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「香港映画祭2023 Making Waves 」ユン監督が香港への思いを込めた『風再起時』Q&Aレポート

11月2日~5日にYEBISU GARDEN CINEMAにて「香港映画祭2023 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」が開催された。
オープニングセレモニーに続いて、“四大天王”郭富城(アーロン・クォック)と香港を代表する俳優のひとり、梁朝偉(トニー・レオン)の初共演映画となった『風再起時』(2022年)が上演された。映画の上映後には、翁子光(フィリップ・ユン)監督と、ユン監督と共に脚本を手掛けた孫霏(スン・フェイ)が登壇。観客から寄せられた質問に答えてくれた。

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通訳のサミュエル周さん フィリップ・ユン監督 スン・フェイさん レモン・リム (香港国際映画祭イベント・マーケティングディレクター)

本作は、アーロン・クォツク演じるレイ・ロック(磊樂)とトニー・レオン演じるナム・コー(南江)というふたりの(汚職)警官を主人公に、1941年の太平洋戦争・香港陥落前後のふたりの生い立ちから、その一生を描く。香港という唯一無二の街の歴史と、社会、文化の変化を背景に、香港映画らしいエキサイティングなエネルギーを詰め込んだ1本だ。

風再起時_main_© Courtesy of Mei Ah Entertainment Group Limited. All Rights Reserved.
© Courtesy of Mei Ah Entertainment Group Limited. All Rights Reserved.

1980年代から活躍しつづけているアーロンとトニーの、映画での初共演が実現した本作は、第16屆亞洲電影大獎でトニー・レオンが最優秀主演男優賞を受賞し、許冠文(マイケル・ホイ)が助演男優賞、美術指導がノミネート、第41屆香港電影金像獎では8部門にノミネートされ、マイケル・ホイが最優秀助演男優賞を獲得。美術指導と衣裳デザインも最優秀賞を獲得した。

フィリップ・ユン監督は、本作が監督4作目。3作目の「踏血尋梅」(2015)でアーロン・クオックを主演に据え第35屆香港電影金像獎では監督賞にノミネート、最優秀脚本賞を受賞している。脚本家としては、多くの作品を手掛けており、脚本を担当した「キョンシー」(原題:殭屍 2013年)は、東京国際映画祭で上演され、最近までNETFLIXでも見ることができたので、覚えている方も多いことだろう。(残念ですが現在は見られません)

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ユン監督が「香港は私が生まれ育った街です。この作品の中に込めた「香港映画祭2023 Making Waves 」『風再起時』Q&Aレポート、皆さんと共有できると嬉しいです」と挨拶。Q&Aが始まった。
最初の質問が「アーロンとトニーの共演秘話を教えてください」だと聞いたユン監督は、「やっぱりね」という表情をみせ、それを観た観客からは笑いがこぼれた。
ユン監督は「ふたりは映画ではなく、 テレビドラマでは一緒に仕事したことがあるんです。ご存じのように、この2人はもう香港映画界でたくさんの仕事をしてきました。梁先生(トニー)はたくさんのウォンカ-ワイ監督の映画に出演されましたし、侯孝賢監督作品にも出演され、アートムービーの世界で素晴らしい演技をされています。朝偉はとても静かな人で、口数も少ない。一方のアーロンは、アイドル路線の俳優といえますが、長い年月をかけていろんな演技をして変わり、近年、実力派俳優として実力を発揮しています。アーロンとは、私は以前一緒に仕事したことがあり、彼はとてもエネルギッシュで、周りの人に影響を及ぼすことができる人です」とふたりについて丁寧に解説。
だが、ふたりのエピソードについては「特に面白いことはありませんでした」と話すも、それだけでは申し訳ないと思ったのか、「時には二人が『どういう映画を見ている?』とか『今、映画界でこんなことが起きているよ』と、おしゃべりしているのは見かけましたし、いい友達に出会ったように見受けました。話の大部分は、この映画の脚本についての話だったと思います」とつづけ、さらに「2人と仕事をしていると、アーロンは昼型、トニーは夜型と感じがします。アーロンは現場で、私よりも要求が高くて『今のシーンを撮り直したい』と言ってくるんです。トニーは、現場ではほとんど何にも喋らない。ところが、撮影が終わって夜になると『今日、昼間に撮ったシーンはどうだった?』『明日はどうすればいい?』と、バンバン、私のところにショートメッセージを送ってくる。仕方なく、夜はトニーと脚本についてテキストで話し合いました」と、たっぷりと話してくれた。

観客から、マイケル・ホイの起用についての質問が出ると、ユン監督は“待ってました”とばかりの表情で「マイケルさんは私のアイドル。彼の映画はいつも大ヒットしていて、父に連れられて小さい時からずっと彼の映画を見てきて、とても親しみを感じる方。私にとっては、香港の70年代の香港や世代を代表するような存在です。私はこの作品を香港映画ファンへのプレゼントにしようと思っていたので、そんな映画には、マイケル・ホイが登場しないとダメですよね」と語った。
さらにマイケルの最後の台詞については「このセリフは脚本に元々ありましたが、実はマイケルさんは、役者になる前は英語教師でしたから、文法には非常にうるさくて、当時の警官や公務員の話し方も研究していて、彼からもいろんな意見が出たんですよ」と明かした。

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「本作を200回は見た」と語るスンも「私もちょっと面白いお話をしなきゃ」と微笑むと「私が書いた台本通りにセリフが話されているか心配で現場に行くのですが、マイケル先輩が話すセリフは私の書いたセリフとは微妙に違っていました。ユン監督にセリフが違うと話したのですが、ユン監督は『自分でマイケルさんに話して』と言うんですよ。そのうちにマイケルさんのセリフは、元のセリフと意味はあまり変わらないけれど、さらに面白くて話しやすくてキャラクターにしっくりくるセリフになっていることに気がつきました。最後の英語のセリフもホイ先輩が少し手直ししたものになっていると思います」と教えてくれた。

汚職を題材にしたことについて、ユン監督が「私が生まれて育った頃の香港と今の香港とは、大きく変わってしまった。昔の香港がすごく懐かしくて、映画の中に、この40年ほど前の香港の風景・人たちを残したい、忘れてはいけないという気持ちで表現したかった。ただ当時を語るときにはどうしてもこうした人たちに触れる必要があった。けれど、今まで作られた作品と違って、銃撃戦や当時の香港の風景や雰囲気をたくさん盛り込むことにした」と語り、さらに「“香港が死んでいく”と言われますが、僕は決してそうは思わない。歴史は記憶になる。だから歴史を振り返って、これから私たちは香港のために何ができるのかを考えていく必要があると思う」と力を込めた。
スンも「私自身は、生まれも育ちも香港ではありませんが、この脚本を書くために香港の歴史を勉強することができて、私にとっては本当に素晴らしい旅でした」と語った。

 香港映画祭2023
「Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」
2023年11月2日(木)〜5日(日)
会場:YEBISU GARDEN CINEMA (東京都渋谷区恵比寿4-20-2 恵比寿ガーデンプレイス内)
公式HP:香港映画祭2023「Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」 (oaff.jp)