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吉田美月喜「一番怖いことは“無知”」「あなたの味方は絶対いる」と伝えたい! 映画『カムイのうた』インタビュー

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アイヌ民族の壮絶な歴史を描いた映画『カムイのうた』が、1月26日(金)より、いよいよ全国順次公開される。
本作は、19歳にしてアイヌ民族が口頭伝承してきた叙事詩ユーカラ(※)を日本語に訳し「アイヌ神謡集」として後世に残した実在の人物・知里幸惠をモデルに、彼女の壮絶な生涯を描いた物語。

全てに神が宿ると信じ、北海道の厳しくも豊かな自然と共存して生きてきたアイヌ民族。アイヌ民族だという理由だけで差別され、迫害を受けながらも「アイヌ神謡集」を完成させ、19歳という若さで短い生涯を閉じた彼女。主人公・テルを演じたのは、奇しくも撮影当時同じ19歳だったという吉田美月喜。アイヌ文化に触れ、知里幸惠さんを感じながらもテルとして生き演じた彼女が、撮影を振り返りながら本作への思いを語ってくれた。
※「ユーカラ」の「ラ」は正式には小さな「ラ」の表記となります。

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― 最初に本作の出演が決まったときのお気持ちと、脚本を読まれたときの感想をお聞かせください。

出演はオーディションで決めていただきました。私はかねてから時代ものの作品をやってみたいと思っていたのでとても嬉しかったです。でも、話の内容が“アイヌ文化”という大きなテーマだったので自分にできるのかと不安になって・・・、まずはアイヌ文化を学ぶことから始めなければと思いました。脚本を読ませていただいて、日本でこんなことがあったんだ!と驚きつつも、自分の勉強不足が悔しくなりました。それくらいショッキングな事実があって。アイヌ文化のことは少しずつ話題になって広まってきてはいますが、監督がその中には美しいことだけじゃなくて、こういう事実もあったことを伝えていかないといけないと仰っていたので、その責任感をすごく感じました。これまで参加させていただいた作品とはまた違う緊張感がありました。

― 撮影時、吉田さんはテルのモデルとなった知里幸惠さんがお亡くなりになった年齢と同じ歳だったそうですが、どんなお気持ちで撮影に臨まれましたか?

私だったら自分の命をかけて、ユーカラを書き残すこと、アイヌ文化を世に残すことはなかなかできないと思います。知里さんからはそれだけその覚悟と強さを感じました。

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― 以前、イベントで吉田さんの“ムックリ”の演奏を生披露されました。とても素敵でしたが、演奏は難しかったですか?

ムックリはマイク越しだとまた難しいんです。あと、アイヌの方も演奏してくださったのですが、音量の違いにとても驚きました。私もたくさん練習を重ねて映画の中でも演奏させていただきましたが、迫力が全然違うんです。劇中では自然の中で演奏していますが、凄く緊張しました。監督から、「ユーカラもムックリも音を当てる(別に録音する)ことは絶対にしない。その場で実際にやったものを使うからね」と言われていたので、撮影前から練習させていただきました。ただ、ユーカラもムックリもアイヌの音楽には“正解”がないんです。だからこそ、自分でいろんな引き出しを持っていないと、その時の演技の感情で思った音を出すことができない。パターン化されていないので音が鳴るようになったら、そこから色々な音を見つけていかなければいけない・・・そこが一番大変でした。ユーカラも劇中で少しだけ歌わせていただいていますが、実際には長いものでは何日も歌い続けるものもあります。当時の方はそれを覚えて歌っていたので本当に凄いと思います。本作では島田歌穂さんが色々なユーカラを歌われていますが、言葉がわからなくても感情が伝わってきました。ここは楽しい感情、ここはそうではない、ここはとても意味が強い歌なんだろうなということが伝わってきて、ス~っと胸に入ってくるんです。

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― ところで、北海道ロケはいかがでしたか? 雪の中の撮影はさぞ大変だったと思いますが。

夏の期間は1カ月くらい滞在して撮影しましたが、冬は2日間にギュッと詰めて撮らせていただきました。私は温かい肌着を中に着こんだり、靴下を重ねて防寒対策をとりましたが、それでも感覚がなくなるくらい寒かったです。当時の方はそういうもの(温かな肌着や靴下など)がない中で生活していたと思うと、本当にどうやって生きていたんだろうと不思議でなりませんでした。ただ、1つ驚いたことがあって。冬のシーンで履いている藁(わら)だけで作られたブーツは、当時のものと同じように作っていただいたのですが、不思議なことに雪や水滴が一切中に入ってこないんです。靴下も全然濡れない。当時の生活の知恵や技術の凄さには本当に驚きました。あんなに長時間歩いて、これほど入って来ないものかと。これは実際に体験してみないとわからないことでしたね。

― アイヌ語はもちろんのこと、実在された方をモデルにしたテルを演じる上で、特に難しかったことは?

この作品は難しい挑戦の連続でしたが、まず役作りをする上で、監督が「テルと知里幸惠さんは別のものだから、あくまで映画の中でテルとして感じたことを演じて欲しい」と仰ってくださいました。ただベースとして知里幸惠さんがいらっしゃるので、色々と学ばせていただきました。遺されてきたものを見ていると、考え方とか私とは全然違う凄くカッコ良くて憧れる方だなと思っていたんです。勉強のために北海道登別市にある「知里幸惠 銀のしずく記念館」という幸惠さんを通してアイヌの文化を伝える記念館を訪ねたのですが、館長さんに説明を受けながら、19歳らしい恋をしている知里さんのお話や、ご家族の微笑ましいエピソードをお伺いしたときに、共感できる部分を見つけることができて、そこで自分の役に対する考え方が変わっていきました。単にカッコいい人というだけでなく、同年代らしい部分があってもいいんだなと思えて安心しました。

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― 具体的にどんなところに共感されたのでしょうか?

知里さんには弟さんがいらっしゃるのですが、弟さんの日記のようなものに「夜がふけてからお姉ちゃんが恋人のところから静かに帰ってきた」と書かれていて、きっと恋人と過ごしているうちに夜遅くなってしまったのだろうなと。ただカッコいい自立した凄い女性というだけでなく、ちょっと乙女で可愛らしい部分も見つけることができました。そういうところは、劇中には出ませんが、私は役作りをするうえで共感できる部分から詰めていきたいと思っているので、そういうところを知れて、急に役に近づいて入り込むことができました。きっとそのエピソードがなかったら、ただカッコいいだけの女性を演じて終わっていたのかもしれません。

― そんな中で、特に印象に残っているシーンやセリフがあったら教えてください。

たくさんありますが・・・、テルが亡くなったときに色々な方が訪ねてきてくれたり、涙を流してくれるのですが、兼田教授の奥さんが泣いている場面は、私自身の感情がとても動きました。一三四や兼田教授はテルにとって一番近い人ですが、教授の奥さんは彼らより少し離れた場所にいる方。そんな方も悲しんでもらえるくらいテルは愛されていたんだなと。テルは決して孤独じゃなかったんだと救われた気持ちになりました。

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― テルはもちろん素晴らしい人ですが、周りの応援や支えがあったから頑張ることができたのかもしれませんね。吉田さんご自身にも心の支えになっている方はいらっしゃいますか?

私にとって、ずっと味方でいてくれるのは母です。喧嘩もするし、ぶつかることもあるのですが、母の言葉は私のことを思って言ってくれていることなので、冷静になると“お母さんが言っていたことが合っていたな”と思うことがよくあります。仕事のこともプライベートのことも全部相談できるのは母ですし、応援もしてくれています。

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― この作品にはアイヌ文化のほか、今でも差別を受けている問題など、色々なメッセージが込められています。吉田さんにとっても得たものはありましたか?

そうですね。一番にはアイヌ文化を知ることができたということです。それに関する日本の事実を知れたことは非常に大きなことでした。あと、劇中で床に水をこぼしてしまったときに、イヌイエマツが「床の神様は喉が渇いていたんだね」というシーンがあるんです。人間は自然に生かされていて、物には一つひとつ全ての神が宿っているという考えがとても素敵だなと思いました。アイヌ民族は物をとても大切にするし、食べ物も必要以上には取らない。今は、何でも便利になっていて、床や全てのものに感謝するという考えは難しいかもしれないけれど、そういう考え方が頭の片隅にあると、生きる上でまた違う角度で考えたり、プラスになる捉え方もできるんじゃないかと思うようになりました。

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― 最後に、本作を楽しみにされている皆さんに注目ポイントとメッセージをお願いします。

テルはずっと孤独だったかもしれないけれど、その中で絶対に味方をしてくれる人がいました。アイヌの方たちだけでなく、社会で生きている中で孤独を感じたり辛い思いをしている方がいらっしゃると思いますが、あなたを見捨てず味方でいてくれる人は絶対にいるから!ということを、私はこの映画を通して強く感じました。一番怖いのは“無知”ということ。映画の中でもアイヌ民族に対して信じられないような言葉を吐くシーンも出てきます。今の時代でも“無知”でいることによって恐ろしいことが起きたりします。お互いが寄り添い合い、まずは知ることから始まれば、違う視点で物事を考えられるんじゃないかと思います。私がこの映画を通して、この日本の史実を知れたこともそうですし、今を生きる人にそれを知ってもらえるのはとても大きなことだと思うので、一人でも多くの方に長く観ていただける映画になれば嬉しいです。

撮影:ナカムラヨシノーブ

【吉田美月喜(Mizuki Yoshida)】
2003年3月10日生まれ。東京都出身。2017年にスカウトされ、芸能界デビュー。初めて受けたオーディションで大手企業の広告に出演。その後も多数の広告に起用され、Netflix オリジナルドラマ「今際の国のアリス」やTBS日曜劇場「ドラゴン桜」、日本テレビ「ネメシス」などの話題作に出演。2023年には映画『あつい胸さわぎ』(まつむらしんご監督)、7月には、舞台「モグラが三千あつまって」(演出長塚圭史)で主演を務めた。今年は、舞台「デカローグ1-10」デカローグ7「ある告白に関する物語」で主演マイカを演じることが決定している。

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映画『カムイのうた』
【物語】
アイヌの心には、カムイ(神)が宿る――学業優秀なテルは女学校への進学を希望し、優秀な成績を残すのだが、アイヌというだけで結果は不合格。その後、大正6年(1917年)、アイヌとして初めて女子職業学校に入学したが土人と呼ばれ理不尽な差別といじめを受ける。ある日、東京から列車を乗り継ぎアイヌ語研究の第一人者である兼田教授がテルの伯母イヌイェマツを訊ねてやって来る。アイヌの叙事詩であるユーカラを聞きにきたのだ。叔母のユーカラに熱心に耳を傾ける教授が言った。「アイヌ民族であることを誇りに思ってください。あなた方は世界に類をみない唯一無二の民族だ」 教授の言葉に強く心を打たれたテルは、やがて教授の強い勧めでユーカラを文字で残すことに没頭していく。そしてアイヌ語を日本語に翻訳していく出来栄えの素晴らしさから、教授のいる東京で本格的に頑張ることに。同じアイヌの青年・一三四と叔母に見送られ東京へと向かうテルだったが、この時、再び北海道の地を踏むことが叶わない運命であることを知る由もなかった…。

出演:吉田美月喜、望月歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也
監督・脚本:菅原浩志
プロデューサー:作間清子
主題歌:島田歌穂
製作:シネボイス
製作賛助:写真文化首都「写真の町」北海道東川町
配給:トリプルアップ
Ⓒシネボイス
上映時間:135分
公式サイト:kamuinouta.jp

2024年1月26日より全国順次公開

◆予告編