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東出昌大&唐田えりか、映画『寝ても覚めても』ロングインタビュー! 「愛はある意味“狂気”」と東出、唐田は「東出さんと目が合うのが怖かった」!?

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二人の同じ顔をした男とその間で揺れ動く女の物語である映画『寝ても覚めても』。
芥川賞作家の柴崎友香の小説「寝ても覚めても」を濱口竜介監督が映画化し、商業映画デビュー。さらに第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出され、世界でも絶賛された。

主演を務める東出昌大が、亮平と麦(ばく)という一人二役に挑み、新星・唐田えりかがヒロイン・朝子を演じる。瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子の豪華キャストが脇を固め、物語に深みを増している本作。
二人の男とその間で揺れ動く女の8年間をリアルに描き出し、人はどうして人を愛するのか・・・を観る者に問いかける。東出昌大と唐田えりかに本作への思いを聞いた。

メイン

◆濱口監督の独特な演出方法とは?

― 初めて台本を読まれたときの印象を教えてください。
唐田えりか(以下、唐田):初めて台本を読んだときから、朝子を自分だと思えて感情移入して読むことができました。こういう感情は初めてで、早く演じたいなと思っていました。朝子はほぼ自分のような気がします。
東出昌大(以下、東出):僕は原作を読んでいたので、それを脚本にして映像化すると聞いたときに、どうなるんだろうと思ったんです。読んでみたら新しい要素がたくさんあって、ヒリヒリするセリフも多かった。東日本大震災のボランティアに訪れるあたりも原作とは違うし、(渡辺大知演じる)岡崎のその後だったり、役者をやっている若手俳優に「それは自己満足だよ」って言わせるシーンがあったりとか、本当に凄い脚本で驚きましたし、こんな凄い台本に早く入りたいっていう気持ちでしたね。

― 濱口監督の演出は他にない方法だとお聞きしましたが。
東出:監督の前作『ハッピーアワー』の制作過程が書かれている「カメラの前で演じること 映画『ハッピーアワー』テキスト集成」という本があるのですが、そこにその演出方法が書かれています。まず、本読みを何十回、何百回とただひたすらニュアンスを排して読む。その作業は自分にセリフを沁み込ませることと、「このセリフ違うな」と思ったら濱口監督が語尾の一文字を変えるなど少しずつ手を入れていく期間です。それ以外は監督が各々のキャラクターのプロフィールを作ってきて、それを読みあげ、お互いインタビューをしあう。「好きな人はいますか?」「初恋はいつですか?」「愛って何だと思いますか?」というように。そういう時間が多かったですね。
また、現場に入っても段取り、テスト、本番の中で本番だけ気持ちを込めるんですが、段取り、テストはニュアンスを抜いて喋る・・・というところは他の現場とは違うところです。ニュアンスを抜いて話すときも、「相手の心の鈴を揺らすように」って言われるんです。それは「深く読む」とか「しっかり読む」ということではなくて、相手にしっかり響くように、という意味で声音を変えるわけではないんです。

― 唐田さんはいかがでしたか?
唐田:『寝ても覚めても』の皆さんと一緒にいるときが、自分にとってとても特別な時間でした。私は演技経験が少ないので分からないことばかりで。撮影に入る前に監督に「役作りって何ですか?どうすればいいんですか?」と尋ねると「そのままでいい。あなたから出てくるものが朝子だと思うし、それをただ見たいんです」と言われ、何か作りこんだりするとかじゃないんだな、と思いました。現場でも、「何も考えなくていいから、ただ東出さんをはじめ皆さんの演技をちゃんと見てください。見れないときは声をちゃんと聞いてください」と言われました。なので、撮影中は、本当に無の状態だった気がします。

― 役づくりは特にされなかったとのことですが、参考にするために何か作品を観ることはなかったですか?
東出:それはあったよね。『近松物語』『東京物語』を観るように言われたよね。
唐田:あ、それは観ました! それは観てって言われて感想を監督に送りました。

― その作品は今作に臨むにあたって何か参考になったのですか?
唐田:それを活かそうというところまでは考えなかったのですが、『東京物語』を観たときに、作品に出ている方が「ただそこにいるだけ」という感じが凄かったんです。私はお芝居を始める前からテレビっ子でよくドラマや映画を観ていたんですが、みんな何となくそこにいるので、(実際に演じるのは)簡単だろうな・・・と思っていたところがあって。その“ただ”をやるのが本当に難しいと(芝居を)始めてから実感しました。『東京物語』は皆さんがただ生きているところが写っているだけ。たぶん濱口監督もそういうところを大事にされていると思うので、私も今回、何かを作り込むのではなく“ただ”そこにいる・・・というようになりたいと感じました。

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― 東出さんは以前、“麦”と“亮平”を演じるにあたり、演じ分ける必要はなかったとおっしゃっていましたが、二役を演じるのに演じ分けをしないというのはかえって難しいのではないでしょうか?
東出:難しかったです。監督は、よく「一に相手、二にセリフ、三四がなくて五に自分」と仰っていて、結局自分が用意してきたものは五番目以下・・・という感じでした。もちろん台本を読んできますが、監督がおっしゃっている真意は、演じ分けようと思って自分の引き出しの中から「こういう時はこういう仕草をするだろうな」とか「こういう声はこういうトーンだろうな」というように作為すると、相手のセリフを聞いてからそれに反応して喋る言葉に無理が生じる。それよりも東出という楽器から相手の言葉を受けて素直に出てきた声が、まさしく“麦”であり“亮平”であるので、そういうお芝居を心がけるというものだったんです。原始的ではあるけれど、より高度。自分の言葉として喋らないとOKをもらえませんでした。

― 唐田さんは、二役を演じる東出さんを相手に演じることは大変だったのでは?
唐田:私はこの現場で大変だと思うことが1つもなかったです。とてもありがたかったです。朝子が麦といるときの気持ちと亮平といるときの気持ちが違うのは自分でも感じていました。東出さんの演技に助けられました。

― 演じていて苦しくなるようなことはなかったですか?
唐田:撮影期間中、ずっと楽しかったんですが、演じていて楽しいけど苦しいという感じでした。その二つが一緒に存在していた気がします。
東出:苦しいシーンを撮っているときは本当に苦しいんです。あと、僕と(山下リオ演じる)マヤと朝子がカフェで話しているシーンがあって、全体を撮ったあと、寄りのカットを撮るときに「(バラバラに撮るが)動きを繋げなくていいです。どこでコーヒー飲もうが、いいテイクだけを使うので」と言われたんです。それって凄く難しいことなんです。でも、お芝居は一回きりで生まれてくるもの。本番しかニュアンスを入れて喋ってはいけないという意味でも、監督はライブというものを大事にしている。だからこそ、リテイクの回数もけっこうありましたが、そのとき監督に「ちょっと外の空気吸ってきてもいいですか?」と聞くと「いいですけど・・・・・・」と釈然としていないような返事が返ってきて。「そうだ、外の空気を吸ってきて、よし!やるぞ!って気持ちを入れてしまう時点で作為が生まれてしまうんだ。そうではなく、今すぐやればいいんだ」と思って、「やっぱり、すぐやりましょう」と言ってやったらOKが出たんです。
だから、ピリピリした本番のシーンでは逆に気負うことがないように、スタートする直前までバカ話してたりしてました。

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◆『寝ても覚めても』はジャパニーズ・ホラー映画!?

― ところで、初共演されていかがでしたか?
唐田:ずっと東出さんは東出さんなんですが、麦のときはちょっと危うさがあって怖かったり・・・。伊藤沙莉ちゃんと裏で「東出さんってめっちゃ人のこと見てるけど、目を合わせたら殺されそうだよね」って話していたんです(笑)。それは麦の時だけなんですけど。亮平のときは、ずっと自分があたたかい何かに包まれているような感覚で安心でした。なので、気持ちの持ちようが(麦と亮平のときでは)全然違いました。
東出:そんなに堂々と、いま陰口を発表されるとは・・・(笑)。でも、本当にみんな仲が良かったので、今は笑い話で楽しいし・・・(笑)。で、それはどっち系なの? 刺される系?それとも呪い殺される系なの?
唐田:呪いかも!
東出:呪い系? そっか、危ないな(笑)。
唐田:だって見てたよね?実際(笑)
東出:僕はそんなにジーッと人を見ているつもりはなかったよ。麦は遠慮が一切ないから嫌われもせず、関心を持たれないというところがある。だから、無遠慮にジーッと人のことを見ていたんだろうね。

(唐田さんの印象は?)
東出:唐田さんは素直で、錆がついていない。それは女優としてのキャリアではなく、彼女の人間性だと思います。監督も「彼女の声が凄い」とおっしゃっていたんですが、「お芝居をしていない声。だから唐田さんの声は伸びやかなんだ」と。監督は声にこだわる方。そして、唐田さんはいいものをいいと思えるセンスの良さと対になっている頑固さがあるので、濱口監督が大好きな女優さんなんだなと思いました。最初の脚本にはなかったセリフなんですが唐田さんの出演が決まってから、朝子の両親が出てきて「うちの娘は頑固で」と語るシーンがあったんです。結局日数的なことがあってそのシーンは撮影できなかったんですが、監督がそういう印象を抱いていたのがよくわかります。
唐田:自分で言うのも変ですが、よく「いい子そう」って言われるんです。でも濱口監督と2回くらいしか会っていないときに「頑固ですよね」と言われたときはとても驚きました。え?なんで知ってるの?と思って(笑)。

サブ2

― 劇中では何回かキスシーンがあります。それぞれに意味があると思いますがいかがでしたか?
東出:ラブストーリーの撮影には鉄則みたいなものがあって。キスシーンでは、右方向から撮るなら、男は左方向に顔を流して女性のキス顔を映すということがあるんです。どの現場でも普通はそれを良しとするんです。一番最初にキスシーンを撮ったとき、監督に「それを意識したほうがいいですか?」と尋ねたら「はい、それは」と返ってきて(笑)。だから「それはそれなんだ・・・」と思ったんですが、同じシーンを何回か撮ったあとに「じゃ、今度は意識しないでやってください」と言われたんです。
唐田:え?そのシーンは私からキスをするじゃないですか。私は全然考えてなかったです。大丈夫だったんですか?
東出:そういう、何にも考えていないというものがいいのかも。でも、結局どれを実際に使ったかはわからないんですが、でも両方撮りました。濱口監督は生き物だからといって撮っている部分もあるけれど、それ以外に映画論で構築して考えていらっしゃる部分もある。僕らも容易にわかったと言えないくらい、色々な要素のなかで毎回現場での答えがあるんだと思います。

― 唐田さんは、何か印象に残っているシーンがありますか?
唐田:全部が印象に残っていて、これだけって言えないんですが・・・。キスシーンの撮影はこの作品が初めてだったので、初めは緊張すると思ったんですが、いざ本番になったらビックリするくらい緊張はしませんでした(笑)。本当に朝子になれていたんだなと思います。

サブ7

― 本作では東日本大震災の被災地復興の場面も出てきます。実際に東北に行かれていかがでしたか?
東出:僕は他の仕事でも何度か東北に足を運んでいて、撮影した閖上(ゆりあげ)地区にも行ったことがあるんです。ただ、8年という歳月を追う物語のなかで、東日本大震災というものが現代に撮った映画の中に出てくるということは、二人の運命に当然だと思います。それによって素晴らしいセリフがたくさん生まれました。監督ご自身が東北に強い思い入れがあることもありますが、そこで撮る空気感というものは悲喜交々の色々なものがあったと思います。
唐田:私は初めて行ったのですが、ニュースでしか知らなかったので、簡単に足を踏み入れていいのか、失礼にあたることはないのかと少し不安でした。でも、実際に行ってみたら皆さんとても温かく迎え入れてくださって。映画を撮るということを楽しんでくださっていて、歌を歌ってくださったり。心から楽しんでくださって、私たちのほうが元気をもらっていました。あのシーンは特別でした。

― 仲本工事さんは、まるで現地の人のようでした。
唐田:仲本さんは台本の本読みのときは方言をあまり入れてらっしゃらなかったんですが、本番になったら、まるでその土地の方のようになっていて凄かったです。仲本工事(演じる平川)さんに言われるセリフが、厳しいんですが自分を包み込んでくれているのを目でも声でも感じられました。

― 今作はカンヌ国際映画祭にも出品されました。実際にカンヌに行かれてみていかがでしたか?
唐田:日本とは全然違う反応をたくさん見ることができて楽しかったです。シリアスな場面でも笑いが起きたり、皆さんが喜怒哀楽をちゃんと表してくださっていました。スタンディングオベーションをいただいたときは感動しました。
東出:映画は言葉の壁や国境を超えるんだと思いました。そしてカンヌで受けた取材の記者の方は、まず「自分はこの映画を観てこう思った。これはどういう意味なんだ?」という感想から話をしてくれるので、本当に色々な意見を聞くことができて嬉しかったです。その中で「これはジャパニーズ・ホラーなのか?」と聞かれたことがあるんですが、監督は「そうとも言える」と答えたんです。「なぜならば、愛というのは狂気だから。その狂気性が映ってホラーとして受け取られたのであれば、この映画の成功だと思う」と仰っていました。僕も同意見です。観ていただいて十人十色の感想があると思うし、この映画は観る人によって解釈が分かれる大人のストーリーだと思います。

― 唐田さんは、ラストのシーンに共感できましたか?
唐田:不思議と疑問には思わなかったです。自分が朝子だったとしてもありうる行動だったと思います。
東出:原作者の柴崎さんが、実は麦にはサイドストーリーがある、麦は宇宙人だった・・・と言い出したことがあったんです(笑)。かぐや姫を連れていった使者ってどこか無機質な感じがするじゃないですか。だから麦は無遠慮ですし、人間にない突拍子もない魅力、超人的なところがあるんだと。そして、僕は演じた亮平としても朝子の行動は理解していました。

― 亮平は自分が麦の顔に似ているので、朝子が付き合っているとわかっていた。そのことについては?
東出:それも狂気。亮平の朝子に対する愛というのは演じながら狂気だと感じていました。事ある毎に朝子が自分の方を向いていないことは気づいていたのに、あれだけ朝子に尽くしているのは、無償の愛。それはある意味狂気なんじゃないかと。そう言う意味で、最後に亮平が言う言葉は成立しているのではないかと思います。

【東出昌大(ひがしでまさひろ)プロフィール】
1988年2月1日、埼玉県生まれ。『桐島、部活やめるってよ』(12)で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の賞を受賞。本年は『寝ても覚めても』のほか、『OVER DRIVE』『パンク侍、斬られて候』『菊とギロチン』『ピース・ニッポン』(ナレーション)『ビブリア古書堂の事件手帖』が公開。「コンフィデンスマンJP」など、テレビドラマでも活躍中。11月には三島由紀夫原作の舞台化「豊饒の海」の主演が決定している。

【唐田えりか(からたえりか)プロフィール】
1997年9月19日、千葉県生まれ。2014年、アルバイト先のマザー牧場でスカウトされ芸能界入り。テレビドラマ「こえ恋」「ブランケット・キャッツ」「トドメの接吻」などに出演。ファッション誌「MORE」の専属モデルとしても活躍中。17年からは、韓国にも活躍の場を広げ、CMやMVなどに出演し、さらなる注目を集めている。今年は『寝ても覚めても』のほか、『ラブ×ドック』ヒロインを務める『覚悟はいいかそこの女子。』が公開。

『寝ても覚めても』本ビジュアル

映画『寝ても覚めても』
【STORY】
東京。亮平は、コーヒーを届けに会社に来た朝子と出会う。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながらも朝子は惹かれていきふたりは仲を深めていく。しかし、朝子には亮平には告げていない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦に顔がそっくりだったのだ――。恋に落ちた時の甘さ、せつなさ、苦しさとともに、先の読めないスリリングさを併せ持つ「大人の恋愛映画」の傑作が誕生した。

出演: 東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
監督: 濱口竜介
原作:「寝ても覚めても」
柴崎友香(河出書房新社刊)
脚本:田中幸子、濱口竜介
音楽:tofubeats
2018/119分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
製作:『寝ても覚めても』製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
製作幹事:メ~テレ、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
公式サイト:http://www.netemosametemo.jp

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