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【第32回東京国際映画祭】ゾクゾクする恐怖とサスペンス アジアの未来「失われた殺人の記憶」Q&A 「スリラーの中に日常をいれた作品を」キム・ハラ監督&ムン・ダウン

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別居中の妻が殺され、その犯人として追われることになったジョンホ。だが、彼はその夜の記憶がなかった・・・。
ゾクゾクする恐怖とサスペンスの、キム・ハラ監督のデビュー作が、ワールド・プレミアとして東京国際映画祭に登場した。
マスコミ向けの上映後には、「これは今の日本にとってタイムリーな映画だ」と興奮した様子で語る記者も出た、注目作だ。

Q&Aが設けられたのは、10月29日と11月1日の上映後。取材が許可された11月1日の様子をお伝えする。
登壇したのは、恥ずかしげな表情のキム・ハラ監督と女優で脚色も担当したムン・ダウンの二人。圧巻のスリルと、思いがけないラストに驚かされ、楽しんだ観客から万来の拍手で迎えられた。

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キム監督:私の初めての映画を観て頂いてありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか。

ムン:ご招待頂き、映画をご覧頂き、ありがとうございます。この映画でバーの従業員役で出演し、脚色も担当しましたムン・ダウンと申します。よろしくお願い致します。

―コミカルなトーンでまとめられた意図は?
キム監督:真犯人が誰か?殺人犯が誰か?を追いがちですが、それよりも、家庭が崩壊していく中に、日常が崩壊していく非常に悲しい物語があるので、それをスリラーという形の中に入れたいと思いました。そのためにはサスペンスの様子を強めるよりも、ブラックコメディを入れた方が日常を描きやすいと思いました。
ムン:監督がおっしゃっていたように、どうしてこうなってしまったのかという過程を追いたいと思いました。ルーズになりそうなところにユーモアがあると心が浄化されるようでもあり、すこし休めるような気持ちになって良いのではないかと思いました。私自身も撮影中よりも映画を観て、面白いと思いました。

―ムンさんの脚色とは、どんなお仕事なのでしょうか?
ムン:脚色は私ひとりが担当したのではありません。原作はウェブマンガで、原作をシナリオ化する作業から始めました。短くぶつ切りになったウェッブマンガをつなげていくことに気をつけて、相談しながら作業していきました。

―原作のウェッブマンガはどのくらい反映されているのでしょうか?
キム監督:原作のマンガは短いので、削除する部分はあまりありませんでした。大枠は原作のまま、そこに日常場面を今の時代に合うものを挿入しました。たとえば、警部補が金をもって行くシーンですとか、なぜ彼が金に困ってそうしたのかや、結末の最後の部分は、新たに付け加えた部分です。

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―本作制作の経緯を教えてください。
キム監督:20才の時から映画監督になるのが夢でした。それから24数年を経て、第一歩を踏み出しました。その間、ずっと映画を撮りたいと思っていましたが、ドキュメンタリーのプロデューサーや広告会社につとめたりしていました。そうしながら、5年前位から映画を撮りたいと思い、始めることになりました。その時に、どんなコンテンツかと考えた時に日常の物語を撮りたいと思いました。つまらない話ではなく、スリラーの中に日常をいれた作品を撮りたいと思いました。怖い話ではなく、スリラーという形式の中に日常を掘り下げる作品をと考えました。もうひとつ、どうして私たちは毎日辛い思いをして生きているのかと、そういうことも含めて作品を作りたいと思っていたところ、原作をみつけて、作品化することになりました。

―ラストで原作に付け加えた部分について、なぜあの結末を?(ネタバレ有)
キム監督:主人公が賭博を続けていることについては、受け入れる方によって違った解釈があると思います。より良く生きようと懸命に生きながら、妻が殺されてしまった後なので、心を入れ替えて生きることもできたと思うのですが、なかなか時代がそうはさせてくれなかったという背景があると思います。そういう、私たちの時代の話を描きたかったので、そういうシーンにしました。原作にもちょっと似ている部分がありましたが、もう少し付け加えたいと思い、こういうラストにしました。

―キャスティングについて教えてください。
キム監督:主人公を演じたイ・シオンさんは、バラエティ番組「ひとりで暮らす」での姿は、すこしイメージが今とは違うのですが、日常の姿を上手く演じてくれるのではないかと思いました。日常生活の中で、一人の人間がどんな風に変わっていくのかを見せるためには、この役はイ・シオンさんしかいないと思い、お願いしました。重すぎてもいけないし、自然にブラックコメディとのバランスがとれる俳優さんを…と考えて、アン・ネサンさんが適役だと思いお願いしました。2人の化学反応も楽しみではないかと思ってお願いしました。気に入っていただけたでしょうか。

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―ムン・ダウンのこの映画との関わりや、女優とスタッフのどちらに力を入れたいのか、教えて下さい。
ムン:まだ女優としてスタートして日が浅いのですが、元々、作家になりたいという夢をもっていました。そして俳優としてもできればと思っていました。大学でも文章を書く方の専攻でしたので、演技をいようというのは自然な流れでした。元々の夢は自分の書いた本を自分で演技するというものでしたので、夢を叶えてくれた作品のひとつが本作になります。今は演技をがんばって女優としてやっていきたいと思っていますし、女優もしながら自分の物語を脚本として書きたいという思いも持っています。

最後にキム監督は客席に来ていたスタッフを紹介した後、「私の作品を招待して頂きまして、本当に嬉しく思っています。そして見て下さり、質問も頂き、ありがとうございます。私にとっては良いスタート、最初の第一歩を踏み出すことができました」と挨拶。「ありがとうございます」と日本語で締めくくった。

「失われた殺人の記録」 Killed My Wife (韓国)
監督/脚本/脚色/エグゼクティブ・プロデューサ-:キム・ハラ
出演:イ・シオン  ワン・ジヘ アン・ネサン