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革命になる?! 『三文オペラ』 松岡充 吉本実憂 インタビュー 

2011年の開館以来、数々のユニークなプログラムで楽しませてくれているKAAT神奈川芸術劇場。例えば、2016年秋に白井晃芸術監督の演出作品として上演された『マハゴニー市の興亡』(ブレヒト&ヴァイル作)は、劇場に一歩足を踏み入れた瞬間から驚かされ、新鮮な感動が続く作品として好評を博した。
そのKAATが、気鋭の演出家として、また翻訳や演出台本なども多く手掛ける谷賢一をむかえて、同じブレヒト&ヴァイルの名作『三文オペラ』を上演する。

90年前に初演された作品でありながら、近年、日本でも何度も上演されている『三文オペラ』。古典ともいえる名作が、谷の手でどう生まれ変わるのか?

キャストは主役のマクヒィス役にSOPHIA・MICHAELのヴォーカルで、ミュージカルからストレートプレイまで俳優としても幅広く活躍する松岡充。彼をめぐる2人の女性は本作が初舞台となる吉本実憂(ポリー役)とAKB48の峯岸みなみ(ルーシー役)。このフレッシュな2人と松岡を、宝塚出身の貴城けい、ナイロン100℃の村岡希美高橋和也、そしてKAATの芸術監督でもある白井晃という実力派俳優陣が囲む。

Astageはビジュアル撮影が行われたスタジオを訪ね、松岡充吉本実憂に話を聞いた。

「三文オペラ」解禁photo

峯岸みなみ    松岡充     吉本実憂

―本作に出演される経緯など、お話し頂いてもいいでしょうか?
吉本:オーディションを受けて出演させて頂くことになりました。オーディションではアカペラで歌ったり、その場で頂いた台本を谷さんと読み合わせしたりしました。ただ、オーディションまでの準備期間があまりなかったので「その場で出来る限りのことをやろう」と思って、とても緊張しました。舞台に出演したことがなかったので、受かったと聞いた時にはすごく驚きましたし、「私でいいのかな」とすごく不安になりました。今はまだお稽古にも入ってないので「できるんだろうか」という不安がありますが「しっかりと頑張りたいな」と思っています。
松岡:以前、谷さんとは都内の稽古場で偶然お会いして、「SOPHIAのファンです。すごく好きなんです」という告白をして頂きまして(笑)、そして、「僕も今頑張っているのでいつかぜひ松岡さんと一緒にお仕事やりたいんです」と言って頂いて、とても嬉しかったですね。谷さんとはその時が初対面だったんですが、とても情熱的にお話しして下さって、僕も「ありがとうございます」とお答えして、ツイッタ―をフォローし合ったのが始まりでした。その数年後に本作のお話を頂きました。正直に申し上げるとその時点でスケジュールとしてはバンドの活動もすでに決まっていたのでお受けするのは難しいかなと思ってたんですが、このプロジェクトは、谷さんがKAATで新たな演劇としてさらに上を目指すチャンレンジだと知って、そこに僕を選んで頂けたことがとても光栄だと思い、僕からも「是非」とお答えして出演することになりました。

―谷さんから熱烈なラブ・コールだったのですね。
松岡:パッションですねぇ。といっても、谷さんにはまだ2回しかお会いしてないんですが。(笑)
そして『三文オペラ』という作品も魅力のひとつです。僕はロックボーカリストなので、元々こうしたお芝居の世界では外様で、気付いたら結構やらせて頂いていた…という感じなんですが、以前出演した『ファンタスティックス』は世界最長のロングランミュージカルで、『三文オペラ』も古典。『三文オペラ』の音楽はCM等に使われているだろうから、みなさんも聞けばきっと「知っている!」「あれか!」と思うでしょうね。それだけ有名な『三文オペラ』を谷さんがぶっ壊すと聞いて「これは面白いぞ!」と。
でも心配なのは、実憂ちゃんとの年齢差です。(笑) 「若いよ」と聞いてはいましたが、さっき初めてお会いしてびっくりして・・・。

―松岡さん演じるマクヒィスには吉本さん演じるポリーの他にも女性がいるんですよね。
松岡:そうなんです、いっぱいいるんです。ダメだと分かっていながら・・・。(笑) すいません!
吉本:すいませんなんて…。(笑)

―今日はこれからビジュアル撮影ですね。
松岡:はい。『三文オペラ』という題材に縛られないチャレンジするような撮影になると聞いています。バンドをやってきた経験からビジュアルは「内容を知らない人たちにどう訴えるか。興味をもってもらえるか」という大切な役割があると思っています。
僕は谷さんとも2回しかお会いしてないし、共演者の方も今日、初めてお会いする方ばかり。他の出演者の方もそうだと思います。でも今日の撮影のラフを拝見して「なるほど!」と思いました。キャストが小さな箱の中に集まって絡まり合うという構想です。(吉本さんに)見ましたよね?
吉本:はい。
松岡:それはもう「ここから芝居が始まるぞ」ということ。素面ではできない。役になって初めて今日のビジュアル撮影はできだろうと思っています。
吉本:私も「今日から始まるんだな」という気持ちでいます。正直にお話すると、オーディションに合格したことも、舞台出演も急で、まだ自分の中で整理がついていないところもあるんです。でも先ほど松岡さんと少しお話させて頂いて、松岡さんがいい人そうで…(一同笑)
松岡:まだポケモンGOの話しかしてないから。(笑)
吉本:松岡さんもポケモンGOを「癒しだ」と思ってやっていらして、私もポケモンGOが今の楽しみなんです。共通した話題があってお話して楽しい。頼りがいのある良い方だと感じています。今日からしっかり頼って引っぱって頂いて、私もポリーとして一生懸命生きていきたいと思っています。

―吉本さんは今回が初舞台。オーディションで合格したとのことですが、舞台に興味をもったきっかけは?
松岡:そうかぁ。初舞台なんだね。
吉本:はい。元々「舞台に挑戦したい」と思っていて、マネージャーさんにも話をしていましたが、こんなに早くチャンスをいただけるとは思なかったので、まだ「本当なのかな?」という気持ちもあり、「台詞をおぼえられるかな」「舞台の上ではどうやって表現したらいいんだろう」と、いろいろ不安があります。でも挑戦したいと思ってきた舞台出演なので、楽しみだとも思っています。
松岡:普段も舞台は観にいきますか?
吉本:共演させて頂いた方が出演されている作品や同じ事務所の方の出演作品などを観に行っています。
松岡:いろいろ観てきた舞台の中でどんな舞台がいいなぁと思いましたか?
吉本:『里見八犬伝』です。殺陣が好きなので。早乙女太一さんの殺陣に一目惚れして、アクションを習いたいと思い、今、習っています。
松岡:アクション!! 何を習ってるんですか?
吉本:殺陣と技斗です。
松岡:ステージに立つのは?
吉本:お芝居はドラマ・映画など映像だけです。9月までアイドルグループ(X21)に所属していましたが、先日卒業しました。
松岡:ではライブやイベントには出てるんだね?
吉本:はい。でもきっと舞台とは全然違うと思うんです…。役として舞台に立つのは初めてなので、どういうものなのか、教えて頂きたいです。

―松岡さんから吉本さんにアドバイスをするとしたら?
松岡:いやぁ。舞台人としては真っ白、すべてがこれからですから、アドバイスは難しいです。光り輝くものをお持ちだから選ばれてここに来ていると思いますし、僕の方が勉強になることがあると思います。きっと、僕が忘れてしまっていることがあると思うんです。「初舞台」ということでは、例えば僕が言うことのすべてが初めて聞くことだったりするわけですよね。それを全部理解して行動していくのは、人間として無理なことだろうから、逆にあまり他人の意見は聞かない方がいいと思います。演出家の意見は聞いた方がいいけれど、その他は「それはそれ」と思っていた方がいい。これから自分のスタイルができていくのだから。
吉本:はい、がんばります!

―そして志磨遼平(ドレスコーズ)さんが音楽監督をされるのも楽しみなところだと思います。
松岡:ロック畑の方が音楽を担当されるのは、共通するフィーリングがあるでしょうから楽しみです。僕も舞台でいろいろやらせて頂いていて、やはり音楽がある舞台が多いのですが、やはりその中で、リアルにロックをやっているボーカリストの感覚とお芝居の世界でのロックでは違いがあります。その違いを分かっている方が、今回は音楽監督をされるので、安心です。

―ズレですか?
松岡:その違いというのは例えば、僕は関西人で関西弁のネィティブなのですが、ドラマで関西人の役で関西弁を話すと方言指導の先生に直されることがあるんです。「視聴者は松岡さんの関西弁は関西弁だと思わないから」と。でも関西人である僕からすれば「えっ?!」と思ってしまう。そんな感覚の違いに似ています。
今回はそんなふうに気をもむ感じがないと思うので、とても楽しみです。一緒に創っていける気がしています。

―吉本さんは音楽についての楽しみはいかがですか?
吉本:歌うことは好きですが、いつもグループだったのでひとりで歌うことはあまりやったことがありません。ひとりで歌い、自分じゃない人・・・役柄として歌うことが不安でもあり、楽しみでもあります。少なくとも、今までやって来た発声練習や歌の稽古が無駄にならないように活かしてできればいいなと思っています。

―芝居に音楽、そして新たな試みもあるそうですね?
松岡:ポリーのお父さんで乞食商会の首領(社長)ピーチャムにちなんだ「P席」という新たな席が設けられます。チケット代金もリーズナブルなお席ですが、観客のみなさんもただ観劇するだけではなく、三文オペラの世界に加わって出演者の一員にもなってもらって一緒に盛り上がろうという席ができるそうです。
新しいアイデアって生まれても「それはムリだから」って終わってしまいがちですよね。でもそれを何とかしようと知恵を出し合って、労力を厭わずやってみる。本気で新しいことを考えてみようとするこの現場は素晴らしいと思います。結果的にできなかったら、それはそれでいいんです。でも、できたら革命になる。この「P席」もそうです。どうなるのか、楽しみです。

―では役柄をふくめて意気込みをお願い致します。
松岡:『三文オペラ』が出来て90年以上経ち、日本とは国も文化も違うけれど、現代でもこの作品が繰り返し上演されるのは、変わらない人間社会の構造みたいなものがあるからだと思います。進化しても変わらないもの…それは人間本来の性質で、それが集まって社会が出来上がっている。社会に入らないと人間は誰もひとりでは生きていけない。そして守るべきものと捨てていくもの、犠牲にするものがそれぞれの立場にあるのだと、この作品は、風刺している。その社会構造は2017年の日本でも同じで、今回の作品で描くのはそのもっと先の未来が舞台になるので、その予言も描いていきます。
『三文オペラ』が生まれた時代と本作で描く未来との間にいる我々が、自分を投影できる青年というのが、僕の演じるマクヒィスという役だろうと思っています。誰もが持っている甘さやズルさ、でも一生懸命に誰かを愛する気持ちや「生きよう」という意欲がマクヒィスにはあります。だからこそ、「そんなオチなの?!」と驚くような結末も人生を風刺しているようで、僕には谷さんがこの作品を選んだ意味もよく分かります。
僕が演じるマクヒィスは象徴だと思っています。観客・・・特に男性の観客が自分を投影できる象徴になるように頑張りたいと思っています。
吉本:ポリーはマクヒィスと親に黙って結婚したり、三角関係になった相手の女性(ルーシー)を問い詰めたりする。そこまで覚悟を決めてつっぱしらせてくれるものが今の私にはないので、そんな行動力は私自身にはあまりありません。親を犠牲にして、何かを失う覚悟を持ってまで大切にしたい愛する人…マクヒィスがいるのがポリーです。自分もこの舞台をやらせて頂くには覚悟を決めてやろうと思っています。

―ぶつかっていく?
吉本:はい。がんばります!

―松岡さんに受けとめて頂いて…。
松岡:はい。期待しています!

 KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
  「三文オペラ」
◆作 ベルトルト・ブレヒト
◆音楽 クルト・ヴァイル
◆演出・上演台本 谷 賢一
◆音楽監督 志磨 遼平(ドレスコーズ)
◆出演
松岡充
吉本実憂
峯岸みなみ
貴城けい
村岡希美
高橋和也
白井晃

公演日程
◆2018年1月23日(火)~2月4日(日) KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
 http://www.kaat.jp

◆札幌公演 2018年2月10日(土)札幌市教育文化会館 大ホール