんを楽しみに来られる方もいるのでは?
お茶の間っていいですね(笑)!!  お茶の間の方も観に来てもらえたらいいですね!!
こういった作品は若い方に注目してもらえそうだけど、いやいや老若男女が好きなはずですよ。びっくりしちゃうかもしれませんけれど、インバル&アブシャロムの舞台は夢を見させてくれます。本当にそれって、なかなかにすごいことだと思います。

―その夢の舞台の中に満島さんは・・・
私、いるんです、ラッキーです!舞台を観ているお客さんは間違いがない限り(笑)人間ですけど、演じている私たちは、人間じゃないものになれる。人間じゃない時間がいっぱいあるとありがたいです(笑)!彼らの演出では妖怪の方がまともに見えて、人間が浮くような気がしますよね。どうなるのか、まだまだわからないですけど…。
『100万回~』の稽古のはじめには、私の新しい部分を料理してほしくて、自分が得意なこととかをあえてやらないと決めてしまったんです。そうしたら、「ひかり、もうちょっと動いて」って言われても変に固くなって、動けなくなってしまって。
新しいものを見たかったし、「日本で日本のお芝居の中で得てきたものって彼らにとって邪魔なものかもしれない」と思う気持ちもあって、稽古場でずっと幼稚園児みたいにじっとしてしまったんです。悔しい気持ちも徐々に、自信に繋がりましたが。
今回は一度作品を一緒に作っている安心感もありますし、『100万回~』のときの続きをやる気持ちと、新しい気持ちを持って「今度はもう少し、彼らの前で解放できるかな」と楽しみにしています。

― 『100万回~』の時に満島さんの世界も広がったのですか?
あの時に振付助手だったエラちゃんという女性に「ひかりは自分の中にいろんなものを持っているのに全然出してなくて嫌だ」と何度も言われました。それに対して「夢のある強さみたいなものが、いっぱい体の中に眠っていることは自覚しているけど、出せない」って答えていました。彼女から「中にあるものを出せはいいだけの話じゃない」「もっともっと出して!」と言われましたし「どうしたら出せるの?お酒飲んだら出せるの?」とも聞かれました。
今回は、インバルとアブシャロムとの信頼関係もありますし、お茶の間でも私がお芝居以外のこともするんだと認識してもらえているなら(笑)、「もう少し大きく挑戦できるかな」と思っています。
ダンサーさんにもたくさんお世話になっているんです。周りでは体がは柔らかい方だと言われていても、ダンサーたちからするとまだまだなわけです。音楽家たちも個性豊かで「ちょっとできます」「かじってます」では、太刀打ちできないところがあるんですけど、でも、あんまり臆せずできればいいなと思っています。
『100万回~』の初日では、緊張し過ぎて音がうまくとれなかったんです。わかっているのに、音楽はどんどん進んでしまう…。もう、あんなふうにだけはなりたくない(笑)。でも、その時にある音楽家の奥さまが観にいらしていて「彼女の歌がすごくよかった」って言ってくださったんです。「音が合っているかどうかより、パッションみたいなものとか、色めくものを観てくれる人もいるんだな」って思いました。ただ、そればかりではない人もいるので、いろんな人に夢を持ってもらえるようにしたいなと思います。

― これからダンスや歌のトレーニングもされるんですか?
でしょうね、全然時間がないですね。まぁ、多少は体を動かすのが癖になってはいるので、ビシバシと音楽家さんやダンサーさん、インバルとアブシャロムに鍛えられながらお稽古したいと思います!(笑) あの頃みたいにまじめにトレーニングをやっていないので怖いですけど、楽しみです!

満島ひかり(みつしま ひかり)
1985年生まれ。97年に音楽ユニット「Folder」でデビュー。その後、数々の映画、テレビドラマ、舞台で活躍を続け、これまでに国内外で多くの賞を受賞。インバル・ピント&アブシャロム・ポラック演出の舞台『100万回生きたねこ』(13)では、第21回読売演劇大賞にて杉村春子賞(新人賞)を受賞している。
最近では、mondo grossoの新曲「ラビリンス」でのヴォーカル、そして自身の出演するMVも話題。映画『メアリと魔女の花』(声の出演)、主演映画『海辺の生と死』(越川道夫監督主演)が公開中。EGO-WRAPPIN’プロデュースの楽曲『群青』が8月9日より配信。9月には12インチアナログのリリースも予定している。

百鬼オペラ「羅生門」

羅之

@奥山由之

Staff
原作:芥川龍之介
脚本:長田育恵
作曲・音楽監督:阿部海太郎
作曲・編曲:青葉市子、中村大史
演出・振付・美術・衣裳:インバル・ピント&アブシャロム・ポラック
Cast
柄本 佑、満島ひかり、吉沢 亮、田口浩正、小松和重、銀粉蝶
江戸川萬時、川合ロン、木原浩太、大宮大奨
皆川まゆむ、鈴木美奈子、西山友貴、引間文佳
Musician
青葉市子、中村大史、権頭真由、木村仁哉、BUN Imai、角銅真実

会場:Bunkamuraシアターコクーン
公演日程:2017/9/8(金)~9/25(月)
チケット:S・¥10,800 A・¥8,500 コクーンシート・¥6,500(税込)

兵庫公演
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
公演日程:2017/10/6(金)~10/9(月・祝)

富山公演
会場:富士市文化会館ロゼシアター 大ホール (静岡県)
公演日程:2017/10/14(土) ~ 10/15(日)

愛知公演
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
公演日程:2017/10/22(日)

【あらすじ】
いつか遠い昔、あるいは遥かな未来。
朽ちた門楼で雨宿りをしている下人。森羅万象であり永遠を生きる百鬼たち、そんな下人を見つめていた。下人は楼上で、女の死体から髪を抜く老婆に出会う。
「生きるためなら罪を犯してもいいのか?」
太刀を抜くが、心に一瞬の躊躇がよぎる。そして、気づく。死体の女に見覚えがあると。
その瞬間、百鬼の歌が響き、死体の女が目を開く。
「あたしが欲しい?」
無限に引き延ばされる一瞬、百鬼の導きで、下人と女の過去と未来のヴィジョンが展開する。
「分からないんだ、自分でも、なんでこんなに惹かれるのか」
巡り合いを重ね、もつれあう無数の糸。その交点に火花が散る。
百鬼は下人に問い続ける。――「おまえは生きてるか? 死んでいるのか?」
芥川龍之介「羅生門」の世界に、「藪の中」「鼻」「蜘蛛の糸」のエッセンスを加えて編み上げる、生きるための魂の旅。かつて人を愛した記憶があった。まだ果たされない約束がある。旅の終わり、下人と女が見つけ出す答えとは。