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CS衛星劇場にて、舞台「時子さんのトキ」をテレビ初放送!高橋由美子&鈴木拡樹 インタビュー

別々の方向を向いたいろんな形の愛が存在する不思議な作品です -高橋-
今のこの時期に上演する意味を強く感じる舞台でした -鈴木-

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撮影:廣田美緒

――路上シンガーと彼を支えるバツイチ女性の不思議な関係性を描いた舞台『時子さんのトキ』。
見る側の視点によってさまざまな捉え方ができる作品でしたが、お2人はご自身の役をどのように感じていましたか?

高橋 時子は“人のために何かをしてあげたい”と思うタイプの女性なんです。でも、人との関わり方や距離がうまく測れないところがあって。そうした不器用さゆえに、行き過ぎた思いを相手にぶつけてしまうところがあるのかなと感じました。

鈴木 本当に不思議な関係ですよね。翔真と時子さんの間には、“好き”という言葉が存在するものの、それは決して恋愛ではなくて。母性のようでありつつも、ひと言で言い表せないものがある。翔真の視点でいえば、とにかく大きな愛情を向けられているという印象がありました。

高橋 テーマの一つとして描かれているのは“歪んだ愛”なんです。まわりの人たちから見れば、2人の関係は相当歪んで見える。でも当事者たちにとってはそうじゃないんですよね。鈴木くんから“母性”という言葉が出ましたが、時子は翔真の実の母親の声を聞いた瞬間、“自分が抱いていた思いは本物の母性ではないんだ”と気付かされたりと、そうしたいろんな形の“愛”が同じ劇空間の中に存在しながらも、それぞれ違ったベクトルを向いている。そこが実に面白かったです。

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――お2人ともさまざまな思いを抱く役でしたが、演じるうえで苦労された点はありましたか?

高橋 時子とは年齢が近く、当て書きの要素も入れてくださっていたみたいで共通点が多かったんです。反面、理解できない部分もあったのですが(笑)、作・演出の田村(孝裕)さんが捉えやすく書いてくださったこともあり、演じやすさはありましたね。

鈴木 翔真は劇中で、いろんな人から「クズ!」って言われるんです(笑)。でも僕自身は、そこはあまり意識しないようにしました。彼の中には優しい部分があるし、擁護できるところもある。もちろん、ダメな男ではあるんですが(笑)、愛せる部分があってホッとしましたね(笑)。

高橋 時子から見た翔真は本当に可愛いんですよね(笑)。おっしゃるようにダメなところもあるんだけど、最初からダメなわけではなくて。努力しているのに報われないから、時子としては自分の愛情で支えてあげようとする。それが彼女自身の生きがいにもなっているんですよね。

鈴木 確かにそうですね。ただ、時子さんはそうした無償の愛が強く出過ぎてしまうところがある。お互いが頼ったり頼られたりと、依存しあっているお話ですが、時子さんのような大きすぎる愛は、ときに狂気に感じる瞬間もあるんだなと作品を通して思いました(笑)。それに、翔真の視点で見ると“抜け出せない関係”でもあるんだなと感じたところもあって。いつまでも時子さんに甘えてはいけないという抗う気持ちがありながらも、彼はいつもその機会を逃してしまう。だから、ずっとほつれたままの関係が続いてしまったんだろうなと思いましたね。

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――最後に、放送に向けて印象に残っている場面や、おすすめのシーンがありましたら教えてください。

鈴木 今回、僕は時子さんの息子である登喜役も担当しているのですが、少年時代の登喜を演じているのが矢部太郎さんなんです。それが本当に見事で。むりやり小学生を演じようとしているわけではないはずなのに、どっからどう見ても少年にしか見えないんです(笑)。

高橋 わかる! あれは絶対に作ってないよね(笑)。それに、矢部さんは毎回セリフのタイミングが違うの。“もしかして忘れてる!?”っていうぐらい自然体で。あれにはやられたなぁ(笑)。また、時子の印象的なシーンでいえば、ラストに号泣するところが大好きです。田村さんからは「可愛い泣き方じゃなく、登喜が引くくらい泣いてくれ」と言われて。それもあって、私の中ではこの舞台のすべてを浄化して幕が閉じるという感覚もあり、非常に気持ちよかったです。

鈴木 僕もラストは大好きです。時子さんの止まっていた時間が動き出すという描写は、再び前に向かって進み出している今の社会を表現しているようでもあるんですよね。すごく勇気づけられるシーンでしたし、こうした時期に舞台を上演した意味というものを強く感じさせる場面だったように思います。

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▼プロフィール
高橋由美子 Yumiko Takahashi
1974年1月7日生まれ、埼玉県出身。90年に「Step by Step」で歌手デビュー。94年の主演ドラマ『南くんの恋人』以降、女優としても活躍し、代表作に『ショムニ』『花燃ゆ』など。また舞台でもミュージカル、劇団☆新感線など幅広く活動。今年10月にはデビュー30周年を記念したベストアルバム『最上級 GOOD SONGS』をリリース。

鈴木拡樹 Hiroki Suzuki
1985年 6月4日生まれ、大阪府出身。2007年、ドラマ『風魔の小次郎』で俳優デビュー。翌年には『最遊記歌劇伝 -Go to the West-』で舞台初主演を務める。主な代表作に舞台『刀剣乱舞』シリーズ、劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season月』《下弦の月》、ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』など。12月は舞台「幽☆遊☆白書」其の弐に出演。

取材・文:倉田モトキ

舞台写真:©「時子さんのトキ」製作委員会/岩田えり

CS衛星劇場にて、「時子さんのトキ」をテレビ初放送!
放送日:12月6日(日)午後1:00~3:00

2020年
[作・演出]田村孝裕
[出演]高橋由美子/鈴木拡樹/矢部太郎、伊藤修子、山口森広、豊原江理佳

劇団「ONEOR8」主宰で、脚本家・演出家の田村孝裕が手掛ける新作舞台。主演に「20世紀最後の正統派アイドル」として人気を博し、2020年に歌手デビュー30周年を迎え、女優としても活躍する高橋由美子。そして、舞台から映画と幅広く活躍する鈴木拡樹が出演する。その他、芸人としてだけでなく俳優としても活躍する「カラテカ」の矢部太郎、劇団「拙者ムニエル」に所属し、様々な作品への出演で個性が光る伊藤修子、劇団「ONEOR8」に属し多数の作品に出演する山口森広、ミュージカル「アニー」のアニー役に抜擢され、以降幅広い活躍を見せる豊原江理佳という実力派の俳優陣が名を連ねる。

それでもいいと思ってた。幸せだったから。離婚後、疎遠になってしまった息子に重なる路上シンガーの男・翔真(鈴木拡樹)。私・時子(高橋由美子)は、この男に多額のお金を貸している。これまで感じてきた心の隙間、寂しさを全部、翔真が埋めてくれている。ある日、NPO団体を名乗る柏木(矢部太郎)という男が店へやってくると、翔真のことについて私にいくつか質問をしてきた。そして、「翔真という男に騙されているんじゃありませんか?」翔真に貸したお金は、1000万円を超えている。でも、あくまで“貸しているお金”だ。ばか。この無礼極まりない柏木の登場で、私の人生は大きく狂っていった……。

(2020年9月11日~9月21日 よみうり大手町ホール)
https://www.eigeki.com/series?action=index&id=27407&category_id=7