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映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』 小林聖太郎監督インタビュー!「こだわりは、キャストたちがチャーミングに見えること」

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西炯子の人気漫画を倍賞千恵子、藤竜也の映画初共演で映画化した『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』が5 月10 日(金)より全国公開する。
長年連れ添った夫婦の秘めた想いと愛を描く本作。自分は本当に夫から愛されているのだろうかという寂しさを長年抱えてきた妻・有喜子役を倍賞、そんな妻に対しては無口でぶっきらぼう、離婚を突き付けられずっと心に秘めていたある想いを告白する 夫・勝役を藤が自然に、細やかに演じる。

監督は『毎日かあさん』『マエストロ!』で知られる小林聖太郎。夫婦の周りには母から離婚話を聞き動揺する娘・菜穂子(市川実日子)や、夫婦の関係に波風を起こす女性・志津子(星由里子)ほか、個性豊かなキャスト陣が集結した。
猫の失踪を機に夫婦が明かす“真実”。この物語を温かい視線で、時にコミカルに感動的に描き出した小林監督に話を聞くことができた。

― まず、監督が原作をお読みになった時、どのように感じられたのでしょうか?

倍賞さん演じる有喜子の寂しさ、孤独・・・。表面的には満たされているはずの日常なのに、満たされないものが心の中にある、という感じがとてもいいなと思ったんです。そこにフォーカスを当てて、原作より夫婦の関係を通じた有喜子さんの心の変化を描き出すことを考えました。

― それにしても、豪華なキャストです。

そうですよね(笑)。本当にびっくりする共演ですよね。僕にお話をいただいた時には2人のキャスティングは決まっていて、“倍賞千恵子さんと藤竜也さんの共演”と聞いて、是非!とお受けしたんです。これを断る人はいないでしょう(笑)。藤さんは僕が助監督の時に一度ご一緒したことがあるのですが、撮影のひと月近く前から一人で現場入りするなど、作品への真摯な取り組みに驚かされました。「真面目だけではなくて、カッコいいなぁと思うところと、カッコつけてないなというところが両立していて物凄く面白い方。機会があったらぜひまたご一緒したいなと思っていたので、これはチャンスだと。

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― 監督として、倍賞さんと藤さんと一緒にお仕事されていかがでしたか?

嬉しかったし、確かに日本を代表する大俳優、大女優なのですが、気構えることが全然なくて、本当に気さくなお二人でした。感激する間もなく、普通に撮影が始まって行きました。倍賞さんも「監督、御飯食べる?」という感じで声をかけてきてくれるし、とても可愛いんです。

― 星由里子さんもお二人と同年代です。

松竹(倍賞)、日活(藤)、東宝(星)ですよ。五社協定の時代なら、ありえないキャスティングです。実は、倍賞さんと藤さんはご自宅が近所で、今も家族ぐるみで交流があるそうなんです。10~20年来のお付き合いでしょっちゅう食事に行ったりしているらしいですよ。だから、ちょっと仲良く見えすぎる瞬間もあったりしてね。その時は「勝さん、ちょっと優しいですよ。もう少し冷たく」って言うんです。すると藤さんは「そう? そうか・・・」って(笑)。

― 少し前は、藤さんは怖いくらいカッコいいスター!というイメージでしたが、最近は年齢を重ねられて柔らかい感じがします。

バイクにタバコ、サングラスとリーゼント!というイメージでしたからね。今は力が抜けた感じがとてもいい。

― そして、本作が星由里子さんの遺作にもなりました。

本当に全然そんな様子がなかったので驚きました。3月に撮影が終わって4月に打ち上げをしたんですが、そのお店(中華料理店)にわざわざ電話をくださったんです。中国人の店員さんから「小林さんいますか、デンワ、デンワ。ホキさんから電話」って言われて出たら「星でございます。この度は少し風邪を引きまして、行けなくてごめんなさい。本当はとても行きたかったんですけど。今回の撮影がとても楽しゅうございました」って、とても丁寧に。次は公開の時にお会いできると思っていたら、その1か月後に亡くなられて・・・。

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― 本作は、50年一緒に過ごしてきた熟年夫婦の物語ではありますが、他の登場人物にもそれぞれ物語があって、いろんな目線で観ることもできます。

特に市川実日子さん演じる娘・菜穂子の視点で見る夫婦というのも面白いかと。僕自身の気持ちも菜穂子の視点から始まっていますし、菜穂子くらいの年代の方が近しいと思って観てもらえたら嬉しいですね。

― また、劇中では“歩いている”シーンが多く見受けられますが、何か監督の意図があるのでしょうか?

僕が“繰り返し”ということが好きなこともありますが、歩き方に表れる気持ちだったり、繰り返しているようで、繰り返しではないというような日常がにじみ出てくればいいなと思いました。あと、林の道が気に入ったということもあります。ロケハンで家を探しているときに、その林が気に入ってしまって。結局、家は全然違うとこになったんですが、林の道だけは残しました。

― 家の中の小道具もこだわりが見えます。

はい、装飾部が頑張りました。何もないところに全部運んだのですが、ただ場所を埋めるのではなく、この人たちが生活していたらどういうふうに数十年が積み重なるかを、ちゃんと考えて作りあげてくれました。装飾の高橋光さんというのが、もともと松竹大船撮影所にいて、デビューが『寅さん』だった方なんです。だから「倍賞さんが来るのに下手な飾りはできないぞ!」という思いもあって、めちゃめちゃ燃えていましたね。

― 50余年前のミルクスタンドのシーンも素敵です。

50余年前のシーンは回想なので、わかりやすくモノクロにしました。回想シーンは他にも年を変えて出てきます。最初は二人の出会いの1960年代末、そして2回目の回想は子供ができて志津子さんと再会する70年代の頃、そして、有喜子さんが、ある場所で勝さんの姿を偶然見かけてしまう数ヶ月前の夏。それを「平成○○年」というような文字を入れずに分かってもらうにはどうしたらいいかと考え、シネスコでモノクロ、シネスコで70年ぽいカラー、そして現在はヨーロピアンビスタでカラーというようにしました。

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― 監督が特にこだわったことは何でしょうか?

一番は(倍賞)千恵子さんの可愛さでしょうか(笑)。そこに尽きるとは思いますが、すべての登場人物がどうチャーミングに見えるかということにはこだわりました。それがたとえ少ししか出番のない魚屋さんであっても。藤さんもとっても可愛いんです。これは非常に際際だと思うんですが、“許せない夫”という立場で長年の想いを言って許されるのは藤さんだからですからね。世の中のご主人が油断して同じセリフを言っても、だいたい返り討ちにあうだけだと思います。気を付けていただかないと(笑)。“許せない夫”ですが、有喜子が許せる範囲のギリギリなところを理解できるようにするにはどうしたらいいか、藤さんとよく話し合いましたし、それを芝居をするなかで作っていきました。
例えば、勝が今自分がどこにいるかわからなくなってしまい動転して家に帰り、黙って二階に上がったあと、さて勝はどうするか・・・というシーンがあるのですが、その時の勝はとてもチャーミングに映っていると思います。勝は「男はこうあるべき!」という思いが強い人。自分の感情を人に見せるのは恥ずかしいことで、「可愛いね」「好きだよ」というのも言っても見せてもいけないと幼い頃から育ってきた男ですから。

― 自分がどう接していいのか、何を有喜子さんに話していいのかわからなくてウロウロしている勝さんは本当に可愛いし、笑っちゃいます。

猫(チビ)がどこかにいなくなっちゃったけど、自分も(どうしたらいいかわからない)迷い猫になっちゃってる(笑)。

― 冒頭の韓国ドラマも韓国語で話してから日本語の吹替をつけたとか?

そのドラマに出てくる二人の女性は、ネイティブ並みに流暢な韓国語を話す日本人の女優さんなんですが、佐藤流司くんは全然韓国語が話せないので、カタカナで丸暗記して話してもらいました。その上で「自分の声で日本語吹き込んで」って、嫌がらせのようなことをやりました(笑)。吹き替えを入れるんだから適当に(韓国語を)喋ってもいいかもしれないけど、なんか気持ち悪いので、やはり韓国語で話してからの吹替えにしました。

― 黒猫のチビも名演技ですね。

黒猫チビ役の“りんご”がこのキャストの中で一番の売れっ子かもしれないです。ぜひ、注目して観てください。

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【小林聖太郎監督 プロフィール】
1971年3月3日生まれ。大阪府出身。大学卒業後、ジャーナリスト・今井一の助手を経て、映画監督・原一男主宰の「CINEMA塾」に第一期生として参加。原一男のほか、中江裕司、行定勲、井筒和幸など多くの監督のもとで助監督として経験を積み、2006年公開の『かぞくのひけつ』で監督デビュー。同作で第47回日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞を受賞し、2011年公開の『毎日かあさん』では第14回上海国際映画祭アジア新人賞部門で作品賞を受賞。その他に『マエストロ!』(15)、『破門ふたりのヤクビョーガミ』(17)などの監督作品がある。

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映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
【STORY】

結婚して50 年。これからも一緒にいるために。今始まる夫婦の感動ラブストーリー
3 人の子供が巣立ち、人生の晩年を夫婦ふたりと猫一匹で暮らしている勝と有喜子。勝は無口、頑固、家では何もしないという絵にかいたような昭和の男。そんな勝の世話を焼く有喜子の話し相手は猫のチビだ。ある日有喜子は娘に「お父さんと別れようと思っている」と告げる。驚き、その真意を探ろうと子供たちは大騒ぎ。そんな時、有喜子の心の拠り所だった猫のチビが姿を消してしまい…
妻はなぜ、離婚を言い出したのか。そして、妻の本当の気持ちを知った夫が伝える言葉とは―

<原作について>
『お父さん、チビがいなくなりました』は、映画化もされた『娚の一生』をはじめ,『姉の結婚』『初恋の世界』など、30 代の女性を中心に幅広い層に高い人気を誇る漫画家・西炯子が、老夫婦の秘めた想いと愛を描いた作品。「増刊フラワーズ」に掲載され、コミックスは1 巻完結。「泣ける」「こんな愛のある夫婦になりたい」といった声が次々と寄せられる、感涙必至の感動作。

倍賞千恵子 藤 竜也
市川実日子 / 佐藤流司 小林且弥 優希美青 濱田和馬 吉川 友
小市慢太郎 西田尚美 / 星由里子
監督:小林聖太郎
脚本:本調有香
原作:西炯子「お父さん、チビがいなくなりました」(小学館フラワーコミックスα刊)
制作:ビデオプランニング
配給:クロックワークス
©2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会
公式サイト:http://chibi-movie.com

5 月10 日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー