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『底辺から走り出せ』(原題:走出尘埃)Q&A 謝暁東監督,馮波,齐志 第29回東京国際映画祭 アジアの未来部門

脚本家、プロデューサーとして知られる謝暁東(シエ・シャオドン)の初監督作品がこの『底辺から走り出せ』。上海国際映画祭2016で、映画初出演の秦勇(チン・ヨン)が最優秀主演男優賞を受賞した注目作だ。dsc04469

映画は…
かつてロックシンガーとして活躍したが、すでに音楽を諦め、年老いた母の世話をしながら、母が眠りにつく夜だけ働ける代行運転手として働くホーピン(秦勇)は、ガールフレンド(馮波)との将来を考え、レストランを開こうと準備していた。ある日、かつてのバンド仲間ダーヨン(齐志)と偶然に再会し、音楽コンテストの審査員をやらないかと誘われる。再び音楽への情熱が蘇りはじめるホーピンだが、災難が降りかかり、絶望の淵へ突き落される。彼は再び立ち上がることができるのか…。

聞くところによれば、制作のきっかけは、母親と仕事上の長年のパートナーだった映画監督の路学長を相次いでこの世を去ったことで、最初は他の監督を探していたが、「大監督には小さな作品過ぎ、新人にはプレッシャーだったりと問題があり、最終的に仕方なく自分がやることになった」そう。
そして生まれた本作は、物珍しさやスケールの大きさなどで注目を集めがちな従来の中国映画とは一線を画した、日本の観客にも深い共感を与える、心に響く作品に仕上がった。秦勇の歌も素晴らしく、音楽でも心を揺さぶってくれる。

取材が可能だったのは、10月27日の2回目のQ&A。謝暁東監督/プロデューサー/脚本)、馮波(フォン・ボー)、齐志(チー・ジー)の三人が登壇した。  (前日のQ&Aでは、3人に加えて主演の秦勇(チンヨン)も登壇したとのこと。取材可能でなかったのが残念だった。)

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(C) 2016 TIFF

大きな体ににこやかな笑顔の謝監督は「オープニングセレモニーの時に安倍首相にこの映画を見て欲しいと言いたかったのに、すぐ帰ってしまった。皆さんが来て下さって、とても嬉しく思っています」とユーモアあふれる挨拶。
映画に初出演となる秦勇を起用した理由は「主人公はロック歌手なので、その雰囲気や性質を備えていることが必須条件でした。秦勇は中国で有名なバンド、黑豹楽隊(Black panther)のメインボーカルで年齢的にも外見上もぴったりでした。映画というのは不思議な縁に結ばれているもので、運命だと思うのですが、初めにあたったのは秦勇ではなく、探して探して最後に会ったのが秦勇でした。脚本を見せた時、秦勇は『この脚本は僕にあて書きしたのですか?』と尋ねました。彼の人生にも、5割くらいは同じようなことがあったのです。でもこの年齢の他の俳優でも、この脚本の5割や6割くらいは似たような経験があるだろうと思っています。というのも、この映画はこの年齢の人たちを描きたかったので、似ているのは当たりまえ。そうでなければ、多くの人を感動させることはできないと思います」とたっぷり語ってくれた。

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司会者から「実際にあのような(あくどい)番組プロデューサーはいるのか?」と尋ねられた齐志は、「いません。けっしていません!」と断言。会場は笑いに包まれた。そして「この映画でご覧頂いた僕の演じたダーヨンという役は、すべて謝監督が作り出した役です。それまでの僕が演じてきた役のイメージともまったく違うことをお伝えしておきたいです。監督は友人でもあり、師でもあります。これまで私は14~15本の映画を撮って警官や軍人を演じてきましたが、このような役は初めてです。今回は監督が心配して撮影前に私を3回も呼んで特訓をしてくれたので、夜も眠れないほど緊張しました」と続けた。呼び出されて駆けつけてみると、謝監督は齐志とおしゃべりを始め、その様子を録画させ、齐志が録画されているのも忘れた頃、突然、謝監督がストップをかけ、「今のリラックスした状態でダーヨンをやって欲しい」と言ったそう。「撮影中に私が想像したのと、その結果とは随分違っていることが多かったです。謝監督は演技技術をとてもよく指導して下さいました。ダーヨンという役の9割は私の技量ではありません。謝監督が私を信用してくれたこと、ダーヨンというキャラクターを作って私にやらせてくれたことに感謝しています」「このキャラは不細工なキャラだと思っていたけれど、監督はそれでいいと言っていましたが、それが正しかった」と「謝監督に感謝!!」を連呼した。

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美しく気丈なガールフレンドを演じた馮波が「謝監督は他の監督とは少し違っています。謝監督は私と仕事をして私を理解してからは多くの場面で『泣くな』と言いました」「私本人は役柄とは随分違います。まず、私はまだ結婚していませんから(笑)離婚や子供とは縁がないです」と言うと、謝監督が間髪をいれず「良い方がいれば、紹介お願いします」と口をはさむ。

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馮波が「協議離婚が成立した場面は、本作の中で私の役の感情がピークとなるシーンですが、撮影3日目に撮りました。とても難しい場面で、少なくとも50回は泣いています。今監督が『そんなに泣いてないだろう』と言ってますけど、私が言うのは最後の私とダーヨンが抱き合う場面です…あ、ダーヨンでなくて、ホーピンですね。」といえば、謝監督は「今、ダーヨンの方が好きだったとバレましたね」とちゃちゃをいれ、齐志も「次回ね!」と応えて笑いにつつまれた。

謝監督は「中国人だからではなく、この年齢になった人なら国にかかわらず共感できる物語」だと言ったが、まさにその通り。中国映画の人物が等身大で今の日本人の心の琴線を震わせてくれる…そんな時代が、ついにやってきたこと感じさせてくれる作品だった。

余談だが、謝監督は秦勇にたどり着く前には、羅大佑(ルオ・ダーヨウ)や李宗盛(ジョナサン・リー)、張学友(ジャッキー・チュン)にもオファーしたと、中国サイトのインタビューで答えている。そんな苦労の末に出来上がった本作。日本でも一般公開され、多くの人に見てもらえることを心より願いたい。