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ミュージカル『ジキル&ハイド』 笹本玲奈&宮澤エマ インタビュー 笹本「“ルーシー”の中の“ハイド”が現れる場面がとても楽しみ」 宮澤「男性的なミュージカルだが、やはり女性たちが輝いてこそ」

2001年の日本初演以来、名作ミュージカルとして愛され、繰り返し上演されてきたミュージカル『ジキル&ハイド』が、2018年3月に新たな幕を開ける。

『ジキル&ハイド』といえば、一人の人間が“ジキルとハイド”という正反対の二人の魂に支配されるという誰もが知る有名な物語。その“ジキル博士&ハイド氏”役には、2012年からこの役を担い、高い評価を得ている石丸幹二が続投。
そして、今回、彼をめぐる対照的な二人の女性役・・・妖艶な娼婦“ルーシー”と、ジキルの婚約者“エマ”に新キャストが登場する。
2012年2016年には“エマ”役で本作に出演した笹本玲奈が “ルーシー”役にキャスティング。そして宮澤エマが“エマ”役で本作に初出演となる。

今回、Astageは、おふたりに女性ならでは視点からミュージカル『ジキル&ハイド』について、ミュージカル俳優としての苦労や工夫を語ってもらった。
貴重な女子トークをお楽しみください。

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宮澤エマ       笹本玲奈

―笹本さんは “エマ”役で出演されていますが、改めてミュージカル『ジキル&ハイド』への思いをお聞かせください。
笹本:初めて『ジキル&ハイド』を拝見したのは、まだ私が学生だったころ、知念里奈さんが“エマ”を、マルシアさんが“ルーシー”を演じておられた2回目(2003年)の公演だったと思います。マルシアさんの“ルーシー”が女性として魅力にあふれていて、「大人になったら、こんな役をやりたいな」と思っていました。ただ昨年までは『ミス・サイゴン』のキムや『レ・ミゼラブル』のエポニーヌなど若い役が多く、「私には大人の女性の役やセクシーな役は永遠に来ないのかな」と思っていたところがありました。
30代に入って「今までとは違う方向性を見ていかなければいけない」とも感じていた、まさにその時にこの“ルーシー”役をいただけたので、とても嬉しかったです。

―母となられての復帰作品でもありますね。
笹本:はい。去年、まだ妊娠中のときに『レ・ミゼラブル』を観劇して、それまであまり共感していなかったファンテーヌにとても共感して「私自身も変わっているんだ」というのを感じました。“エマ”や“ルーシー”という女性に対する見方も変わっているのではないかと思うので、稽古で深めていけるのがすごく楽しみです。
宮澤:出産を経て、歌は変わられましたか?
笹本:のどは大丈夫なのですが、妊娠してお腹が大きくなると腹圧がかけられなくなり、筋力がすごく落ちてしまうそうなんです。普通、腹筋は縦に割れているものですが、不思議なことに、お腹が大きくなるとドーナツ型になるんだそうです。
宮澤:えっ?!
笹本:復帰一作目の、この“ルーシー”役は地声でどーんと歌い上げなくてはいけないので心配していたんですが、とても良いトレーナーさんと出会うことができて、お陰で筋力が衰えることなく出産することができました。
宮澤:製作発表会見での歌唱披露で歌われているのを聞いて「やっぱりパワフルだ」と思っていました。
笹本:ありがとうございます。とはいえ「やはり今までの声の出し方とは変えていかないと・・・」と考えています。歌唱指導のちあきしんさんが女性でもあり、声の作り方もしっかりと教えてくださるので、ひたすらトレーニングをしています。

―昔から「女性は初めての出産後が一番美しい」と言われているそうですよ。
笹本:ホントですか?髪は抜けるし、大変なんですよ(笑)。
宮澤:自信に満ちあふれていて、お稽古場でも凛としていらっしゃる。芯がある方だと拝見しました。
笹本:エマちゃんこそ、とってもしっかりしていますよね。“エマ”そのものだと思います。

―具体的にはどんなところが「“エマ”そのもの」なんでしょうか?
笹本:芯があるというところです。声質もそうですね。初めてエマちゃんの舞台を拝見したのは『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』でしたが「この歌の上手い人は誰?!」とびっくりしました。歌稽古でも感じたのは、クリアな強い声のなかに温かみがある。まさに“エマ”です。
『ジキル&ハイド』は女性があまり前に出てはいけないという時代ですが、“エマ”は自分の意思でノーはノーだと伝えることができる人。コメンテーターとして発言するエマちゃんの姿を見ると「まさに“エマ”だ!」と思いますし、容姿もぴったりです!
宮澤:製作発表会見では、メイクでとってもきれいにしていただきました(笑)。
声といえば、私も笹本さんのCDなどもたくさん聞かせて頂きました。私もそうですが、笹本さんもベルト系の声の出し方をする役が多いイメージだったのですが、“エマ”役の歌はとてもきれいなソプラノでしたね。工夫されたのでしょうか?
笹本:とっても苦労しました。私の地声が強いのをご存知の音楽監督の甲斐(正人)先生から「“エマ”のキャラでは絶対に地声は使ってはダメ」と地声禁止令を出されてしまいました。だから“エマ”を演じているときは、自分の普段の歌い方とは違って大変でした。
宮澤:私も昨年の『紳士のための愛と殺人の手引き』で、ソプラノを初めて歌わせていただいて。
笹本:とってもきれいな声でした!
宮澤:あの時は必死でした。でもしばらくあの歌い方をしていないと、すぐに元に戻ってしまうんです。
笹本:そう、忘れてしまうんですよね。
宮澤:今回の製作発表の歌唱披露の練習で歌ったときにも「以前はできていたことができなくなっている」と思いました。私は不器用なので、役をいただく度にのどを作り直さなくてはいけないんです。
笹本:同じです!
宮澤:ホントですか?! 今回もまた、一からのスタートだと思っていたので、勇気を頂きました。

―では、役柄についてお尋ねします。“ルーシー”も“エマ”も原作にはない、ミュージカルのために生まれた役ですね。
笹本:「原作にはない」というのは、とっても有難いことです。自分を生かせるところがある役だと感じています。自分の思い描く“ルーシー”を作れると思うので楽しみです。
ただこれまでに2回、“エマ”として出演して、濱田めぐみさんの“ルーシー”が私の中に深く残っています。どうしても台詞のリズム感や歌い方が無意識に濱田さんに寄ってしまうのではないか…と思うので、それとの戦いはあると思っています。先日韓国で偶然アメリカからの来韓公演を観る機会がありました。ルーシー役が濱田さんとはまったく違うキャラの作り方、歌い方で、改めて「いろんなやり方ができる役なんだ」と知ったので、自分らしさを出しつつ模索しながら作っていきたいと思っています。
宮澤:“ルーシー”は娼婦ですが、その環境にもかかわらず、歌う曲はとてもきれいでとてもピュア。彼女の歌を聞いていると、その心は少女のようですね。
笹本:彼女のバックグランドをしっかり作っていかないと、彼女のもっている悲しさやせつなさを描けない。誰にでも裏表があると思いますが、彼女にも二面性があると思います。それがあらわになるのが<ルーシーとジキルとのラブシーン>。“ルーシー”の中の“ハイド”が現れる場面で、今からとても楽しみです。

―さて、宮澤さんの演じる“エマ”についてはいかがですか?
宮澤:本作のお話をいただいたときに、出演されたことがある方や観たことがある方から「合っている役だと思うけれど、すごく難しい役だと思う」と言われました。“エマ”はとても良くできた人間ですが、彼女自身については脚本にも詳しくは描かれていません。最初の登場で、すでにジキルを深く愛していて、彼が変わっていく様も見ていない。この時代にしては、言いたいことは言い、行動力もあるけれど、彼を信じて待つという選択をする女性です。表面的にとらえれば“お嬢様”ですが、信念もなくただ愛しているから待っていたのか、ジキルの中の良いものを信じて、愛することは信じることだという信念だったのか・・・。ジキルあっての“エマ”な部分がありますし、難しいですが彼女の中の葛藤を読み解いていきたいと思います。

―ミュージカルのために作られた役だけに、“ルーシー”も“エマ”華がある。でも対照的ですね。
宮澤:“ルーシー”の歌には聞き入ってしまいますし、感情移入してしまうと思います。対して、“エマ”は「こんな女性が現実にいるの?」と思いつつも「ジキルが戻りたい」と思える良いものを象徴しなきゃいけないと思うので、難しいと感じています。
玲奈さんの“エマ”の清楚な感じや凛としているけれど聖母過ぎない感じがとても素敵だと拝見しました。学べるところは全部学びたいので、どうかよろしくお願いします!

―“ルーシー”と“エマ”のデュエット♪「In His Eyes(その目に)」も素敵な場面です。
笹本:互いの存在は知らないまま、一人の男性を思っている二人が一緒に歌います。
宮澤:二人の女性が一人の男性をめぐっての三角関係だと、恋の表裏の場合が多いでしょうね。女性二人が表面的には違うけれど、芯は同じだったり・・・しますよね。
笹本:“エマ”と“ルーシー”の階級は違うけれど、通じる思いがあるから一緒に歌う歌になるんだと思います。
宮澤:この女性二人はステレオタイプになりがちな役設定ですが、人間味のある二人なんです。ただ環境や固定観念にとらわれてしまっている。今の時代でも女性が生きたいように生きられるかといえば、家族や社会やいろいろなものにとらわれていない人なんて、誰ひとりもいない。では、何を選んで誇りを感じることができるのか。それは“エマ”に教わるのではないのかなと。♪「In His Eyes」に「Love is worth forgiving for 」直訳すると「愛には許す価値がある」という歌詞があります。日本語では「すべて許すわ」と歌いますが、あんな結末になっても自分の決断を後悔しないエマでなければいけない。「それが私の生き方です」と言いきる誇りを持った“エマ”の生き方はヒントになるところがあるのかなと思います。
笹本:“エマ”ははっきりと意見を言う。しかも直接的に言うのではなく、品性を守りながらさらりと言うので、爽快な気持ちになります。女性に勇気をくれると思いますよ。
宮澤:男性的なミュージカルではありますが、やはり女性たちが輝いてこそでもあると思います。

―おふたりが輝かれる舞台を楽しみにしています。ありがとうございました。

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ミュージカル『ジキル&ハイド』
■原作:R・L・スティーブンソン
■音楽:フランク・ワイルドホーン
■脚本・詞:レスリー・ブリカッス
■演出:山田和也
■上演台本・詞:髙平哲郎
■出演
石丸幹二、笹本玲奈、宮澤エマ、田代万里生、畠中 洋、花王おさむ、福井貴一 他

◆東京公演   3月3日(土)~3月18日(日)東京国際フォーラム
◆名古屋公演 3月24日(土)25日(日) 愛知県芸術劇場大ホール
◆大阪公演   3月30日(金)~4月1日(日)梅田芸術劇場メインホール
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